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作成日: 2020.08.12

老後2,000万円って本当に必要!? コロナ禍の今、銀行員が考える資産形成の本音

老後2,000万円って本当に必要!? コロナ禍の今、銀行員が考える資産形成の本音

2019年に話題になった老後2,000万円問題を覚えていますか? 金融庁のレポートを発端として「老後に2,000万円なければ暮らせないと国が言っている!」と国会でも取り上げられるなど、物議を醸した老後2,000万円問題ですが、私は自分の未来に思いを馳せるひとつのきっかけになりました。

今回は、コロナ禍で日本経済が元気を失っている今、改めて老後やお金のことを一緒に考えてみたいと思います。私は銀行員ですが、銀行とは関係なく商売抜きで話します。信じてもらえるかは不安ですが、そういう人は「銀行員はこう言ってるけど」と斜めから読むのも、それはそれで面白いかも知れません。ぜひ、少しでもあなたの参考になれば幸いです。

老後2,000万円問題の発端

国は「2,000万円貯めるにはどうすればいい」と言ったのか

問題となった金融庁のレポートでは、要約すると次の内容が書かれていました。

  • 男性65歳、女性60歳でともに無職の夫婦が、それまでの蓄えと年金だけで暮らそうとすると、毎月5.5万円不足する
  • 2人が30年生きると不足が膨らんで2,000万円になる(*計算式)
  • だから老後のためには若いウチから準備して2,000万円を貯めておけ!

*毎月の赤字5.5万円 × 12ヶ月 × 30年=1,980万円 ⇒【結論】2,000万円足りない!

ところでこの報告書は56ページにもなる「大作」ですが、その中で

  • 長期分散投資
  • iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)
  • 積立NISA

という言葉が何度も出てきます。

読んでみた私の率直な感想は

加藤隆二加藤

長期分散投資を国が勧めているのはわかるし、それ自体悪いことではないけれど、積立NISAなど固有名詞を出して特定しすぎじゃないか?

でした。

2,000万円問題とは、 iDeCoや積立NISAを普及するための宣伝なのか?

これはあくまで個人的な感想なのですが、「こう言われてもおかしくない」とも感じました。

老後には、いくらあればいい?

この老後2,000万円問題の発生によって、「このままではヤバいぞ!」という心境になった方も多いのではないかと思います。この論調に、単純に追い詰められる必要はないと考えます。

「いったい自分は老後の暮らしにいくら必要なのか?」を考えることが必要です。
銀行員としての結論は「正解はない」です。これは結論から逃げている訳ではなく、本当にそう思うからです。

その人にいくら必要かは人それぞれだと痛感しています。これは銀行員として数えきれない人と会い、その人のお金に関わってきた経験からくるものです。つまり、その人が「足りない」と思えば1億円あっても足りないのです。

その一方で、年金だけでも暮らせている人もいます。例えば私は母親と同居していますが、母の年金を私たち(夫婦・子ども)の家計に足して、家族全員で暮らしています。決して裕福とはいえませんし不自由もありますが、「爪に火を灯す」ほど困ってはいません。

銀行員として、そして自分の母を身近で見ている私は、「老後にいくら必要か?」という問いに正解はないと考えます。

ただ、なにもしなければお金は増えないことも事実なので、だから「自分で考えよう」とお伝えしたいです。

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国のシナリオどおりにで資産形成はできるのか?

「長期」「分散」は、投資のリスクヘッジ面で間違ってはいません。私も銀行内部の研修などで、それこそ「耳にタコができるくらい」長期分散投資という単語を聞かされましたし、実際にお客様への説明でも使っています。しかし、いえ、だからというべきか、長期分散投資は教科書的な模範解答です。

当然ですが、iDeCoNISAで資産が確実に形成できる保証はありません。ではどうするか? 次項で解説していきます。

【関連リンク】
iDeCo(イデコ)とは? 基本的な特徴と6つのメリット、事前に知っておきたい注意点

資産形成の方法を銀行員が解説~商売抜きで

資産形成の手段をいくつか紹介して、資産形成について解説していきます。
繰り返しますが銀行員の視点ですが、あくまで商売抜きの説明です。

1. 預貯金

預貯金は元本保証されているのが最大の特徴(一部預金は除く)ですが、今の金利水準では、増やすというより「置いておくもの」です。低金利には銀行員として忸怩たる思いもありますが、これもまた事実です。

