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作成日: 2022.04.14

インフレと経済停滞が同時発生? スタグフレーションと資産運用の心構え

インフレと経済停滞が同時発生? スタグフレーションと資産運用の心構え

ポストコロナの経済回復などによって起こったグローバルなインフレは、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、一段と加速する可能性があります。日本でも日用品やガソリン価格が急上昇するなどインフレが意識される環境に変化しています。

スタグフレーションとは?

経済停滞とインフレが同時に発生する状況をスタグフレーションとよび、資産運用においては難しい局面の一つです。スタグフレーションが懸念されている背景と、スタグフレーション時における資産運用の考え方を解説していきます。

まずは、インフレと物価上昇が同時に起こるスタグフレーションについて解説します。現在なぜスタグフレーションが懸念されているのかも、合わせて見ていきましょう。

インフレなのに経済停滞が起こる理由

インフレとは「物価が継続的に上昇すること」です。日本はこの逆である「デフレ」に悩まされてきましたが、グローバルに見ると多くの国では継続的にインフレが進んでいます。

経済が順調に成長すれば、一定程度のインフレが起こるのが一般的な状況です。経済が成長すると、人々がより多くのモノを購入するようになります。モノへの需要が高まり、価格が上昇します。典型的なインフレはこのような動きをします。

しかし日本を含めグローバルでみると、足元は、経済停滞とインフレの高騰が同時に起こるスタグフレーションの発生が懸念されています。スタグフレーションは、モノの「需要」ではなく「供給」の問題が主因で価格が高騰し、発生します。

ロシアによるウクライナ侵攻により、天然ガスなどのエネルギーや資源の供給が急激に滞ったために、足元ではエネルギーや資源の価格が急騰しています。また、ロシア周辺の輸送が滞ることで、一部の製品が正常に流通しない事態も発生しています。

エネルギー・資源価格の高騰や流通網の断絶は、モノを生産するためのコストの上昇や、生産活動の停滞につながるため、市場に出回るモノの価格高騰=インフレの原因になるのです。

人々の賃金の上昇や企業の利益拡大が伴わないまま物価が急騰すると、消費や企業活動の停滞が起こるため、経済停滞とインフレが同時に起こるスタグフレーションに至ります。

今はまだ、グローバルではコロナ後の経済回復が続いているため、スタグフレーションには至っていません。しかし、物価高騰があまりに急速に進んで、消費や企業活動を阻害し始めれば、やがてスタグフレーションは現実のものになるかもしれません。

単なる経済停滞よりスタグフレーションは厄介

スタグフレーションは、経済環境の中では非常に厄介な存在であると考えられています。それは金融政策・財政政策における舵取りが難しいからです。

一般的に経済の悪化が起こったときは、各国の中央銀行は利下げなどの金融緩和を行い、政府は減税や補助金、公共事業などといった財政政策で経済回復を後押しします。しかし、これらの政策はいずれもインフレを引き起こしやすいという特徴があります。

通常の経済悪化時にはインフレ率が低下していることが多いため、少々インフレが促進されても大きな問題になりません。一方で、今回のようなインフレを伴う経済停滞でこれらの政策を安易に進めてしまうと、インフレがさらにエスカレートしてしまうのです。

ちょうど3月、アメリカの中央銀行にあたるFRB利上げに踏み切りました。FRBによると、今後も段階的な利上げにより2022年のうちに1.75%まで政策金利を引き上げる見通しです。利上げを加速させれば経済の減速要因になりかねませんが、FRBはそうした副作用を踏まえてもインフレを抑制することを優先しています。

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日本でもスタグフレーションの影響は大きい

グローバルに高まるスタグフレーション懸念ですが、日本も例外ではありません。日本では長期にわたりデフレもしくは低インフレが継続しており、物価の高騰を心配する局面はこの20〜30年ほどほとんどありませんでした。

しかし、今回はガソリン価格の高騰やさまざまな商品の値上がりなどがすでに起き、物価の高騰を肌で感じている人が多いと思います。経済指標にもいずれ影響は出てくると考えられており、日銀が以前より目標としていた「インフレ率2%」を達成する可能性もあります。

一方で日本の場合、経済回復はアメリカなどと比較して弱い状況が続いており、企業業績や賃金も上向きづらいと考えられます。その中でインフレが起きてしまうと、経済へのダメージがさらに深刻化する可能性があるのです。

ただでさえ少子高齢化などにより力強い経済成長が見通しづらい日本においては、スタグフレーションにより、さらに経済成長を期待しにくい環境を迎えると懸念されます。

スタグフレーションが与える金融市場への影響とは?

