1. TOP
  2. RENOSY マガジン
  3. 投資する
  4. マンション管理組合の財務状況、外からの見分け方

更新日: 2021.05.21

マンション管理組合の財務状況、外からの見分け方

マンション管理組合の財務状況、外からの見分け方

「マンション管理」をテーマにしたはるぶーのRENOSYマガジン連載の第3回です。マンションオーナーになる手前の非住民状態で、「外からマンション管理組合の財務状況」を見分ける方法についてとりあげます。

マンション管理組合の財務状況、住人じゃない人が外からみてわかるもの?

 新型コロナウイルス問題の中、三密対策のためほぼ無人状態での総会をしたりして、随分と前回から間があいてしまいました。

マンションは管理組合を買え」「管理状態のよいマンション選び」というトピックに続いて、3回目では、区分マンションを貸しに出している、区分賃貸マンションオーナーの立場からみる、「マンションの財務状況の確認方法」についてとりあげます。

ほぼ全てのマンションの修繕積立金(以下「積立金」)の徴収額には、初期設定から不足があり、いずれかの時点で値上げがなされます。

賃貸オーナ-の立場から見れば、これはそのマンションの利回りが途中で下がることを意味します。

短期保有でいずれ売却を考えている賃貸での運用者からみると、「徴収額のアップが直近におこりそうか?」「アップするとしたらどのくらい不足していそうか?」について、その組合の懐具合を知っている必要があります。

一方で、毎年管理組合から継続的に詳細な総会資料を受けとるのは所有者である区分オーナーです。しかしオーナーとは異なり、購入の検討者が入手できる情報は限られます。

購入の検討時に、非住民が「外からみて」どのようにマンションの財務状況が判断できるかを、入手できる資料別にとりあげます。

積立金の徴収はいずれ値上げされる

マンションの購入者は、管理費も、積立金もその徴収の合計額は気にしますが、その内訳には無頓着な人が多いものです。

税金みたいに不可避なランニングコストと捉えているのかもしれません。

家計に例えれば、「管理費は生活費」で「積立金は将来に備えての貯金」ですから、合計額が同じであれば“無論”積立金を沢山集めているほうが、そのマンションにとっては有利です。

例として、都内湾岸東側にある20階超え・300戸以上のタワーマンションを取り上げてみましょう。

今まで堅調に価格が上昇してきたことから、キャピタルゲインを確保しやすく、新築・築浅での賃貸運用例が多いです。全戸の3割近くでオーナーがマンション外に住んでいる、つまり分譲マンションが貸し出されて、分譲賃貸マンション化している湾岸のタワーマンションも珍しくはありません。

下の図は、知人のハルミズム氏(Twitter: https://twitter.com/harum_ism )が作成した、タワーマンションの専有面積1m2あたりの管理費と、積立金徴集金額の関係を示したものです。

画像
管理費 vs. 積立金(ハルミズム氏作成)

縦軸が積立金で、横軸が管理費です。

ほとんどのマンションが、1m2あたりの金額は積立金と管理費の合計で月額500円以下におさまっていて、例外的に500円を超えている少数のマンションは、積立金が300円/m2/月のラインでほぼ横並びです。

実はこれら500円を超えているマンションは、例外なく途中で積立金徴収を値上げしています。

お隣同士双子のように並んでいながら、面積あたりの積立金は3倍異なるといった例もあります。

長期にきちんと修繕していくためには、積立金の安い側のマンションは今後積立金が大きく値上げされる可能性が高い。お隣同士なのに。

そして、その値上げ後の積立徴収金額は、ずっと安すぎるままで長期間放置されていた場合、必要が迫っている工事時期までに積立を確保する期間が短くなる分、お隣と同じ金額では収まりません。お隣とほぼ条件が同じようなマンションなのにです。

実際に、築年数と積立金の金額を比較すると、10期目め程度までに湾岸地区のほぼ全部のタワーマンションの積立金が改定されていて、戸当たり月額1万円から1.5万円ほど高くなっていることが見てとれます(1m2あたり200円程度の値上がり)

積立金 vs. 築年数(ハルミズム氏作成)
積立金 vs. 築年数(ハルミズム氏作成)

この地区は“意識高め”の理事会が多く、落ちこぼれマンションはみられませんが、タワーでありながら1m2100円未満で10年以上放置されている例は都内でも散見されます。

これは例え賃貸運用だとしても購入を避けたほうが良い気がします。

ファミリー用のタワーマンションを、キャピタルゲインを狙う目的で短期の賃貸運用をするなら、築浅の状態でいずれ必ず部屋は売るわけです。が、この場合において、投資的観点からすると、次に部屋を買い取ってくれる人の多くは、ずっとそのマンションで暮らしていく人です。

はるぶーからすると、継続性のない設定で、築年数が経過したタワーマンションを投資目的で購入しつづけること、購入時の見た目の利回りだけよくみせかける”ババ抜き”ゲームがずっと継続できるかどうかは疑問です。

