不動産やお金の疑問をわかりやすく解決 RENOSY マガジン
  1. RENOSY マガジン
  2. 投資する
  3. 私設取引所とは? SBI・三井住友FGによる私設取引所の開設により何が変わる?
投資する
2021.02.05

私設取引所とは? SBI・三井住友FGによる私設取引所の開設により何が変わる?

私設取引所とは? SBI・三井住友FGによる私設取引所の開設により何が変わる?

先日SBIと三井住友FGが共同出資して、私設取引所(別名PTSとよばれますが、以下「私設取引所」と表記)を開設するというニュースがメディアで報道されました。

私設取引所とは、東証などの証券取引所を介さずに株式などの有価証券が売買できるサービス。ですが個人投資家にはまだマイナーな存在です。今回は私設取引所について紹介し、SBIと三井住友FGの取引所開設によって想定される変化について説明していきます。

※PTS(Proprietary Trading System)

SBIと三井住友フィナンシャルグループによる私設取引所の開設

まずは、SBIと三井住友FGの私設取引所の開設に関する報道について簡単に紹介します。

SBIと三井住友FGの両社は、共同出資で2021年3月大阪府内に私設取引所「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」を設置する予定とのことです。2022年春から本格的に株式取引の取り扱いを開始し、将来的にはブロックチェーン技術などを活用したデジタル証券の取り扱いも視野に入れているようです。

このニュースは、本来証券業や銀行業などではライバル関係にあたる、ネット金融大手のSBIとメガバンクの三井住友銀行を中核とする金融グループ、三井住友FGが共同運営するということで、話題となりました。

私設取引所がうまく稼働すれば、SBIが掲げる国際金融取引センターの構想の実現に向けて大きく前進するとみられています。また、2020年10月に発生した東証の取引停止などのように、東京証券取引所などに不測の事態に陥った際の影響を緩和する効果も期待されています。

参考:
SBIグループとSMBCグループによるデジタル証券取引システムを運営する合弁会社の設立に関する基本合意のお知らせ(SBIホールディングス)|ニュースリリース|SBIホールディングス 
SMBCグループとSBIグループによるデジタル証券取引システムを運営する合弁会社の設立に関する基本合意のお知らせ|ニュースリリース: 三井住友フィナンシャルグループ 

私設取引所とは?

日本では、私設取引所が未発達のため、知名度が高いとはいえません。まずは私設取引所の基本について紹介します。

私設取引所の概要

私設取引所とは、東京証券取引所などのいわゆる一般的な証券取引所にあたる「金融商品取引所」を介さずに証券取引を行うものです(私設取引所と分けるため、金融商品取引所を以降「公的な取引所」と書きます)。

日本では、1998年12月に公的な取引所で有価証券売買を行うものとする「取引所集中義務」が撤廃されたことで、公的な取引所以外での取引が可能となりました。そして認可を受けたうえで私設取引所が開設できるようになりました。

日本で私設取引所の開設が可能となった時点で、有価証券の電子化(紙の株券・債券を使用せず電子上で売買すること)は進んでいました。電子上で有価証券売買が行われるようになっていたため、私設取引所は「私設取引システム」とよばれる場合もあります。PTSという別名も、「私設取引システム」の英訳Proprietary Trading Systemから来ています。

私設取引所の開設により、多様な有価証券取引チャネルを発展させることで、取引の利便性の向上や、取引システムの発展、海外投資家も含む投資売買の活発化などが期待されています。

海外での私設取引所の状況

日本での私設取引所は、1990年代後半に始まり歴史は浅いですが、アメリカでは半世紀以上の歴史を有しています。

アメリカでは1969年にインスティネットが同様のサービスを始め、多数の私設取引所が開設されています。米国版の私設取引所は Alternative Trading System(ATS)ともよばれます。私設取引所の中でも、米国証券取引委員会が示す注文執行義務ルール(取引注文が可能な限り円滑に執行されるようにするための、システムや取引手順などの指針)を満たす私設取引所を「Electronic Communications Network(ECN)」と区分しており、特に活発な取引が行われています。アメリカの場合、30%以上の有価証券取引が私設取引所にて行われています。

一方ヨーロッパでは、制度として私設取引制度が整ったのは最近です。2007年に Multilateral Trading Facility(MTF)とよばれる私設取引システムの制度が整備されました。しかし、元々欧州は「相対取引」とよばれる、取引所を介さない取引が高い割合を占めていました。従って公的な取引所以外での取引は普及していて、現在ではMTFが20〜30%、相対取引も含めた公的な取引所以外の取引の合計は50%超に上っています。

日本の私設取引所の現状

海外では私設取引所は一定程度普及が進んでいますが、日本では私設取引所での売買の割合は全体の7〜8%にとどまっていて、欧米と比較すると普及が遅れています。

私設取引所の数も、SBIグループのジャパンネクスト証券が運営するジャパンネクストPTSと、欧州でも私設取引所を運営するチャイエックス社が運営するチャイエックスPTS2つのみとなっています。

