PropTech(不動産テック)特集【中国編】〜5Gと中国の不動産テクノロジー〜
アメリカ編、イギリス編に続き、今回のPropTech特集vol.3では、アメリカに次ぐ、123社※1のユニコーン企業※2を輩出している中国について紹介します。
※1 CB Insights The Complete List of Unicorn Companiesによる2021年1月時点の情報
※2 創業10年以内で、企業価値評価額が10億ドル以上の企業
中国企業の上場に関して
日本経済新聞と提携している大手中国テック・スタートアップ専門メディア「36Kr JAPAN」によると、2020年11月25日時点で434社の中国企業が上場しています。
そのうち、上海取引証券所ハイテク新興企業向けの株式市場「科創板」には127社が上場、アメリカ市場には30社の中国企業が上場し、中国のみならずアメリカにて上場を果たす企業が多数存在しています。
今までにも、Baidu、Alibaba、Tencent など中国の大手テック企業が海外の証券取引所で上場しています。
参照:【年末特集】2020年に最も注目を浴びたIPO、中国有望企業7社の顔ぶれ |36KrJAPAN
中国の4大テック企業「BATH」
中国の4大テック企業「BATH」は、バイドゥ(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)、ファーウェイ(Huawei)の巨大テクノロジー企業の頭文字をとった名称で、アメリカの「GAFA(Google、Apple、 Facebook、 Amazon)」の中国版とよばれています。
「BATH」はAIや自動運転、EC、物流などのテクノロジーを活用したサービス展開を行っており、近年、アリババやテンセントは不動産テックの領域にも事業進出を始めました。
中国のPropTech 市場に関して
近年中国では、多くの企業が不動産テックの領域に参入しており、多数の不動産プラットフォームやテック系仲介会社が存在しています。Global PropTech Analysisによると、アジアに存在する548社のPropTech企業のうち、約3割となる144社が中国企業とのことです。
また、近年はPropTech市場でもたくさんのユニコーン企業が誕生していますが、その多くがアメリカ、または中国に拠点を置いています。
下の表の通り、インド(OYO)とフィリピン(Revolution Precrafted)の2社を除くと、23社中11社が中国、10社がアメリカとなっています。
例えば、先ほど紹介した「BATH」のアリババグループは、中国の大手オンラインモバイルコマースカンパニーですが、2020年7月に、不動産大手「易居中国(E-House China)」の株式を約8.32%取得し、PropTech領域へ進出を果たしました。
また同月に、中国ソーシャルメディア界の大企業「テンセント」が株主である、不動産情報プラットフォーム「貝殻找房(ke.com)」が9月にアメリカ市場に上場し、これまでメディア分野でのライバルとして頻繁に比較されてきた2社の市場争いは「次は不動産業界か!?」と報道されています。
上の表の企業以外にも、中国のPropTech企業は多数存在しており、中国国内外の不動産投資・住宅売買や賃貸不動産のプラットフォームを展開しているLianjia (中国語表記:链家)や、VR内見やライブコマースにて不動産情報を提供しているFang Holding limited(中国語表記:链家房天下)、2020年のモバイルユーザーランキング1位で、VR内見やVR室内装飾を提供しているAnjuke.com(中国語表記:安居客)などが業界をにぎわせています。
不動産市場におけるテクノロジーの活用について
JLLが発表したReimagine the Future of Real Estateによると、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、IoTなどの技術需要も不動産分野で高まっています。
中国国内230社のPropTech企業および、不動産会社への調査によると、回答者の47%が「今後2年間でPropTech領域の予算を、最大30%増やすことを計画している」と回答しました。
そんな中国の不動産企業で特に活用されている技術が、クラウドコンピューター、ビッグデータ、IoT、AI(ディープラーニング)、IoT、BIM、VR、AR、ブロックチェーンです。
これら技術は不動産取引におけるデジタル化や、非対面での内見、生活のスマート化(テック化)などに使用されています。またこの中で、現在、世界で最も普及が進んでいるとされる中国における5Gによって、成長が期待されているのがIoTです。
すでに中国は世界最大規模のIoT市場として技術開発とその応用で世界をリードしているといわれ、移動体通信事業者の業界団体GSMアソシエーション(GSMA)が2019年6月に、「中国のIoTソリューションは世界のトップレベルにある」との認識を示しました。
5Gの普及により今後一層、消費者の生活面にIoTの普及が広がる見込みで、不動産業界でのIoT普及も、2022年までに2倍以上になると予想されています。
参照:Reimagine the Future of Real Estate |JLL
