区分賃貸マンションオーナーにとって、管理状態のよいマンション選び
「マンション管理」をテーマにRENOSYマガジンで連載をはじめたはるぶーです。「マンションの資産価値とは?」「マンションは管理組合を買え」というトピックで、「管理費や積立金は単なる固定費じゃない。不動産投資でマンション管理が大切なわけ」を書いた前回に続いて、2回目では、区分賃貸マンションのオーナーの立場からみた、「管理状態のよいマンション選び」についてです。
今回は、オーナーの過半がそのマンションの住人という中古の分譲マンションに対して、区分賃貸マンションのオーナーとなる方が、その管理状況の良し悪しを、購入検討時に外から見分けるポイントについてとりあげます。
自己居住と区分賃貸オーナーの利害関係は同じ
マンションに自ら住む立場からすると、非居住の賃貸オーナーの人は、お金に厳しく、「建物の維持のために積立金の値上げなどには積極的で、管理のための支出には消極的に違いない」という「理事会側の勝手な想像」での印象があります。
ただ実際には、例えば積立金の均等割移行の値上げ議案を上程した場合には、オーナーが自分でその部屋に住んでいるのか、外に住んでいるのかで、部屋に住んでいない人の反対の割合が多いかというと、賛否の割合は意外なほど変わらないものです。
中古販売される部屋は、ある程度経年した場合には、専有部はフルリフォームされることも多く、時に100万単位の費用をかけて新築同然に綺麗にして売られます。
その一方で、エントランスからエレベーターに乗り、廊下を歩いて玄関に着くまでの「中古マンションの購入検討者を案内する動線上にあるものは、全て組合の管理する共用部分」です。
「植栽が傷んでいてがっかり」し、エレベーターに乗ったら「新築時から養生用で付けてあるパンチカーペットが古びて張り付いているのを見てがっかり」した後で、専有部分を見ることなります。
こういう導線を通ってくると、せっかく専有部分にお金をかけても、新築同様とは思ってもらえません。売るにしても、貸すにしても、購入者や賃貸の入居者となる相手は、割り引いて受け取ります。
ですから、組合がまともに共用部分をキープしてくれないと「自分で住みたくない部屋は安くしか売れない・貸せない」という点で、区分賃貸のオーナーの人も立場は同じで、利害関係は一致します。
資産価値の劣化をくいとめる管理
マンションの経年での値段の落ち方というのは長い目で見ると案外大きなもので、下記の報告では、1年に1坪あたり4万円程度値段は下がっていくとされています。
新築マンション「中古になったら2割下がる」は本当か? | ビッグデータで解明!「物件選び」の新常識 | ダイヤモンド・オンライン
賃貸オーナーになじみの単位に直すと、専有部分は長い目で見ると毎月1,000円/m2で減価していくわけです。
一方で、標準的な自己居住用のマンションの年間管理費は、購入者の懐具合に合わせて本体価格の1/250程度に設定されるのが普通です。
これは坪300万のマンションだと管理費は月に1平米あたり300円程度ということになり、単位は違いますが、数字はほぼ同じになります。
管理費会計の支出の過半は人件費です。これは、不動産の「本体価格に見合った収入層の住民に向けた、管理費水準」を定めた上で、その水準のサービスを提供できるように、人を張りつけていることを意味するわけです。
過剰でもいけませんが、安すぎると住民に見合ったサービスが提供できていない可能性があります。
マンション管理に関するWeb上の記事のほとんどは、管理費会計から支出を削減するとしばしばその削減額に比例した金額の成功報酬が入る、建築設計事務所や管理士事務所の人が書いたものです。
