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作成日: 2022.07.28

最高裁の判決に業界激震、不動産相続に路線価は認められない!?

最高裁の判決に業界激震、不動産相続に路線価は認められない!?

2022年4月19日、不動産の相続を巡っての裁判で最高裁の判決が下り、納税者が敗訴となりました。この判決結果を受け不動産業界には激震が走りました。なぜかというと、納税者はルールに則って相続税の計算をしていたのに、納税者の主張が否決されたからです。争われた内容と、今後の対策について解説します。

相続税の基本

相続人が被相続人から財産を相続する場合、引き継ぐ財産の合計が以下の金額を上回るときに、相続税がかかります。

(3,000万円+(600万円×法定相続人の数))≦(プラスの財産)-(マイナスの財産)-葬式費用*

*マイナスできるもの:
借金や未払金、被相続人が納めるべきものでまだ納めていない税金。葬式費用は、お寺などへの支払、葬儀社などへの支払、お通夜に要した費用など。墓地や墓碑などの購入費用、香典返しの費用や法要に要した費用などは、葬式費用に含めません。

相続税がかかるとわかったら、税務署に「相続税の申告書」を提出し納税するのがルールです。納税期限も決まっていて、相続開始を知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10カ月目の日までとなっています。

相続税の対象

相続税の課税対象は、金銭に見積もることができるすべての財産です。具体的には現金や預貯金、株式や債券などの有価証券、土地や建物などです。日本国内はもちろん、日本国外にある財産も相続税の課税対象となります。

相続財産の評価

被相続人から相続を受ける際、相続税を払う必要があるかどうかを明らかにするためにも、相続財産の金額を把握する必要があります。引き継ぐ財産の価値はいくらかを明らかにする際、その見積価格は基本的には「時価」となります。

(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

引用:相続税法 | e-Gov法令検索

法律は大まかな考え方のみが示されていることも多く、個別具体の案件に実務レベルで対応するには「法令解釈通達」という実質的な細かなルール、いわば実務者向けのマニュアルに則って考えることが必要となります。そのマニュアルの一つに、相続財産の評価に関する「財産評価基本通達」があります。

参考:第11章 財産の評価|国税庁(PDF)

土地と建物の評価

土地と建物に対しての金額の割り出し方も、財産評価基本通達に記されています(評基通13、14、15~18、21、21ー2、88、89)。

土地の評価を割り出す方法は2種類あり、「路線価方式」と「倍率方式」があります。路線価方式は、路線価が定められている地域の評価方法です。倍率方式は、路線価が定められていない地域の評価方法です。

ただ、財産評価基本通達6には、2つの評価に当てはまらない場合の取り決めが書かれています。

(この通達の定めにより難い場合の評価)
6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

引用:法令解釈通達|相続税・贈与税関係|財産評価|国税庁(太字は筆者)

2022年4月最高裁判所での争点は、この基本通達6が適用されるか否かというものでした。

2022年4月最高裁で納税者が敗訴した判例

最高裁までの流れ

最高裁で争われるまでの大まかな流れは次の通りです。

  • 2009年1月、Aは不動産を8億3,700万円で購入(信託銀行から6億3,000万円借入れ)
  • 2009年12月、Aは不動産を5億5,000万円で購入(信託銀行から3億7,800万円・5人の共同相続人のうち1人から4,700万円を借入れ)
  • 2012年6月にA(被相続人)が死亡(94歳)
  • 2013年3月7日、共同相続人の1人が、乙不動産を5億1,500万円で第三者に売却
  • 2013年3月11日、共同相続人らは2つの不動産を「路線価」で評価、課税価格の合計額約2,826万円で相続税「0円」で申告
  • 2016年4月、税務署は、共同相続人らに相続税の各更正処分・過少申告加算税の各賦課決定処分をした
  • 2016年7月、共同相続人らは税務署の処分を不服とし、審査請求、処分の取り消しを求めた
  • 2017年5月23日、国税不服審判所は審査請求を棄却
  • 共同相続人らは国税不服審判所の裁決の取り消しを求めて、地方裁判所へ提訴
  • 2019年、共同相続人らは高等裁判所へ控訴
  • 2020年、共同相続人らは最高裁判所へ上告
  • 2022年4月、最高裁で共同相続人ら敗訴決定