区分の賃貸マンションのオーナーからみた修繕積立金の値上げ

オーナーからみると、この積立金の値上げや一時金の徴収が、いつ・どのような変化率で起こるかは、理事会にでも入っていなければ事前に知ることは困難です。

多くの場合、総会にいきなり値上げの議題が出てきて、可決されれば、上がった徴収額で支払うことになります。

私のマンションの例で、一般の区分所有者が2倍以上の積立金の値上げを知ったのは総会の3ヵ月前です。

不動産の広告では、総会の後は「積立金値上げ予定あり」の表記になります。誰も知らない間に売って逃げるとかは困難です。

ワンルームマンションなど、オーナーがそこに住まない投資物件の指南書では、管理費等のランニングコストが月1,000円高くなるごとに、本体価格は30万円(300倍)安く指値しなさいとでてきます。

1%の金利で35年ローンを組んだ場合の毎月の返済額と、組めるローンの金額比が300倍程度だからです。

指南書と同じように考えると、上に出てきた、1~1.5万円の積立金の差はローンの金額にして300~450万円ほどの差に相当することになります。

単純計算で利回りをみて、“お得かな”で飛びついたマンションが、翌年にも大規模修繕にお金が足りませんとなって、急激な積立金徴収の値上げをしたり、さらに怖いことに多額の一時金徴収をしたりすると、短期保有目的のオーナーは影響を丸被りすることとなります。

積立金は、管理組合の貯金となるもので、売ったときに戻ってくるお金ではありません。

いわば、前のオーナーから価格に含まれた形でプレゼントされ、次のオーナーにも価格に含まれた形でプレゼントして出ていくことになるわけです。

それにも関わらず、「マンションが1戸あたりいくら蓄えをもっているか」は現在あまり市場価格には反映されていません。

それを利用して「お得なマンション」を仕入れることもできるかもしれません。そろそろ大規模修繕工事が近いのに、1戸あたりの蓄えが何百万円も違う2つのマンションがもし同じ値段で売られていたら、どちらを仕入れるべきかは自明です。

マンションBPSとは? -専有面積あたり積立金会計資産総額

積立金は、通常のマンションでも1m2あたり月200円は集めていないと後が大変という記事は頻繁にネットで見られるようになってきました。

これは国交省の出している、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」に沿ったものです。

  • 直近の消費税増税や修繕工事のコスト上昇が反映されていない
  • 新築時からずっと定額で払ってきたことを仮定している
  • 機械式の駐車場のある場合の修繕コストを含まない
  • 超高層(タワー)の修繕事例は10年前には殆ど存在しなかった 

などで、ガイドラインに出ている数字は、今となっては少し不足気味です。

超長期に必要なマンションの修繕コストを見積もると、今は普通に板型のマンション(板のように横に長い外観)で専有面積当たり200〜250円/m2/月、タワー型だと300円/m2/月かそれを超える費用がかかる長期修繕計画が普通です。

月平均2万円をずっと積立てできていないと、そのままで大規模修繕工事を何度も実施していくことはできません。

日々の生活費である管理費と異なり、積立金の場合は、現行の徴収額ももちろん大事ですが、「組合が持っている蓄えがいくらか」が最も重要です。

そのマンションの持っている積立金会計の1m2あたりあるいは1戸あたりの資産総額を、株式になぞらえて(Book-value Per Share)、面積あたりあるいは1戸あたりの「マンションBPS」と呼ぶこととします。

下の図は、上で紹介した湾岸のタワーの1戸あたりのBPSの現在と、将来の見込み額です。これらのマンションの殆どはまだ初回の大規模修繕を経験していないので、その前に高額の計画修繕の支出がある可能性は低く、直近1年での積立金会計の総額の伸びから、ある期数での積立の戸当たりの見込み額を推定することも可能です。

この図では15期目(タワーでそろそろ初回大規模修繕工事の始まる次期)の数字を比較しています。

1戸あたりBPS(ハルミズム氏作成)
1戸あたりBPS(ハルミズム氏作成)

無論全てのマンションが今のままの積立徴収とは限りませんから、将来予測は仮定の線にすぎませんが、“このままでいく”とマンションが15期になったときには、2倍ほどの蓄えの差をもつことになります。

修繕に向けての蓄えが1戸何百万も違っていたらそれは価値に繰り込んで考えるべきかなと思うのです。

タワーの初回修繕は戸当たり200〜250万円程度で実施できますが、2回目には同じ工事をしたほかに、エレベーターなどの設備更新なども入ってくるために2回目の工事は大体2倍高くなるのが普通です。

これを勘案して、ハルミズムさんは、概ね15期までに最低でも350万円程度の積み立てを有することを薦めています。

新築からの平均で月2万円ですからそう困難な数字ではありませんが、全てを積立金徴収で賄うには長期均等割りだと300円/m2/月といったかなり高額の設定が必須になります。

組合の駐車場収入の行先は?

