不動産オーナー・大家の都合などにより、賃借人に立ち退き料を支払って引越してもらうことがあります。ただ、立ち退きは滅多にないことなので、実際に立ち退きをしてもらう場合、もしくは立ち退きを言い渡された場合は分からないことも多いのではないでしょうか。 そこで本記事では、立ち退き料の目安や相場、一般的な内訳、交渉のポイント、消費税や確定申告に関する疑問に対して徹底解説します。
立ち退き料とは、大家が、自分の所有する不動産に住んでいる賃借人に退去してもらうために支払う料金です。要は、大家側の都合によって半ば強制的に立ち退いてもらうので、立ち退き料を支払って賃借人の負担を和らげるということです。
立ち退き料について、まずは以下の点を知っておきましょう。
前提として、賃借人は賃貸借契約によって守られています。賃貸借契約は借地借家法という法律に基づいて作られており、正当事由がない限り賃借人は立ち退き請求に応じる必要もありませんし、大家は更新を拒絶することもできません。
というのも、賃借人を簡単に立ち退きさせることができたり、更新を理由もなく拒絶できたりするのであれば、賃借人は住む家を追われてしまうという大きなリスクがあるからです。賃借人を守るためのルールとして借地借家法があります。
前項のように、正当事由がない限り賃借人は立ち退く必要はありません。そして、その正当事由とは「家賃を半年以上滞納した」などであり、たとえ「耐震に不安があるから建て替えたい」という理由であっても、正当事由とは認められず賃借人を強制的に立ち退かせることができない場合もあります。
まずは、それだけ大家が賃借人を立ち退かせるというのは難しいことである点を頭に入れておきましょう。また、本記事では「家賃を半年以上滞納した」などではなく、大家の都合で賃借人に立ち退きを依頼するケースの解説になります。
前項のように、立ち退きとは賃貸借契約(借地借家法)という強い法律に守られている賃借人に対して、大家の都合で「立ち退きしてもらう」行為です。そのため、大家は賃借人に立ち退いてもらう対価として、それなりの費用を支払う必要があります。
もちろん、「立ち退いてください」と大家が言って、素直に「分かりました」という賃借人であれば、立ち退き料は不要な場合もあります。しかし、賃借人からすれば物件探しや初期費用などがかかるので、そう簡単に立ち退きを了承しないケースが大半です。
だからこそ、大家は賃借人に立ち退き料を支払うのですが、立ち退き料はケースバイケースです。ただ、一般的な立ち退き料の相場としては、家賃の6か月分程度と思っておきましょう。その内訳について、次項より解説していきます。
次に、前項で解説した「立ち退き料」の内訳について解説していきます。
上述したように、立ち退き料はケースバイケースであり、裁判所の傾向としては立ち退きによって賃借人に発生する経済的損失によって決まります。そのため、以下の内訳は参考程度に認識ください。
まずは、敷金・礼金・仲介手数料などの新居に関わる初期費用です。というのも、賃借人は引越したくて引越すわけではないので、引越しに関して発生する初期費用は、賃借人にとっては「本来支払う必要がないお金」になります。そのため、これらの費用も立ち退き料に含めるというわけです。
また、「新居の家賃1か月分」は後述する慰謝料や迷惑料に近いですが、引越しする際の初期費用として立ち退き料に含めるケースが多いです。
次に、火災保険や地震保険、インターネット・電話回線などの移転費用です。物件によりますが、大抵の賃貸物件は火災保険に加入する必要があります。また、稀ですが地震保険にも加入する必要があるので、そちらも新居のための初期費用として立ち退き料に含まれるというわけです。
また、インターネットや電話回線は、移転や新規回線に伴う費用がかかります。仮に、現在契約しているネット回線が移転できずに解約料を支払う必要があれば、その費用も立ち退き料に含まれるでしょう。
また、引越し費用自体も立ち退き料に含まれます。引越し費用とは、引越し業者に依頼する際に発生する費用のことです。
このように、前項までの費用を含め、引越しに関する費用は立ち退き料に含まれます。やはり、本来は引っ越す必要がないので、立ち退きによって引っ越す費用は賃借人からすれば「余計な支出」になるからです。
前項までの費用は引越しに伴う費用でしたが、立ち退きは以下のような目に見えない労力やストレスも発生しています。
たとえば、就学児童がいる家庭が立ち退かざるを得ないとしたら、学区なども考えて新居を探す必要があります。しかし、近くで良い物件がなければ転校する必要があるかもしれませんし、保護者側も勤務時間が長くなるなどのデメリットが発生することもあります。
このような、立ち退きに伴う心理的なストレスや労力など、目に見えない部分も慰謝料や迷惑料としてかかってくるのです。
ここまでで、立ち退き料を支払う(または支払われる理由)、および立ち退き料の内訳について分かったと思います。次に、立ち退き料を交渉するポイントを、大家と賃借人の両方の観点から解説していきます。
大家側の視点で立ち退き交渉する際のポイントは以下の通りです。
まずは、立ち退き理由を明確にしましょう。たとえば、賃借人がたまたま引っ越そうと思っていた…というタイミングでもない限り、賃借人は大家の都合で退去するのは非常に大きなストレスです。
しかし、立ち退きの理由が「耐震の問題で取り壊さざるを得ない」や「やむを得ない理由で物件自体を売却せざるを得ない」という理由…つまり、大家の自己都合というよりは仕方ない事情であれば、賃借人も立ち退きに関して多少は前向きに検討してくれる可能性があります。
