東京赤坂で70年、暮らしの歴史を残すリノベで「TOKYO LITTLE HOUSE」オープン
東京・赤坂の飲食店が並ぶ通りに、木造2階建ての一軒家があります。戦後から70年、3世代にわたる暮らしの痕跡が刻まれた空間を残したいと、家主の息子夫婦たちが内装材の撤去から塗装まで行い、「昔の面影を残した宿泊施設」と「東京の歴史文化を展示するギャラリー&カフェ」が誕生すると聞いて、見学してきました。
どんなリノベーションだったのですか?
「リノベーションをとことん楽しんでいる方がいる」と知ったのは、Facebookで流れてきた投稿をみたのがきっかけ。
おうちを生まれ変わらせたのは、編集事務所を運営するご夫婦、深澤さんと杉浦さん、そしてスタッフのホールデンさん。
生まれ変わったのは「TOKYO LITTLE HOUSE」という名の家。1階がカフェ&ギャラリー、2階は一組限定の宿泊施設で、2018年2月9日にオープンしました。
ご夫婦で企画、そしてDIYの作業は杉浦さんとホールデンさんで進めたこのプロジェクト。自分たちで壁・天井・床の取り壊し、断熱、防音、左官、塗装を行い、「家づくりってここまで関われるのか!」と楽しさと充実感がひしひしと伝わってくる空間です。
オープン直前、仕上げの最終段階だった1階と、プレオープンしていた2階を見学させていただきました。
お話を伺ったのは杉浦さん。
70年間、ずっと住居空間だった2階
1階は、ブティック・花屋・飲食店などさまざまな店舗に貸していたそうですが、2階はずっと住居だった場所。そこがこの度ホテルに。
なぜここをホテルにしようと思ったのか。それは和室の「窓とその景色」が理由のひとつにありました。
「華奢な木製のガラス窓を開いて見える景色がとても面白いんです。戦後間もない頃の佇まいがそのまま残る空間から、現代の東京を代表する歓楽街の喧噪を見ていると、なんだか不思議な気持ちになってきます。ここは、ずっと人が暮らしてきた場所。だからそれを暮らすように旅する拠点にして、たくさんの人にこの感覚を味わってもらえたら、とこの業態を選びました」
この家のリノベーションは、「もともとこの家にあったものをできるだけ残して、今の東京とは違う異質な空間をつくりたい」という想いで貫き通されています。
気づいたら自分たちでリノベすることになった
リノベ企画は、最初から「DIYをやろう!」というテンションで始まったわけではないようです。さまざまな方に相談を重ねたところ、古い建物ゆえ「建て壊した方がよいのでは」と言う方も多かったとのこと。そのなかでDIYに理解のある内装デザイナーさんと大工さんに出会い、愛着のある空間に対して、自分たちでもできる限りのことをしよう、と思うに至ったそうです。
基本デザインは内装デザイナーさんに作ってもらい、しかし常に現場にいた自分たちが「どうしたいか」を突き詰めていった結果、図面で決まっていた解体箇所も、壊しながらああでもないこうでもないと、工程ごとにじっくり手がけることに。大工さんやデザイナーさんに相談しながら、ご夫婦の情熱がたっぷり注がれることになりました。
ご夫婦で意見が合わないと、相手を説得するプランを徹夜で作ってプレゼンしあったり、一つの壁を抜く(壊す)のに1日がかりで話し合ったりして、「喧々諤々でやった」そうです。
「壁を抜くのを途中で止めているのは、この壁の来歴を示したかったからです。剥き出しになっている竹組みは、土壁の下地に使われる竹木舞(たけこまい)とよばれるもので、もともとはその両側に錬った土と藁スサが10センチほどの厚みまで塗り込められていました。今回のリノベーションではその上に漆喰を塗っています」
取り壊す必要のあった壁も、抜いた壁から土と藁スサを取っておいて別の場所で使ったり、とにかく「赤坂の家にもともとあった材料」を可能な限り使っています。
新しくした畳について「古い佇まいの残る部屋に畳だけが新しすぎて、ちょっと違和感もあるくらいなんです」とコメントされましたが、いえいえ静かでとても居心地のいい空間です。
新たな材料も吟味して調達
自分たちの思い描くイメージの空間を作り上げるため、もともとこの場所にあった木材や家具にプラスして、古材やタイル、左官材料などを購入。
キッチン奥にはシャワールーム。部屋は白とブルーで統一されており、バスタオルも濃淡のブルーでお揃いです。
工事中の1階にもおじゃましました。
2階の壁は全て左官(コテを使って壁を塗ること)で、漆喰と土で仕上げています。そして1階は、建物の外から内部までをシームレスに空間をつなげるため、同じモルタル材を使って左官。展示を行う壁は、今後の塗り直しも考えて塗装を選んでいるそうです。
「左官はとても楽しいです。ただコテに慣れるまでに時間がかかるので、ちょっとだけ塗る場合には向かないかも。それよりも気軽にできるのは塗装ですね」と杉浦さん。
半年間、通常の仕事をしながら進行したこのプロジェクト。改めてリノベーションってどうですか?と杉浦さんに聞いてみました。
「自分自身で手を動かしたので、図面通りでいいのかためらったり、途中でプランを変更したりと、悩むことの連続でした。でもその分だけ愛着も湧くし、訪れてくれた方にも納得のいく説明ができると思います」
大工さん、内装デザイナーさんなどプロの助けを借りて、想いを詰め込んでとことん進行したプロジェクトは、RENOSY間宮が「自分たちでやられたのが凄すぎます」と言ったように、どこを切り取っても面白いお話が伺えました。
誰もが真似できることではないだろうけれど、そこに住む人が一部でも積極的に関わると、より愛着のわく家ができるリノベーション、やっぱり楽しそうです。
お気に入りの床材を選ぶ、壁を選ぶ、塗装も可能だったら自分たちで塗ってみる。プロのアドバイスを受けつつ、一緒に作っていく。「お任せでない家づくり」がリノベーションの醍醐味ではないでしょうか。
月日の流れをじっくり味わえ、コーヒーもおいしいこのスペース。ぜひ出かけてみてください。
取材協力:
TOKYO LITTLE HOUSE
撮影:今井淳史、清水まゆみ(※)
写真提供:TOKYO LITTLE HOUSE(メイン画像、※2)
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