PropTech(不動産テック)特集【インド編】〜2030年に110兆円規模。世界が注目するインドの不動産市場〜
PropTech特集vol.8となる今回は、インドのPropTechについて紹介します。
インドは何を隠そう、私が学生時代及び社会人時代に計3年間住んでいた国であり、“ほぼ母国”と思っているくらい大好きな国なので、この【インド編】は誰にも譲らまいと鼻息高く、立候補した次第です。
今回紹介する企業の中には、皆さんがインドに居住するときに便利となりそうなサービスもありますので、頭の片隅においていただければ、幸いです! また、今回の内容を含め、詳しい情報を知りたい方向けに、文末にカジュアル面談フォームも貼らせていただきましたので、お気軽に連絡いただければと思います。では、ナマステの世界に皆さんをご案内!
インドのスタートアップ企業を取り巻く環境
まず、各企業を取り巻くインドの経済環境について、私自身の体験も紹介しながら、少し触れてみたいと思います。
Venture Intelligenceによると、2021年8月時点でインドには、アメリカ、中国に次いで、63社のユニコーン企業が存在し、そのうち26社は2021年に入ってからのリスト入りとなっています。私がいた2019年後半ではその数は合計でも25社ほどだったので、インドのスタートアップ周りの勢いは年々高まっているなと感じます。
また、私は仕事で各地域を回ることが多かったのですが、行く先々で、「国の勢い」をとても感じました。給料が毎年20%上昇するのが普通な状態なので、生活レベルがどんどん良くなっていき、今後の未来に期待できる国・環境でしたので、精神的にかなりプラスに思えました。一方で、足下を見ると、インフラ整備含め、あらゆる生活環境がまだまだ整っていないのが今のインドです。
インドでこれだけユニコーン企業が急激に増えている理由の一つは、急成長する中でも、理想と現実のギャップの差がまだまだ大きく、そのギャップを感じている人の数が他国と比べても多いから。そしてそのギャップを他国の場合と同様に、テクノロジーが入りやすい分野から順々に変えているのが今のインドの状況かと思います。
時価総額1兆円!インド初のPropTech領域のユニコーン企業、OYO
インドにおいても、不動産業界はテクノロジーが入れづらい業界の一つですが、そこにAIをはじめとしたテクノロジーを用いて急成長したのが、日本でも「黒船の来襲」と評され、創業6年という短期間で、世界第2位のホテルチェーンブランドになった「OYO」です(「旅をするように暮らす」のコンセプトで展開したOYO Japanとは異なるサービスで展開)。
OYOが登場する前のインドといえば、(お手頃価格の)ホテル予約をしたはいいものの着いてみたら、予約がされていない、予約サイトの部屋の写真と実際の部屋が違いすぎる、部屋が汚い、スタッフのサービスが最悪など、問題が多発する状況でした。
そこでOYOは、各ホテルに「OYO」のブランド名を提供し、アメニティグッズの提供や宿泊後の評価機能などを通じて、どこのOYOブランドのホテルに行っても、一定水準以上のサービスを受けられるように基準値を引き上げました。
また、ホテル側に空室があった場合、AIを用いた価格変動システムを用いて集客率を高めるサービスでホテル業界に変革を起こし、伸びてきた企業です。
ちなみに、私はインドにいた時に500日以上はOYOで滞在していたので、思い入れがあるサービスです。その体験談は長くなりそうなので別の機会で書くとし、OYOのほかにも、インドには100億円を超えるような大型資金調達が行っているPropTech企業が複数社存在しています。今回はそれらを含めた注目PropTech企業を4社紹介したいと思います。
インドで注目のPropTech企業4社
MagicBricks:インドNo.1の不動産ポータルサイト
日本での不動産ポータルサイトといえば「SUUMO」、アメリカなら「Zillow」※1、東南アジアなら「PropertyGuru」※2 といったように、各国で存在する不動産ポータルサイト。では、インドのNo.1※3 というと、「MagicBricks」です。
※1:Zillowについて※2:PropertyGuruについて※3 参照:BUSINESS STANDARD
MagicBricksは、売買・賃貸・投資に関する情報といったポータルサイトとしての基本機能に加え、各都市や各地域ごとの物件価格情報やトレンド、専門家による分析記事・調査記事を知ることができるメディア機能を持つ不動産ポータルサイトです。
最近では、ローンのシミュレーションやローン手続きができるサービスも展開しており、他国で展開されている先進的なポータルサイトと近しい機能を持っています。
スマホユーザー数が5億人を超えるインドでは、サービス展開においてスマホ最適化が重要になりますが、同社サービスはインドの不動産系サービスで唯一、モバイルアプリダウンロード数1,000万回超えとなっており、それに伴うトラフィックの数も月3,000万件と大きな数値となっています。
リアルタイムで動いている165万件もの物件情報や、MagicBricks上でしか掲載されていない20万件の物件情報、毎日追加される6万件の新着物件情報など、いい物件を探そうとするエンドユーザーにとってはMagicBricksでの情報は価値が高いものかと思います。
MagicBricksの特徴
- インドNo.1の不動産ポータルサイト
- 各種物件情報に加え、メディア機能を持ったサービス
- スマホ最適化によるサービス展開で、月3,000万件のトラフィック
- 親会社からの豊富な資金により継続的な成長を果たしている
