飲むだけじゃない?投資商品として「ジャパニーズウイスキー」が注目される理由とは
こんにちは。商社業界に勤務する都内在住のLePenseurです。商社という仕事柄、エタノール(通称:アルコール)というお酒のアルコール分の原料として利用される商品の取引に携わったことがあります。仕事を通じて酒造メーカーさんとお酒をいただく機会も多く、なかでも一番私がハマったのはジャパニーズウイスキーでした。そのジャパニーズウイスキーが昨今投資対象としても注目を浴びているということで、今回はそのあたりのトレンドをご紹介したいと思います。
ウイスキーが投資対象となる背景
そもそもジャパニーズウイスキーに限らず、世界で生産されるウイスキーがなぜ投資対象となるのでしょうか。もちろん古くからウイスキー、特に何年も熟成した年代物のヴィンテージウイスキーとよばれるものは投資対象として特定の富裕層の間では知られていました。
昨今では、私のような一消費者としてウイスキーとして楽しんできた層からも投資対象として注目がされるようになり、さらに拍車がかかっています。その背景にはおよそ以下の要因があると考えられます。
- アルコール濃度が高く、個人でも品質管理が比較的容易で扱いやすい
- 樽での熟成期間を含めると製造期間が長く、希少性が生まれやすい
- 海外大手のオークションに加え、個人間売買の市場も確立され、流動性が生まれた
お酒のジャンルでみるとワインも投資対象として知られていますが、特に1の点でワインはその品質管理が大変難しく、素人が手を出しにくい領域といえます。
これは、たとえ富裕層であってもワインの知識なくワインに手を出すと、その価値を台無しにしてしまうということです。資金面では品質管理等の環境を整えやすい層であっても知識がハードルとなり市場参加が難しくなる傾向があると考えられます。
ウイスキー人気の火付け役
世界と日本のウイスキーにおける共通の投資対象となる背景は上述の通りですが、ことジャパニーズウイスキーについては、その人気に拍車をかけた要因として、以下のような複数の出来事が考えられます。
- 高品質(個性豊かな味わい、豊富な水資源)が認められ、世界的な賞を受賞
- 健康ブームからのハイボール人気
- 中国人観光客の爆買い
- NHKドラマ「マッサン」の放映
1. 高品質
日本のウイスキーが「ジャパニーズウイスキー」として世界で評価されるようになったのは、2000年代に入ってからです。世界的な賞をサントリー社の「響21年」やニッカウヰスキー社「シングルカスク余市10年」などの銘柄が受賞したことを皮切りに、その後も「山崎」や「竹鶴」といったさまざまな銘柄が受賞の常連になっていきました。
日本は世界的にも水資源が大変豊富で、山々を流れる水源から得られる水によって生まれる土地ごとの個性ある味わいと、ブレンダーなどのものづくりのこだわりがジャパニーズウイスキーの製造に生かされていると考えられます。
2. 健康ブームからのハイボール人気
みなさんは炭水化物抜きなど糖質制限ダイエットはご存知でしょうか。ごはん・パン・麺などに多く含まれる炭水化物や甘いものをできるだけ抑えるというものです。炭水化物は梅酒や日本酒、ビールやワインなどのお酒にも含まれています。
お酒の中でも糖質が含まれないのがウイスキーです。また炭酸水で割ることでカロリーを抑えられるなどの理由から、ウイスキーを炭酸水で割ったハイボールが人気となり、ウイスキーが注目される理由となりました。
3. 中国人観光客の爆買い
中国の大きな成長を背景に、中国からの観光客が日本でブランド品や家電などの電化製品、日用品やお菓子などを爆買いすることがニュースになりました。
この爆買いの対象も徐々に変化していき、嗜好品へのニーズも生まれジャパニーズウイスキーが含まれるようになった結果、爆買いの対象になったといわれています。
4. NHKドラマ「マッサン」の放映
2014年にNHKの連続テレビ小説として放映された「マッサン」は、主演女優を外国人の方が務められたことからも話題となりました。このテレビ小説の舞台となったのが、ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝のウイスキーにかける人生で、海外での賞も受賞するあの「竹鶴」の会社のストーリーでした。特に日本人のウイスキーへの需要を喚起するには十分な話題となりました。
世界で急騰するジャパニーズウイスキー
人気を博しているジャパニーズウイスキーが、世界で取引された価格事例を紹介します。
サントリー社の「山崎55年」
みなさんもよく知るサントリー社の山崎の高額落札事例です。香港で行われたボナムズのオークションにて、サントリー最高酒齢のシングルモルトウイスキー「山崎55年」が、620万香港ドル(約8,000万円)で落札されました。
