不動産の生前贈与とは? 生前贈与の特徴と手順などを解説
生前贈与をすることで相続税の節税効果が見込めますが、不動産を生前贈与することはできるのでしょうか。不動産を生前贈与する際は、正しい知識を身に付けることが大切です。この記事では、不動産の生前贈与の特徴や、メリット・デメリットを解説します。
不動産の生前贈与とは
生前贈与とは、生きている間に所有している財産を他者に贈与することです。贈与の対象にはお金や有価証券以外に、不動産も含まれます。
不動産の生前贈与の仕組みや流れについて理解を深めるためにも、まずは不動産の生前贈与について概要を確認しましょう。
不動産を所有者から生前に譲り受けること
不動産の生前贈与とは、家や土地といった不動産を、所有者が存命のうちに特定の人が譲り受けることです。
不動産の所有者が死去し相続が発生した場合、その不動産は相続人に引き継がれます。そのため、所有者から相続人に譲り渡されるタイミングを事前に予測することはできません。
しかし生前贈与では、不動産の所有者が希望通りに不動産を特定の人に譲り渡すことが可能です。
不動産を生前贈与するメリット
相続ではなく、生前贈与で不動産を譲り渡すことにはどのようなメリットがあるのでしょうか? 不動産を生前贈与するメリットについて解説します。
特定の人物に財産を譲り渡せる
被相続人の死後に相続する形になると、相続の優先順位が決まっているため、例えば妻や子供が生存している場合は孫や第三者に不動産を譲ることは難しいでしょう。遺言書に相続について意思を残す場合でも、遺留分があるためすべてを渡すことは困難です。
生前贈与であれば贈与者の意思が尊重されるので、確実に特定の人に不動産を譲り渡すことが可能です。
好きなタイミングで財産を譲り渡せる
不動産を譲り渡す方法として相続を選択した場合、譲り渡すタイミングは相続発生のタイミング(所有者が死去したタイミング)のため、明確ではありません。
しかし生前贈与の場合、贈与者または受贈者にとって都合のいいタイミングで不動産を譲り渡すことが可能です。
例えば、不動産の評価額が下がったタイミングで贈与すれば、贈与税を抑えられます。お互いにとって都合のいいタイミングで贈与できるのが、生前贈与の強みです。
節税効果が期待できる
生前贈与で暦年贈与を選択した場合は、毎年110万円までの贈与については贈与税が課されません。
暦年贈与以外にも「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」という特例を利用できる点もメリットです。
この特例では、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用の不動産を贈与した場合の配偶者控除を利用すれば、最高2,110万円(最高2,000万円まで配偶者控除と基礎控除の110万円)までの不動産の贈与に対して非課税になります。
通常、相続開始3年以内の贈与は相続税の課税価格に加算されるルールが設けられています。ですが、この特例は相続税の生前贈与加算の対象外です。
この特例を利用すれば相続開始前3年以内であっても、相続税の課税価格への加算はされないことも注目すべき点といえます。
参照:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
不動産を生前贈与するデメリット
不動産は必ず生前贈与すべきとは言い切れません。デメリットも伴うため、メリットとデメリットを把握したうえで総合的に判断することが大切です。不動産を生前贈与するデメリットを解説します。
生前贈与はかかるコストが相続時よりも高い
不動産を生前贈与すると、受贈者に対し不動産取得税や登録免許税などが課されます。不動産取得税は不動産を取得した場合に課される税金で、登録免許税は名義変更の登記を行う際に課される税金です。
例えば相続の場合、登録免許税は0.4%ですが贈与の場合は2%と5倍になってしまいます。また不動産取得税は相続の場合は非課税ですが、贈与の場合は1.5%~4%かかります。
贈与は相続とは異なり優遇策がないため、費用負担が大きくなる点に要注意です。
相続税よりも贈与税の方が負担が大きい
贈与税と相続税は、ともに取得金額が大きくなるほど税率が高くなる超過累進課税が適用されています。最高税率はともに55%ですが、最高税率が適用される金額は以下のように違います。
- 相続税:6億円超
- 贈与税:一般贈与財産(直系尊属以外からの贈与)は3,000万円超
- 贈与税:特例贈与財産(直系尊属からの贈与)は4,500万円超
最高税率が適用される水準は贈与税の方が低く、多額の税金が発生する可能性が大きくなる点には留意しておきましょう。
参照:No.4155 相続税の税率
参照:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
贈与方法によっては相続税の課税対象になる