中国の注目PropTech企業
大房鸭(英語表記:Dafangya)
大房鸭は、上海を拠点に置き、住宅売買プラットフォームを展開するスタートアップ企業「大房鸭(英語表記:Dafangya)」です。
サービスの特徴としては、売主が仲介会社を通さず物件をプラットフォームへ登録することができ、値段交渉や問い合わせに関して、買主と直接のやりとりができることにあります。
このプラットフォームでは、売主は電話だけでなく、チャットやメールなど複数の連絡ツールでの登録ができるため、1日に何十回も電話問い合わせがくるという課題を回避でき、やりとり時間の削減やストレスの軽減ができるようになっています。
通常中国では、売主が物件をプラットフォームへ登録すると、1日に数百件の問い合わせが発生するケースが多くありました。これを回避するため仲介会社を通じて売却活動を行う売主も多くいましたが、仲介手数料が高く、売却物件に関する細い変更や、オファーに関する買主との細かい価格交渉を直接行えないため不便に感じる売主が多く存在していました。
しかし、大房鸭は売主と買主をプラットフォーム上で直接つなげることで、仲介手数料やプロセスの削減を実現しました。仲介手数料は0円、固定のプラットフォーム使用料のみ支払うシステムとなっています。
「大房鸭」に公開されている家の総数は現在48,313件(2021年2月12日時点)、直近10日間で公開された売り物件は4,231件、この1カ月間で8,948件の物件が売却されました。
「大房鸭」は、テクノロジーを活用した公正で効率的な不動産サービスの提供、上海での住宅売買や中古住宅取引の課題解決を目指している企業で、過去に19,900物件の売買取引があり、アプリストアの「大房鸭中」紹介文によると、中古住宅が毎日400件程追加されているとのことです。
大房鸭の特徴
- 情報の透明性
- 仲介手数料なし
- 売却価格によって変動しない2つの固定料金プラン:(1)19,990元(約323,736円)※1(2)22,900元(約372,746円)※2
- 内見のオンライン予約機能
- 物件近辺に住む人による物件周辺案内
- ローン計算機能
- オンライン上のリアルタイムな掲示板で、物件に関するやりとりが可能
- 閲覧リストの表示:物件の閲覧履歴、フォロワー数、物件閲覧数、物件交渉の進行状況がリアルタイムで確認可能
- 物件フォロー機能、価格変更・内見数のログ機能
※1 通常中国での仲介手数料は0.5% 〜 3%
※2 通常プランに加えて弁護士サービス(法務コンサルティング、契約書作成サービス、取引に問題が起こった際の調停サポートサービスなど)
参照:2019年7月発行 海外不動産事情Vol.4 中国の不動産仲介業| 月刊不動産
大房鸭に登録されている物件は、売り出し物件の価格変更がすべて記録されているため、変更された金額や日付をユーザー全員がプラットフォーム上で確認することができます。
大房鸭 概要
- 設立:2015年
- 本拠地:上海
- 代表:Su Wenyong
- URL:https://www.dafangya.com/
小庫科技(英語表記:XKool Technology)
AI技術を活用したクラウド型建築設計プラットフォームにて数秒で建築設計作成ができる、と、いま中国の建築業界で話題の企業です。
小庫科技は、都市計画と建築設計にAI、ディープラーニング、機械学習、ビッグデータなどの最先端技術を利用し「AI設計クラウドプラットフォーム」と「AI設計クラウドサービス」を展開しているスタートアップ企業です。
AIが過去のデータをもとに、新たな設計案を自動で作成、ユーザーによる修正や変更などの調整を行えます。
36Krの記事によると「識別(既存の建築や都市計画の分析)や評価(設計図から建築後の状況をシミュレーションして判断)、再構築(既存の建築物を学習し現代に即した再設計を行う)から設計案作成までの作業効率を高め、建築設計におけるコスト・時間・品質の不均衡を解決する。」とのことで、これにより短時間での設計案作成が可能になります。
参照:AI技術で建築設計をサポート 不動産テック分野の成長を後押しする「小庫科技」|36Kr
従来、設計事務所では、設計に多大な時間とコストが必要な作業でした。しかし、テクノロジー技術の活用により、AIに過去の建設プロジェクトの設計データを学習させることで、自動で新しい設計案を作成することができ、大幅な業務削減が可能になります。
スマートなプランニングが可能に
壁、ドア、窓を編集したり、アパートの面積、表面積、開口部の数、アパートの構成やその他の変更をリアルタイムで変更、表示することが可能です。
また、ユーザーは部屋のタイプや数を入力することで過去の設計プランから似たデータを検索することが可能です。これらの機能により設計プロセスを簡素化し、作業効率を向上させます。
参照:建設設計を10秒で生成!中国AI企業の 小庫科技(XKool Technology)とは?| ConTech Mag
そのほかにも、区画周辺のデータ検索による建築予定地周辺の建物や不動産価格、関連情報の取得や、2D・3Dの設計をクラウド上で行うことができるAIサポート設計立案機能などがあります。
