PropTech(不動産テック)特集vol. 7 〜世界のサスティナブルをリードする国、オランダ編〜
2030年の達成を目標に掲げられたSDGs(持続可能な開発目標)を実現する取り組みが、近年さまざまな業界で積極的に行われていますが、不動産業界もその例外ではありません。
PropTech特集vol.7は、SDGsへの取り組みにおいて世界をリードしている国の一つであるオランダに注目。同国での不動産業界における、テックを活用した持続可能な取り組みについて紹介します。
オランダのPropTech企業数は269社以上
オランダはヨーロッパの北西に位置するEU加盟国で、首都はアムステルダムです。2020年時点の人口は約1,741万人、国土面積は約41,550km2と、ヨーロッパ諸国において、その人口も国土面積も比較的小さいものです。
そんなオランダは、国土面積や人口の規模にかかわらず強い経済を持ち合わせており、不動産業界においてもヨーロッパの主要な投資市場として注目が高い国です。実際にオランダの不動産はオランダ国外の投資家から人気があり、オランダ国内の不動産売買市場において、外国人投資家による購入が70%、外国人投資家同士の取引が30%となっています。
特にアムステルダム、ユトレヒト、ロッテルダム、ハーグの4都市では、優良物件の競争が年々激しくなっています。
参照: PropTech in the Netherlands|Unissu
人口あたりのPropTech企業数が多いオランダ
国外からも人気が高いオランダの不動産市場の中で、同国のPropTech企業数を見てみると、2019年時点で269社となっており、この数字は人口に占めるPropTech企業数としては圧倒的に多い数値です。
例えば下記の表を参考にすると、隣国ドイツでは約30万人に1社、フランスは約13万人に1社、オランダは約6万人に1社の割合となっていて、オランダのPropTech企業数の多さがわかります。
オランダPropTech企業の内訳
オランダのPropTech企業のカテゴリーごとの比率を見てみると、住宅58%、商業不動産40%、リテール2%となっています。オランダでは、需要が高く同時に競争も激しい住宅市場を中心に、テクノロジーを活用した新興企業の誕生が相次いでいるようです。
進むオランダの都市開発
オランダの不動産市場で注目すべきなのが都市開発の分野です。アムステルダムには2040年までに15万人が移住すると予想されており、アムステルダム市議会はこれに備え“Structural Vision 2040”というスマートシティの開発ビジョンを掲げています。
また、今後移民を受け入れるためにもスマートシティの開発を通じて、オフィスと住宅コミュニティの複合施設や風力発電所の開発、公共交通機関の拡大を目指しています。また交通機関を広げることで都市以外でも都心を囲む環状道路内のスペースを可能な限り効率的に活用し、新しい郊外地でのビジネスや商業および住宅地区を構築することを目標にしています。
また、「競争力が高く、アクセスしやすく、住みやすく安全なオランダ」を目標に掲げており、2040年までに学校・小売店・スポーツ施設などのインフラを整えるとともに、7万件の新しい住居を設けることが提案されています。
参照:Amsterdam in 2040: A master plan for a smart city | I am Expert参照:各国の国土政策の概要 オランダ | 国土交通省国土政策局
サスティナブル、スマートシティへの取り組み
風車や運河、チューリップなどのイメージがあるオランダは、「サスティナブル先進国」として世界から注目されており、国を挙げた持続可能な社会作りに取り組んでいます。
政府は過密と高エネルギー消費の観点から直面する都市問題を緩和し、より良い未来に備えるために、2040年を目標としたマスタープランに取り組んでいます。これはテクノロジーを活用し、情報や都市のインフラを効率化することで、持続可能で質の高いエコロジカルな生活と、新たな経済成長を同時に実現することを目指しています。
参照: スマートシティ海外事例10選【2020年最新版】|FUTURE STRIDE
そのうちの一つが、2009年に開始した「アムステルダム・スマートシティ・プログラム(ASC)」です。2025年までに1990年比でCO2排出量40%削減を目指すもので、再生可能エネルギーが総エネルギーの20%を占めるように掲げられています。