- インドPropTechにおいては、最も初期にできたサービスの一つ
MagicBricksの概要
- 設立:2006年
- 本拠地:Noida
- 代表:Sudhir Pai
- 累計資金調達額:$300M(約330億円)
- 株主:Times Internet(親会社)
- URL:https://www.magicbricks.com/
NoBroker:ブローカーが介在しないC2C不動産プラットフォーム
創業2006年とインドのPropTech領域の初期に創業されたMagicBricksに対して、よりテクノロジードリブンな企業として急成長をしているのが、2014年に創業したNoBrokerです。
NoBrokerの名前の通り、サービス上ではブローカー(仲介業者)が取引に介在せず、エンドユーザーと物件オーナーが直接つながり、物件探しから契約、家賃支払いやローン、引っ越しなど、一連の不動産の手続きをすべてオンライン上で行えるサービスです。
インドでは賃貸物件の取引をする際、不動産オーナーと借り手の両者がブローカーに手数料を支払う商習慣がありますが、NoBrokerでは不動産手続きにブローカーが介在せず、すべてオンライン上で完結させることによって不動産取引を滑らかにしています。
また、インドでの不動産取引は30%ほどしか法に従ったものがないともいわれており、AIなどのテクノロジーによって、透明性の高い取引が担保されている点もNoBrokerの特徴となっています。
現在、ムンバイ、バンガロール、グルガオンなどの6つの主要都市で展開している同社サービスには350万件以上の物件が掲載され、創業から6年で累計850万人が利用しています。その勢いはコロナ禍でも加速しており、毎月35万人以上の新規ユーザー、7.5万件の新着物件が登録されている状況です。
20億ドル(2,160億円)にのぼるといわれるインド国内の年間の不動産仲介手数料ですが、NoBrokerを通じた取引によって、毎月約19億円、年間では約228億円が削減されています。テクノロジーを用いたサービスで業界の古い商習慣を変えつつあり、社会に大きなインパクトを与えているNoBrokerは、今後も注目の企業かと思います。
参照:YOURSTORY
NoBrokerの特徴
- ブローカーが介在しないC2C不動産プラットフォーム
- AIなどのテクノロジーを用いることで、透明性が高く、迅速な不動産取引を実現
- 累計で850万人が利用し、毎月35万人以上の新規ユーザーを獲得
- インドの不動産仲介手数料の10%を削減しており、業界構造にインパクト
- IIT(インド工科大学)およびIIM(インド経営大学院)の卒業生が創業
NoBrokerの概要
- 設立:2014年
- 本拠地:Bangalore
- 代表:Amit Kumar Agarwal
- 累計資金調達額:$214.5M(約235億円)
- 株主:General Atlantic, Tiger Global Management, BEENEXTなど13社
- URL:https://www.nobroker.in/
PropTiger:HarverdやIITの卒業生が創業した、インド最大級のO2O不動産プラットフォーム
これまで見てきた2社がオンライン完結型のサービスなのに対し、次に紹介するPropTigerは、ネットとリアル(オンラインとオフライン)を掛け合わせたインド最大級のO2O不動産プラットフォームです。PropTigerと同様に、日本でネットとリアルを融合した不動産サービスを提供しているのは、RENOSY(リノシー)を運営するGA technologiesです。
月々の支払金額が低い賃貸物件の場合、不動産取引がオンラインで完結しても心に負担はそれほど重くなさそうですが、物件価格が高い居住用不動産の場合、オンライン取引だけだと不安と思う人が多いのではないでしょうか。
PropTigerは居住用不動産を対象にして、総勢1,400人の各地域に強い不動産専門家チームが、ビッグデータを基にした物件の提案、契約手続き、ローンサポートなどをオンラインとオフラインを掛け合わせ、ワンストップで提供しています。
創業10年で、これまで13万件以上の物件を紹介してきており、サイト上で物件価格の推移も掲載されているなど、透明性があり、安心できる取引を実現しています。
同社はインドおよび海外の不動産業界で数十年の経験を積んだHarverd Business School, IIT, ISB(インド商科大学院)などの卒業生によって設立され、ソフトバンクグループやREA Groupなども株主です。また、2017年には大手不動産ポータルサイトのHousing.comを約300億円で買収し、グルガオン、ムンバイ、バンガロール、コルカタなど主要8都市で事業展開しています。
各国でもネットとリアルを掛け合わせたO2O不動産領域は盛り上がってきており、その領域での企業数も近年増えていますが、インドにおける筆頭株がPropTigerです。経験豊富な経営陣や力強いチームが率いる同社は、今後もウォッチしていきたい注目企業です。
PropTigerの特徴
- インド最大級の不動産O2Oプラットフォーム
- 各地域に強い不動産専門家チームがワンストップでサービス提供
- 不動産ビッグデータや手続きの透明性などにより、安心感のある取引を実現
- 創業10年で13万件の取引実績
- 国内外の不動産業界で経験を積んだ経営陣
PropTigerの概要
- 設立:2011年
- 本拠地:Gurgaon
- 代表:Dhruv Agarwala
- 累計資金調達額:$85M(約93億円)
- 株主:SoftBank, REA Group, News Corp.
