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作成日: 2021.03.31

PropTech(不動産テック)特集【ラテンアメリカ編】〜地球の裏側、LATAM不動産テックの今〜

PropTech(不動産テック)特集【ラテンアメリカ編】〜地球の裏側、LATAM不動産テックの今〜

PropTech特集vol.4 となる今回は、地球上日本の裏側に位置するLATAMの不動産テックについて紹介します。LATAMはFinTechに次いで2番目にPropTechのスタートアップ企業数が多いエリア。コロナ渦中には大型買収がラテンアメリカのテックニュースに大きく取り上げられるなど、ラテンアメリカにおけるスタートアップエコシステムの流動性にも注目が高まっています。今回は世界的にも注目を集めるLATAMのスタートアップ企業と共に紹介いたします。

中南米のテックニュースまとめ読み|TechCrunch

LATAM(ラタム)とは

LATAMは、Latin America (ラテンアメリカ)を短くした単語で、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリなど12の国、3つの非主権領域からなる名称です。ブラジル以外はスペイン語やポルトガル語を公用語としています。

参照: LATAM | Cambridge Dictionary

LATAMのPropTechの中でスタートアップ企業数が多いブラジルは、2019年時点にて人口世界6位の2億人超で、インターネットユーザーは世界4位、スマートフォンの普及率は日本並みの国です。

参照: 世界の人口 国別ランキング・推移(国連) – Global Note参照: 日本を超えるIT大国「ブラジル」の可能性--ユニコーンが続出する4つの理由 | CNET 2019年10月11日

LATAMのPropTech (不動産テック)市場に関して

アルゼンチンを拠点とするPropTechに特化したコミュニティ「PropTechLATAM」では、定期的にPropTechに関する記事の投稿やイベント開催が行われており、アルゼンチン、チリ、メキシコなどのPropTechスタートアップ企業が多数参加しています。

このコミュニティは、業界のエコシステム、情報交換などの場で活用されており定期的なイベントも開催。LATAM以外の地域でもイギリス、カナダ、アメリカ、アジアなどからPropTechのスペシャリストが多く登壇しています。

2020年8月に開催された初のオンラインイベントには15カ国から3,000人以上のPropTech関係者が参加し、50以上の不動産にまつわるサービスやテクノロジー活用の事例などが発表されました。

Balance de año 2020: Proptech Latam no se detiene |PropTech LATAM Connection引用:Balance de año 2020: Proptech Latam no se detiene |PropTech LATAM Connection

LATAMのスタートアップ企業の業界2位がPropTech

2020年のLATAMのスタートアップ企業にて、FinTechに次いで2番目に多かったのがPropTechで、LATAMの産業でもPropTechへの関心の高さがうかがえます。

Statista引用:Startups share by industry in Latin America 2020 | Statista

イギリスに本拠地を置くPropTechのデータベース「Unissu」によると、LATAMには355のPropTech 企業が存在し、その内225社がブラジル、55社メキシコ、37社アルゼンチン、25社チリとラテンアメリカとよばれる国々が占めています。

また、その内53%の企業がCommercial(商業用)不動産事業を展開しており、45%がResidental(住居用)不動産事業です。

Number of PropTech companies in Latin America | Statista引用:Number of PropTech companies in Latin America | Statista

Unissuのデータベースの通り、ブラジルはLATAMの中でPropTechのスタートアップ企業数が最も多く、またPropTech以外にもさまざまな産業でスタートアップ企業が誕生している、スタートアップ大国です。

2020年時点で、企業価値10億ドルを超える11のユニコーン企業がブラジルに存在し、その中に不動産プラットフォーム「Loft」が含まれています。

Compra e Venda de Apartamentos de Forma Descomplicada引用:Compra e Venda de Apartamentos de Forma Descomplicada

「Loft」は、ブラジルの住宅および商業用不動産において「借りる、買う、売る、貸す」の分野でサービス提供を行うオンライン不動産プラットフォームです。

2020年1月に、アメリカを代表するトップクラスのベンチャーキャピタリストAndreessen Horowitz (アンドリーセン・ホロウィッツ、略称 a16z)を筆頭とする投資家達から1億7500万ドル(約190億円)を調達。

参照: The State of PropTech in Mexico(PDF)参照: New industries may spawn Brazilian unicorns in 2020 -executives| NASDAQ 参照: Brazil’s Loft Raises a16z-Led $175M Series C For Digital Real Estate Platform|Crunchnews
Loftは、住宅用不動産市場に新しい組織体制、データ、効率性を持ち合わせることで、アパートの売買取引を簡易化することを目的にプラットフォームの運営を行っています。

また実際の取引データを独自の機械学習モデルと組み合わせて、幅広い物件情報とデータをもとにした透明性のある取引を実現したり、オンラインでの内見予約機能などを提供しています。