一方、立ち退いてほしい明確な理由を告げないと、賃借人は不信感を募らせて交渉は上手くいかない可能性があります。
また、立ち退き交渉を大家自身が行うのは大変です。たとえば、アパート経営をしていて賃借人全員と顔なじみ…という状況であれば大家自らが交渉してもよいでしょう。しかし、賃借人が複数いる上に、特に賃借人と良好な関係を築けていないのであれば、第三者に立ち退き交渉を依頼した方がスムーズなケースもあります。
専門家とは、具体的には弁護士・司法書士や、立ち退きを主業としている不動産コンサルティング会社などのことです。ネットで、「立ち退き交渉 業者(弁護士)」などと検索すれば該当する業者や弁護士などがヒットするでしょう。
また、大家都合の立ち退きであれば、基本的に賃借人に立ち退きを「お願い」する形となります。上述したように、基本的に賃借人は賃貸借契約を更新しつづけられるので、いってしまえば半永久的に住む権利があるともいえます。
そのような状況での立ち退き交渉になるので、立ち退き交渉はあくまで賃借人に「お願いすること」という点を認識し、借主とは良好な関係を維持するようにしましょう。
つづいて、賃借人の立場から立ち退き交渉するポイントは以下の通りです。
そもそも、立ち退き交渉は大家側からするものなので、上記は大家側から立ち退き交渉された場合のポイントとなります。
まずは、自分の状況をきちんと大家に説明しましょう。上述したように、立ち退き料は「賃借人に発生する経済的損失」で算定されます。しかし、賃借人の状況によって経済的損失は大きく異なるので、自分の状況をきちんと大家に説明しなければいけません。
たとえば、実家が近く親の介護のために住んでいる人と、「家賃が安かったから」という理由だけで住んでいる人は、新しい家に移り住む際の経済的損失は異なるでしょう。というのも、前者の場合は近くに物件を探す必要があり、たとえば家賃を多少上がってしまう…という状況になるかもしれません。
このように、人によって状況は異なり、その状況は経済的損失とつながっているので、大家に自分の状況をきちんと説明する必要があるのです。
また、大家側の交渉ポイントで解説したように、賃借人の立場からも弁護士などの専門業者に交渉を依頼することも可能です。ただし、大家が専門業者に依頼するときにも同じことがいえますが、専門家に交渉を依頼するときは費用がかかります。
物件の規模や大家・賃借人の状況によって金額は異なりますが、最低でも数十万円はかかるケースも多いため、専門家に交渉を依頼するときは金額をきちんと確認してから判断しましょう。
さいごに、立ち退き料に関して大家・賃借人それぞれが疑問に思いがちな以下の項目について解説していきます。
まず、大家は立ち退き料に対して消費税を支払う必要があるのか?という点です。結論からいうと、立ち退き料に対して消費税はかからないと思って問題ありません。というのも、そもそも消費税が課税される条件は、以下全てを満たしている必要があるからです。
上述したように、立ち退き料の内訳は「引越しに関する費用」や「慰謝料・迷惑料」でした。これらは、損害賠償金や保証金として性質が強いので、「対価を得て行う取引」や「資産の譲渡等」には当たりません。そのため、消費税は非課税となるというわけです。
次に、大家さんが立ち退き料を支払った場合に経費になるのか?というと、基本的に経費になると思って問題ありません。たとえば、その不動産を譲渡(売却)のための立ち退きであれば、譲渡に伴い発生した費用として譲渡所得を計算する上での必要経費となります。
また、譲渡を伴わないとしても、その不動産から不動産所得を得ていた場合は、不動産所得を計算する上で必要経費となります。
次に、賃借人が立ち退き料を受け取った場合、所得として確定申告する必要があるか?という点については、所得となるので基本的には確定申告が必要です。また、以下のように不動産の種類によって所得の種類は異なります。
次に、立ち退き料の支払時期については、基本的に建物の明け渡しと同日になります。ただし、大家と賃借人の同意があれば支払時期は変えることができます。たとえば、明け渡し前に半金を支払い、残金を明け渡し当日に支払う、ということも可能です。
賃借人からすると、新居の初期費用の支払いは部屋の明け渡し前に発生するので、明け渡し日より前に一部でもよいので立ち退き料は欲しいと思うでしょう。一方、明け渡し前に立ち退き料を支払うと大家側からするとリスクになります。そのため、両者でよく話し合って、お互いが納得するタイミング、および金額を設定する必要があります。
このように、立ち退き料の目安は家賃6か月分ですが、物件や賃借人の状況などによって異なります。また、基本的には大家側が賃借人に立ち退きを「お願いする」スタンスである点は認識しておきましょう。大家側も賃借人側も、立ち退きに関してトラブルになりそうだったり疑問があったりすれば、専門家に相談することをおすすめします。
※本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。
この記事を書いた人
都内の私立大学を卒業後、新卒採用で不動産ディベロッパー勤務。不動産の用地仕入れや、分譲マンションの販売・仲介などを手掛ける。2016年に独立して以降、不動産関係のライティングも業務の1つに。
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