不動産投資による所得と住民税の関係。計算の仕組みと納税のポイント
不動産投資を始めて「住民税が下がった」ということを聞いたことがある方もいるでしょう。不動産投資をすることと税金の関係について、今回は住民税についてみていきます。
住民税の概要
まずは住民税の大枠をつかみましょう。ポイントは「住民税は誰が計算するのか」ということと「なぜ前年度課税なのか」、そして「納税はどうするか」の3点です。
1. 住民税は誰が計算するのか
住民税は、国に支払う所得税とは異なり、自分の居住する地方自治体に支払う税金で地方税法で大枠は定められています。ただし市区町村によっては条例で別段の定めをしているところもあります。この場合には他の地域と比べて若干の税率の差異などが生じます。
通常、住民税は所得税の確定申告のように納税者自身では計算せず、市区町村の方で勝手に計算される仕組みになっています。
具体的には納税者が所得税の確定申告書を税務署に提出すると、そのデータが税務署からお住まいの各市区町村役場に転送され、市区町村で計算した住民税額が納税者に通知される仕組みとなっています。
所得税確定申告書の隅っこをよく見ていただくと、2枚目と4枚目に「住」と入っており、この用紙部分が税務署から市区町村役場に転送されます。
なおサラリーマンの方は通常確定申告はせず年末調整が会社側でされますが、この場合にも会社側の年末調整作業を通じて、同様のことが行われています。
2. なぜ前年度課税なのか
住民税の計算方法は、前年の所得に応じて課税される「所得割」と、所得金額に関わらず一定額の納付を求められる「均等割」の2種類で構成され、両社を合算して納税します。
ここでのポイントは、所得割は前年の所得によって計算されるという点です。お伝えしている通り、住民税は所得税の確定申告書をベースに市区町村で計算されるため、例えば令和4年の住民税を市区町村が計算する場合には、令和4年3月15日までに税務署に提出される令和3年分所得税の確定申告書に記載された所得金額等を使って計算せざるを得ないことになります。
そのため、令和4年分の住民税額は令和4年の所得金額を用いて計算は計算できず、結果として前年の令和3年分の所得金額を用いて計算されることとなります。
また住民税計算がこういった仕組みを採用しているため、住民税は「毎年6月から翌年5月を一年度」とすることとされています。
では、具体的に東京都の例を見てみましょう。
(1) 所得割額=( 総所得金額 - 所得控除 ) × 税率(10%)-税額控除
(2) 均等割額=都民税額(1,500円)+市区市町村民税額(3,500円)
※2024年度以降は4,000円の予定
所得割額の計算方法は、原則として国税である所得税と同様の計算方法によることとなります。
3. 納税はどうするのか
住民税の納税方法には、大きく「特別徴収」による方法と「普通徴収」による方法の2種類があります。
サラリーマンのような給与所得者の場合は、原則として特別徴収による納税となります。特別徴収とは、毎月の給与から住民税を会社が天引きして、会社側でまとめて市町村に納税する方法です。したがって納税者は特に何も作業することはありません。
ちなみに住民税の特別徴収税額が、毎月6月分の給与から変更されるのは上記の通りです。
普通徴収は、主にサラリーマン以外の個人事業主等の方の納税方法で、市町村から送付される納税通知書で、年4回に分けて納めます。税金は普通、納税書で納税することから、住民税においても「普通徴収」とよばれています。
サラリーマンでも普通徴収を選べない?
サラリーマンの方の中には不動産賃貸業をしていることを会社に知られたくない方もいらっしゃると思いますが、住民税額を通じて会社側に知られてしまうことも可能性としてはあります。
その場合ですが、所得税の確定申告書(第二表)の「住民税・事業税に関する事項」に、住民税のうち、不動産所得に係る部分だけ普通徴収によって納税することを選択できる項目(下記「自分で納付」)があり、○をつけると不動産所得に関する情報は会社の方に通知されない仕組みとなっています。
なお、給与所得に係る部分については特別徴収によることとされているので、住民税全額を普通徴収により納税することはできません。
不動産投資で住民税を節税するための方法とは
不動産投資を行うことで、結果的に住民税を節税することも可能です。ここでは、主に3つの住民税の節税方法について解説します。
1. 不動産投資の赤字は他の所得と損益通算できる
お伝えの通り、住民税は所得税の確定申告書を使って市区町村側で計算され、その計算方法は基本的には所得税の計算ルールにしたがって計算されます。そこでポイントとなるのが「損益通算」です(損益通算については別途「 節税になるって本当!? 不動産投資が節税対策と言われる仕組みと注意点 」をお読みください)。
損益通算でプラスの所得である給与所得とマイナスの所得である不動産所得が相殺される結果、納税額が低下する仕組みは、住民税計算でも適用されるので、不動産投資初期には経費の方が収入よりも多くなることがあり、その場合には所得税のみならず、住民税に対しても節税効果が生ずることになります。
ただし、例えば令和4年に不動産投資を始めた場合、所得税では令和4年分から効果が発生しますが、住民税の場合には令和5年度分から生ずることになります(前年度課税方式のため)。
【不動産投資と税】損益通算は土地と建物の割合によって変わる
2. 減価償却費を経費として計上できる
不動産投資は、減価償却費を「経費」として利用できるのがメリットの一つです。毎年、不動産の耐用年数などに応じて、支出が発生していない年でも中長期的に分割して「減価償却費」という費用を経費として計上することになります。
減価償却費を経費として計上することで、不動産収入を減らし、所得税額を少なくすることが可能です。所得税額が減れば住民税の額を抑えることができるので、減価償却費が経費として計上できる不動産投資は節税効果が期待できます。
減価償却費 不動産や車などの資産の購入金額を一括計上せず、長期に分割して計上していく仕組みのことです。 |
