【2023年版】企業型確定拠出年金で資産を増やすには? 商品選びとメンテナンス方法
「会社に確定拠出年金制度があるけれど、運用の仕方がわからない」というような理由で、元本確保型で運用する人もまだまだ多いのではないでしょうか。確定拠出年金の長期の積立運用は、値動きのある投資信託のリスクを軽減する仕組みで、活用しなければ「もったいない」のです。
今回は、企業型確定拠出年金で用意されている投資信託の一般的なラインナップを紹介し、そこからの商品の選び方を解説します。
確定拠出年金の運用商品には何がある?
確定拠出年金の運用商品には、定期預金や保険商品といった元本確保型と元本保証型ではない投資信託の2種類があります。
実際、投資信託にはどのような商品があるのでしょうか。
確定拠出年金のとある投資信託ラインナップ
以下は、ある金融機関(運営管理機関)の投資信託のラインナップです(22商品あります)。
ただ、この表を見ただけでは何を選んでよいかわからない人も多いでしょう。「何を選んだらよいか」を早く知りたい方は、いったんこの表は飛ばして読んでいただいて構いません。
投資対象 | 運用手法 | 商品名イメージ |
---|---|---|
国内株式 | パッシブ | 日本株式インデックスファンド(TOPIX) |
国内株式 | パッシブ | 日本株式インデックスファンド(日経225) |
国内株式 | アクティブ | 日本小型成長株ファンド |
国内株式 | アクティブ | 日本大型株バリューファンド |
国内株式 | アクティブ | 日本小型株バリューファンド |
国内株式 | アクティブ | 日本大型成長株ファンド |
国内債券 | パッシブ | 日本債券インデックスファンド |
外国株式(先進国) | パッシブ | 先進国株式インデックスファンド(MSCI コクサイ) |
外国株式(先進国) | パッシブ | 全世界株式インデックスファンド(MSCI ACWI) |
外国株式(先進国) | アクティブ | 外国株式ファンド |
新興国株式 | パッシブ | 新興国株式インデックスファンド |
新興国株式 | アクティブ | 中国株式ファンド |
新興国株式 | アクティブ | BRICS株式ファンド |
外国債券(先進国) | パッシブ | 海外債券インデックスファンド |
外国債券(先進国) | アクティブ | 外国債券ファンド |
新興国債券 | パッシブ | 新興国債券インデックスファンド |
新興国債券 | アクティブ | 新興国ハイインカム債券ファンド |
バランス | パッシブ | バランスファンド30債券重視型 |
バランス | パッシブ | バランスファンド50標準型 |
バランス | パッシブ | バランスファンド70株式重視型 |
海外REIT | パッシブ | グローバルREITインデックスファンド |
国内REIT | パッシブ | J-REITインデックスファンド |
これらの投資信託と、元本確保型の商品から、自分に合った配分の商品を組み合わせて運用していくわけです。
ここからは、表の見方を説明していきます。ご自身の加入している確定拠出年金のラインナップと照らし合わせながら読んでいただくと、よりわかりやすくなるかと思います。
投資信託のさまざまな分類
投資信託とは、投資家から集めた資金を専門家が株式や債券で運用し、成果を還元する運用商品です。
投資家は、少ない元手でもさまざまな投資対象に分散投資できます。そのため、確定拠出年金やNISA(少額投資非課税制度)でも利用されています。
1. 投資対象による分類
投資信託の投資対象には、株式、債券、REITなどがあります。
REITとは投資家から集めた資金で不動産投資を行い、賃料収入や不動産の売却益を還元する金融商品です。一般的に株式やREITは期待できる収益は高いですが、値動きの幅が大きいハイリスク・ハイリターンな傾向があります。
一方、債券は大きな収益は期待できませんが、損をする可能性も低いローリスク・ローリターンな商品です。
表の中の投資対象や商品名には、「株式」「債券」のように書いてあります。商品を見ると何に投資する商品なのかわかるわけです。
2. 地域による分類
分散投資では、投資対象だけでなく投資する地域も分散します。投資する地域は大まかに以下のように分けられます。
- 国内(日本)
- 先進国
- 新興国(エマージング)
たとえば、株式であれば「国内株式」「先進国株式」「新興国株式」のように分類されます。