スタグフレーションの環境下においては、金融市場は通常の好景気とも、景気低迷とも、異なる動きをする可能性があります。実際の相場の動向は今後のインフレの度合いや、景気後退の深刻度、金融政策の動向などによって変わってきますが、ここではスタグフレーションが発生した場合に、一般的に考えられる金融市場の動きについて解説します。

株価は下落しやすい(業種によるばらつきあり)

株価については、全体としては下落しやすくなると考えられます。しばしばインフレは株価にはプラス、という見方をされることがありますが、それはあくまでインフレが経済成長によってもたらされている場合です。

スタグフレーション環境下では、多くの企業が原料コストの増加と業績悪化の二重苦に悩まされることになるので、企業業績を反映する株価も下落しやすくなるでしょう。ただし、業種によってばらつきが生じやすい点にも注意が必要です。

例えば資源価格の高騰がプラスに働く業種については、堅調な推移となる可能性もあります。原油やガスを生産する企業、資源取引を積極的に行う商社などが当てはまります。これらの企業も経済悪化の影響を受けるため、株価がどちらの方向に推移するかは、インフレ率や資源価格の動向、経済悪化の深刻度によります。しかし他の業種よりは堅調な推移となると期待されます。

金利には上昇圧力がかかる

一般的に金利は、インフレ率が上がると上昇しやすくなります。これには大きく分けて2つの背景があります。一つはインフレに対応するため、人々が多くの資金を必要とすると、資金需要が高まるため、金融機関は高い金利をつけてお金を貸し出すようになります(高い金利でも我慢してお金を借りる人が増える、と考えることもできるでしょう)。

また、もう一つの理由として、インフレを抑制するために利上げが行われる傾向にあるためです。スタグフレーションの場合、経済の減速要因になる利上げを行うかどうかは中央銀行にとって難しい判断を迫られるところ。しかし、今回については少なくともアメリカや一部の先進国がすでに利上げに舵を切り始めていることから、当面は利上げによる金利上昇が進むと想定されます。

この影響は、直接的にはアメリカなど実際に利上げを行った国が影響を受けますが、間接的には世界中の金利に波及します。日本も3月のアメリカでの利上げ実施後、アメリカほどではありませんが金利が上昇しました。ここからさらにエスカレートすると、ローン金利(特に固定金利)の上昇などにつながることも考えられるので、金利動向には注意しておきたいところです。

為替は円安になりやすい

為替については、まず円は他通貨に比べて安くなりやすいと考えられます。日本は先に紹介した通り他国と比較して経済成長の力が弱いため、中長期的に見ると日本の資産や企業などに投資する人が少ないことから、円の需要が伸びにくく、円安になりやすい構造を持っています。

加えて、今回のインフレの背景には資源高がありますが、日本は国内で産出できる資源が少なく、その多くを輸入に頼っています。そのため、資源価格の高騰の影響を通貨ベースでダイレクトに受けやすいのです。

ちなみに円安は投資においては追い風になるかもしれませんが、経済に対しては必ずしもいいことばかりではありません。ただでさえ上昇している資源や原料の輸入価格を円ベースで見たときに、さらに引き上げることになってしまいます。

例えば1ドル=100円の時に100ドルのものを輸入すると、円ベースの価格は10,000円ですが、1ドル=120円(1ドル=100円に比べて20円の円安)となると12,000円に値上がりしてしまう、といった具合です。

そのため、円安は国内の物価上昇をさらに加速してしまうため、スタグフレーションがより深刻化する恐れがあります。このように経済に打撃を与える円安のことを「悪い円安」とよんだりします。賃金が上がらずに物価上昇だけが加速し、国民の購買力(たくさんのモノを購入する余力)が低下すると、いよいよ悪い円安が本格化してくるのです。

実物資産は上昇

原油などの資源や金などの貴金属、不動産など、実体を伴う資産をまとめて「実物資産」とよびますが、これらはいずれも価格が上昇しやすく、下落しにくい局面となると考えられます。

インフレは商品価格が上昇することを意味するので、基本的に実物資産の価格も上昇しやすくなります。今回は特に、エネルギーや資源の供給がロシアのウクライナ侵略で滞ることが、価格上昇の原因となっています。

