PropTech(不動産テック)特集【アメリカ編】〜GAFA的存在「ZORC」の正体〜
近年、さまざまな業界でテクノロジーを活用したサービスやビジネスが生まれています。不動産業界でも「PropTech (Property × Technology )=不動産テック」という造語が生まれ、世界的に不動産業界のテクノロジー化に注目が集まっています。今回、PropTech市場でも特に進んでいるアメリカで「不動産業界のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)的存在」といわれている「ZORC(ゾーク)」について紹介します。
CONTENTS目次
不動産テックとは
不動産テックとは、「不動産」と「テクノロジー」を掛け合わせた造語で、海外では「PropTech (Property × Technology )」や「ReTech (Real Estate × Technology)」などとよばれています。
不動産テックの領域は広く、住まいにまつわる賃貸、住宅売買、不動産投資、建設、オフィスなどさまざまです。近年AIやデータを活用した物件価格の可視化・査定、3D・VRを活用した内見システム、SaaS型業務効率化ツールなど多数のサービスが誕生する一方で、日本の不動産業界は、まだまだアナログな部分が多く、日常業務でのFAXや固定電話でのやりとりも少なくはありません。
アメリカの不動産テック市場
世界的にもアナログな業界といわれている不動産ですが、そのなかで圧倒的にリードしているのがアメリカです。
アメリカの不動産は年間取引総額200兆円(その内中古住宅は136兆円)という超巨大市場で、人口の100万人ごとに約6つの不動産テック企業が存在※1するといわれており、主にサンフランシスコ市、ニューヨーク市に集中しています。
そのなかで近年住宅分野において「iBuyer(アイバイヤー)」というテクノロジーを活用したサービスに注目が集まっています。
※1 イギリスに本拠地を置くPropTechのデータベース「Unissu」調べ
注目を集めるiBuyer
iBuyerとはInstant Buyer(インスタントバイヤー)からなる造語で、近年アメリカにて注目を集めている新しいビジネスモデルです。
従来不動産業務は、仲介業(買い手と売り手を繋ぐ)が主で、「家を売りたい人」と「家を買いたい人」を見つけて、双方の要望を聞き、契約を取りまとめるというビジネスになります。
しかしiBuyerは「買い手」を見つける前に、「家を売りたい人」から物件を買い取り、その後転売していくビジネスモデル。平均2カ月かかる売却期間を最小限に短くし、売主側の「できるだけ早く売りたい」というニーズに応えます。
iBuyerは、アルゴリズムを活用して物件査定を実施します。従来の内見は実施せず※2、現状のまま売り手から直接物件を購入し、その後転売します。
これまで売り手側は、持ち家を売却する際に下記のようなフローが必要でした。売却までに平均2カ月、最長6カ月の期間を要しましたが、これを最短2日に短縮します。
※2 企業やサービスによっては内見するケースもあり
従来のフロー
- 不動産会社へ問い合わせ
- 物件査定
- 販売開始
- 内見
- 交渉
- 売却
Zillowの場合
引用:What Is an iBuyer? When, Why and How to Sell Your Home to an iBuyer | Zillow
- オンラインで売却査定を申し込み
- 申込書の質問に回答し物件写真を添付
- iBuyerから物件所在地やデータを基にした査定金額が届く
- 通常金額交渉は行われない
- 買い手側から購入オファーが入れば引き渡しの日程を提示し交渉成立(1週間〜数カ月)もしくはZillow自身が提示価格で購入
このように、iBuyerは従来のフローを短縮し、インスタント(=通常より短い期間)で査定から売却までを可能にします。
不動産テックのGAFA的存在「ZORC」
iBuyer事業でアメリカでのシェアを拡大しているのが、不動産テックのGAFA的存在といわれる「ZORC」です。
「ZORC」とは、アメリカの大手IT企業4社の頭文字から名付けられたGAFA「Google、Apple、Facebook、Amazon」の不動産テック版で、アメリカ大手不動産テック企業4社「Zillow、Opendoor、Redfin、Compass」を指す言葉です。
4社は不動産テックにおいて極めて洗練されたビジネスモデルとUXを備え、そのどれもがオンライン上で情報提供をするプラットフォーマーです。
今回はその「ZORC」にまとめられる4社について紹介します。
1. Zillow(ジロウ)
アメリカ最大規模の不動産検索サイトを運営するZillowは2006年シアトルに設立。2011年にナスダックへ上場した、「ZORC」の中で一番の古株企業です。
不動産ポータルの覇者として、アメリカの不動産テックを長年にわたり牽引しており、1億件ものデータを保有しています。主に、住宅の販売、賃貸物件を扱っておりポータルサイト「Zillow」を運営しています。
