不動産投資は相続税対策になる? 仕組みや注意点をシミュレーションを交えて解説
「相続税をどうやって抑えるか」は、多くの資産家やその家族にとって、大きな課題となるテーマです。財産は、現金で残すより不動産へと形を変えることで、相続税計算上の価値を圧縮できる仕組みがあります。
相続後の安定した運用のしやすさを考えれば、都市部のワンルームマンションのような不動産は有力な選択肢です。本記事では、不動産投資を通じた相続税対策の仕組みや注意点を、具体的なシミュレーションを交えて解説します。
不動産投資が相続税対策に有効な3つの理由
不動産投資が相続税対策として注目される理由は、大きく以下の3つがあります。
- 現金より相続税評価額が下がる
- 不動産を賃貸に出すことで、さらに評価が下がる
- 小規模宅地等の特例で土地の評価額が下がる
それぞれの仕組みを詳しく見ていきましょう。
1. 現金より相続税評価額が下がる
不動産は、現金で持つよりも財産の相続税計算上の価値が下がるため、相続税対策になります。たとえば、現預金1億円の相続税評価額は1億円そのままですが、不動産の評価額は時価よりも低く算定されます。
土地は路線価方式または倍率方式で評価され、建物は固定資産税評価額を用います。
土地の相続税評価額
一般的に土地は時価の約80%の評価となることが多いです。路線価は国税庁が毎年7月に公表し、道路に面した土地の1㎡あたりの評価額を示したものです。
たとえば、時価5,000万円の土地であれば、路線価による評価額は約4,000万円となり、1,000万円分を圧縮可能となる計算です。
建物の相続税評価額
建物は「固定資産税評価額」で評価され、時価の約70%の評価となります。新築時から時間がたつほど評価額は下がる傾向にあるため、築年数が経過した物件ほど相続税評価額が低くなるのが一般的です。
たとえば、時価3,000万円の建物であれば、固定資産税評価額は2,100万円程度となり、大幅な評価額の圧縮が期待できます。
2. 不動産を賃貸に出すことで、さらに評価が下がる
自身で利用する不動産よりも、第三者に貸し出している賃貸用不動産は、さらに相続税評価額が下がります。入居者がいることで、オーナーの権利(自由に処分できないなど)が一部制限されるとみなされるため、評価額が減額されるのです。
土地は「貸家建付地(かしやたてつけち)」、建物は「貸家」として扱われます。貸家建付地は「更地としての評価額×(100%-借地権割合×借家権割合)」で、貸家は「固定資産税評価額×(100%-借家権割合」で評価します。借地権割合は借主の権利割合で60~70%が一般的で、借家権割合は全国一律30%と定められていますので、貸家建付地は更地評価額の79~82%、貸家は自用家屋の70%の評価となります。この評価減を適用できるため、賃貸用不動産への投資は、より高い節税効果を期待できます。
3. 小規模宅地等の特例で土地の評価額が下がる
一定の条件を満たすことで、土地の相続税評価額を最大80%も減額できる「小規模宅地等の特例」という制度があります。主に被相続人の居住用の土地が対象ですが、賃貸アパートやマンションなどの「貸付事業用宅地等」も、200㎡(約60坪)を上限として評価額を50%減額可能です。
たとえば、賃貸用の土地の評価額が5,000万円で面積が150㎡の場合、この特例を適用すると評価額は2,500万円となり、相続税額を大幅に圧縮できます。
ただし、適用には細かい要件があるため、事前に税理士などの専門家へ相談し、ご自身の状況が該当するか確認しましょう。相続開始前3年以内に新たに貸付事業を開始した宅地等は原則として特例の対象外となるなど、注意すべき点があります。
不動産投資の相続税はいくら? シミュレーションで解説
実際に不動産投資で相続税がどれくらい変わるのか、現金で相続する場合と不動産を購入して相続する場合の2つのケースで試算してみましょう。
なお、本シミュレーションは、現金と不動産の相続税の違いをわかりやすく比較してもらうための内容になります。実際に相続税の計算・シミュレーションを行う場合には、専門家である税理士や弁護士に相談するようにしましょう。
相続人:配偶者と子2人の計3人
基礎控除額:4,800万円(3,000万円+600万円×3人)
現金1億5,000万円を相続する場合
課税遺産総額は、相続人3人の基礎控除額4,800万円があるため、1億5,000万円-4,800万円=1億200万円です。配偶者が1/2、子がそれぞれ1/4ずつ法定相続分で相続すると仮定して計算すると、相続税の総額は約1,500万円になります(配偶者の税額軽減適用前)。
1億5,000万円で不動産を購入して相続する場合
1億5,000万円を不動産(土地7,500万円、建物7,500万円)に換えて相続したとします。土地は路線価で約80%、建物は固定資産税評価額で約70%に評価されるため、相続税評価額は1億1,250万円(土地6,000万円+建物5,250万円)です。基礎控除4,800万円を差し引いて計算すると、相続税は約830万円となります。
さらに、この不動産を賃貸に出していた場合、貸家建付地および貸家として評価されるため評価額はさらに下がり、約8,400万円になります(小規模宅地等の特例適用前)。