値動きの振れ幅(リスク)は、国内、先進国、新興国の順に高くなります。
表の中の投資対象やご自身の加入している確定拠出年金の商品名に「国内株式」「エマージング債券」のように書いてあります。商品名を見ると、どこの地域のどのような投資対象に投資するのかわかるのです。
3. 運用手法による分類
上記の表に「パッシブ」「アクティブ」とあるのは運用手法による分類です。
パッシブ運用はインデックス運用ともいい、TOPIX(東証株価指数)のような特定の運用指標に連動する成果を目指す運用手法です。
一方、アクティブ運用は目安となる指標を上回る成果を目指す運用スタイルのことです。
多くの場合、パッシブ運用のファンドには「インデックス」と明示され、それ以外の商品はアクティブ運用となっています。
株式でアクティブ運用を行う場合、さらに「バリュー」「グロース」という運用手法に分類されます。バリューは株価が割安であると判断できる銘柄に投資する方法、グロースは成長が期待できる銘柄に投資する方法です。アクティブ運用の投資信託(アクティブファンド)の商品名には、「バリュー」「グロース」のような運用手法が含まれている場合があります。
アクティブファンドはインデックスファンドに比べてリサーチなどに人手がかかるため、信託報酬が高めです。しかし、現実にアクティブファンドの実績がインデックスファンドを上回るかというと、そうではないケースもたくさんあります。商品ごとの実績は簡単に調べられるので、確認してみましょう。
4. バランス型(複合資産)
投資信託の中には、株式や債券など複数の資産を組み合わせて分散投資をするバランス型ファンドもあります。1本で投資対象や地域の分散ができる商品です。例として挙げた上記の表では3本のバランスファンドがあります。
「バランスファンド50」のように数字が含まれる場合、通常はファンド全体の株式の割合を示します。「バランスファンド50」であれば、株式とその他の資産の割合が50%ずつというわけです。この金融機関は株式の割合が30%、50%、70%のバランス型ファンドの商品ラインナップです。それぞれに「債券重視型」「標準型」「株式重視型」とリスクがどの程度かがわかるような名称になっています。その他、「積極型」「安定型」のような分類をするケースもあります。
バランス型ファンドはファンドの中に資産配分を修正する機能があるため、投資家が自分でリバランスをする必要がありません。また、組み合わせを考えずに、1本の商品だけで分散投資ができます。
確定拠出年金の運用商品の選び方
投資信託の種類がわかったら、次に運用商品を選ぶ方法を解説します。
1. 自分のリスク許容度をチェックする
具体的な運用商品を選ぶ前に考えるのは、資産配分です。
資産配分を決めるために重要なのが、自分の「リスク許容度」です。リスク許容度とは「どの程度のリスクなら耐えられるか」ということで、次のようないくつかの要素から判断します。
- 余裕資金や資産:多いほどリスク許容度が高い
- 年齢:若いほどリスク許容度が高い
- 投資経験:多いほどリスク許容度が高い
- 投資に対する考え:積極思考であればリスク許容度が高く、安定志向であればリスク許容度は低い
2. リスク許容度をベースに大まかな配分を決める
資産配分の決め方は、自分のリスク許容度にあった状態であればどのような配分でもいいのです。
しかしどうしたらいいか迷う場合には、私たち国民の年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を参考にしましょう。
GPIFの資産配分は、以下のようになっています。
- 国内債券:25%
- 外国債券:25%
- 国内株式:25%
- 外国株式:25%
GPIFの株式の占める割合は50%です。GPIFの2001年から2022年の収益率は年率3.47%です。
また、運用商品の例にあるバランス型ファンドも参考にできます。先に述べたとおり配分のベースは株式の割合で、株式の割合が30%、50%、70%の3つのパターンがありました。自分のリスク許容度が中くらいだと思えば株式の割合を50%、あまりリスクを取りたくなければ30%、積極的にリスクを取りたければ70%と割合をまねることができます。
GPIFのリスクは中程度ということもわかるかと思います。
株式の割合が30%の場合、国内株式と外国株式の割合を15%ずつ、残りの70%の割合を国内債券と外国債券とで35%ずつにするとわかりやすいでしょう。株式70%の場合も同様に考えます。