また、設計プランをオンライン上で変更でき、建物の向きや位置の変更などの内容が建築基準法に違反していないかなどの判断も可能です。
小庫科技の特徴
- AIによる10秒で作成可能な建設設計
- 建築予定地周辺の建物・不動産価格データへのアクセス
- 2D/3D設計プラン
- クラウド上の建設設計の建築基準法の確認
- プロジェクトの共有編集など
参照:AI技術で建築設計をサポート 不動産テック分野の成長を後押しする「小庫科技」|36Kr
小庫科技 概要
- 設立:2016年
- 本拠地:中国
- 代表:Wanyu He
- URL:https://www.xkool.ai/
貝殻找房(英語表記:Beike/BEKE/KE Holdings)
貝殻找房は、2020年9月NY取引証券所に上場した、中国のオンライン不動産取引プラットフォームで、日本のソフトバンクグループや中国の大手IT企業テンセントが出資しています。
2020年6月末時点で中国各地の不動産仲介会社にプラットフォームを提供、全国103都市の4万2000店が登録、45万以上の不動産業者と連携しています。独自開発したVR技術「RealSee」は、世界中でサービス展開をし、500万件以上の不動産物件のVR情報を保有しています。
参照:【銘柄まとめ】オンライン住宅取引の「Beike(貝殻找房)」(BEKE)が上場申請(IPO)へ | investorz.club
参照:500万件以上の3D物件データを保有する中国のPropTech ユニコーン企業(※1)Beikeと日本提携企業として初の3D内覧サービスの導入を決定| GA technologies
プラットフォームでは主に中古・新築住宅の販売、海外物件、賃貸、リフォーム、商業オフィスなどを展開し、O2O(オンライン・ツー・オンライン)取引を重点に置いているのが特徴です。
貝殻找房が提供する3D技術
貝殻找房が提供する3D画像の自動結合機能の精度は非常に高く、誤差はわずか4.23%と、世界最先端レベルといわれています。
2Dのパノラマ画像に3Dの「奥行き」を与え、画像の遠近感や方向を検知して、隣接する画像を自動でつなぎ合わせて3D化しています。深度推定技術、ディープニューラルネットワーク、データアノテーション、画像分割、画像認識などのAI技術を広範に活用しています。
3Dを活用した内見は、上下左右斜めの720度の向きで、自由に部屋の中を歩くことができ、構造、装飾、空間の大きさなどの情報を一目で把握できるため、ユーザーは実際に内見しているのと同じ効果を体感できます。
携帯電話や携帯電話に合わせたVRメガネを使用し、3Dシーンを自由に歩き回り、CGによる家具の配置シミュレーション、AIによる物件の音声案内、近隣地図との連携なども体験でき、これまで不動産業界にはなかった顧客体験を提供しています。
好きな場所から好きな時間に内見を行うことができるため、withコロナ時代の非対面ニーズに対応したサービスを提供しています。
参照:8分で1000件が売れた不動産物件のVR内見サービスが日本上陸 自宅にいながら家探しが可能に | 36Kr
参照:テンセント出資、最新鋭技術で不動産業界を変える中国テック企業の正体とは?|MONEY PLUS
貝殻找房の特徴
- データをもとに約96%の精度で住宅価格を評価査定
- 高度なVR内見
- 自動音声案内
- CG家具シミュレーション
- 45万以上の不動産業者と提携
貝殻找房 概要
- 設立:2001年
- 本拠地:上海
- 代表:Yongdong Peng
- URL:https://bj.ke.com/
進む中国のPropTech、スマートシティに注目も
いろいろな技術が中国のPropTech市場に応用され進化が進んでいますが、5Gの普及により今後ますますビジネスのスマート化、DXは進むと思われます。
世界の中でも、中国はデータ通信の高速化が進み、これにより今後、最先端のIoTやAIアプリケーション開発の加速が予想されます。
ビッグデータ、クラウドコンピューティング、AI、IoT、これらの技術を活用した今後注目すべきプロジェクトがスマートシティです。
持続可能なインフラ、データ駆動型ガバナンス、デジタル管理を含む構築が見込まれており、2019年、中国のスマートシティの市場規模は10兆元(約160兆円以上)を超えました。
今後5年間で33.38%の年平均成長率を維持すると見込まれており、2021年、中国のスマートシティ関連の市場支出額は、40億ドル(約4,236億円)を超える見通しです。
自動運転、ドローン配達、無人スーパー、顔認証の活用など、さまざまなテックが中国で活用されており、人口密度の高い中国でテックがどう住まいを豊かにしていくのか、スマート化されたシティや住まいとはどのようなものなのか個人的にとても楽しみです。
※本記事の情報は、信頼できると判断した情報・データに基づいておりますが、正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。法改正等により記事執筆時点とは異なる状況になっている場合があります。また本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。
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