近年、金融を巡る環境は貯蓄から投資へと変化しています。資産形成の大切さが取り上げられる中、注目を集めるのは不動産や株式市場への投資。本記事でそれぞれの特徴を理解し、自分にあった資産運用を考えましょう。
投資といえば真っ先に株式投資を想起する人も多いことでしょう。日々のニュースで株価が上がった・下がったという言葉は、誰しも一度は耳にしたこともあると思います。
逆に、日々の株価に一喜一憂せず長期目線で投資する手法があります。それが不動産投資です。不動産投資とは、不動産(宅地や建物)に対する投資で、主に不動産を購入し、それを他人に貸すことで家賃収入を得ることを指します。
投資として有名な株式投資やFXは、ハイリスク・ハイリターンで個人投資家の9割が負ける投資ともいわれています。
一方不動産投資は、ハイリスクと思われがちですが、実はミドルリスク・ミドルリターンな投資といわれているのがこの図からもわかると思います。
不動産投資は、マンションやアパートなどの不動産へ利益を得る目的で投資をすることです。他にも戸建て、駐車場などさまざまな種類があります。他の投資と異なり、金融機関から長期間の低利の融資を受けることができ、それを元手として事業経営を行います。
マンションやアパートなどの入居者から毎月家賃収入を得ることができます。株式投資のような価格変動がなく、長期にわたり安定した収入基盤となります。ただし、高い入居率を維持することが条件となります。
不動産投資の収益率を計る指標として利回りがあります。さらに利回りには、表面利回り、実質利回り、ROI(収益投資率)があります。それぞれを解説します。
表面利回りは、物件購入価格(建築価格)に対する年間家賃収入(満室)の割合です。この計算式には、物件購入時の諸経費や不動産経営のランニングコストである経費(管理費、修繕費、固定資産税など)やローン返済額は含まれません。
表面利回り=年間家賃収入(満室)÷ 物件購入価格(建築価格)×100
満室時の利回りですので、空室率や家賃設定によっても数字は違ってきます。あくまでも不動産投資の収益率の表面的な目安の指標です。
実質利回りは、物件購入価格(建築価格)に対する年間家賃収入(満室)から経費を差し引いた金額の割合です。一般的な実質利回りの計算式には、ローン返済額や物件購入時の諸経費や空室率は含まれません。
実質利回り=(年間家賃収入(満室)―経費)÷物件購入価格(建築価格)×100
実質利回りは、表面利回りと比較して必要経費を算入した分、実際の収益率に若干近くなります。しかし、ローン返済額や空室率を含まないので、収益率の指標としては完全ではありません。
なぜなら、「必要経費<ローン返済額」となる場合の方が圧倒的に多いからです。物件購入を全額自己資金で賄うならば、ローン返済額は不要です。上式は全額自己資金で購入できる人の実質利回りともいえます。とはいえ、実質利回りは不動産投資の収益率の目安になる指標です。
空室率を考慮した実質利回りの計算式は、
実質利回り=(年間家賃収入―経費)÷物件購入価格(建築価格)×(100―空室率)
となり、より実態に近い収益率となります。
投資金額全体(物件購入金額+購入時諸経費)に対する年間キャッシュフローの割合です。
ROIの特徴は、構造や購入金額(建築費)の異なる不動産を比較検討できる点です。ROIの計算式には、購入時諸経費やローン返済額が含めれているため、より実態に近い計算式となります。
ROI=(年間家賃収入―必要経費―ローン返済額)÷投資金額(物件購入金額+購入時諸経費)×100
一般的なROIの計算式には、空室率は含まれません。空室率を考慮したROIは、最も実態に近い収益率となり、ROIが0%を割れば赤字経営となります。
ROI=(年間家賃収入―必要経費―ローン返済額)÷投資金額(物件購入金額+購入時諸経費)×(100-空室率)
【事例】
アパート購入価格が5,000万円、購入諸経費が400万円、満室賃料(年間)が500万円、ローン返済額が250万円、経費が100万円の場合
表面利回り=500万円÷ 5,000万円×100=10%
実質利回り=(500万円―100万円)÷5,000万円×100=8%
ROI=(500万円―100万円―250万円)÷(5,000万円+400万円)×100=2.8%
同じ物件でも指標により、数字は違ってきます。表面利回り・実質利回りは投資判断の目安と考え、ROIは投資判断の決め手と考えるとよいです。
ただし、上記事例は空室率を考慮していませんので、空室率まで取り入れた計算式での算出結果を投資判断材料とすることをお勧めします。
以上、表面利回り、実質利回り、ROIの計算式をみてきました。収益率を良くするために投資家が出来ることは、上記計算式の構造から
です。これらができれば、長期安定収入を得ることができます。