不動産の生前贈与を行うにあたり、不動産を売却して現金化し暦年贈与するという方法があります。この方法を選択した場合、毎年110万円までを非課税で贈与可能です。このように渡し方を工夫することによって、贈与税の負担を軽減できます。
しかし前述したように、贈与者が死去する前3年以内に贈与した財産は相続税の課税対象となるので注意が必要です。生前贈与を検討しているのであれば、早めに取り組みましょう。
また、不動産売却時には「譲渡所得税」が課せられるほか、売却で得た現金を贈与する場合は「贈与税」の対象ともなるので、慎重な検討が必要となります。
不動産の生前贈与に向いているケース
不動産の生前贈与は誰にでも向いている方法というわけではありません。選択したことで逆に税負担が大きくなるケースもあるため、生前贈与が向いている状況を事前に把握しておくことが大切です。
不動産の生前贈与に向いているケースについて詳しく見ていきましょう。
値上がりが期待される不動産
不動産をそのまま生前贈与する場合、贈与税の税負担が大きくなるため、「相続時精算課税制度」を選択するのが一般的です。
相続時精算課税制度とは、贈与時に評価額を算出し、相続時に贈与時の評価額を相続財産に上乗せして相続税を課す課税方式です。
相続発生時の価格が贈与時よりも上がっていれば税負担を軽減できるため、値上がりが期待できる不動産を所有している場合に適しています。
家賃収入を得ている不動産
所有しているのが居住用不動産ではなく、家賃収入を得ている投資用不動産の場合は、早く譲り渡すことで家賃収入を受贈者が得られるようになります。将来の相続税の課税価格から外れるため、相続税額を抑えることにもつながるでしょう。
投資用不動産で得られた家賃収入を贈与する場合には、贈与税の課税対象となりますが、投資用不動産を贈与したあとは受贈者が自分の所有物から得た収入なので、所得税の課税対象です。
自分ではなく、子や孫の資産を増やしたいと考えている場合は、家賃収入を得ている不動産を生前贈与するのも選択肢の一つといえるでしょう。
相続財産が基礎控除の範囲内に収まる
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除があります。
生前贈与する際、基礎控除の範囲内に相続財産が収まる場合、将来的に相続税を課されることはありません。そのため相続時精算課税を選択しても、相続税の心配は不要です。
所有者が早く替わることで、不動産(資産)の活用をより有意義にできる可能性があるので、早めに名義変更するのもおすすめです。
不動産の生前贈与の流れ
不動産の生前贈与を選択する際には、正しい手続きを踏まなければペナルティーがあるので注意が必要です。不動産の生前贈与を行う流れについて見ていきましょう。
贈与契約書を作成する
贈与契約は口約束でも成立します。しかし、名義変更手続きを行う際に「登記原因証明情報」という書類の提出を求められるため、登記原因証明情報に該当する「贈与契約書」を作成しなくてはなりません。
贈与契約書には、所在地や面積など不動産の詳細を記載しなくてはならないため、不動産の情報が記載された登記事項証明書を事前に法務局で取得しておきましょう。
名義変更の登記を行う
贈与によって不動産の所有者が変更したことを証明するためには、名義変更手続きを行う必要があります。申請先は対象となる土地を管轄する法務局で、登記に必要なのは以下の書類です。
- 登記申請書
- 登記識別情報または登記済証
- 固定資産評価証明書
- 登記原因証明情報(贈与契約書)
- 贈与者の印鑑証明書
- 受贈者の住所証明情報(住民票や戸籍抄本)
- 委任状(司法書士に委任する際)
二度手間にならないように、漏れがないか確認してから登記に臨みましょう。
贈与税を申告する
生前贈与の際は、原則的に確定申告が必要(非課税の場合は不要、控除を利用した場合は必要)です。申告が必要であるにもかかわらず申告しなかった場合、無申告加算税や延滞税、不正行為があった場合は重加算税などのペナルティーが科されます。
不動産の生前贈与では、贈与税以外にも不動産取得税、登録免許税、司法書士への報酬などの費用が発生するので、いくらかかるのかも事前に確認しておきましょう。
生前贈与をよく理解してから選択しよう
不動産の生前贈与は、相続税の節税対策の一つです。しかし、不動産の生前贈与にはメリットとデメリットの両方があり、必ず恩恵を受けられるわけではありません。
メリット・デメリット、向いているケースなどを踏まえたうえで、生前贈与すべきか否かを総合的に判断することが大切です。
不動産の生前贈与を行う際は、贈与契約書の作成や名義変更などの手続きが必要です。贈与税の申告をしなかった場合にはペナルティーがあるので、手続きの流れを理解してから生前贈与に取り組みましょう。
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