記事ではコストカットが前面に押し出されていますが、管理支出は無理して人減らしをするような削減をしてもせいぜい2割程度しか削減できません。元が月300円/m2ならせいぜい月50円/m2です。
メガマンション・タワーなのに、管理事務室のカウンターにいつ行っても無人だったり、だんだん管理員がお爺さんに代わっていって「ここは養老院なのか?」となったりするところまで人件費の削減・人減らしをしても、1年間に節約できる管理費は、本体価格の1/1,000にすぎません。
この結果として、マンションの値段(資産価値)の低下率が加速されるようでは全く意味がないわけです。
むしろ管理費会計から積極的な投資を行って、共用部を綺麗に維持し、時にはアップグレードもして、資産価値の低下を食い止めるほうが合理的です。
月に1戸あたり数千円ほどの管理費会計の余裕があればこれは可能ですから、専有部にだけお金をかけて、共有部は放置に近いことをするよりも、桁違いに同じお金の利用効率がよい。
賃貸で運用する人もいつかは売却してEXITするのだと考えると、管理組合の理事会がこのような考え方で運営されているマンションを買うべきだと思うわけです。
買うかどうか、訪問時の管理状態チェックポイント
区分の賃貸オーナーも、管理費等の支払いの義務はきちんと果たしているわけですから、理事会の役員になる「権利」はきちんと保証されているのは当然だと思います。
最近の標準管理規約の改定では、非居住のオーナーも理事となれるようになっているので、非常に新しいマンションでは理事会役員になれるように最初から規約が設定されるケースが多くなってきています。
一方で、古いマンションではまだまだ非居住のオーナーが理事に就任することを規約上禁止としているところも多いです。
前回の私が賃貸オーナーをしていたマンションも、私が理事会の役員になることはできませんでした。また、遠方に住んでいる場合などで、実際に毎月理事会に出席して理事としての義務を果たすことが現実的とは言えない場合も多いでしょう。
理事会の運営状況については、なかなか把握することは困難なわけですが、管理組合がしっかりしていれば、こだわる部分・気になる部分は購入前に確認が可能です。
自分が暮らすつもりで、以下の点は是非購入前に確認していただきたいと思います。
廊下やエントランスなどは、“管理会社”がまともならある程度維持されているもので、清掃状態とかはあまり“管理組合”の意識レベルを見る参考となりません。
あまり目につかない以下の部分は、管理組合が意識高くやっていないと、ごまかしの効きにくい箇所です。
(1)植栽・外構部など
経年して有利なのは「植栽が豊かだ」くらいしかないわけですから、高資産価値のマンションは例外なく植栽への拘りが強いです。余裕がないと植栽にお金はかけられず、枯らしてしまうと小さな樹からやり直すか、放置です。
長期間継続的に財政に余裕がないと、植栽を維持することはできないので、組合の財政の長期安定度の目安となります。
水景施設などは、財政が切迫してくると止められてしまって枯山水になっていたりしますが、避けたほうがよいかもしれません。実際に自分の部屋までを歩いてみて、綺麗に維持されていて、破損したまま壊れているものがないかのチェックは必須でしょう。
(2)ゴミ置き場
整然と片づけられていて、ゴミは分別されているか? 粗大ごみなどの放置はないか?
賃貸割合の高いマンションでは、引っ越し時に捨てられたままで粗大ゴミが放置されているなど、実は荒れやすいものです。
管理組合によるゴミ置場の中の注意喚起の掲示も参考になります。うちのマンションにくる中古の検討者を見ていても、ゴミ置場を見せてくれと言っている人はあまりいません。
(3)自転車置き場
自転車に管理目的のシールが貼られていて、整然と並んでいるかどうか?玄関ポーチなどに自転車の持ち込みがなされていないかどうか?
