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更新日: 2020.11.27

誰もができるわけではない、でもある種の人には「救い」かもしれない、多拠点生活の話

誰もができるわけではない、でもある種の人には「救い」かもしれない、多拠点生活の話

1年と少し、日本全国のシェアハウスやゲストハウスを転々とする「多拠点生活」「アドレスホッピング」とよばれる生活を続けています。

ときどきふと目覚めたときに「自分はなぜこんな生活をしているのか?」と思うこともあります。その答えがはっきり出ているわけではないし、誰にでもおすすめできるわけでもないです。けれど、どうしてこの暮らしにたどり着いたのかを、ちょっとまとめてみたいと思います。

「家賃」への疑問がきっかけでした

多拠点生活のきっかけとなったのは、「ADDress」という住まいのサブスクサービスです。不動産関係者の間でちょっとした話題になっていて、私が知ったのは2019年の初めごろ、正式サービスイン前のクラウドファンディングでした。

私は不動産関係の会社でライターとして働いています。この業界に入ったのは6年ほど前。ライター以外にも物件の仲介などいろんな業務を経験し、宅地建物取引士の資格もとりました。

その中で、上京してからの15年ほど、当たり前のように払っていた賃貸物件の「家賃」に、だんだん疑問が芽生えていました。といっても、マンションや家を自分用に購入して、何十年も同じ場所に暮らすイメージはあまりわかず、それまで住んでいた家賃9万円の横浜の1LDKから、友人が運営する家賃4万円のシェアハウスへと引っ越しをしました。

毎月の固定費が半分以下になった。それだけのことでとても「自由」を感じました。

家賃のためにフルで働かなければいけないというプレッシャーからも解放されて、フルタイム勤務の正社員を辞めて、ライター業務がメインで在宅勤務・副業OKの契約社員に切り替えをしてもらいました。

ただ家賃が安い分、面倒はありました。一応都内といっても、駅からは坂道を徒歩20分。都心へ出るには電車を乗り継いで1時間ほどかかります。会社への通勤はほぼしなくてよかったのですが、面倒なのが、出張や旅行で新幹線や飛行機に乗るとき。乗り換えが面倒で、何時間も余裕を見てスケジュールを組まなくてはならず、そのうち早朝の予定があるときは自主的に「前泊」するようになりました。

「これで東京に住んでいるメリットって何かあるのか」
「いっそのこと、地方のホテルとかゲストハウスを転々としながら暮らそうか、でもお金がかかりそうだな……」
そんなことを思っていたときに出会ったのが「ADDress」というサービスでした。

「ADDress」は、地方にたくさんある空き家を借り上げ、全国どこでも住み放題の「家」として、月額4万円で貸し出すサービスです。そのようなADDress直営の「家」以外に、ホテルやゲストハウスと連携した拠点もあります。が、基本的には直営の「家」を会員同士がシェアして利用します。自分専用でいつでも利用でき、住民票を置くことができる「ドミトリー」も持てるので、ドミトリにメインで住んで、ときどき地方の「家」でワーケーションする人、自宅は別であって別荘のように使う人など、いろんな属性の人がいます。

これはもしかしたら、理想の暮らしなのかもしれない!とピンときて、ひとまずクラウドファンディングで「お試し1カ月」チケットを購入したのが、始まりでした。

ADDressの「家」の一例
ADDressの「家」の一例。ベッドメイキングや掃除は自分で。キッチンやバスルームも共用で利用できます

「原付バイク1台分」まで荷物を減らす

「お試し1カ月」をやってみて知ったことは、「なにも所有しない生活」の意外な豊かさでした。

住まい関係の仕事をしていたこともあって、自宅の家具や器、料理道具などにはそれなりに思い入れがあり、それらをどうするか?というのが私にとっては一番のハードルに感じていましたが、「家」の維持のために、何かを買って、片付けて、何かを捨てて、また買って……という繰り返しでできていた「生活」がなくなると、一気にいろんな物欲や義務感から解放されました。

家具や不必要な家財道具は友人に譲り、どうしても捨てられない本や思い入れのあるものはレンタル倉庫に預け、残ったものは、旅行カバンひとつ分の荷物と、「駅から20分の坂道」のために買っていた原付バイク。

こうして、原付1台で全国の拠点を転々としながら生活する、本格的な多拠点生活をスタートしました。

持ち歩いているすべての荷物をまとめてみたところ。衣類と洗面用具、ライター仕事のためのPCとカメラ類
持ち歩いているすべての荷物をまとめてみたところ。衣類と洗面用具、ライター仕事のためのPCとカメラ類がすべて

必要なものが全部乗った原付1台で全国を転々としています。1年ちょっとの間に、市町村単位でなら50カ所ほどに滞在しました。

「究極に自己本位」な多拠点生活

こういう暮らし方をメディアで書くと、「楽しそうだけど誰もができるわけじゃないよね(私には、家族や仕事があるから無理)」というふうに、よく言われます。でも、私にとってはそれは逆です。もともと自由だったからこの生活を始めたわけじゃなく、いろんなものにがんじがらめになっていた生活から抜け出した先にあったのが、今の生活です。