相続税対策に向いている不動産の3つの条件
相続税対策として不動産投資を行う際、どのような物件を選ぶかが重要です。適切な物件選びができなければ、節税効果は得られても収益性が低下し、かえって資産価値を損なう可能性があります。
相続税対策に向いている不動産の具体的な条件は、以下の3つです。
- 入居者が絶えないエリアの不動産
- 流動性が高く売りやすい不動産
- 市場価格と相続税評価額の差が大きい不動産
それぞれ詳しく解説します。
1. 入居者が絶えないエリアの不動産
現金で相続するよりも評価額が低くなる不動産で相続するほうが相続税対策として有効ですが、重要なのは相続後の運用です。家賃収入を安定的に得られる物件であれば、相続後に所有し続けることも考えられます。
入居者が途切れにくいエリアの物件を選ぶことで、相続後も安定した収入を得ながら資産を保有できます。空室リスクが高い物件では、家賃収入が得られず管理費や修繕費の負担だけが残るため、相続人にとって重荷になりかねません。駅近や都心部など、需要が高く入居者が絶えないエリアの物件を選ぶことが、相続税対策と資産運用の両立につながります。
2. 流動性が高く売りやすい不動産
不動産は現金と違い、簡単に分割できません。相続人が複数いる場合、誰が相続するかで揉めたり、売却して現金で分けようにも買い手がつかず現金化できないリスクがあったりします。そのため、いざというときに売却しやすい、流動性の高い不動産を選ぶことが重要です。
特に単身者など実需層からの人気が高く、買主を見つけやすい都心のコンパクトな物件は、流動性が高い傾向にあります。投資家だけでなく、自分で住むことを目的とした購入希望者も多いため、売却時の選択肢が広がります。相続後の選択肢を広げるためにも、売りやすさは必ず意識すべきポイントです。
3. 市場価格と相続税評価額の差が大きい不動産
相続税の節税効果は、市場での取引価格(時価)と相続税評価額の差(乖離)が大きいほど高まります。この乖離は、一般的に利便性が高く、人気のある都心部の不動産ほど大きくなる可能性が高い傾向にあります。
一方、郊外や地方の物件では、時価と路線価の乖離が小さく、節税効果が限定的になるケースも珍しくありません。相続税対策を重視するなら、時価と相続税評価額の差が大きい都心部の物件を選ぶことがポイントです。
相続税対策におすすめな不動産のタイプ
相続税対策として不動産投資を検討する際、特にワンルームマンションは有力な選択肢の一つとなります。その理由は、以下のとおりです。
- 入居者が見つかりやすい
- 売却しやすい
- 物件管理の手間やコストが少ない
それぞれ詳しく解説します。
1. 入居者が見つかりやすい
都市部は単身世帯の割合が高く、ワンルームマンション投資を行うのに適しています。企業や大学が集中する都心エリアは、学生や社会人の賃貸需要が非常に安定しており、ワンルームマンションの入居者を見つけやすい環境が整っています。
景気の変動にも比較的強く、長期にわたって安定した家賃収入を期待できるため、相続後も収益資産として機能しやすいのが大きなメリットです。空室リスクが低いエリアのワンルームマンションなら、相続人も安心して資産を引き継げます。
2. 売却しやすい
相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内に申告・納税する必要があり、現金で一括納付するのが原則です。納税資金が不足する場合や、相続人間で遺産分割のために現金化が必要な場合、不動産をスムーズに売却できるかが重要になります。
ワンルームマンションは、他の不動産に比べて物件価格が手頃なため、投資家だけでなく、自分で住むことを目的とした実需層も購入のターゲットとなります。購入を検討する層が広いため、売りたいときに比較的早く、有利な条件で売却しやすいのが特徴です。
相続人が複数いて遺産分割のために現金化が必要になった場合や、納税資金の確保が必要になった場合でも、スムーズに売却できる可能性が高いことは相続対策において大きな安心材料となるでしょう。
3. 物件管理の手間やコストが少ない
ワンルームマンションは、通常、建物全体の管理組合が共用部の清掃や修繕計画を担ってくれるため、オーナーが管理に手間をかける必要がほとんどありません。一棟アパートや戸建てと異なり、建物全体のメンテナンスは管理組合に任せられるため、管理の負担が大幅に軽減されます。
また、賃貸管理に特化した会社に委託すれば、入居者募集から家賃の集金、入居後の対応まで一任できます。相続した家族が不動産経営の知識を持っていなくても、専門の会社に任せることで、手間やコストを抑えながら安定した家賃収入を得ることが可能です。
管理の煩わしさが少ないため、本業が忙しい方や遠方に住んでいる相続人でも、無理なく不動産を所有し続けられます。相続後も負担なく資産を運用できることは、ワンルームマンション投資の大きな魅力です。
不動産投資で相続税対策をする際の2つのリスク・注意点
不動産投資による相続税対策は有効な手段ですが、以下のような注意すべきリスクもあります。
- 明らかな相続税対策は無効になる可能性がある
- 相続時に共有持分になり揉める可能性もある