節税を目的とした購入だった

A(被相続人)は、不動産の売買・賃貸借・不動産管理などを行う会社の代表取締役だった2008年5月、信託銀行に相談にでかけます。その際、孫の代まで事業を承継させたいことと、遺産分割や相続税の心配を伝えています。その後、2009年に2物件を購入します。

Aは、死亡する約3年5カ月前に甲不動産約2年6カ月前に乙不動産を購入しています。それぞれ信託銀行から借入れもしています。相続とは、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎます。銀行からの借入れは、その他の財産と相殺されることをわかったうえでの買い方で、そして乙不動産はAの死亡から約9カ月後に売却されています。

2物件の購入の際、銀行の担当者が作成した「貸出稟議書」には、「相続対策のため不動産購入を計画、購入資金につき借入れの依頼があった」旨が書かれています。借入れの目的が相続税の負担の軽減を目的とした不動産購入の資金調達という認識を、Aは銀行と共有していたことになります。

評価方法の違いによる評価額比較

共同相続人らは、Aの遺産相続のうち、2つの不動産の価格を財産評価基本通達に則り、路線価方式で申告しました。

購入価格と、評価方法の違いによる評価額比較

甲不動産 乙不動産 甲乙の合計
購入価格 8億3,700万円 5億5,000万円 13億8,700万円
路線価方式による評価額 2億4万1,474円(鑑定評価額の26.5%) 1億3,366万4,767円(鑑定評価額の25.8%) 3億3,370万6,241円
鑑定評価額 7億5,400万円 5億1,900万円 12億7,300万円

路線価による評価では、甲乙どちらの不動産も鑑定評価額の30%にも満たず、税務署は「著しい価額の乖離がある」と判断しました。

そこで、国税庁長官の指示によって税務署は、不動産鑑定評価基準に沿った不動産鑑定士による評価を出しました。その金額が上記3番目の「鑑定評価額」です。

(ニ) 原処分庁は、本件各更正処分において、国税庁長官の指示を受けて別表5の「原処分庁主張額」欄のとおり、本件各不動産を評価した(以下、原処分庁が評価した小規模宅地等特例を適用する前の本件各不動産の価額を「本件各原処分庁評価額」という。)。
 なお、本件各原処分庁評価額は、本件各鑑定評価額と同額である。

引用:(平成29年5月23日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

ウ 札幌南税務署長は、上記指示により、平成28年4月27日付けで、上告人らに対し、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準により本件相続の開始時における本件各不動産の正常価格として算定した鑑定評価額に基づき、本件甲不動産の価額が合計7億5400万円、本件乙不動産の価額が合計5億1900万円(以下、これらの価額を併せて「本件各鑑定評価額」という。)であることを前提とする本件各更正処分(本件相続に係る課税価格の合計額を8億8874万9000円、相続税の総額を2億4049万8600円とするもの)及び本件各賦課決定処分をした。

引用:令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件 令和4年4月19日 第三小法廷判決(PDF)

また、不動産購入から借入れまでの一連の行為が相続税の圧縮を目的とした節税対策であるとも判断されています。

税務署は、ほかの納税者と比較し、公平を著しく害するとしました。

ほかに多額の財産を保有せず同様の方法を採った場合にも結果としてほかの相続財産の課税価格の大幅な圧縮による相続税の負担の軽減という効果を享受する余地のない納税者との間での租税負担の公平を著しく害し、また、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の機能に反する著しく不相当な結果をもたらしている。

引用:(平成29年5月23日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

最高裁の判断

最高裁の判断を列挙します。

租税法上、「平等原則」(日本国憲法第14条第1項「すべて国民は、法の下に平等」とあるところから、租税負担平等主義の原則が導かれる)があり、「同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求する」と解釈される。

財産評価基本通達は、相続財産の評価額を決める方法を定めたもので、課税庁(国税庁や税務署など)が通達に従って画一的に評価を行っている。課税庁が特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の方法で評価した価額を上回る価額によるものとすることは、合理的な理由がない限り、平等原則に違反するものとして違法というべきである。

