コロナによる融資への影響は? 地方銀行員が解説するwithコロナ、アフターコロナの不動産投資
「コロナが落ち着き次第、いつでも不動産投資の融資が実行できる準備をしておけ!」
これは私の勤務する地方銀行で指示されている、現時点の社内方針です。地方銀行の融資担当である私が「銀行の中の人」として、新型コロナウイルスと不動産投資ついてお話ししていきます。
コロナでも銀行は不動産投資の融資をやめません
私は地方銀行員で、融資を担当しています。まず前提として勤務先では、不動産投資に対する融資は、相談を持ちかけられた方の事業内容や資産状況に対して、都度審査を行って事業用の融資を組む、いわゆる「プロパーローン」と呼ばれる融資を行なっています。
融資対象は、主にアパート一棟やマンション一棟などです。商業施設への投資相談もあります。
不動産投資に積極的だった地方銀行の行き過ぎた結果が、「かぼちゃの馬車と地銀スルガ銀行の不正融資問題」でした。問題解決の道筋が見え始めたころ、コロナの影響が重なり、状況は不透明になっています。
しかし少なくとも地方銀行は、不動産投資への融資をやめるつもりはありません。
いま、地方銀行で起こっていること
ニュースなどで「銀行は休日返上で融資相談」などと報道されているように、現在(2020年5月初旬執筆時点)では「貸してくれ!」「返せない」と、申込みが殺到している状況です。
もちろん、新型コロナウイルス関連によって発生した融資相談です。事業者はもちろん、個人からの相談もあります。
政府の打ち出した新型コロナウイルス関連の緊急経済対策は多岐にわたりますが、銀行に対しての要請は、次の1、2が打ち出されています。
政府の緊急経済対策~銀行関連
- 政府主導のコロナ事業資金の新規融資
- 事業資金借入や住宅ローン返済が困難な人への対応(リスケ)
1.政府主導のコロナ事業資金の新規融資
これは政府施策の事業資金融資です。
日本政策金融公庫などの公的融資、あるいは銀行など民間金融機関が取り扱う特別融資に対して、融資希望者が「実質無利子」で新たに借りることができるように、迅速かつ柔軟な対応が求められているというものです。
2. 事業資金借入や住宅ローン返済が困難な人への対応(リスケ)
借りている事業資金の返済が苦しい事業者や、住宅ローン返済ができない人へのリスケ対応、つまりは「元金返済を一時的に減らす」などの救済措置をとることが求められています。
参考: 金融庁ホームページ/ 「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を踏まえた資金繰り支援について(要請):金融庁(PDF)
コロナによって銀行の営業スタイルに変化が起きている
まず、上記で述べた政府の施策もあり、多くの人が相談に訪れています。
しかし銀行も、新型コロナウイルスの影響で、窓口職員を減らす、営業時間を短縮する、などの対応をしています。
現在、銀行員は外出自体がほとんどできません。感染防止の観点からですが、外出できなければ、銀行員は営業活動もできません。電話やメールでは限界があるのです。
また、テレワークや間引き出勤などで、働く銀行員の数が減っている状況です。
銀行は社会インフラとして休業せず営業を続けています。しかし限られた人員で、新型コロナウイルスによる緊急の新規融資を最優先で対応している。休日返上でその対応に追われている、という状況です。
不動産投資への融資。現在の状況は?
私の勤める銀行では、不動産投資の融資をあつかう銀行員(融資、渉外担当)にも大きな影響が出ています(私の勤務する銀行の例ですが、他の金融機関も同じような状況だと思います)。
今は「不動産投資で借りるときではない、貸すときではない」という空気です。「いまじゃない」ということに尽きます。
銀行は公共性を大事にするので、世の中の反発を買うことは避けたい事情があります。「投資」に対して何か行動する時期ではなく、銀行にはもっと優先すべきことがある、という考えです。
目の前に、緊急の多くの相談が持ちかけられてる中で、現実面で「投資に対する融資をやってる場合じゃない」、つまり「できない」状態です。
ニュースでもさまざまな住民トラブルなどが報じられ、社会全体がギスギスしていると感じます。こうした状況で、不要不急と考える人もいるであろう、不動産投資への融資を、表立って取り扱えないという事情となります。
しかし、あくまで表だって動きにくいわけで、現時点でも銀行はコロナ収束後のことをしっかり見据えています。
銀行員視点のwithコロナ、アフターコロナと不動産投資
「やってる場合じゃない」状況が続いている不動産投資の融資ですが、ではこれからどうなるのでしょうか?