- URL:https://www.proptiger.com/
Stanza Living:Sequoia, Accelなど世界のトップVCが投資する インド最大級のCo-livingプラットフォーム
最後に紹介するのは、シリコンバレーのトップVCであるSequoia CapitalやAccelなども投資している、Stanza Livingです。
Stanza Livingは、集客、契約、物件管理など各業務プロセスにテクノロジーを入れた、テックに強みを持ったインド最大級のCo-living事業者。創業4年で既に14都市150拠点でCo-livingを運営しています。
ちなみに同社が取り組んでいる、「Co-living」という言葉は日本ではまだ馴染みがない方が多いかと思いますが、グローバルの不動産領域、特にPropTech領域ではビッグワードになっている、Co-workingとLivingを掛け合わせた用語で、通常の賃貸物件に置き換わる選択肢として、各国で台頭してきている分野です。
Co-livingは、グローバルでの市場規模で2019年に7,400億円が2025年には1.5兆円、CAGR 11.2%という成長予測が出ており、Goldman SachsやSequoiaなどのトップ投資銀行・VCなども投資を強めている分野です。
日本では、多拠点居住サブスクプラットフォームのADDressやHafHが有名です。ちなみに私も同様サービスに1年半住んでいます。
サービスの背景として、まず途上国では賃貸物件を契約する際に入居前の敷金で1年分、2年分を求められる場合も多く、特に学生や若手社会人にとっては入居前の負担が大きいという問題があります。
物件の管理文化も育っていないため、衛生面やセキュリティ面も十分ではなく、また、日本のように宅建業法でエンドユーザーが十分守られておらず、物件オーナーによる家賃上げや退去勧告が突然降ってくることも珍しくありません。
Co-livingでは各事業者がオーナーから物件を借り上げて管理をしているため、クリーニングやセキュリティなどが担保されています。敷金に関しても3〜6カ月分を分割支払いなどで対応している場合が多く、家具や家電、食事付き。さらに水道光熱費やトイレットペーパーなどの日常用品の費用、Wi-Fi費用などが家賃に含まれており、家賃も通常の賃貸物件より20〜30%安いということも珍しくありません。
これらの基本機能に加え、Co-livingの特徴である「一定期間が過ぎれば、追加料金なし、もしくは少額の支払いで、同ブランドの他物件に引っ越しができ、自分のライフスタイルに沿った生活」ができます。
プライベート空間とコミュニティ空間が切り分けられ、自分の時間を大切にしつつ、新しい地域に引っ越しをする時に知り合いが作れず、孤独を味わうということもCo-livingでは解決されるため、学生や若手社会人を中心に認知・利用が拡大しています。
Stanza Livingの特徴
- インド最大級のCo-livingプラットフォーム
- Sequoia CapitalやAccelなどのトップVCから資金調達
- 14都市150拠点でCo-livingを運営
- 業務プロセスにテクノロジーを入れた、テックに強いCo-living事業者
- BCGとGoldman Sachsでプロフェッショナル経験を積んだ2人の創業者
Stanza Livingの概要
- 設立:2017年
- 本拠地:New Delhi
- 代表:Sandeep Dalmia, Anindya Dutta
- 累計資金調達額:$70.2M(約77億円)
- 株主:Accel, Sequoia Capital, Matrix Partnersなど12社
- URL:https://www.stanzaliving.com/
2030年に市場規模110兆円に急成長するインドの不動産市場
インドの不動産業界の市場規模は、2021年では$200 Billion(約22兆円)と日本の半分ほどですが、2030年にはその規模は$1 Trillion(約110兆円)になるといわれています。
一方で、日本以上に古い商習慣とアナログなプロセスが残り、法整備も未成熟なインドの不動産業界。他の業界と同様に、不動産業界でもテクノロジーに強みを持ったスタートアップがますます増加することが予想されます。
また、インド最難関大学・大学院のIITやIIMの卒業生や、インド国内外でプロフェッショナルな経験を積んだ人がPropTech企業を起業しているケースが多く見受けられ、これまで以上の注目市場になると感じています。
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