1. TOP
  2. RENOSY マガジン
  3. 投資する
  4. 相場下落リスクが高いとき株は売却すべき? 景気悪化を踏まえた資産運用のポイント

作成日: 2022.10.14

相場下落リスクが高いとき株は売却すべき? 景気悪化を踏まえた資産運用のポイント

相場下落リスクが高いとき株は売却すべき? 景気悪化を踏まえた資産運用のポイント

金融市場では相場の下落が続いており、残念ながら相場の反転がすぐに見込めない中、株式などのリスク資産の売却を考えている人も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。確かに、安全策をとっていったん投資を中断するという選択肢もありますが、投資に対するスタンスや投資期間、資金の余裕度によって、ポートフォリオを調整しながら投資を継続するのも一つの選択肢になります。

今回は足元の相場下落の背景や今後の見通し、そして、それを踏まえた投資判断のポイントについて紹介します。

相場下落の現状、下落の背景と見通し

投資の判断を進めるためには、足元の状況や今後の見通しを正確に捉えることが大切です。まずは、今年に入って進行する相場下落の現状や背景、そして今後の見通しについて紹介します。

株価と債券価格が同時に下落する局面

2022年の年初以降、グローバルに株価の下落が進んでいます。アメリカのS&Pで見ると、すでに直近高値からの下落幅は20%を超えており、世界中の株式投資家に損失をもたらしています。

今回の下落の大きな特徴として、債券金利の急速な上昇により、債券価格も同時に下落傾向にあることが挙げられます。アメリカの長期国債金利は1%台から、足元は一時4%に迫る水準まで上昇。教科書的には債券価格と株価は逆方向に動く性質を持つため、リスク分散の一環として債券と株式へ分散投資している人も少なくありません。しかし足元1年程度は、こうした分散投資でも損失を防ぐのが難しい環境でした。

なお、日本にフォーカスした場合のもう一つの特徴として、対ドルで円安が急速に進んでいることが挙げられます。年初には1ドル=115円程度だったところ、足元は一時1ドル=145円を超える水準まで円安が進行。急速な円安を受けて一時為替介入も実施されましたが、円安に歯止めがかかるかは不透明です。

円安は、海外の株や債券に投資する日本の投資家にとってはサポート材料でもあります。日本から海外資産に投資している場合、(為替ヘッジをかけていなければ)円安は円で見た時の価格上昇要因になります。すなわち海外の株価や債券の下落を相殺してくれるのです。

相場変動の背景

足元の相場変動の背景は大きく分けて次の3つです。3つの要因は独立しているわけではなく、要因は互いに影響し合っていることにも注意しましょう。

  • ロシアによるウクライナ侵攻を背景とした地政学リスク
  • 資源価格高騰などによるインフレの加速
  • 米FRBをはじめとしたグローバルな金融引き締め

2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻は、地政学リスクに対する懸念を高め、投資家に慎重姿勢をとらせる要因に。株式などリスクの高い資産の売却が進み、株価の下落要因となりました。ただし、地政学リスクの上昇以上に、このあと紹介するインフレへの影響によるネガティブなインパクトの方が大きいといえるでしょう。

資産価格の高騰は、そもそも2020年後半ごろから始まっていました。新型コロナからの経済回復が本格化して、モノの需要が高まる一方で、新型コロナ対策などを背景に企業活動を制限する動きが見られたため、需要に供給が追い付かず、インフレが加速したのが始まりです。

そんな折、ロシアのウクライナ侵攻を背景に、ロシア産のエネルギーや資源の供給が滞ったことで、エネルギーや資源不足に拍車をかけ、グローバルなインフレの過熱をもたらしています。

当初は経済成長を伴うインフレだったため、2021年ごろまでは株価は概して堅調でした。しかし、足元は欧州で年率10%超、アメリカでも同9%前後のインフレ率となり、経済成長のペースに対して明らかに過熱傾向にあるため、家計や企業業績への悪影響が懸念されているのです。

このような状況を中央銀行は黙認するわけにはいきません。行き過ぎたインフレは将来の経済ショックのリスクを高めてしまうからです。アメリカの中央銀行にあたるFRBは、2022年3月よりゼロ金利政策をやめて、利上げを開始。2022年9月時点では政策金利は3%を超え、急速な金融引き締めが進んでいます。

金融引き締めは企業の借入れ、および個人の住宅ローンなどの金利、すなわち借入れコストの上昇をもたらすため、やはり相場に下押し圧力をもたらしているのです。なお、円安については、日米の金融政策の差により発生しています。アメリカが金融引き締めによる利上げを進める一方で、日本は緩和的な政策を継続。結果的に両国の金利差が拡大することで、円安をもたらしているのです。

本格的な景気後退はまだ先?