財産評価基本通達による画一的な評価を行うことが、実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合は、合理的な理由があると認められるから、評価通達による方法の価額を上回る価額となっても、平等原則に違反するものではない。

財産評価基本通達の評価額(通達評価額、本件は路線価による評価)と不動産鑑定評価額の間に大きな乖離があるけれど、その点だけをもって平等原則に反する事情があるとは言えない。

2物件の購入と借入れがなければ、Aの相続にかかる課税価格の合計額は6億円を超えた。にもかかわらず、2物件の評価を、財産評価基本通達で定めた方法で評価すると、課税価格の合計額は2,826万1,000円、基礎控除の結果、相続税0円になる。共同相続人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべき。

そして、Aと共同相続人らは、Aの相続時に相続税の負担を軽減、もしくは免れさせると知り、税負担の軽減を期待して、2物件を購入・借入れを行ったと言える。そうすると、財産評価基本通達の定める方法の画一的な評価は、同様の行為をできない他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、平等原則に違反せず、鑑定評価額は適法であるとした。

参考:(平成29年5月23日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所
参考:令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件 令和4年4月19日 第三小法廷判決(PDF)

業界に激震が走った理由

上記の判例を受け、不動産業界にどのような激震が走ったかというと、次のような点です。

最も大きな衝撃としては、相続人が相続物件を売却していない不動産に対する評価まで、通達評価額(路線価による評価)が否認され、不動産鑑定評価額となったことです。

不動産鑑定評価額とは、時価に近い、取引価格に近い価格です。売買の取引がない不動産(甲不動産)に対して、不動産鑑定評価額が適用されたということが関係者には驚きでした。

これは一連の行為に対して、総合的に判断されたということです。

  • 不動産購入の際に借入れをした
  • 信託銀行の資料に節税目的との記録があった
  • 90歳という高齢
  • Aの死亡後9カ月で、相続した2物件のうち1物件を売却した

これらが揃ってしまったことで、租税回避行為(節税目的)と意図が明らかとみなされ、「否認」につながったのではないかといえます。

甲不動産と乙不動産の購入時期は11カ月しか離れてないので、購入時期が近いとみなされ、不動産鑑定評価額が適用されたと考えられます。

今後、全体的なバランスが大事

税金対策をしたい人に向けて、不動産が売れなくなるのかと不動産業界では激震が走っています。少なくとも、「節税対策として不動産を購入することは、100%安全な方法で絶対OK」とは言えなくなります。

税理士としては、「最高裁の判例があって、リスクがあることは知っておくべきです」と伝えることになります。

税務署に否認されないためには、

  • 亡くなる直前に不動産を買わない
  • 被相続人側の資料として、節税目的という資料は残さない
  • 死亡後10カ月内には売らない

など、「やりすぎ」をしないことがポイントとなります。相続金額が3億円、4億円といった大きい金額に対して、「借入れによる購入」「死亡後間もなくの売却」は租税回避行為とみなされるリスクがあります。状況証拠が揃うと、今後も否決される可能性はあります。

税務署も、「最高裁での判例」をもとに、税務調査で否認しやすくなると考えられるため、「やりすぎはあかん」ということになります。

不動産の相続税評価に路線価評価額が使えない!?

今回の判例を受けても、財産評価基本通達の改正は現時点では行われていません。そのため、相続の際には財産評価基本通達に沿った評価、つまり路線価による評価を引き続き行うケースは多いでしょう。

ただ繰り返しになりますが、著しく節税目的の行為を行っているとみなされた場合には、財産評価基本通達による方法以外の方法で評価するよう、指摘が入る可能性はあります。

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この記事を書いた人

中井哲也 公認会計士・税理士

公認会計士・税理士。同志社大学経済学部を卒業。国内大手税理士法人に約12年勤務。富裕層、未上場会社、上場会社の対応案件を多数経験。メガバンク系証券会社、銀行にも出向、上場オーナー、未上場オーナーの事業承継、資産形成の業務に従事。 2021年7月に中井哲也公認会計士税理士事務所を開設。富裕層の手残りを増やすアドバイスには定評がある。 趣味は税金の勉強と筋トレです。

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