ZillowのPropTechのひとつとして特徴的な「Zestimate(ゼスティメート)」は、独自の住宅価格をアルゴリズム(物件データ、価格推移データ、固定資産税データ、過去の売買取引データなど)を活用し、約1億件の物件推計住宅価格を公開しています。
「Zestimate」は、物件の所在地や過去のデータを基に売り手が物件の想定売却価格を知ることができるツールです。Zillowのサイトにて住所を入力し数点質問に回答するだけで査定金額が後日送られてきます。
また、Zillowのポータルサイトを通じて買い手を募集することも可能です。掲載されている販売中の物件は全てZestimateにて推計された現在と過去の売却価格が表示されています。過去の同所在地域における取引記録や売却金額も同ページにて簡単に確認することができるため、データドリブンな不動産取引が可能です。
Zillowの特徴
- アメリカ全土で1億件以上の不動産データベースを保有
- データドリブンな物件価格査定ツール「Zestimate」を運用
- オンラインプラットフォームにて不動産の売買を実施
- 「Zillow Offers」にてZillow自身で不動産を買取し再販
Zillowが展開する「iBuyer」は、売り手が売却物件の情報をZillowへ入力することで、48時間以内にプラットフォームを見た「買い手」からオファーを受けることができます。
また近年Zillowは自身で買い取った物件の販売に力を入れており、トップページや上位での自社保有物件の表示を開始し、iBuyer事業にて他社との優位性に力を入れています。
Zillow 概要
- 設立:2006年
- 本拠地:シアトル
- 代表:Rich Barton
- 主なビジネスモデル:住宅販売 / 仲介業 / 賃貸 / 不動産ポータルサイトの運営など
- URL : https://www.zillow.com/
2. Opendoor(オープンドア)
アメリカのオンライン買取再販業(iBuyer)のパイオニア。2014年サンフランシスコに設立し、2020年に上場を発表しました。
AIを使って住宅価格を査定し、現地での調査をへて物件を買い取るビジネスモデルで、対象物件は1960年以降に建てられた1,100万〜5,500万円の一戸建て住宅に限定しています。
仲介モデルよりも決済までが早く、買主への手厚い保証(「30日間キャッシュバック保証」「2年間の修繕保証」)が特徴です。売主はOpendoorへの物件売却もしくは、プラットフォームへの広告掲載が可能です。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドから2018年9月に4億ドル(日本円で約450億円)の大型資金調達を実施、これによりOpendoorの総資金は10億ドル以上(日本円で約1,040億円以上)※3といわれています。
※ 参照:TechCrunch 2018年9月「Opendoor just raised $400 million in funding from SoftBank’s Vision Fund」
Opendoorの特徴
- iBuyerのパイオニア
- AIを使用したオンラインによる不動産価格査定
- 他社にはない、2つの保証(「30日間キャッシュバック保証」「2年間の修繕保証」)を売主へ提供
Opendoorはオンライン買取再販とよばれるビジネスモデルを主力事業としており、買主への「2つの保証サービス」が特徴です。
1つは、Opendoorから物件を購入した買い手は「30日間キャッシュバック保証」がついており、仮に購入した物件に住んでみて気に入らない場合、購入してから30日間以内であれば「販売手数料」と「購入代金」の返金が可能です。
もう1つは、「2年間の修繕保証」です。通常アメリカの修繕保証期間は1年ですが、Opendoorでは、その倍の2年間を提供しています。
売主側は、オンライン上で物件の住所・築年数、修繕や改修の履歴などの情報を登録し、2日以内に買取金額のオファーを受けることができます。
さらにOpendoorは、新型コロナウイルス感染拡大防止施策として、内見の際に使用するアプリを自社で開発しました。アプリを使用することでユーザーは自身で内見を行うことができます。
次の内見者到着前にメッセージが届くため、内見先での密を避けることが可能です。エージェントによる物件のライブツアーも利用できるため、自宅にいながら内見することも可能です。
Opendoor 概要
- 設立:2014年
- 本拠地:サンフランシスコ
- 代表:Eric Wu
- 主なビジネスモデル:不動産の買取再販
- URL : https://www.opendoor.com/
3. Redfin(レッドフィン)
Zillowに並ぶ古参企業であり、ポータルサイトのみならず、自社で不動産の仲介事業も運営しています。2006年シアトルに設立し、2017年ナスダックへ上場。独自に住宅価格を推計する機能を追加した不動産売買プラットフォームを提供しています。