こちらはごくごく新しい事例で、販売は2020年の6月、同年2月に100本限定で抽選募集がなされた商品でした。価格は300万円(税抜)とこちらも安くはない商品でしたが、当時も相当数の応募があったと思われ、私自身も抽選に参加したものの、あえなく落選となりました。
参照:サントリーシングルモルトウイスキー「山崎55年」数量限定・抽選販売 2020年1月30日 ニュースリリース サントリー
ベンチャーウイスキー社の「イチローズモルト」
あまり聞きなじみのない会社かもしれませんが、埼玉を拠点とするベンチャーウイスキー社のイチローズモルトの高額落札事例です。
2019年8月に香港で行われたボナムズのオークションにて、同社の「カードシリーズ」54本セットが719万2,000香港ドル(約1億円)で落札されました。こちらは1本ではなく54本セットでの落札価格となりますが、販売当時の価格は約80万円といわれており、高額落札されたジャパニーズウイスキーの事例となりました。
それ以外の比較的絶対数の多いジャパニーズウイスキーにおいても、近年は軒並み価格が高騰しており、例えば2014年を境に「マッサン」で話題となった竹鶴においては、ヤフオクで以下のような取引価格の推移をしています(ソースは大黒屋さんです)。
エドリントン社の「ザ・マッカラン」
こちらはジャパニーズウイスキーではありませんが、サントリーが1990年代からマッカランに出資・輸入販売をし、2020年にはエドリントン社に10%の出資をするなど、日本企業との関連がある会社です。
世界的な高額落札事例で、イギリスのサザビーズオークションにて、60年物の「ザ・マッカラン」が150万英ポンド(約2億円)で落札されました。
このマッカランは1926年の蒸留と、その後60年間シェリー樽で熟成を経て、限定品として約100万円で販売されたものです。もとの値段も安いわけでは決してなく当時から希少なものとして市場に出たことは間違いありませんが、それがさらには2億円の価値がついたという事例です。
ウイスキー投資の利回り
ウイスキーの投資利回りは、ウイスキー評論家の土屋守氏によると10年で400%といわれています。
参照:「10年で利回り400%」いまウイスキー投資に注目するべき理由 希少性が高くワインより保管が楽 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
高額落札事例でご紹介した通り、銘柄や年代によっては、400%には到底収まらないようなリターンが期待できることもありますが、トレンドに左右されることから、現実的にはケースバイケースであるといえそうです。
商品の特性上、製造工程における熟成には時間を要すことから、供給量が一気に増加することもなく、少なくとも価値が暴落するといったことは考えにくいと思います。
今後のジャパニーズウイスキー
2018年にはサントリー社の「白州12年」や「響17年」が、2020年にはニッカウヰスキー社の「竹鶴」の17〜25年の年代物が原酒不足により販売停止となりました。
その後、一部の商品では数量限定で販売再開したものもありますが、急に年代物をたくさん供給することは不可能であり、今後もジャパニーズウイスキーの人気は続くものと思われます。
日本におけるウイスキー市場については、数年前には20カ所ほどだったウイスキーの蒸留所が、現在はおよそ倍の40カ所程度になり、盛り上がりを見せています。新設された蒸留所の1つには、日本酒「八海山」で知られる八海醸造(新潟県南魚沼市)のグループ会社が運営するニセコ蒸溜所(北海道ニセコ町)があります。ニセコ蒸溜所は今年2021年3月に稼働を始め、10月にグランドオープン予定。樽で熟成が必要となるウイスキーの販売こそまだ先ですが、先行してジンの販売は行われるとのことで、その味や今後のウイスキーの販売に注目したいと思っています。
参考:ニセコ蒸溜所
美味しくいただけるモノであるという本来の楽しみも忘れずに
今回はウイスキーの投資商品としての側面を紹介させていただきました。
仕事柄たまたま携わったお酒の業界でしたが、その過程でジャパニーズウイスキーの魅力に惹かれ、担当が変わったあとも継続的にトレンドを追ってまいりました。現在でこそ、ジャパニーズウイスキーは当時よりさらに投資商品としての価値も高まり、日本を代表するアルコール飲料へと継続して成長を続けています。
お仕事でお世話になった過程では、ウイスキーの品質を支えるブレンダーの方々にも出会い、工場の見学、生産者のウイスキーへのこだわりを伺う機会もありました。その経験からも、投資商品として傾倒するだけではもったいないのがジャパニーズウイスキーです。
投資の側面があることはあくまで1つの側面として捉え、飲んで楽しみ、人を幸せにするために生産された商品であることに感謝し、上手に付き合っていただければと思います。
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