1. TOP
  2. RENOSY マガジン
  3. お金と制度
  4. 遺産相続の税金を計算する流れを解説。知っておきたい特例も

公開日: 2022.07.21

遺産相続の税金を計算する流れを解説。知っておきたい特例も

監修:
窪 孝史 (公認会計士・税理士/税理士法人オフィスネクスト)
遺産相続の税金を計算する流れを解説。知っておきたい特例も

遺産を引き継ぐと、相続人は遺産総額に応じた相続税を支払います。では各法定相続人の相続税額はどのように計算するのでしょうか? 本記事では遺産総額から税金を算出する流れや、宅地などを相続した際に活用できる特例について解説します。

遺産相続で発生する相続税

遺産相続で発生する相続税

「遺産相続」とは、被相続人(亡くなった人)の財産を相続人が引き継ぐことです。相続人には「相続税」の納税義務が課せられるため、生前から家族・親族内で相続について話し合っておく必要があるでしょう。

相続税は一定の額を超えた場合のみ発生

被相続人から、現金や不動産、有価証券などの財産を受け継いだ場合、相続人は受け取った財産額に応じた相続税を納めなければなりません。相続税には、相続した財産の一部を税金として国に納め、社会のために広く役立てるという目的があります。

ただ、財産を相続したからといって、すべてのケースで相続税が発生するわけではありません相続税には、一定の金額までは相続税がかからない「基礎控除額」が設けられています。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

法定相続人が1人のみの場合、基礎控除額は3,600万円です。3人の場合は、3,000万円+(600万円×3人)となり、4,800万円となる計算です。この場合、4,800万円を超えた部分にのみ、相続税が課税されます。

相続と生前贈与、どちらがよいか?

財産を子どもや孫に残す方法には、「相続」と「生前贈与」の2パターンがあります。生前贈与では「贈与税」が課税されますが、相続税と同様に一定の基礎控除が設けられています。

贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、後者は一定の条件を満たした場合にのみ選択が可能です。

暦年課税とは、1月1日~12月31日に贈与された財産の合計額に応じて課税する方式で、年間110万円の基礎控除があります。つまり、基礎控除の範囲内で毎年少しずつ贈与を行えば、贈与税を納めずに済む可能性があるのです。ただし、継続的・計画的な贈与と判断された場合、基礎控除額を超えていなくても暦年贈与が認められませんので注意が必要です。

なお、「令和4年度税制改正の大綱」では、相続税贈与税の一本化へ本格的な検討を進めると明示されており、将来的には暦年贈与した財産にも相続税が課税される可能性があります。

贈与と相続のどちらが税金を低く抑えられるかは、個々の事情によって異なります。基礎控除額や税率だけを見て単純に比較できるものではないため、税金がいくらかかるのかを実際に計算してみることが大切でしょう。

相続税の計算式

相続税の計算方法には、被相続人の遺産総額に対して課税する「遺産課税方式」と、各相続人が取得した遺産額に対して課税をする「遺産取得課税方式」があります。

日本では遺産取得課税方式に基づく「法定相続分課税方式」という特殊な方式を採用しており、遺産総額に税率を掛けて算出するだけの単純なものではありません。この方式による税額算出の大まかな流れは以下の通りです。

  • 正味の遺産から「課税遺産総額」を算出する
  • 相続人が全員で納める「相続税の総額」を算出する
  • 相続税の総額を「実際の相続分」で按分して各自の納税額を出す

相続税は現金での一括納付が原則です。現金額が不足する場合は、不動産などの売却で納税資金を確保する必要があるため、できるだけ早いうちに概算額を把握しておきましょう。

相続税の計算の準備

相続税計算の準備

相続税の計算にあたり、「課税遺産総額」を算出するのが最初のステップです。そのためには「遺産額」と「法定相続人」を正確に把握する必要があります。

遺産総額の把握

まずは故人の「遺産額」を把握しましょう。遺産額とは、相続・遺贈で得た財産(遺産総額+相続時精算課税の適用を受ける財産の価額)から「債務」「葬儀費用」「非課税財産」を差し引いたものです。

ここでいう非課税財産とは、「日常礼拝をしている物(墓地・墓石・仏壇など)」や「公益目的の事業に使われることが確実なもの」「非課税枠内で相続人が受け取る死亡保険金・退職金」などを指します。

遺産額を把握したあとは、遺産額に「相続開始前3年以内の贈与財産」を加え「正味の遺産額」を算出しましょう。正味の遺産額が基礎控除額以下の場合、相続税はかかりません。

法定相続人の把握

「法定相続人」とは、民法で規定された被相続人の財産を相続できる人です。遺言書がない限りは、法定相続人の間で遺産を分割します。

法定相続人に該当するのは、「配偶者」と「血族」です。故人の配偶者は必ず相続人になり、配偶者以外の血族は以下の順序で相続人になります。また、内縁関係の人は相続人に含まれません。

  • 第1順位:死亡した人の子ども。子どもがすでに死亡している場合、その子どもの直系卑属(子や孫など)
  • 第2順位:死亡した人の父母・祖父母など(直系尊属)
  • 第3順位:死亡した人の兄弟姉妹。兄弟姉妹がすでに死亡している場合、その人の子ども(被相続人の傍系卑属)