ASCは「持続可能な生活」「モビリティ」「公共スペース」「仕事」の4つの領域にてスマートグリッド※などの技術を活用したプロジェクトを開始しています。
※スマートグリッドとは、発電所から自宅や会社に電力を供給する送電網、送電線、変電所、変圧器などのネットワークを指し、電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる送電網で、専用の機器やソフトウェアが、送電網の一部に組み込まれています。(参照:環境ビジネスオンライン|スマートグリッド)
Sustainable living(持続可能な生活)
オランダ政府がASCにて掲げるプロジェクト「持続可能な生活」とは、家庭におけるエネルギー消費に関する意識を高め、エネルギー消費量を削減することです。
参照:欧州主要国のスマート・グリッドへの取り組み 2|JETRO(PDF)
このプロジェクトの一つにスマートメーターの設置があります。これは、持続可能なエネルギーを増やし、炭素排出量を削減するため、エネルギーシステムをアップグレードするプロジェクトです。
スマートメーターを設置することでエネルギー使用量を見える化し、ピークシフト(日中の電力消費の一部を夜間電力に移行させる方法)による電力設備の有効活用を通して省エネを実現します。
参照:Building a smarter grid in the Netherlands|Power Technology
Sustainable mobility
コロナの影響でECサイトで買い物する人が増加した一方で、ECによるデリバリーが都市部の交通渋滞の原因として課題に上がっています。
2020年に世界経済フォーラムより発表された「The Future of the Last-Mile Ecosystem」によると、オンライン商品のデリバリー対応が原因で、2030年までに世界の上位100都市で配送車両が36%増加すると予想されており、これにより配送車両からのCO2排出量は32%増加、渋滞も21%増加の見込みです。
参照:The Future of the Last-Mile Ecosystem|World Economy Forum(PDF)
これに伴いオランダ政府は「2025年までにCO2排出車での配送を禁止する計画」を発表しました。オランダ国内の14都市が、2025年の「ゼロエミッション※ゾーン」の導入を表明。2021年夏までに約30都市に広がり、2030年までに毎年100万トンのCO2を削減する見込みです。
※ゼロエミッションとは:人間の活動から発生する排出物を限りなくゼロにすることを目指しながら最大限の資源活用を図り、持続可能な経済活動や生産活動を展開する理念と方法のこと。(引用:ゼロエミッションとは・意味|IDEAS FOR GOOD)
参照:This is Amsterdam's ambitious plan to go green|WORLD ECONOMIC FORUM
現在アムステルダムには約17,000台のEV(電気自動車)が存在し、世界に25都市存在する「電気自動車都市」に含まれています。
同市は、既存の低排出ガスゾーンを拡大するとともに、カーシェアリング制度や補助金などを通じて、アムステルダムの住民にEVへの乗り換えを促進しています。またこれに伴い電気自動車が充電できる充電スポットも増加しています。
日本でも、2019年12月に東京都が、2050年までに世界のCO2排出実質ゼロに貢献するため「ゼロエミッション東京」を掲げました。2021年1月には、都内温室効果ガス排出量を2030年までに50%削減(2000年比)すること、再生可能エネルギーによる電力利用割合を50%程度まで引き上げることを表明しました。
2020年12月には、東京都内でのガソリン車の新車販売について、乗用車は2030年までに、二輪車は2035年までにゼロにすることを目指すと表明されました。
参照: ゼロエミッション東京|東京都環境局参照: 東京都も2030年までに「脱ガソリン車」知事が表明|朝日新聞デジタル
オランダの注目PropTech企業・団体
サスティナブルへの意識が高く、それが事業にも直結している企業が多い国オランダ。その中で、今回は2つのPropTechの取り組みを紹介します。
The Green Village
The Green Villageは、Delft University of TechnologyとStichting Green Villageが主導し、そのほかにヨーロッパ地域開発基金、Provincie Zuid-Holland、デルフト市、エナジーネットワーク企業のAlliander、ナチュラル・グリーンガス提供企業のGasTerra、その他多くの人々の支援を受け運営を行っているPropTech団体です。