すでに株価は下落傾向にありますが、実は雇用や家計など「実際の経済環境」は、アメリカをはじめ主要国ではまだ大きく悪化していません。また、インフレも高止まっていることから、FRBではまだまだ利上げを進める見通し。先月9月には2023年に政策金利を4%台後半まで段階的に引き上げるとの見通しも示されています。

そのため、景気の悪化が進むのはまだまだこれからという見方も。仮に今後景気後退が現実のものとなるのであれば、株価の下落もまだまだ続く可能性があるのです。ロシア産出の資源やエネルギーの供給が元通りに回復するとは到底見込めない情勢のため、「インフレの高止まり→金融引き締めの加速→景気悪化」という流れが現実的なものとなっています。

方向性を見通しづらいのはドル円の為替動向。教科書的にはアメリカだけ金融引き締めが進んで円安加速、となりそうですが、9月に日銀が為替介入を行ったことで、足元は1ドル145円近辺で円安に歯止めがかかっています。

また、日本円=安全資産との見方も根強く、過去には景気悪化時には円の需要が増加して円高となった事例も。また日本でもアメリカほどではないにせよ足元インフレが加速する中で、いずれ緩和的な政策の軌道修正を図る可能性もあります。このように為替相場に対しては不確定要素が多く、方向性を予想しにくい状況です。

不確実性の高い環境下における資産運用の方向性

まだまだ景気悪化や相場下落が心配される中で、資産運用の方向性を悩んでいる人も少なくないでしょう。実は、とるべき資産運用の方法は、自身の投資スタンスや資金的な余裕度によって変わってきます。いくつかのパターンで紹介していきますので、自分に合った運用方針を検討してください。

安全志向の人は株を売却し債券投資へ

残念ながら今後まだまだ株は下落するリスクがあります。このような環境で株式投資を継続するとすれば、当面の損失を受け入れる覚悟が必要です。今運用している資産を目先使用する予定がある、あまり経済的な余裕がないなどの理由で、これ以上資産価値が目減りするのを避けたいなら、株式投資については一時中断した方がよいでしょう。

個別株にせよ、株式に投資する投資信託にせよ、いったん売却するのが一つの選択肢になります。特に為替ヘッジなしで米国株や世界株に投資していた人は、ここまで円安に支えられていたことから、現時点での下落はまだ序の口です。もし株安と共に円安の方向性が変わってしまったら、さらに大きな下落がこの後発生する可能性もあります。

売却資金はそのまま現金で持つのも一案ですが、相対的に安全性の高い債券へ投資するのもよいでしょう。債券は金利が高いほど魅力的な金利収入が手に入る商品のため、アメリカなどの足元の高金利は追い風となります。今後の、代替投資先として有力な選択肢となるでしょう。ただし、日本の国債はまだほとんど金利が上がっていないので、海外の債券で運用される投資信託から検討するのがよいでしょう。

長期投資の人はここで撤退する必要はない

まだ若くて積み立て投資を行っている人、本業の収入などがあり当面損失が発生しても問題ない人は、このまま株式投資を継続するのも選択肢の一つです。特に投資信託やETFを通じて米国株や世界株などに投資している人は、焦って売却するのが正解とは限りません。

過去の事例を見ると、一時アメリカの株価指数S&P500で高値から50%以上の下落を記録したリーマンショックでも、約5年ほどで株価は元の水準を回復しています。投資信託や個別株で運用する場合は、配当収入の相当額がパフォーマンスをさらに底上げされるため、純粋な株価よりも損益は早く回復します。

S&P500の株価推移

S&P500の株価推移
出典:S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスから筆者作成

10年単位で投資を行う見込みの人で、今後の経済が「リーマンショック以上に悪くなる」(そのような予想は現時点ではあまり見られませんが)という想定を持っていないのであれば、このまま保有を継続しておくのも一案です。

なおここまで、株価はさらに下落する可能性にフォーカスして記事を書いていますが、経済の見通しには不確実性があり、底入れのタイミングを読み切るのは困難です。長期目線で投資する人は、読み切るのが困難な底値を厳密に狙うよりも、今の資産保有を継続してじっくり反転を待つのが効率的でしょう。