これらを通じて市場の活性化、透明性を高めることを目指し、エンドツーエンドの住宅売買プロセスの構築を促進しています。

LATAMの不動産市場におけるテクノロジーのトレンドについて

「PropTech LATAM Summit」や「PropTech Latamエコシステム」の創立者であるAndrea Rodriguez Valdez 氏によると、多くのスタートアップ企業はビル管理や、住まい、オフィスにまつわる事業展開が多く、ビッグデータの活用が目立っているとのことです。

「The State of PropTech in Mexicio」によると、メキシコのPropTechスタートアップ企業の多くがAI、VR、データ分析、クラウド、モバイル、ブロックチェーンなどさまざまな技術をPropTech事業に活用しているとのことです。

参照:The State of PropTech in Mexico(PDF)

LATAMの注目PropTech企業

QuintoAndar (ブラジル)

2013年にブラジルのサンパウロにて創業したQuintoAndarは、賃貸と売買の不動産プラットフォームを運営する注目PropTech企業の一つです。2019年に従業員数が300人から1,000人以上へと急増し、現在はサンパウロやリオデジャネイロなど、ブラジルの29都市に展開しています。

2019年にはソフトバンクがリード投資家となるシリーズDにて、2億5000万ドル(約270億円)を調達しました。

参照:SoftBank mints QuintoAndar a new unicorn in Latin American real estate tech | TechCrunch

Alugar sem fiador e comprar imóveis no QuintoAndar - QuintoAndar引用:Alugar sem fiador e comprar imóveis no QuintoAndar - QuintoAndar

QuintoAndarは、借主・売主と、貸主・買主をつなぐ賃貸・売買の不動産プラットフォームを提供しています。ブラジルの賃貸・売買物件の検索、予約、契約までのやりとりをプラットフォーム上で行うことができ、借主と貸主間の契約に関する審査を自社開発の「信用分析システム」にて実施しています。

自社で開発した「信用分析システム」では、これまでブラジルの不動産業界において賃貸契約の妨げになっていた連帯保証人や保証金、賃貸保険をなくし、取引を簡易化することで契約までの時間を短縮することを可能にしました。

Casa para alugar com 1 quarto, 40m² |QuintoAndar引用:Casa para alugar com 1 quarto, 40m² |QuintoAndar

従来、ブラジルの不動産賃貸契約では、家賃の未払いリスクに対応するため、厳格な所得審査に加え、高額な保証金や保険料、連帯保証人が必要になるそうです。そのため、賃貸物件を見つけて契約するまでに長い時間を要していた傾向があるようです。 

しかし、QuintoAndarは、独自のアルゴリズムを活用し、保険会社と連携して審査を実施。保証金、保険料、保証人不要の賃貸契約手続きを実現しています。また各賃貸物件ページにて家賃をベースとした必要なミニマム月収金額が記載されています。

参照:【ユニコーン編】海外PropTech資金調達動向 vol.1|note by Digital Base Capital 

Imovais para comprar | QuintoAndaz引用:Imovais para comprar | QuintoAndaz

また賃貸契約終了の際、借主によって修理されなかった物件の修理費用は、最大5万レアル(約100万円)までカバーするとサイト上で提言しています。

また貸主は物件掲載することによって1物件あたり100レアル(約2,000円)の報酬が支払われ、物件が賃貸契約した際は、最初の賃料の10%、売却された場合は1,000レアル(約2万円)がQuintoAndazから報酬として支払われます。

QuintoAndazの特徴

  • 賃貸・売買のプラットフォームを提供
  • 独自開発した「信用分析ツール」を活用した審査を実施
  • 賃貸物件の修理費用最大5万レアル(約100万円)をカバー
  • 物件掲載にて1,000レアル(約2万円)のコンミッションを支給
  • 賃貸・売買契約の際オーナーへコンミッションを支給

参照: Ganhe dinheiro indicando apartamentos e casas para alugar - Indica Aí - QuintoAndar

QuintoAndaz 概要

AssetPlan(チリ)

チリにて、賃貸・投資・不動産管理サービスを行っているAssetPlanは、1万件以上のアパートを管理し、毎月約600件のアパートを紹介しています。

Arriendo de Departamentos | AssetPlan引用:Arriendo de Departamentos | AssetPlan

オンラインにて不動産投資に必要な物件の価格、空室率、滞納率をタイプ別・地域別に掲載しており、賃貸価格の変動と今後の展望をデータで分析しながら、リアルとオンラインを融合させたサービスを提供しています。

Edificio Besalco Argomedo Santiago| Assetplan引用:Edificio Besalco Argomedo Santiago| AssetPlan

またAssetPlanでは、100%オンラインでの賃貸契約における電子署名を採用しています。

管理物件の内見は3Dバーチャルツアーにて提供しており、アパートメントの部屋だけでなく、共用部や受付などの見学も可能。遠隔で実際に内見しているような体験ができます。