かつては、ダイワPTS(以下運営会社:大和証券)、kabu.comPTS(カブドットコム証券)、マネックスナイター(マネックス証券)、松井証券即時決済取引(松井証券)がありましたが、いずれも普及が進まず閉鎖されています。

日本で私設取引所が普及しなかった背景としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 信用取引(現金や保有株式を担保に、株式を貸し借りして行う機動的な投資)が近年までできなかったこと
  • 機関投資家の利用が制限されている(5%超の売買は公的な取引所による公開買付が必要)
  • 私設取引所の参加証券会社数が少ないため、個人投資家もアクセスしにくい

特に2012年〜2018年の間は、SBI証券でしか私設取引所を通じた株式売買ができない状況でした。

しかし2018年以降、松井証券楽天証券などが私設取引所の売買発注を開始しました。2019年には、私設取引所での信用取引が可能となるなど、私設取引所の取引を活性化する動きが見られています。今回のSBI・三井住友FGでの取引所開設により、さらなる私設取引の発展が期待されます。

私設取引所のメリット・デメリット

私設取引所を活用するメリット・デメリットについて、公的な取引所と比較してご紹介していきます。なお、前章を踏まえると「売買できる証券会社が少ない」こともデメリットの一つですが、内容が重複するのでこれ以外のメリット・デメリットを整理していきます。

メリット1:夜間取引が可能

日本の私設取引所を活用する最大のメリットは、公的な取引所が閉まっている夜間に株の売買ができるという点です。日本の証券取引所は15時で終了してしまうので、サラリーマンなどの個人投資家は株式の売買が難しいという方も多いでしょう。

一方、例えばSBI証券を通じて私設取引所で売買する場合は、23:59まで取引可能。これなら仕事終わりに株式の売買ができます。

公的な取引所が閉まっている時間にニュースが出た海外市場が動いたといった場合に、翌朝を待たずに売買できるのも便利なポイントです。

メリット2:手数料が安い傾向にある

これは証券会社の手数料の設定水準次第にはなりますが、現状は私設取引所の方が公的な取引所での売買より手数料が安い傾向にあります。

例えばSBI証券の場合は、日中(公的な取引所が開いている時間)の取引水準は公的な取引所より5%程度安く、また夜間取引では手数料が無料です。

従って、投資家から見れば私設取引所を利用した方が売買コストを削減できます。

参考: PTS(昼・夜)-夜間もリアルタイム株価でお届け│国内株式|SBI証券

デメリット1:流動性が低い

デメリットは、いずれも日本で特に課題となっているポイントです。1つ目は流動性が低いということ。流動性が低いとは、端的に言い換えると「売買量が少ないため、取引所が開いていても希望通り売買できないリスクが高い」ということです。

株式に限らずですが、市場での売買は「買い手・売り手」がいて初めて成立します。先に紹介した通り、日本の私設取引所は取引量が少ないため、自分が買いたい(または売りたい)時に、その時にちょうどよく売ってくれる人(または買い取ってくれる人)がいない可能性が高いのです。

そのため諦めて不利な価格で売買をしなければならないか、最悪全く売り手・買い手がおらず、私設取引所が開いている時間なのに売買が全然できないというリスクもあります。しかしこの問題の元凶は、私設取引所での取引量の少なさにあるので、今後、私設取引所の売買が活性化すれば、このデメリットの影響は小さくなっていくかもしれません。

デメリット2:注文方法が少ない

公的な取引所の売買では、大抵の証券会社で売買価格を指定する「指値」と、現在成立させられる株価で取引する「成行」があります。場合によっては、損切り時のための反対売買の水準を決める「逆指値」など、より複雑な注文を受け付けています。一方、私設取引所による売買では「指値注文」しか受け付けていないのが一般的です。

実はこれはデメリット1と密接に関係しています。細かいポイントを無視すると、株価は基本的に「最後に取引が発生した価格」が今の株価になります。もし取引が活発に行われていれば、成行注文を出した時に売買相手を見つけやすいので、おおむね今の株価周辺で取引を成立させられるとある程度期待できます。

しかし、取引が少ないと「最後に取引をした株価」で売買をしてくれる人がなかなかいないために、今の株価と大きく異なる水準で売買してしまうか、そもそも売買できないリスクがあります。こうした事態によって投資家が損失を受けるのを避けるため、私設取引所では成行注文が一般的に行われていません。このデメリットも、私設取引所での売買が活発化することで証券会社のサービスが改善し、解決に向かう可能性があります。

SBIと三井住友FGの私設取引所が開設したら何が変わるか?