また、定期的に資金を投じていく「積み立て投資」を行っている人は、下落局面でも投資を継続することで「ドルコスト平均法」の恩恵を受けられます。そのため、株価が下落したこのタイミングで投資を止めてしまうのは、むしろおすすめしません。これまで通り余裕資金を徐々に投資に回していきましょう。

このタイミングで債券・株式の分散投資を検討するのも一案

安全策なら債券、長期投資なら株式と紹介してきましたが、今投資先が一辺倒に偏っているなら、「債券+株式」の分散投資を検討してみる良い機会かもしれません。成長のチャンスを狙いたい一方で、長期に投資するうえで資産の安定性を高めたい人には有効な選択肢です。

急速な金融緩和や引き締めが起こると、なかなか教科書通りには行かないのですが、債券と株式は長い目で見ると、逆方向に価格が動く性質を持っています。景気が良い時には株価が上昇する一方で、債券は金利上昇の影響で価格が下落する傾向があるのです(債券の金利と価格は逆方向に動く性質を持っています)。

投資は常に不確実性を伴うので確定的なことは言えませんが、アメリカを中心に金利はだいぶ上がってきた一方、今後もまだ景気が悪くなるのであれば、今後はシンプルに債券価格が回復、株価はもう少し下落という展開になる可能性も。そのため、このタイミングで株式から債券に一部資産を移しておけば、ある程度損失の抑制が期待できるでしょう。

【関連リンク】
債券は株より低リスク? 初心者に適した安全重視な投資、債券を詳しく解説!
下落相場に強い投資先とは?株式下落の備えとなる資産運用を紹介!

資金や与信に余裕がある人は不動産投資が有効な選択肢に

ある程度まとまった自己資金を投じる余裕があり、またローンを借りる余地がある人は、不動産投資へチャレンジするのも有効な対策となります。投資資産のすべてを不動産に投じるのではなく、株式・債券など有価証券にプラスする形で不動産も保有しておくのが理想的です。

不動産の賃料収入は、株式相場のように大きく変動することはないため、今後景気が悪くなっても安定的な収入源として機能します。家計に余裕がある人は、今後の賃料収入の一部を再投資に回すことで、さらに効率よく資産運用をすることも可能です。

また、今回の景気変動の原因であるインフレは、短期的に収まらないリスクがあります。仮に多少緩和したとしても、以前のような低インフレの環境にまで戻るかどうかは不透明です。そのため、資産運用においてインフレへの対策を行うのも有効な選択肢となります。

実物資産である不動産は、インフレに強い代表的な資産の一つです。自身の投資先の一つに不動産を保有しておけば、インフレ環境下では資産価格が上がり、価格上昇に対する耐性を高めることができるでしょう。

以上二つの効果をしっかりと得るためには、特に月々のキャッシュフローがプラスになるように不動産投資を行うのが理想的です。景気悪化局面で安定的に得られる現金収入が、生活費の補填、もしくは相場悪化時の投資資産の積み増しの原資となるからです。

ただし、自己資金が乏しく、キャッシュフローをプラスにするスキームでの投資が難しい場合でも、良質な物件であれば不動産価格の上昇の恩恵を受けることはできます。都心部の区分マンションなど価格競争力のある物件を選別することで、やはりインフレ対策としては効果を発揮するでしょう。

【関連リンク】
【実体験】アパートの不動産投資にチャレンジ! その目的や狙いを紹介します

相場の方向性に惑わされず、自分の投資スタンスを明確にしよう

足元の状況を見ると、残念ながらすぐに相場が回復とは期待しにくい状況です。株式投資で損が出ている人は、ついつい売却してしまいたくなると思いますが、一度冷静になって自分の投資スタンスを考え直してみましょう。

投資スタンスを明確にしたうえで、それでも株を売却すべきであれば、それも一つの選択肢。一方で、長期を見据えて保有を継続、債券や不動産などとの分散性を高めて、安定性を高めるといった方法もあります。不安定な相場に惑わされずに、自分のスタンスに基づいて冷静に取り組むことが大切です。

※本記事の情報は、信頼できると判断した情報・データに基づいておりますが、正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。法改正等により記事執筆時点とは異なる状況になっている場合があります。また本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。

この記事を書いた人

伊藤圭佑 証券アナリスト

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。

Facebook Twitter Instagram LINE Mail magazine LINE