通常3%の広告掲載費用を1%で提供し、低い手数料と、高い値段の販売実績が人気のポータルサイトです。自社のポータルサイトにアクセスしてきた顧客のニーズをヒアリングし、仲介を担当するエージェントを低価格な手数料で紹介し、自社内で不動産売買が完結する仕組み。利用者には仲介手数料の一部を還元する仕組みもあります。
Redfinの特徴
- 通常3%の広告掲載費用を、半額以下の1%で提供
- 仲介エージェントを活用した自社内完結型の不動産売買モデル
- MLSと連携し、膨大な最新物件の情報リストを提供
通常アメリカでは、売り手側は、物件の広告(ポータルサイトへの掲載)に物件販売価格の3%、買い手を見つけてきたエージェントに販売価格の3%と合計6%の仲介手数料が発生します。
これらは2018年時点で約1,000億ドル※4と日本円にして10兆円以上にのぼります。しかしRedfinでは、通常3%の広告掲載費用を1%で提供(Redfinを通じて物件を売却・購入した場合)し、通常の仲介手数料の半分の価格で提供を行っています。
Redfinは「We built Redfin to get you a better deal(Redfinは、より良い取引を実現するために構築しました)」とミッションを掲げ、エージェントとテクノロジーを組み合わせて、最適な家の売却や購入をお手伝いし、何千ドルもかかる手数料を節約しますと宣言しています。
Redfinに公開されている物件は、アメリカの不動産データベース「MLS(日本におけるREINS)」と連携しているため10分毎に更新されています。常に最新の情報を得ることができ、また、他の不動産エージェントと同じ情報を瞬時に確認したり、新規の物件が登録された際は通知を受け取ることも可能です。
Redfin 概要
- 設立:2006年
- 本拠地:シアトル
- 代表:Glenn Kelman
- 主なビジネスモデル:買取再販 / 仲介業 / 賃貸の不動産ポータルなど
- URL : https://www.redfin.com/
4. Compass(コンパス)
Compassは、業界のトップエージェントとテクノロジーを不動産プラットフォーム上で繋ぎ、スマートでシームレスな物件売却と物件探しが行える、高級物件に特化したオンライン上の仲介会社です。
1,700以上の有能なエージェントを抱えており、売買を希望する顧客はプラットフォーム上で、プロフィール、写真・動画、学歴、経歴、受賞歴、取引履歴、評価など幅広い情報を元に比較し、自分の希望にあったエージェントと契約することが可能です。
一方でエージェントには、顧客とのコミュニケーションがスムーズに行えるよう下記のようなツールを提供しています。
- Compass Collections
- Compass Insights
- Marketing Center
- Compass CRM
CompassCollectionsは、気に入った物件をビジュアルワークスペースにて保存でき、プラットフォーム上でエージェントと顧客はリアルタイムなやりとりが可能です。物件状況や価格に変更があった際はすぐに受け取ることができ、気になる物件をアプリ上で管理することが可能です。
Compassの特徴
- ラグジュアリーマーケットへのフォーカス
- 顧客とエージェントを繋ぐ独自プラットフォームの運営
- BigデータとAIを活用したレコメンド機能
Compassは、ITシステムを活用し徹底したコスト削減で、手数料を割り引くディスカウント仲介のモデルを進化させています。ソフトバンク・ビジョン・ファンドから4億ドル(日本円で約450億円)※5の投資を受け入れ急成長中。
※5 参照:NY発不動産プラットフォーム「Compass」、ソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから4億米ドルを資金調達――評価額は44億米ドルに到達 | BRIDGE(ブリッジ)テクノロジー&スタートアップ情報
Compass 概要
- 設立:2012年
- 本拠地:ニューヨーク
- 代表:Robert Reffkin
- 主なビジネスモデル:不動産の買取再販 / 賃貸 / 仲介業など
- URL : https://www.compass.com/
まとめ
アメリカでは1人あたりの不動産購入・売却回数は約6回といわれており、この数字は日本の約6倍です。2020年は新型コロナウイルスの影響も追い風となり日本の不動産DX(デジタルトランスフォーメーション)も、一気に加速しました。
現在さまざまな分野にて不動産の業務やビジネスにテクノロジーを取り入れ、活用しようという試みが行われています。今後、AIによる不動産査定や住宅ローン金利など、不動産価格の可視化が簡易化されることにより、日本でも、「ZORC」のようなオンラインで不動産取引がスムーズに行えるサービスが多く誕生していくでしょう。
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