これまでの図の中に示されたマンションの中には、実際には積立金がこの水準にはないにも関わらず、必要な積立金の蓄えを達成できているところがかなりの数あります。

これには、管理組合管理費支出の無駄をカットするなど、管理費会計を健全化して管理費会計の黒字を回しているケースのほかに、駐車場からの収入が寄与しているケースが多いです。

ほとんどのマンションは、駐車場に関わる専用の会計を持ちませんから、駐車場からの収入は、一般会計(管理費会計)に回してその場で消費してしまっている金額と、積立金として修繕のための貯金に回している金額の両方があるのが普通です。

駐車場収入の行方
駐車場収入の行方

とくに、都心部のように駐車場を高額に設定できて、しかもその多くを積立金に回せるケースでは、毎年1億円を積立しているなど、積立金の資産額の純増の多くを駐車場の大きな収益に頼っているケースがあります。

特に湾岸などでは、今は駐車場の設置率が小さくなっていますから、組合の蓄えは、直接的な積立金徴収に頼るしかないようになってきています。

ここまで組合の財務の健全性や、収益構造を読み取るには、毎年の総会資料の決算報告をじっくり読み取るしか方法がありません。

図にプロットされているタワーのBPSになにが寄与しているかをまとめたのが、がりべん氏(Twitter: https://twitter.com/garibenZ)のこの表になります。

がりべん氏の図
がりべん氏の図

「実質的な」管理費収入と、「実質的な」積立金収入を、手に入った直近の総会議案書の決算報告から比較したものです。少し上級編になるので解説については是非こちらをご覧ください。

マンションの通常総会における1号議案は決算報告になりますが、その“読み方”がわかるようになります。

情報はどこから? -管理重要調査報告書と通常総会議案書

さて、これらの“マンションの有する資産”の情報はどこから取り寄せ可能でしょうか?

過去数年分の通常総会の議案書を取り寄せできて、その数年の間での蓄えの推移を追えることが理想ですが、これは仲介の会社経由で取り寄せて必ず手に入るものではないので、たまたま部屋を売ろうとする売主が保存してくれていることを期待するしかありません。

上のがりべんさんの表は1年分の議案書内の決算報告から、資産増分などを計算して作成されていますが、その年次に特有の状況(その年だけ多くの金額を一般会計の剰余金から積立で送った、あるいは大規模修繕までいかない積立金を使った工事が多かった)がありますから、やはり3年分くらいはみたい気はします。

下の図は、私が理事会をしているマンションの過去11年間の積立金会計の推移です。11期終わりで戸当たり206万円ですが、昨年はいくつかの要因で、4,000万円弱も積立金会計の資産総額は多くなっています。そのために、例えば15期終わりでいくらかな?とみるためには、過去3年程度の増額の平均でみないと適当とはいえません。

画像
はるぶー自身のマンションの11年間の積立金会計の推移

案外オーナーも捨ててしまっていて持っていないもので、入手は意外に困難です。

この場合は管理組合に対して閲覧なり提供を頼むことになりますが、気前よく見せてくれるのは理事会がマンションの財務状況に相当な自信のある場合に限られるでしょう。

総会の議案書が入手困難な場合には、そのマンションを管理している管理会社に対して管理に係る重要事項調査報告書を依頼することになります。

宅建業法第35条と、その施工規則の最近の一部改定で、今は区分マンションの取引に関して必須の情報として、現時点での修繕積立金会計の資産総額などは、情報開示を受けることができるようになっているはずで、多くのマンションの管理組合管理会社との委託契約書には、その開示を認める条項があります。

最近、管理会社もこの書面の手数料を上げてきていて、ざっと1万円程度とちょっとお金はかかるのですが、管理費等の金額などと一緒に、マンションBPSの紹介で出てきたくらいまでの現時点での組合の資産状況の情報(推移とか中身まではわからない)を得ることができます。

ですから取り寄せを検討されるとよいかなと思います(総会資料が手に入るなら別途には不要です)。

現在の管理費や積立金の徴収額は、販売のホームページなどでも必須の情報ですから、容易に確認できますが、これだけでは、足りないのはここまでに書いてきた通りです。

最後、2〜3のマンションに絞ってどっちにしようかな?となった時に、「より組合財政が健全なほう」を買っておこうかなと判断できるよう、参考にしていただければと思います。

謝辞

Twitterでいつもやりとりしている、ハルミズムさんと、がりべんさんには、タワーマンションの長期修繕計画の相場や、湾岸マンションの積立金の動向などでさまざまな情報をいただきました。

また、マンションごとに地道に決算資料を集めて時間をかけて作成された図表を許可を得て多数引用する形でお借りしました。感謝します。

がりべんさんの note (無料で読めます)
実質管理費・実質修繕積立金・マンションBPSの解説

※本記事の情報は、信頼できると判断した情報・データに基づいておりますが、正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。法改正等により記事執筆時点とは異なる状況になっている場合があります。また本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。

この記事を書いた人

はるぶー

元々区分で大家でしたが、10年ほど前に都内の500戸超のマンションを自分用に買って初代理事長になって以来ずっと理事会の役員です。理事長同士が知り合える自主的な勉強会も運営しています。不動産投資をしている人にも伝わる管理の大切さを書きたいと思います。 Twitter:@haruboo0

Facebook Twitter Instagram LINE Mail magazine LINE