私は一介の地方銀行員で、金融業界のことや、まして不動産投資全体を俯瞰することはできません。「不動産業界全体は?」「不動産投資はどうなる?」といった大きなことは語れません。
しかしバブル期に入社し、バブル崩壊やリーマンショックなどの大きな波を現場で経験し「あのとき起きたこと、そのあとどうなったか」を知っています。
一介の銀行員視点ですが、過去の経験から考え得ることだけです。あくまで「銀行員として考えつくこと」だけお話ししていきます。参考にしていただければと思います。
不動産の動き、基本は「以前と変わらない」
変わらないというのは、新型コロナウイルス感染拡大前と比べれば、という意味です。
そもそも「コロナウイルスのせい」で世の中がこのような状況になっているわけで、逆にいうとコロナがなければ起きなかったことです。
つまり、バブル崩壊やリーマンショックといった経済的な大事件が起きたわけではないので、コロナが収束または収束までいかなくとも、人々の「コロナとの付き合い方」がわかってくれば、不動産の動きも常態化に近づくのではないか?と考えています。
不動産投資を予測するにあたり、不動産の取引、形態別に考えられることを列挙します。
賃貸
こちらは新型コロナウイルス関連施策の家賃助成(入居者)とテナント入居事業者への家賃補助という大きな課題がどう決着するか、まだ施策の施行前でもあり、予測不可能です。
現時点での施策は、次のような内容です。
- 住居確保給付金:収入が激減した人へ政府が一定金額を助成する
- テナント家賃補助:検討が固まりそうですが、中小事業者の家賃を3分の2、国が助成するという案
参考:厚生労働省/生活を支えるための支援のご案内
「家賃の問題」は難しく、予測ができません。アパートやマンションなどの賃貸鎮定物件やテナントビルも同様です。
個人への家賃助成(住居確保給付金)は、あっても家賃のあくまで一部であり(上限あり)、また期間も限られており、収入が悪化すれば家賃滞納者が増えるかもしれません。家賃助成の期間や金額を超えて収入が悪化すれば、家賃を払えなくなるからです。
テナントビルの場合も、助成金に上限があります。また入居している事業者がすべて助成金を受けられる対象となればいいですがそうとも限らないので、可能性としては、家賃の滞納が増えるかもしれません。
大家が家賃がもらえない(取りっぱぐれる、泣き寝入り)ような状況になれば、当然不動産投資にも影響が出てくることは予想されます。
新築(個人住宅)の購入
資材や人員が確保できれば、もとの状態に戻るのではないか?と思います。
新型コロナウイルスの影響下でも、幸いに影響が少ない人は住宅ローンの検討を進めていますし、銀行でも融資に応じています。金利面などは、逆に有利と言える条件かもしれません。
売却
売却については、他と違う動きをするように思います。
全般的に言えば、収束後はもとの状態にもどっていくと思いますが、とはいえ、コロナの影響が長引けば長引くほど、ローンの返済が難しくなる人が出てくるのではないか、と予想されます。これから余談を許さないと考えています。
となると、コロナの影響で売却が増えるかも知れない、と考えるのは自然です。
個人の住宅について、住宅ローンの借入が残っている人は、リスケ(元金返済を一次的に減らすなどの救済措置)をしたとしても、収入が元に戻らず、あるいは最悪職を失った場合(解雇または勤務先の倒産など)、もうローン返済ができなくなってしまうことが考えられます。
そうなれば、金融機関が強制的に家を売る競売手続きに入ってしまう前に、任意売却を考えるでしょう。任意売却するなら早いに越したことはないので、コロナ収束前というか「ウィズコロナで」自宅を手放す人が増えるのではないか?と考えています。
これは一戸建て、区分所有マンションともにいえることです。
入居率が低下して、オーナーが「もういいや」と諦める可能性も