ファミリーマンションはどうしても自転車が溢れがちで、理事会の手腕の見せどころです。
玄関ポーチも含めた廊下に多数のものが放置されているようでは、スラム化が近いと考えざるを得ないでしょう。
(4)掲示板
理事会が「今なにが問題だと考えているか」の意識が強く現れる部分です。
大型のマンションであれば行事の実施などコミュニティ活動の活発度もわかりますが、特に注意すべきは、マンションの値段を護るという、資産価値保全の考え方が掲示に出ているかどうかです。
掲示板は検討する外部の人も見るわけですからなんでも掲示すればよいというものでもありません。さらに、沢山掲示が貼ってあればいいというものではなく、重要なものをイラストなどもいれてわかりやすく作成して、数を絞って整然と掲示する必要があります。
1年くらい前の掲示物が破れかけで放置されているようでは、避けたほうがよいでしょう。
私のマンションでの改善事例
以下は私のマンションでの、外構部の改善例です。
植栽だけで2,000万円以上、水景施設の漏水復旧など含めて、過去に5,000万円以上のお金をかけて改善してきていますが、1戸あたりに直せば10万円にすぎません。
改善の結果として、部屋がそれ以上高く売れるようにすれば元はとれているわけですから、積極的にお金もかけて改善は進めるべきで、それが万人に支持されて欲しいなと私は思っています。
外構部や植栽の様子は、中古販売のために写真が勝手に撮影されてしばしばネット上に掲載されるものです。
いつ撮影されたものが載せられても構わないように、いい状態をキープしなければ、次にマンションの部屋を売ろうとする人にとってみれば、組合が売ることのできる値段を下げていることになります。
前回も書きましたが、自己居住オーナーで、新築時に購入した永住志向の人は、毎日見ているから劣化が進行していることに鈍感で、一生住むのだから特に積極的な改善をしなくてもいいのだとして、とにかく1円も使ってくれるなとの声を上げがちです。
1m2100万円以上するタワーマンションで、エントランスロビーにおいてあるソファが、利用が激しく劣化が進んで傷んでいても、なかなか理事会が交換できなかったりするのは、この声が結構強いからです。
逆に、賃貸に回して運用する人はいつか必ず売るわけですから、問題があったら「これじゃ激安でしか売れないよ!」という声をぜひ理事会に届けてほしいわけです。
私のマンションでは、館銘板(建物の入り口付近にあるマンションの看板)の前にある植栽が、改善前の状態で、中古販売の写真に載っていました。元の姿は「見られると恥ずかしい」という意識が組合の理事会にないようでは、価値は維持できないと思います。
外構部・植栽・エントランスなどは誰もが見る部分です。こだわりの感じられるマンションを選びたいですね。
これまでに1戸あたり10万円くらい、「やらなくても暮らしてはいけること」にお金をかけてきました。それで1戸あたりそれだけお値段が上がったかどうかは正直にいって分かりません。
ただ、単にコストカットを頑張るというだけだと後ろ向きの仕事になって、理事会に関わる理事のやる気は出ません。お金をひねり出せは、マンションをもっとよくすることに使えるとなると、この記事を書いている理事さんのようにやる気がでます。
管理コストの節約をするのは、浮いたお金をアップグレードに使うため。この差は大きいと思うんですよね。
うちの駐車場は、今年ETCシステムを導入して自動でチェーンゲートが開いて出入りできるようになりましたし、来年は無線キーシステムを導入して、「開けゴマ」で入館できるようにしたいなと思っています。
管理費や積立金は足りているかどうか?
購入時に誰もが目にする情報から、“現時点での”管理費と、積立金の徴収額は分かりますが、その金額で足りているのかどうか、マンションの管理組合の財政状態はそれだけで判断はできません。
特に積立金が安いという理由で購入したのに、急に大規模修繕が必要で多額の一時金の徴収を迫られたり、買ってすぐに修繕積立金が激しく値上げになったりすると、賃貸での収益確保という点ではダメージが大きいはずです。
どうしたら管理組合の懐具合がわかるのかについて、誰もが取り寄せ可能な情報からの判断方法や、管理組合の通常総会の決算資料の最低限の確認方法などについて、次回にじっくり書きたいと思います。
下の図は、都内湾岸東側地区にある20階超え・300戸以上のタワーマンションの1m2あたりの積立金の徴収金額が築年数とともにどう変わっていくかを示したものです。
区分賃貸のオーナーにとっても気になる「築浅のマンションの積立金はいずれほぼ確実に値上げされる」状況は見て取れるかと思います。具体的な説明は次回にて。
(つづく)
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