2019年3月20日に国土交通省より、平成31年度公示地価が発表されました。それによりますと、日本全国の平均公示地価・基準地価は1991年のバブル崩壊と2008年のリーマンショックから下がり続けましたが、2013年で下げ止まり、現在は上昇に転じています。
前年と比較しますと、平均公示地価は1.16%の上昇となっています。これまでの30年間の地価推移より考察しますと、これからも地価は微増の傾向と考えられます。
不動産投資はレバレッジ(てこの原理)を生かすことができます。金融機関のアパートローンを利用することにより、少ない自己資金で不動産投資を行うことができます。
例えば新築アパート一棟に投資を行うとき、フルローン(物件工事金額・購入金額全額)で100%融資が適用されますと、自己資金は購入時諸経費のみとなります。
購入時諸経費は工事金額・購入金額の概ね7%~8%ですから(土地測量費、境界明示、建築設計費、アパートローン取扱手数料、不動産取得税、登録免許税、印紙税、司法書士報酬)、自己資金の12倍~14倍の融資が可能となります。
ただし一般的にはフルローンではなく工事金額・購入金額の70%~80%の融資であることが多く、購入時諸経費を加味して自己資金の3倍~4倍の融資となります。
入居率が高いことが前提となりますが、安定した家賃収入が入ります。完全な不労所得ではなく、入居者管理、建物・設備の維持管理、修繕、清掃などの小まめな管理が必要になります(管理業務まですべて自分で行う場合)。
なお、一括借り上げシステム(家賃保証)を利用すると上記管理の大半を行ってくれますが、管理費を請求され収益はその分落ちます。
不動産所得を計算する際、アパートローンの利息は経費になりますが、元金は経費になりません。しかし、減価償却費が経費として計上できできます。アパートローン返済初期は、利息の占める割合が高いので、減価償却費の節税効果が高いです。
返済初期:利息>元金、減価償却費>元金
なので、
利息+減価償却費 > 利息+元金
(課税所得上の経費)(実際のローン返済額)
となり、課税所得上はマイナスになり、キャッシュフロー(利益)はプラスになるという現象が生じ易くなります。以下に経費に該当するものとしないものを挙げます。
経費に該当するもの | 経費に該当しないもの |
---|---|
アパートローンの利息 | アパートローンの元金 |
固定資産税・都市計画税・事業税(毎年納税) | 所得税・住民税(毎年納税) |
不動産取得税・登録免許税・印紙税(購入時納税) | 自宅関連費(自宅の修繕工事) |
管理費(管理業務委託費) | 生活関連費(プライベート費用) |
日常修繕費(実際に修繕したもの) | 大規模修繕積立金(実際に修繕していないもの) |
水道光熱費(共用部分) | ― |
減価償却費 | ― |
損害保険料 | ― |
広告宣伝費・仲介料 | ― |
資料費・消耗品費 | ― |
税理士・司法書士報酬、立退料、接待交際費 | ― |
Δ経費に該当するもの・しないもの
ここで減価償却費ですが、実際の支出のない経費です。不動産投資においては、さまざまなメリットをもたらしてくれますが、ここでは詳細を割愛します。
マンションやアパートなどの不動産経営を管理会社と業務委託契約すれば、入居者との賃貸借契約から家賃の集金、退去手続き、入居者募集、修繕手続きなどを任せることができます。
株式投資は、企業が発行する株式に投資して、売却益(キャピタルゲイン)や配当金(インカムゲイン)を得る目的で投資をすることです。株式は証券取引所(株式市場)を介して、電子化された株券を売買します。価格変動が常時あるのが特徴です。
株式投資の魅力は、キャピタルゲイン(売却益)です。基本は株価が安い時に買い、高くなった時に売れば、差額が利益になります。また売買期間も自由に選択できます。デイトレードのような1日の中で数回売買を行う方法もあれば、1年以上保有する方法もあります。
投資スタンスにより、短期投資と長期投資に分かれます。不動産投資と比較すると短期で利益を上げることができます。
信用取引は、自らの信用で証券会社から資金や株式を借りることで、自己資金の約3倍の資金で取引を行うことです。ハイリスク・ハイリターンの投資となります。
信用取引には、制度信用取引と一般信用取引があります。
制度信用取引は、証券取引所が取引銘柄を決めて行われる信用取引です。
一般信用取引は、各証券会社が取引銘柄や取引期限などを決めて行われる信用取引です。
一般信用取引は、各証券会社により内容は異なります。
ロング(信用買い)は、株式銘柄の購入の際、資金が不足する場合に、証券会社に委託保証金(現金)を担保として預けることで、株式購入代金の融資を受け、買いから入ります(買建て)。
例えば、委託保証率が33%であれば、自己資金の約3倍まで株式を購入することができます。ロングした株式は、6か月以内に決済(制度信用取引)することになっています。