そもそも私は、「家族がこう言うから、こうしなきゃいけない」とか、「上司がこう言うから、こうしなきゃいけない」と、いつも他人本位で行動するタイプでした。「こうでなければいけない」「こうしなければいけない」にがんじがらめになって、いつも無理をして、煮詰まってウワーとなって、逆に人に迷惑をかける、というような繰り返しをしていました。

多拠点生活は、究極に「自己本位」な暮らし方です。なにしろ「今日どこにいて、明日どこにいるか」が全部自由なので、「自分は今日、そして明日、何をして、どんなふうに生きていたいか」を毎日考える必要があるのです。

まず「昇進や昇給、ボーナスのあるフルタイム勤務の正社員」という立場を手放して、そして「毎日帰る家」を手放して、パートナーや家族も持たず、初めて自己本位に生きてみたら、「誰かと自分の人生を比較すること」から、私はやっと自由になれました。

どんなふうに暮らしているのか

今は、ADDressをいったんやめて、全国のゲストハウスに定額で泊まり放題の「HafH」というサービスを使っています。Go To トラベルが適用されて、月額5万円と少し。レンタル倉庫や私書箱サービスも利用しているので、それらを入れると毎月の固定費は6万円ぐらいです。交通費は、ほとんどを原付かLCC、フェリーを使って移動しているので、あまりかかりません。都内の家に住みながら週末、新幹線でどこかに行って帰って、としていたときより減ったぐらいだと思います。生活費も、ADDressの拠点やHafHのゲストハウスにはキッチンがあるので自炊も可能で、特に余計にかかる費用はありません。「持たない暮らし」になったことで余計な買い物が極度に減り、貯金が増えているぐらいです。

同じ場所に滞在するのは4日〜1週間ぐらい。平日も勤務時間は決まっていないので、ランチタイムやその日の仕事が終わったあとに、その土地のグルメを食べに行ったり、見たいものを見に行ったり。土日は原付で周辺をドライブしたり、次の拠点に移動したり。

多拠点生活の醍醐味は、地方でいろんな人と出会えることだ、という人が多いんですが、私にとっては違います。単に人との出会いでいうなら、インターネットや東京のような大都会の方がよほど多様性があると思います。現在は、感染拡大防止の観点からも「人となるべく会わない」「会食しない」を自分のルールにしているので、かなり特殊なアドレスホッパーだと思います。

私にとって大事なことは、その土地を自分の足で歩いて「解像度」を上げていくこと。もともと、建築やジオ・ツーリズム、インフラ・ツーリズムに興味があって、それらのスポットを巡ることがライフワークです。コロナ禍で海外に気軽に行けなくなったことに影響されて「行きたい場所には、行けるうちに行っておくことが何より正解」と思うようになりました。解像度を上げていけばいくほど、自分の興味の幅も想像力も広がります。そうすると、行きたい場所がさらに増えていきます。その繰り返しで、毎日ができています。

岡山に滞在していたときは「かんがい施設ブーム」で、いろんなかっこいい水門などを見に行っていました
その土地、その土地でいろんなブームが生まれます。岡山に滞在していたときは「かんがい施設ブーム」で、いろんなかっこいい水門などを見に行っていました
四国の秘境、吉野川「大歩危峡」
「船に乗る」ことはブームからライフワークに昇格しています。ここは四国の秘境、吉野川「大歩危峡」
北海道では空知川下り。この土地に炭鉱の起こるきっかけになった「露頭炭」
北海道では空知川下り。この土地に炭鉱の起こるきっかけになった「露頭炭」を観に行きました。そんなふうにして、その場所への解像度をどんどん上げていきます

何のメリットがあるかというと、特にはないです

アドレスホッパーの人たちの中には、カメラマンやライターも多くて、地方の人たちとの「出会い」や「つながり」から、新しく仕事を得たという話を聞いたりもします。そういうのが多拠点生活の「正しい姿」なんだろうなぁ〜と思いつつも、私の場合、「正しい姿」や「正しい生き方」から逃れ、いろいろともがいてたどり着いた先に掴んだものがこの生活だった、というだけです。

なので、なにか移動し続けることでメリットがあるかといわれると、特にはないですし、ときどき、自分でも何のためにやっているのか?と思うこともあります。でも、「何のために」とか特になくても、毎日なんとなくやることが尽きなくて、なんとなく楽しい、ということが私には重要でした。だから、何かに縛られて息苦しさを感じている人にとっては、もしかしたらこの「新しい暮らし方」は「救い」かもしれないな、とときどき思うのです。

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この記事を書いた人

田村美葉

エスカレーターマニアというちょっと変わった肩書きを持っていますが、インテリアやリノベーションが大好きです。たくさんの素敵なお部屋を取材させてもらうことがライフワークになりつつあります。 東京エスカレーター

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