参照:About us | The Green Village
Village内には、革新的な技術を試すことができる最先端の設備や実際に住居として利用しているテラスハウスなどの住宅、オフィススペース、道路などがあります。ルールや規制がないこのフィールドラボでは、未来に向けたイノベーションチャレンジに取り組めるプラットフォームを研究者、学生、スタートアップ企業などに提供し、「持続可能な建物・リノベーション」「未来のエナジーシステム」「気候適応型の都市」の3つをテーマに、日々、未来に向けた実験が行われています。
The Green Villageの特徴
- 複数の企業・教育機関が連携してプロジェクトへ着手
- FieldLaboとよばれる実証実験の場を設けた持続可能な未来への取り組み
- 持続可能な建設・リノベーション、未来のエナジーシステム、気候適応型の都市がテーマ
The Green Villageの概要
- 設立:2016年
- 本拠地:オランダ
- 代表:Marjan Kreijns
- URL:https://thegreenvillage.org/en/
Vesteda
サスティナブルへの積極的な取り組みが目立つオランダは、3Dプリンター先進国の一つでもあります。2021年4月には3Dプリンターで建設された住宅の賃貸が開始され話題を呼びました。その物件を賃貸物件として管理しているのが、今回紹介するVestedaです。
Vestedaは、公的資金である年金貯蓄や保険料をサスティナブルな居住用不動産に投資している企業で、2020年末時点で27,400の賃貸物件を管理しており、物件入居率も97.5%と高い数値を保持しています。
参照:I’m searching for a home |Vesteda
Vestedaは、持続可能な生活のリーダー、最前線でのトレンドセッター※になることを目指しており、居住者と住宅への満足を最優先事項としてサービスを展開しています。2019年には、Vestedaの活動がサスティナビリティ・パフォーマンスにランクインし、2018年は2位、2019年には3位にランクインしました。
※流行に敏感で一般的に流行する前にいち早くトレンドを先取りする人、を指す語
参照:Business Plan 2018- 2022|Vesteda(PDF)
同社では、2021年4月に世界初の3Dプリンターで建てられた住宅の賃貸を開始しました。これは「Project Milestone」の5つのうちの1つで、アイントホーフェン工科大学、建設会社のVan Wijnen、材料会社のSaint-Gobain Weber Beamix、アイントホーフェン市、エンジニアリング会社のWitteveen + BosとVestedaの共同建設およびイノベーションプロジェクトによる住宅です。
近年不動産テック業界では3Dプリンターを活用した住宅建設に注目が集まっています。今回の住宅のように、3Dプリンターと特別なセメントを使用することによってCO2排出量が削減できるため、持続可能な世界を目指す新しい住宅スタイルとして注目を浴びています。
Vestedaの特徴
- サスティナブルな居住用不動産に投資
- 中流階級に向けた賃貸物件を27,400件管理し、97.5%の入居率
- 3Dプリンターによる居住用不動産を手掛けたことで注目を浴びている
Vestedaの概要
- 設立:1998年
- 本拠地:オランダ
- 代表:Gertjan van der Baan
- URL:https://www.vesteda.com/en
持続可能な世界のためにPropTechができること
オランダでは持続可能な世界への取り組みとして政府・教育機関・複数企業が一丸となり、さまざまなプロジェクトへ取り組んでいることがわかりました。
3Dプリンターの住宅、電子メーター、持続可能な建築以外にもサスティナブルが事業の根幹となっている会社が多数活躍しています。
日本でも2050年の二酸化炭素の排出量ゼロに向け、企業や団体からさまざまな取り組みやプロジェクトの発表が期待されます。不動産業界からもサスティナブルへの取り組みが今後増加されることが見込まれるので、また改めて国内の動きもご紹介できればと思います。
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