たとえば現在の預金利率(2020年6月 ゆうちょ1年定期0.002%)では、

30年かけて2,000万円を貯めるには毎年67万円(月にすると約56,000円)積み立てなければいけません。

これは「年金終価係数」という数式で計算したものですが、毎月5万円積み立てるというより、毎月5万円を浮かせるために節約しなければいけないと表現したほうが現実的でしょう。老後に2,000万円貯められるとしても、我慢ばかりしていたとしたら楽しい生活を送れるか疑問です。

ちなみに超低金利時代の現在では信じられないかもしれませんが、バブル期には定期預金利率は年6%以上ありました。

「郵便局の定額貯金に3年以上」預入れすると、90年9月から91年6月まで6.33%

でした(郵政博物館ホームページより)。


現在は、預貯金は資産が増える手段ではないです。しかしながら、金額として減る心配がないという点では、預貯金による資産形成は確実で現実的だと思います。

貯めることで自分の生活を自分で窮屈にしすぎないよう意識し、毎月、毎年、生活で余った資金(銀行では「余資(よし)」と呼びます)を預けて蓄える。預貯金は、元本を保証するという点で、すすめられます。

ただ、今後日本がインフレとなると、金額は同じでも「お金の価値が下がってしまう」という問題は残ります。

2. 投資信託

長期分散投資の代表格として、国のレポートでも暗に勧めています。なぜなら iDeCoや積立NISAは、主に投資信託で利用される制度だからです。
しかし投資信託には元本保証も、利息の保証もありません。投資した結果はすべて自己責任で、国からは何の支援もありません。

レポートでは積立型の投資信託を推奨していますが、結果として「コツコツ投資したのに、増えるどころか減ってしまった」ケースも可能性としてはあり得ます。

「毎月分配型」などと呼ばれるタイプの投資信託は、原則として毎月のように分配金を受け取れるものですが、分配金のほとんどが元本払戻金になってしまっている、いわゆるタコ足投信(分配)*が多いのも事実です。利益を求めて投資しようと始めたのに、毎月元本が払い戻される。これでは本末転倒になってしまいます。

資産形成の手段として、毎月分配型で税金も取られてしまう、また販売手数料や信託報酬が高い投資信託を、私はおすすめできません

*タコ足投信:投資者に分配金を戻すといっても、その基礎となる投資総額が目減りした状態にある投信のこと。「空腹でタコが自分の足を食べている」というイメージからできた、金融業界の隠語。例えば、中途解約する場合に受け取った分配金と解約返戻金の合計が投資元本を下回ると損失となる。

「投資信託だから」なんでも飛びつく、という姿勢は改めるべきです。「資産形成にはなにがいい?」と銀行員に商品の選択を委ねてしまうと、収益が欲しい銀行では販売手数料の高い商品からすすめようとしますので、銀行員の言いなりになって商品を選んではいけません。

【関連リンク】
投資信託とは? 基本的な仕組みや初心者が気をつけるべきリスクとは?

3. 株式投資

個別株への投資に関して、まず私の場合は社内規定で原則禁止されており、また自分の考えとしても株式投資はやっていません。そのため、資産形成の手段として取り入れるかどうかは、より一層ご自身で決めていただきたいです。

銀行の尺度では株式投資は「投機」に分類され、FXや商品先物と同類になります。

  • 元本保証がないかわりに、リターンも上限がない
  • 天井知らずの底なし沼

と、あくまで銀行の尺度では上記のように、株式投資は投機だと捉えています。

価格変動が激しいぶん砂上の楼閣になる可能性もあるため、「資産形成」という枠では考えない方がいいのではないかと私は考えます。

【関連リンク】
3分でわかる株式投資の仕組みとは? 特徴・銘柄の選び方のポイントをお金のプロが解説

4. 不動産投資

地方銀行での経験を元にした考えですが、アパートなどが資産として形に残り、家賃という定期的な収入源にもなる不動産投資。上記1〜3とは異なり、「物理的に」形ある資産になるので、資産形成の一手段として勧められます。ただ手放しではすすめられません。

不動産投資は、まず事業であるという点がポイントです。事業なので経費はかかりますし、確定申告などの煩わしさも伴います。ここが預貯金や金融商品、株式投資と大きく違うところです。

全額自己資金での投資もそうなのですが、借入をして不動産投資をする場合には「収支」が重要になります。収入の安定性や経費、そして最終的にお金がいくら残るのかを慎重に吟味していけるなら、資産形成の手段としておすすめはできます。