3. 商品ラインナップから選ぶ
配分が決まったら、商品ラインナップから該当する商品を選びます。
たとえば、上記のGPIFの資産配分に当てはまる商品を冒頭の表から選んでみましょう。外国株式と外国債券には先進国も新興国も含まれますが、ここでは先進国から選ぶことにします。すると次のようなラインナップになります。
国内債券 | 日本債券インデックスファンド |
---|---|
外国債券 | 海外債券インデックスファンド |
国内株式 | 日本株式インデックスファンド(日経225) |
外国株式 | 先進国株式インデックスファンド(MSCIコクサイ) |
初心者向け商品の選び方のポイント
22本もの投資信託から、わずか4本でいいのかと思う人もいるかもしれません。より多くの種類の投資対象に分散投資したければ、REITや新興国株式などを加えてもよいでしょう。
国内株式は特に多くの種類がありますが、インデックスとアクティブなら基本的にはコストの安いインデックスを選ぶほうが無難です。
加入先によって異なりますが、信託報酬の安い例としては、日本株式のインデックス商品は純資産総額に対して年率0.1870%(税抜0.17%)、先進国株のインデックス商品は0.10989%(税抜0.0999%)などがあります。
日本株のインデックスには「日経225」「TOPIX」があります。両者の長期の運用実績に大きな差はなく、どちらを選んでもよいでしょう。
運用商品ラインナップが少ない場合
例で紹介した金融機関の商品ラインナップは、企業型確定拠出年金としては標準的なものといえます。しかし、金融機関や導入企業の事情で提供される商品が少ないケースもあります。選択肢が少ないと商品選びに迷うこともありませんが、自分の希望する運用ができないおそれもあります。その場合、企業型では何か1本だけを選び、他に自分でiDeCo(個人型確定拠出年金)に入るのも一つの方法です。
2022年の制度改正で企業型確定拠出年金のある会社の従業員も、希望すればiDeCoに加入できるようになりました。
確定拠出年金の商品選び、FPの実例
ここで、参考までに筆者のiDeCo(個人型確定拠出年金)で買い付けている配分を、冒頭の表の商品で行う場合の例を紹介します。
日本株式インデックスファンド (日経225) |
10% |
---|---|
日本債券インデックスファンド | 10% |
先進国株式インデックスファンド (MSCI コクサイ) |
50% |
新興国株式インデックスファンド | 10% |
グローバルREITインデックスファンド | 5% |
J-REITインデックスファンド | 5% |
海外債券インデックスファンド | 10% |
ご覧のとおり、株式の割合が70%とかなりリスクの高い配分となっています。筆者は先進国株式を資産形成の中心と考えており、過去にはより配分割合が高い時期がありました。しかし、最近の混迷を極める世界情勢から新興国への投資もすべきと考え、新興国株式を追加し、全体の割合も変更しました。
ちなみに新興国株式ファンドのここ数年の運用実績は正直言ってパッとせず、万人におすすめできるものではないと考えます。
FPからのアドバイス
確定拠出年金のような長期運用では、特定の資産に集中する「当てにいく」ような運用は不適切です。4資産の分散でかまわないので、基本は分散投資を心がけましょう。
また、「取り崩しの時期が近づいたら安定運用に切り替える」と後述していますが、その場合でも全部を元本確保型にするような変更は避けたほうがよいと考えます。なぜなら、2022年に入ってから物価が急激に上昇しており、ほぼゼロ金利の定期預金では資産価値が目減りしてしまうからです。
確定拠出年金での適度なリスクを取った運用は、年金資産をインフレリスクから守ることにつながります。
確定拠出年金の「配分変更」と「スイッチング」
確定拠出年金は、老後資金準備を目的とする長期の運用です。若い頃は積極的にリスクを取って運用していた人も、取り崩しの時期が近づいてきたら安定運用に切り替えたくなります。
また、運用中に特定の商品が大きく値上がりしたり値下がりしたりすると、配分の割合が崩れます。できれば割合を調整して、急激な相場変動のリスクを避けたほうがよいでしょう。
確定拠出年金には、このようなケースに対応する機能として「配分変更」と「スイッチング」が備えられています。
配分変更とは?