これらのリスクを理解し、適切に対処することで、安全で効果的な相続税対策を実現できるでしょう。それぞれ詳しく解説します。
1. 明らかな相続税対策は無効になる可能性がある
相続開始の直前に不動産を購入したり、市場価格と相続税評価額の乖離が極端に大きい物件を利用したりするなど、行き過ぎた節税行為は税務署から「租税回避行為」とみなされ、否認されるリスクがあります。
2022年4月の最高裁判例では、相続直前に多額の借入れをして不動産を購入し、相続後すぐに売却したケースで、路線価による評価が否認され、不動産鑑定評価額での課税となりました。この最高裁判決もあり、3階建て以上の区分所有マンションの評価方法が変わりました。いわゆるタワマン節税に対する対応です。
このように、節税目的が明らかな場合、通常の評価方法が適用されない可能性があります。不安な場合は、税理士などの専門家に相談し、適法な範囲での対策を講じることが大切です。
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2. 相続時に共有持分になり揉める可能性もある
一つの不動産を複数の相続人で相続した場合、その不動産は全員の「共有持分」となります。共有状態の不動産は、売却や大規模な修繕、建て替えなどを行う際に、共有者全員の同意が必要です。1人でも反対すれば実行できず、身動きが取れなくなる可能性があります。
たとえば、兄弟3人で一つのマンションを共有相続した場合、1人が売却を希望しても、他の2人が反対すれば売却できません。また、修繕が必要になった際も、費用負担や工事内容について全員の合意を得る必要があり、意見の相違からトラブルに発展するケースも少なくありません。
こうしたトラブルを避けるためにも、あらかじめ遺言書を準備しておくか、物件単位で物理的に分割しやすいワンルームマンションを複数所有するなど、分けやすい形で資産を遺す工夫が重要です。
不動産投資を始める際の投資会社選びのポイント
不動産投資で相続税対策を成功させるには、信頼できる投資会社を選ぶことが重要です。不動産会社を選ぶ際の具体的なポイントは、以下のとおりです。
- 資産価値の高い物件を提案できるか
- 管理・運営まで安心して任せられるか
- 専門家との連携したサポート体制があるか
これらの条件を満たす会社を選ぶことで、購入から相続、その後の運用までを長期的に安心して任せられるでしょう。それぞれ詳しく解説します。
1. 資産価値の高い物件を提案できるか
相続対策で重要なのは、将来にわたって価値が維持される物件を選ぶことです。そのためには、担当者の経験や勘といった主観的な情報だけでなく、客観的なデータに基づいて、なぜその物件の資産価値が高いといえるのかを論理的に説明してくれる会社を選ぶことが大切です。
豊富なデータから将来の需要や価格変動を予測し、安定した収益が見込める物件を厳選してくれるような会社であれば、より安心して任せられます。過去の実績だけでなく、データに基づいた将来予測を示してくれるかどうかが、信頼できる会社を見極めるポイントの一つです。
また、提案される物件が本当に相続税対策に適しているか、立地や築年数、利回りなどを総合的に判断してくれる会社を選びましょう。物件選びの段階で適切なアドバイスを受けることが、長期的な成功につながります。
2. 管理・運営まで安心して任せられるか
相続税対策で不動産オーナーになったとしても、管理の手間が大変で慣れない業務に追われると、オーナーの生活が大変になります。そのため、物件選びだけではなく、購入後の管理・運営からさまざまなサポート、さらには将来の出口戦略までを一貫して行ってくれる会社がおすすめです。
相続後、相続人が不動産経営の知識を持っていなくても、専門会社に任せることで負担なく運用できる体制が整っていれば安心です。長期的なパートナーとして、購入後も継続的にサポートしてくれる会社を選びましょう。
3. 専門家との連携したサポート体制があるか
相続対策は、不動産の知識だけでなく、税務や法務といった専門的な知識が複雑に絡み合います。不動産会社が、相続に詳しい税理士や司法書士などの専門家と連携しており、必要に応じて紹介してくれる体制が整っていると非常に心強いでしょう。専門家のネットワークが充実しているかどうかも、会社選びの重要なポイントです。
RENOSYの相続対策
不動産投資の相続税対策は専門家に相談しながら進めてみましょう
不動産投資は、現金で保有するより相続税評価額を大幅に圧縮できるため、効果的な相続税対策となります。特に賃貸用不動産は評価額がさらに下がり、小規模宅地等の特例も活用できれば、大きな節税効果が期待できます。
ただし、相続開始直前の購入や極端な節税目的の取引は、税務署から否認されるリスクがあるため注意が必要です。また、物件選びを誤ると収益性が低下し、相続人の負担になる可能性もあります。
相続税対策は長期的な視点で、不動産の専門家や税理士に相談しながら進めることが重要です。適切なタイミングで資産価値の高い物件を選び、安心できる相続対策を実現しましょう。
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