減価償却期間は不動産の種類や築年数によって異なる
減価償却の期間は、建物の構造や種類によって異なります。建物の「法定耐用年数」が減価償却できる期間です。
例えば、新築木造アパートは22年間の減価償却が可能ですが、築10年の木造アパートを購入した場合、減価償却は残りの法定耐用年数の12年となります。
以下の表からもわかるように、建物の構造によって耐用年数が異なります。計算に慣れるまで難しいと感じるかもしれませんが、しっかり理解しておきましょう。
建物の構造別による耐用年数(住居用)
構造・用途 | 耐用年数 |
---|---|
木造 | 22年 |
重量鉄骨造 | 34年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・ 鉄筋コンクリート造 |
47年 |
参照:No.2100 減価償却のあらまし|国税庁参照:主な減価償却資産の耐用年数表(PDF)|国税庁
3. 不動産投資で計上できる経費を漏れなく計上する
所得税を抑えて住民税を節税するためには、いかに経費を計上できるかがポイントです。そのため、不動産投資で計上できる経費は漏れがないようにします。
仕事で使用するスーツや靴、時計などの身に付けるものは、一見経費として認められそうですが、プライベートでも使用可能なため「ファッションアイテム」扱いとなり、原則経費計上はできません。
つまり、不動産投資に関係のあるものだけが「経費」として計上できることになります。
不動産投資で計上できる経費の例
不動産投資で計上できる主な経費は以下の通りです。
- 不動産取得税
- 固定資産税
- 火災保険や地震保険
- 減価償却費
- 修繕費用
- 管理料
- ローン金利 など
この中でも減価償却費は、実際にお金が出て行かないのに経費にできるため住民税の節税に貢献します。これらの経費を漏れなく計上して不動産所得を減らしましょう。
不動産投資で住民税を節税する際の注意点とは
不動産投資で、住民税を節税する際に気をつけるポイントが2つあります。注意点を理解することで、損をしない不動産投資が可能です。
1. 赤字の場合は住民税の払い過ぎに注意する
不動産所得が赤字の場合に気をつけることが、住民税の払い過ぎが発生するケースです。万が一、住民税を払い過ぎていた場合は、住んでいる市区町村から「過誤納通知書」が送られてきます。
過誤納通知書に振込口座を記入すれば、後日還付を受けることが可能です。もし、サラリーマンの方で副業として不動産投資をしている場合、会社が「副業禁止」ではないことを事前に確認しておきましょう。
サラリーマンの住民税はほとんどが特別徴収となっており、あなたの住民税額を把握しているのは勤めている会社です。そのため、住民税の還付により「副業」をしていることが明るみに出る可能性があります。事前に会社規約などで確認しておくのがよいでしょう。
過誤納通知書 間違って納められた税金や、納めすぎた税金がある場合に還付することを知らせてくれるお知らせです。 |
参考:還付(住民税)について|東京都北区
2. 黒字の場合は普通徴収に切り替える
不動産投資が黒字の場合も注意が必要です。不動産投資が黒字になることで総所得が上がります。
総所得が上がれば所得税も上がるため、会社に不動産投資をしていることがわかってしまいます。税金が増えることを会社に知られたくない場合は、特別徴収から普通徴収に切り替えることが必要です。
普通徴収にすれば、会社に住民税の通知が行かず安心できます。
不動産所得の計算方法とは
不動産所得はどのように計算するのでしょうか。総収入に含まれるものや、必要経費として認められるものを解説し、不動産所得の計算例を紹介します。
総収入に含まれるものとは
総収入に含まれているものは以下の通りです。
- 家賃
- 共益費
- 駐車場代
- 権利金
- 更新料など
これらを足した総収入から必要経費を差し引いたのが不動産所得となります。
必要経費として認められるもの/認められないものとは
不動産投資に関する必要経費とは、不動産所得を得るために要した、不動産事業に関わる費用のことです。ご自身で「これは不動産事業に関わる」と思っても、不動産事業に関わるものでなければ必要経費とは認められません。すべての支払いが必要経費として認められるわけではなく、認められるものとそうでないものがあります。
必要経費として認められるもの |
|
---|---|
必要経費として認められないもの |
|
基本的に、不動産投資に関わる費用が必要経費として認められますが、不動産投資とは関係ないプライベートな旅行や飲食代は認められません。
不動産所得の計算例
不動産所得は、給与所得など総合課税の分類となり、ひとまとめにして所得税がかかります。
仕組みを理解していただくために、ここでは不動産所得のみを対象に、不動産所得税の計算例を挙げます。
所得税の税率
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
例 年間家賃収入500万円 固定資産税や修繕費などの経費が年間200万円の場合
総収入500万円-必要経費200万円=不動産所得 300万円
300万円×10%-97,500円=所得税額 202,500円 となります。
不動産投資は、所得税のみならず住民税に対して一定の節税効果あり
不動産投資では、所得税のみならず住民税に対して一定の節税効果が見込めますが、その効果開始は住民税の場合一年遅れになりますので、キャッシュフロー管理では注意が必要です。また不動産所得にかかる住民税について、普通徴収による場合には、あらかじめ所得税確定申告書の「住民税に関する欄」で「自分で納付」に「○」をすることが必要になります。
※本記事の情報は、信頼できると判断した情報・データに基づいておりますが、正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。法改正等により記事執筆時点とは異なる状況になっている場合があります。また本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。
関連キーワード