配分変更とは、毎月の掛金で買い付ける運用商品の種類や割合を変更することです。
たとえば、以下は同じ商品の配分割合を変更する例です。
商品 | 割合 (変更前) |
割合 (変更後) |
---|---|---|
日本債券インデックスファンド | 25% | 15% |
海外債券インデックスファンド | 25% | 15% |
日本株式インデックスファンド (日経225) |
25% | 35% |
先進国株式インデックスファンド (MSCIコクサイ) |
25% | 35% |
配分変更は上記の例のように同じ商品での割合変更だけでなく、以下の例のように商品を追加したり、削除したりすることもできます。
商品 | 割合 (変更前) |
割合 (変更後) |
---|---|---|
日本債券インデックスファンド | 25% | 0% |
海外債券インデックスファンド | 25% | 15% |
日本株式インデックスファンド (日経225) |
25% | 35% |
先進国株式インデックスファンド (MSCIコクサイ) |
25% | 35% |
定期預金 | 0% | 15% |
この配分変更で変更できるのは、これから買い付ける商品の配分です。すでに買い付けた商品の配分は変更されない点に注意が必要です。
スイッチングとは?
すでに買い付けた商品の配分を変更したい場合は、スイッチングを利用します。
スイッチングとは保有する商品の一部または全部を売却して、他の商品を買い付けることです。
上記の例の変更前の割合(4商品それぞれ25%)が運用中に変化したとして、これから購入する配分割合(変更後の配分割合)に合わせて、いままで購入してきた「保有資産の200万円」をスイッチングで配分を修正します。
【残高200万円のスイッチング】
商品 | 残高(スイッチング前) | 残高(スイッチング後) | 割合(スイッチング後) |
---|---|---|---|
日本債券インデックスファンド | 25万円 | なし | 0% |
海外債券インデックスファンド | 35万円 | 30万円 | 15% |
日本株式インデックスファンド(日経225) | 60万円 | 70万円 | 35% |
先進国株式インデックスファンド(MSCIコクサイ) | 80万円 | 70万円 | 35% |
定期預金 | なし | 30万円 | 15% |
スイッチングでリバランスができる
スイッチングは、保有する資産のリバランスをしたい場合にも有効です。
リバランスとは、相場の変動とともに崩れた資産配分を当初の割合に修正することです。リバランスをすることで目標利回りを維持でき、過剰なリスクを排除できる点がメリットです。
対象となる投資信託に信託財産留保額が設定されていなければ、無料でできます。
年に1度は運用状況を確認する
配分変更とスイッチングは、確定拠出年金のメンテナンスのための仕組みです。確定拠出年金は積立による長期投資であり、一度積立の設定をすれば基本的には「ほったらかし」で問題ありません。
ただし、定期的なリバランスや年齢に応じた配分の見直しのために、1年に1度程度は状況の確認をしましょう。誕生月や仕事の閑散期など、時期を決めておくと忘れにくくなります。
自分に合った商品を選んでインフレから資産を守ろう
確定拠出年金では元本確保型も選べますが、今のようなインフレが続くと資産価値が目減りします。
投資信託は将来いくら受け取れるかは確実ではありませんが、インフレから資産を守る効果が期待できます。
確定拠出年金の商品選びはそれほど難しくなく、一度設定すれば1年に1回程度の状況確認で十分です。自分に合った投資信託で老後資産を育てていきましょう。
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