各種経済対策がうまくいけば良いのですが、家賃未回収が増えると「もういいや」と疲れ果ててしまうオーナーも出てくるでしょう。
不動産投資ならオーナー自身がローン支払困難になるかもしれません。相続対策などで不動産投資を行っている場合は、本人だけでなく相続人となる子供達が将来を悲観して、賃貸経営から手を引こうという動きが出てくるかもしれません。
コロナのいま、やるべきこと
リスクとして考えられる内容を、少々悲観的ですがあげさせていただきました。
ただ融資担当の銀行員としては、コロナが落ち着くころを目指して、今できることを準備しておいていただきたいです。「不動産投資の融資を受けたい」という意思表示を示しておくことは、大切です。
冒頭でも言いましたが、
「コロナが落ち着き次第、いつでも不動産投資の融資が実行できる準備をしておけ!」
これが社内方針です。
やるべきこと1.じっくり物件を吟味する
投資を検討している人は、いまならじっくり物件を検討できます。通常時より物件購入でのライバルも多くないでしょうし、物理的に物件の周りも人が少ないので落ち着いて吟味できるでしょう。
物件だけでなく、利回りや投資自体についても時間をかけて考えられるでしょう。
(注 緊急事態宣言地区などへ訪問する際は、各地域の状況を確認してください)
やるべきこと2.銀行員と「良いパイプ」をつないでおく
すでに不動産投資でローンの取引があるなら、担当する銀行員との連絡は途切れないようにするべきです。
ここからが大事なところです。
タイミングにもよりますが、電話やメールなどで銀行員に「今すぐじゃないけど、良い物件があったら教えて」と声をかけておくことをおすすめします。
上述したように、物件を手放すオーナーが出てくる可能性があります。その人が銀行でローンを借りていたなら、そしてこれも上述したように「もういいや」という状況なら、物件の劣化も少ない良い物件に巡り会えるかもしれません。
銀行にしてみれば、物件を手放すということは売却して「ローンを返されてしまう」ことになります。
もし、あなたが銀行員に声をかけておけば、こうした「掘り出しもの」を紹介してくれる可能性があるのです。
そして、ここも考えてみてください。私が担当なら、声をかけてくれたあなたが「もう一棟融資してもいいお客様」なら、すぐにでも連絡するでしょう。しかし融資できない人には連絡しません(連絡しなければ、そもそも掘り出しものがあったことも相手は知りませんので、文句を言われることもありません)。
銀行員から「良い物件が出ましたよ」とあなたに連絡があったなら、それは融資の脈もありと考えてよいと思います。
やるべきこと3.家賃減免に応じればメリットがあるかも
これもまだ政府の対策がこれから決まる時期なのでなんとも言えない部分ではあります。
「大家として家賃減免に応じるべきか?」
これもコロナウイルスの影響で話題になっているトピックですが、銀行員として、また一個人として、可能であれば可能な限り減免に応じたほうがよいと思います。
まず、社会的に「良いこと」です。逆に、社会情勢やネット記事などが悪影響した場合は、応じないことで非難の対象になる可能性もゼロではないと思います。
減免といっても「チャラ」にするのではなく、一時的に猶予すればよいケースもあるでしょう。また、仮に「チャラ」にしても、これから先税金面で優遇などの対策も検討されているようですので、まんざらメリットがないとも言えません。
まとめ
地方銀行行員はいま、緊急融資の対応で忙しいのですが、それでも近い未来に有望な融資対象者から連絡があれば、外出できるようになる日を目標に、計画をたてるはずです。
緊急事態宣言が解除された後も、事態の収束まで、「コロナとともに生きていく」スタイルは長期化すると考えられます。
銀行側も、投資希望者に融資をすることをやめたのではないということを覚えておいてください。
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