ショート(信用売り)は、証券会社に保証委託金を担保として預けることで株券を借り、取引する方法です。
手元に持ち株がなくても株券を借り、先に売りから入ります(売建て)。借りた株券は期日までに返却しなければならないので、それまでに買い戻します。買い戻した株価が売った株価よりも安ければ、その差額が利益になります。売りから始めて、下げ相場でも利益を出せるのが大きな特徴です。
数万円から始められます。また、流動性が高いので、売買がすぐにできます。ここが不動産投資と大きく異なる特徴です。
株式の売買には数多くの投資家が参加しており、企業業績や経済ニュースの他にも機関投資家の思惑が働き、さまざまな出来事・考えの影響を受けます。想定できない値動きをすることが多々あり、激しく変動することもあります。
会社の利益や財務内容、市場での評価など多くの分析指標がありますが、その中で代表的なものを以下に挙げます。
指標名 | 内容・計算式 |
---|---|
EPS(1株当たり純利益) | 企業収益から法人税などのコストを支払ったあとの純粋な企業の営業活動による利益です。 EPS(円)=当期純利益÷発行済株式数 |
PER(株価収益率) | 株価が企業の利益水準に対して、割安か割高かを判断する指標です。株価が下がるか純利益が増えれば、PERは下がります。 PER(倍)=株価÷EPS(1株当たり純利益) |
PBR(株価純資産倍率) | 株価が企業の資産価値に対して、割安か割高かを判断する指標です。PBRが1倍未満なら割安といえます。 PBR(倍)=株価÷BPS(1株当たり純資産) |
ROE(株主資本利益率) | 企業が株主の投下資本を使って、どれだけ効率的に利益を上げているかを判断する指標です。企業の配当能力も測定できます。 ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100 |
Δ主な指標の内容・計算式
株式投資で利益を上げるには、自身で決めたルールを決めます。ルールなしで行うということは単なるギャンブルです。例えば、
というようなルールを必ず決め、その通りに実行します。そして記録を必ず付けます。そうすることで、自身の売買のスタイルをデータに基づいて客観的に築いていくことができ、リスクを軽減できます。
これらは「言うはやすし」でなかなかできません。コツは、「小さく負ける(損切り)」です。これができるか否かが、プロとアマの違いです。大きく負ければ、絶対に勝てません。
不動産投資と株式投資の特徴の違いをまとめますと下表になります。
比較項目 | 不動産投資 | 株式投資 |
---|---|---|
流動性 | 売買にそれぞれ数週間~数か月を要する | 1日の中で何回も売買可能 |
リスク・リターン | ミドルリスク・ミドルリターン | ハイリスク・ハイリターン (信用取引の場合) |
情報の開示性 | クローズドマーケット | オープンマーケット |
金融機関融資 | 可能 | 不可能 |
レバレッジ | フルローン:100%融資、10倍以上 自己資金は諸経費のみ 通常は工事・購入金額の70~80%融資 |
信用取引:自己資金の3倍まで可能 |
価格下降→儲け | 不可能 家賃が下降すれば、収益が悪化するだけ |
可能 信用売り(空売り)の場合、儲け可能 |
経費計上 | 借入金返済利息、減価償却費、管理費 修繕費、火災保険料、など多数計上 |
売買手数料 金利(信用取引の場合) |
節税対策 | 可能 給与所得と不動産所得の損益通算可能 |
不可能 給与所得と譲渡所得(株式売買)の 損益通算不可能 |
投資判断指標 | 表面利回り、実質利回り、ROIなど | EPS、PER、PBR、ROEなど |
相続税評価 | 評価減有(概ね50%~60%評価) | 評価減無(100%評価) |
Δ不動産投資・株式投資の特徴
不動産投資をするか、株式投資をするかはご自身の目的・志向によって違います。
不動産投資は、長期的なキャッシュフローを求める人に向いています。株式投資は、自身との戦いになりますので、メンタルコントロールできる人は向いています。
不動産投資と株式投資のいずれかを選択するにしても、成功するためには両方ともに日頃の点検・管理が必要になります。不動産投資であれば、日頃の入居者のケアや建物・設備の維持管理が必要です。
株式投資であれば、ご自身で決めた売買ルール通りに売買できるか、売買の記録を取りながら点検・管理ができるかが鍵となります。いずれにしても手間を惜しまず、日頃の努力が成功へと導きます。
出所
※1「土地総合情報システム」 国土交通省
※本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。
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