法定相続人の数が多ければ、その分、控除額も大きくなります。

課税遺産総額を算出

正味の遺産額と法定相続人の数を把握したら、「課税遺産総額」を求めます。課税遺産総額とは、相続税の課税対象となる遺産額のことです。

  • 課税遺産総額=正味の遺産額-基礎控除額
  • 基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

例えば正味の遺産総額が6,000万円、法定相続人が2人の場合、基礎控除額は4,200万円です。したがって、課税遺産総額は1,800万円ということになります。

相続税の総額を計算

相続税の総額を計算

相続税は、課税遺産総額に相続税率を掛けて求めるのではなく、「相続税の総額」を算出したうえで計算をするのがルールです。

流れとしては、「法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額」を算出したあと、「相続税の総額の基となる税額」を算出し、最後に算出税額を合算して「相続税の総額」とします。

計算上の取り分は「法定相続分」を使う

民法に定められた遺産総額の相続割合は「法定相続分」とよばれます。まずは、以下の法定相続分を基に、それぞれの取得金額を計算しましょう。

法定相続人 法定相続分
配偶者と子ども 配偶者:1/2 子ども:1/2
配偶者と直系尊属 配偶者:2/3 直系尊属:1/3
配偶者と兄弟姉妹 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4

子ども・直系尊属・兄弟姉妹が2人以上の場合は、均等に分割します。例えば、課税遺産総額が1,800万円で、配偶者と子ども1人で分ける場合は、配偶者が900万円、子どもが900万円です。

子どもが3人いた場合は、子ども全員で900万円を均等に分割するため、子ども1人につき300万円となります。

それぞれの税額を算出し、合計する

法定相続分に応じて各法定相続人の取得金額を計算したあとは、国税庁が公開する「相続税の速算表」を活用して、それぞれの相続税を算出します。

  • 相続税額=法定相続分に応ずる取得金額×相続税率-控除額
法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

ここでの相続税は、「課税遺産総額を法定相続分通りに取得した」と仮定した場合の税額です。「法定相続分」は、取り分の目安として国が定めたもので、必ずしも法定相続分に従って遺産分割しなければならないわけではありません。相続人の間で合意があれば、分割の割合は自由に決められます。割合によっては、実際の納税額とは異なることがある点に注意しましょう。

速算表で相続人ごとの税額を算出したあとは、それぞれを合算して「相続税の総額」を求めます。

参考:No.4155 相続税の税率|国税庁

実際に支払う相続税を計算

実際に支払う相続税を計算

次のステップでは、「実際の受け取り分」に基づいた各人の負担分を算出します。相続税には個人の事情に基づいた控除や特例があり、相続税が大きく軽減される場合もあります。

相続税総額を実際に取得する財産の割合で分ける

相続税の総額がわかったら、「実際に取得した財産の額」に応じて、各人が負担する相続税を算出します。例えば相続税の総額が3,000万円で、配偶者(妻)と子ども2人で相続したと仮定しましょう。

  • 配偶者(妻):3,000万円×1/2=1,500万円
  • 子ども(1):3,000万円×1/4=750万円
  • 子ども(2):3,000万円×1/4=750万円

按分割合で計算すれば、課税金額は上記の通りになりますが、相続税には「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」があります。

実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円以下、または配偶者の法定相続分相当額以下の場合には、配偶者に相続税はかかりません(相続税の申告書の提出が必要)。

そのほか「未成年者控除」や「障害者控除」など、社会的立場を配慮した控除制度があります。

参考:財産をもらったとき|国税庁

特例を活用する場合

相続で取得した財産の中に、相続開始の直前に被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の「事業の用」「居住の用」に供されていた宅地等がある場合、一定の面積までの部分は「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(以下、小規模宅地等の特例)」が適用されます。

相続税の課税価格を計算する際、「相続開始の直前における宅地等の利用区分」「要件」「限度面積」によって、その宅地等の評価額が50~80%減額されるため、相続税の負担は大きく軽減されるでしょう。

小規模宅地等の特例は、申請して初めて適用される制度です。適用可否の判断は複雑なものなので、相続税を専門とする税理士にサポートを依頼するのが賢明といえます。

参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

概算値を知って相続に備えよう

概算値を知って相続に備えよう

相続税は引き継ぐ遺産が多ければ多いほど、金額も上がっていきます。実際、「納税額が多すぎて、納税資金の調達に苦労した」という事例もあるため、できるだけ早い段階で概算値を把握しておくのが望ましいでしょう。

土地の評価や税額計算が難しいと感じた場合は、税理士や税理士登録している相続専門の弁護士に相談することをおすすめします。

※本記事の情報は、信頼できると判断した情報・データに基づいておりますが、正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。法改正等により記事執筆時点とは異なる状況になっている場合があります。また本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。

この記事を書いた人

RENOSYマガジン編集部

「不動産やお金の疑問をわかりやすく解決するメディア」を掲げ、本当にためになる情報の提供を目指すRENOSYマガジン編集部。税理士やファイナンシャルプランナーの人たちと共に、中立・客観的な視点で「不動産とお金」を解説、読んでいる人が自分の意思で選択できるように日々活動している。

Facebook LINE Mail magazine LINE