ここまでで、私設取引所の概要や、日本での私設取引所の現状を一通り確認しました。続いては、SBIと三井住友FGによる私設取引所の開設の影響について紹介していきます。基本的に個人投資家にとって悪影響はあまりなく、メリットの方が大きい出来事であると想定されます。

私設取引所の取引活発化による売買手段の多様化

大阪デジタルエクスチェンジ(以下ODX)がうまく軌道に乗った場合の最大のメリットは、私設取引所での売買が活発化することで、より個人投資家が日常的に私設取引所を活用した売買ができるようになることでしょう。

私設取引所の普及は個人投資家にとっていろいろなメリットがありますが、今回のSBI・三井住友FGの私設取引所開設においては、以下のようなメリットが大きいと考えられます。

  1. 夜間取引が一般化し、日中に株式売買ができない人も株式投資がしやすくなる
  2. 課題であった私設取引所の流動性の低さや、注文方法の制限が改善・解決する可能性がある
  3. 複数の取引所の株価を比較して、より有利な取引所に発注できるようになる
  4. 私設取引所にて売買できる証券会社が増える可能性がある

最初の2点については先ほどのメリット・デメリットで紹介した内容ですので、3点目、4点目について少し補足します。

まず3点目についてですが、私設取引所が普及すれば日中は複数の取引所で活発に株式売買が行われます。その際、上場銘柄はどちらでも売買が可能です。従って、複数の取引所があることにより、より有利な株価の取引所を選択して売買ができるようになるわけです。

これは本来、私設取引所の一般的なメリットですが、先に紹介した取引量の少なさを背景に、現時点で日本ではメリットが十分享受できているとはいえない状況です。従って、SBI・三井住友FGによる私設取引所の普及に期待がかかります。

次に、4点目の売買できる証券会社が増えるという点については、今回、三井住友FGが参画している点に期待が持てます。三井住友FG傘下には、三大証券会社の一角であるSMBC日興証券が属しており、三井住友FGは同社にてODXでの注文を取り次ぐサービスを開始することを検討しているとの報道も出ています。

仮に大手証券の一角での私設取引所の売買が本格化すれば、日本の私設取引所での市場が急速に拡大することも期待できます。欧米対比で、私設取引所のシェアが伸び悩んでいる分、今後の伸び代は大きいといえるでしょう。

参考: SBIと三井住友FGが株の私設取引所 22年春にも開設: 日本経済新聞

公的な取引所がトラブルに見舞われた場合にも売買が可能になる

2020年10月に東京証券取引所(以下東証)のシステムトラブルによって終日取引ができなくなったことは記憶に新しいでしょう。

私設取引が未発達の日本では、このように取引が集中している東証がダウンしてしまうと、株式取引を行う方法が制限されてしまいます。今回はシステムトラブルでしたが、震災などの災害に見舞われるリスクも踏まえると、東証の取引停止は無視すべきではないリスクとなっています。

私設取引所が十分に機能していれば、東証にトラブルがあった際にも株式売買を安定的に進めることが可能になり安心です。今回のODXは東証とは離れた大阪に設立される予定なので、取引が活発化すれば震災などの災害へのリスクヘッジとして大きな役割を果たすでしょう。

デジタル証券の普及が進む可能性

SBI、三井住友FG両社によると、ODXでは2023年を目処にデジタル証券の取引サービスも実施する予定です。

デジタル証券とは、仮想通貨にも活用されているブロックチェーンの技術を活用して電子的に発行される証券です。日本では2020年4月に法的に有価証券として認められたばかりなので、今後の市場拡大が期待されています。

デジタル証券の技術を活用すれば、発行コストなどが大きく引き下げられることで、これまでより「小口・多頻度の資金調達が可能」となるといわれています。また、現在、有価証券として一般的な株式・社債などだけでなく、不動産知的財産美術品ゲームや映画の版権など、多様な資産や権利を「証券の形」で売買可能になるため、証券を通じた投資先が広がると期待されています。

しかしながら、現時点では個人投資家の投資手段は限られています。投資家の最低売買単位は大きい傾向があるため、まだ一部の機関投資家が中心の投資商品となっています。こうした状況を踏まえ、デジタル証券の普及方法を検討しているのが、今回ODXに関わっているSBI証券です。

SBI証券の構想通りODXでデジタル証券の取り扱いが進めば、私設取引所の普及とともに、デジタル証券への投資も、個人投資家にとって身近なものになると期待されています。

参考:SBIと三井住友FG 株式などの私設取引所 開設へ | NHKニュース

私設取引所が普及すれば証券投資がより身近なものに

私設取引所が普及すれば、夜間取引の活性化により、個人投資家にとっても取り組みやすくなり、結果的により株式売買が便利なものになります。

また、私設取引所を通じてデジタル証券投資が普及すれば、個人投資家の有価証券投資の可能性が大きく広がります。株式以外の多様な投資方法を検討しやすくなるでしょう。

SBI・三井住友FGの構想通り、私設取引所で活発な売買が行われるようになることを期待したいところです。

※本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。

この記事についているタグ

この記事を書いた人

伊藤圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。

Facebook Twitter Instagram LINE