Edificio Besalco Argomedo SantiagoVRT TOUR VIRTUAL 3D|Assetplan引用:Edificio Besalco Argomedo Santiago VER TOUR VIRTUAL 3D|AssetPlan

借主と貸主は、ウェブやモバイルアプリからアクセスできる専用のプラットフォームにて、支払い状況や金利情報、物件情報の確認のほか、サポートデスクへの問い合わせが可能です。

AssetPlanの特徴

  • 3Dバーチャル内見を提供
  • オンライン上で物件予約、申し込み、査定に必要な書類の提出、電子契約などが可能
  • 不動産投資事業も展開、投資した物件はAssetplan社にて管理
  • 借主と貸主に専用プラットフォームを提供

AssetPlan 概要

Flat (メキシコ)

メキシコ初のiBuyer事業を展開するFlatは、メキシコの50の地域にてPropTech事業を展開しており、物件の売買に関わる面倒なプロセスの簡易化を実現するサービスを提供しています。

主な特徴は、テクノロジーとデータを活用して住宅販売のあり方を変えようとしていること。2020年には、サンフランシスコを拠点とするベンチャーキャピタル「Arc Labs」より2,500万ドル(約27億円)の資金調達を実施した注目スタートアップ企業の一つです。

参照: Arc Labs Invests US$25m in Debt Financing in Mexican Proptech Flat.mx参照: Mexican iBuyer Flat.mx Raises $25 Million in Debt|Online Market Place 

Flat.mx - Vende tu departamento en la Ciudad de México de inmediato引用:🏠 Flat.mx - Vende tu departamento en la Ciudad de México de inmediato

Flatによると、従来メキシコでは、売主は売却までに最低30回の訪問回数が必要となっており、契約までの長い期間が不動産取引のハードルとなっていました。

Flat.mx - Vende tu departamento en la Ciudad de México de inmediato引用:🏠 Flat.mx - Vende tu departamento en la Ciudad de México de inmediato

しかしFlatでは、200件以上のデータをもとに買取物件を査定し、売主は所有物件の掲載後、10日以内にオファーを受け取ることができ、売買契約書への署名の際には、100%の提示金額を受け取ることができるサービスを提供しています。

Flat.mx - Vende tu departamento en la Ciudad de México de inmediato引用:🏠 Flat.mx - Vende tu departamento en la Ciudad de México de inmediato

またFlatにて掲載されている物件は、「DepasFlat」とよばれ、すべてリノベーションが行われ、独自の保証が付いたアパートになっています。物件に不満がある場合は、購入後30日以内であれば、物件の返却(全額返金)が可能という手厚い保障まで付いています。

Compra |Flat.mx引用:Flat.mx

Flatの特徴

  • 物件掲載からオファーまで10日以内
  • 200件以上のデータをもとに買取価格を査定
  • 買い取った物件はすべてリノベーションを行い、再販
  • 購入物件は1カ月以内であれば全額返金

Flat 概要

  • 設立:2019年
  • 本拠地:メキシコシティ
  • 代表:Victor Noguera
  • URL:https://flat.mx/

LATAMの不動産業界の課題

ここまで紹介したように、現在ブラジルを中心としたPropTech企業がLATAMで多く誕生している一方、同エリアの不動産業界の課題は多く残っています。

そのため、PropTech企業の参入には多くの可能性があるといえるでしょう。

LATAMの不動産業界の主な課題

  • ライセンス保有がない不動産仲介会社の多さ
  • 契約の際に多くの人が公証人を依頼する必要があり、費用が高い
  • 業者間物件検索データベースの少なさ
  • 掲載物件数・情報の偏り
  • 信頼性の低さ
  • 住宅ローンの金利の高さ など

参照: The State of PropTech in Mexico(PDF)

上記以外にも国ごとに異なった課題がLATAM不動産業界には存在しています。LATAMの不動産業界では、まとまった信頼できる不動産情報が流通していないことが売買や賃貸の取引において大きく負の影響を与えており、取引のプロセスにて課題となっています。

こういった問題解決に向けて、ビッグデータやAIなどのテクノロジーを活用したスタートアップ企業が誕生しているLATAM。課題がたくさん存在するからこそ起業するチャンスも多く、LATAMにおけるPropTech企業の動向が個人的にもとても楽しみです。

※本記事の情報は、信頼できると判断した情報・データに基づいておりますが、正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。法改正等により記事執筆時点とは異なる状況になっている場合があります。また本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。

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この記事を書いた人

早田菜美

13歳から25歳まで海外へ。 タイのインターナショナル大学を卒業後、就職を機に帰国。その後ニューヨーク、バンコク、ヤンゴンにてイベント制作や広報を担当したのち、TravelTech事業のスタートアップ企業で広報室立ち上げを経験。現在は株式会社GA technologiesにて、海外向けPRやプロダクト・グループ会社のPRを担当。

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