資産を次の代に残せるという意味では、プラスにもなり、またマイナスにもなり得ます。

自分が死んだら、残された配偶者や子どもに引き継がせるものが大きすぎる、という点もあります。不動産投資を相続税の節税対策として考えている場合は、もともと借りる人が亡くなることを想定して税金や収支などを考えています。しかしそこまで準備をしておらず、単に資産形成の手段として投資していたとなると話は変わってきます。

預貯金や株式は(損得は別にして)、解約すれば現金にできて終わりますが、不動産では、こうカンタンには終わらない、というより「カンタンに終われない」のです。

【関連リンク】
不動産投資とは〜初心者が知るべき仕組み・失敗しないための勉強法

ここからは私の勤務する地方銀行の融資の話になります。地方銀行の融資では、相続を視野に不動産投資を組む人が多く、不動産投資ローンを組む際に団体信用生命保険*には加入しないのが一般的です。

団体信用生命保険に加入しないで不動産投資のローンを組んだ場合、本人が亡くなると、アパートと借金がそのまま残ります

*団体信用生命保険:ローンを借りている人が亡くなったり、高度障害状態になったりしたときに保険金で借入が完済される形式の生命保険。借入金額に応じた保険料なので、借入額が大きい不動産投資では保険料も多額になる

私が銀行員としてこれまで見てきた例ですと

  • 亡くなった夫が残した借金と、入居率の悪いアパートを抱えて苦しみながらも返済していた妻も数年後に死亡。幸いその妻の資産で借金がなくなり、次の代への影響はなかった
  • 親元を離れ会社勤めで自立していたのに、親が死んだらアパートと借金を背負うことに。やむなく地元に戻らざるを得ず仕事も辞め、最終的にはアパートも手放した若者

このように、同情すべき境遇の人もいました。

しかし、その一方で、

「亡くなった瞬間は相続手続きで大変な思いをしたりもしたが、アパートの家賃が途切れることなく入ってくることを実感し、故人に感謝している家族」がいたのも事実です。

「収支で儲かったか?」「家族にとって損得どちらの結果になったのか?」

上述したように、家族から感謝の念を持ってもらえただけでも「資産を形成できた」と言えるのではないかとも考えられます。

【関連リンク】
不動産投資ローン中にがんと診断。団信を使って残債0円にした20代オーナーの葛藤と安堵

なお最近ネット記事などでは、不動産投資を金融商品と同じように表現して「利回りが何%だから買い!」ととらえる風潮があります。しかし正直言って融資する銀行員としては、ほかの金融商品と同じように捉える考え方には賛同できません。

投資とはいえ、ほとんどの場合借金が絡むので、自分だけでなく子や孫の世代にまで、良くも悪くも引き継がれていくことになります。

不動産投資は、自分だけでは完結しない可能性がある投資」であることを、ぜひお伝えしたいです。

まとめ

ここまでの振り返りとして、「結局はいくら必要か?それは生き方・価値観・考え方の違い」「今から行動するか?なにもしないか? 結局は自分で決めるしかない」「資産形成の方法はいくつもあるが、それぞれに一長一短がある」これが結論になります。

まさか新型コロナウイルスが世界中に蔓延する社会になるとはほとんどの人が想像していなかったように、社会そして世界はどうなるかは予想不可能です。そのため100%確実に増える資産形成方法はないと、残念ながら思います。

しかし「何もしないと何も増えない」のも事実です。教科書的にはなりますが、一長一短ある方法のどれを選択するか、ご自身で考えて行動する。これあるのみです。

参考:金融庁ホームページ/金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書の公表について/金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 「高齢社会における資産形成・管理」

バブル経済下の郵便貯金―「90年ショック」をめぐって― 伊藤 真利子|郵政博物館ホームページ

※本記事の情報は、信頼できると判断した情報・データに基づいておりますが、正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。法改正等により記事執筆時点とは異なる状況になっている場合があります。また本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。

この記事を書いた人

加藤隆二

勤続30年の現役銀行員。金融ライター。 入社してから渉外担当、融資担当者として数え切れないほどお客様と会ってきました。とくに年齢を重ねてからは融資窓口で「事業資金融資」「住宅ローン」「不動産投資」など、あらゆる融資でお客様の相談に乗り、一緒に悩んだ経験では誰にも負けない自信があります。そんな一介の銀行員目線で記事を書いています。

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