スタグフレーション環境に耐えられる投資先とは

株も債券も価格が上昇しづらく、また預金を持っていても物価上昇に負けてしまう可能性のあるスタグフレーションは、資産運用において厄介な局面といえるでしょう。ここからは、スタグフレーション環境を耐え抜くうえで、有効な投資先を紹介していきます。

インフレへの備え+安全資産である金

金は、インフレの影響に加えて「有事の金」といわれるように、地政学リスクが高まる局面や経済悪化時の安全資産として需要が高まる傾向にあります。そのためスタグフレーション局面では、上昇しやすい資産です。

そのため金は、インフレ+経済減速というスタグフレーション局面と特に相性の良い投資先です。実物資産であってインフレとともに価格が上昇しやすいにもかかわらず、経済減速下でも需要が集まるため、スタグフレーション下では二重の意味で上昇圧力がかかります。

原油などへの選択肢も、ただしハイリスク

他の資源など実物資産は、経済が悪化して実需が減退すると、価格が下落するリスクもあります。インフレの影響の方が大きければ上昇が見込まれるものの、経済悪化が想定より深刻だったときなどには、価格が急落したり、不安定になったりする可能性もあります。

このようなハイリスクを許容できるなら、原油などの資源にチャレンジしてもよいですが、スタグフレーションから資産を「守る」という観点では金の方がふさわしいと考えられます。

なお、金は直接購入することもできますし、CFDとよばれる取引を扱っている証券会社で金の先物(金の価格に連動する投資商品)を購入する方法もあります。またより手軽な方法として、金の価格指数に連動する投資信託やETFを購入するのもおすすめです。

不動産投資も有効な手段に

不動産については、経済が悪化することはネガティブな要因の一つではありますが、賃料収入は経済悪化時の企業業績ほどは大きく変動しないため、低下圧力は限定的です。一方で、土地の価格はインフレによってやはり上昇しやすくなるため、トータルで見ればやはり上昇しやすい資産に含まれます。

中長期的に投資を行う場合は、不動産投資もスタグフレーション下の有効な投資手段といえるでしょう。不動産価格は景気動向の影響も受けるものの、株式や投信など多くの有価証券と比較すると、実物資産としてインフレに追随しやすい特徴を持っています。

景気が悪くなったからといって賃貸料が下がるわけでもないので、景気の影響を抑制しながら、インフレに備える投資先としては有効です。

不動産投資の場合は、目先の景気変動よりも、中長期的な人口動態などを意識して投資を行うのが重要です。例えば地方都市の場合は、今は人口が相応にいたとしても、将来少子高齢化が進んだときに、魅力のない都市になってしまいかねません。

首都圏が最たる例ですが、将来にわたり賃貸需要が安定している都市の物件を選んで、じっくり投資することが大切です。

預金を過信するのは危険

景気が悪くなった時は、一般的に投資を手控えて現預金を確保しておくのが常套手段の一つですが、スタグフレーション下では預金が安全な資産運用となるとは限りません。

現在のところ預金金利はほぼゼロの状態で、これはすぐには変わらないと想定されます。インフレが長引けば日銀の政策が変わり、ゼロ金利も終わる可能性もありますが、インフレの方が先行して、日本の預金金利の上昇は後追いになるリスクも否定できません。

そうすると、預金金利で得られる収入よりも、インフレによる物価高騰の幅の方が大きくなってしまうため、見かけ上の金額はいくらか増えたとしても、そのお金で購入できる商品は少なくなってしまいます。商品を購入する力のことを「購買力」といいますが、預金に預けっぱなしでは購買力が低下してしまう可能性があります。

スタグフレーション下では株価などの下落には注意しながらも、一定程度はリスクを取って資産運用を行うこともまた必要となるのです。

スタグフレーションのリスクを意識した資産運用を

ポストコロナの環境下で進んだインフレは、ロシア・ウクライナ戦争によりさらに過熱傾向になっています。そのうえ、景気の減速リスクも意識される中、近い将来スタグフレーションに陥るリスクも高まってきます。

今回のインフレの背景にはその多くが海外で産出される資源価格の高騰などがあるため、長い期間インフレとは無縁だった日本への影響も無視できません。

スタグフレーション環境下ではインフレと景気減速のリスクを同時に意識しなければならないため、資産運用にも工夫が必要です。今回紹介した金や不動産といった実物資産に目を向けて資産運用を行えば、もしスタグフレーションが現実のものとなっても、価格の高騰の影響を緩和することができるでしょう。

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この記事を書いた人

伊藤圭佑 証券アナリスト

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。

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