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公開日: 2022.07.20

法定相続人とは。確認方法や相続順位のルール、法定相続分を解説

法定相続人とは。確認方法や相続順位のルール、法定相続分を解説

遺産分割を行う際は、法定相続人を正しく把握することが重要です。相続人調査をしないまま手続きを進めた場合、遺産分割協議が無効になったり、相続トラブルに発展したりする可能性があります。法定相続人の範囲や優先順位について解説します。

法定相続人とは

法定相続人とは

遺産相続では原則的に、「法定相続人」が財産を引き継ぎます。法定相続人の範囲や相続順位は民法によって定められており、すべての法定相続人の合意がなければ遺産分割協議は行えません。法定相続人の定義と範囲を確認しましょう。

法律で定められた相続人のこと

法定相続人とは「民法で定められた相続人」のことです。故人の財産は法定相続人が引き継ぐのが原則で、それ以外の人物が財産を取得するのは、故人が遺言書を残していた場合に限られます。

遺言により財産を残す方法を「遺贈(いぞう)」といい、遺言をした人は「遺贈者」、遺贈で財産を取得する人は「受遺者(じゅいしゃ)」とよばれることも覚えておきましょう。

遺言書がない場合、法定相続人同士で協議(遺産分割協議)を行い、誰がどのように遺産を引き継ぐかを決定します。

相続の順位が決められている

法定相続人には、民法で定められた「優先順位」があります。以下は、法定相続人の範囲と優先順位です。

  • 第1順位:故人の子ども
  • 第2順位:故人の直系尊属(父母・祖父母など)
  • 第3順位:故人の兄弟姉妹

後ほど詳しく説明しますが、故人の「配偶者」は必ず相続人となります。配偶者以外は、相続放棄をした場合やすでに亡くなっている場合などに、上の順位の相続人から下の順位の相続人に相続権が移行するのがルールです。

遺言書の中に特定の財産を特定の人が引き継ぐ旨が記されている場合、優先順位に関係なく、遺言書の内容が優先されます。

法定相続人の確認はなぜ必要か

法定相続人の確認はなぜ必要か

身内が亡くなった際は、故人の出生から死亡までの戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を取得し、相続人の範囲をよく確認しなければいけません。特に遺産分割協議はすべての法定相続人の同意が必要なため、法定相続人の調査は避けて通れないでしょう。

遺産分割協議は全員の同意が必須

遺言書がない場合、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が何を継ぐのかを決定します。協議は法定相続人全員で行う必要があり、誰か一人でも欠けると協議内容は無効となります。

そのため、身内が亡くなったときは故人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得し、すべての法定相続人に連絡をしなければならないのです。ただし、全員の同意が必要といっても、1カ所に集まる必要はありません。

遠方に住んでいる場合や高齢などの理由で外出が困難な場合は、メールや電話、手紙などを通して内容を話し合うことが可能です。

また、法定相続人は遺産分割協議の前であれば、ほかの法定相続人または第三者へ「相続分の譲渡」を行うこともできます。この場合、遺産相続権とともに協議への参加義務も譲受者へ移ります。

全員による話し合い後は、内容をまとめた「遺産分割協議書」の作成が必要です。法定相続人が順番に署名(自署できない場合は記名)・押印すれば、協議が成立したものとみなされます。

相続税を計算するため

財産を相続した人は「相続税」を支払います。相続税を計算するに当たり、法定相続人を正確に把握しなければ、実際の税額は算出できません

相続税には一定の基礎控除額が設けられており、以下のように「法定相続人の数」によって金額が変わります。

  • 基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

相続税額を算出する際は「相続人全員で納める相続税の総額」を最初に算出し、実際に相続した財産の割合に応じて、相続税の総額を個々の相続人に按分します。

最終的に子ども1人が相続する場合でも、相続税の計算上、法定相続人の把握は不可欠なのです。

相続放棄をする場合

法定相続人は、財産を一切相続しない「相続放棄」も選択できます。

相続放棄ができるのは、「相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内」です。期限内に家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」をしない場合、財産を無条件に引き継ぐ「単純承認」が成立し、以後は相続放棄はできません

相続のルールとして、上の順位の相続人が相続を放棄すると、下の順位の相続人に相続権が移ります。遺産に借金や債務などのマイナスの財産が多ければ、「相続はしたくない」というのが本音でしょう。

法定相続人の人数や順位を把握しておけば、自分に相続権が移ったときに素早く対処できます。

逆に、プラスの財産を特定の人物に継がせる目的で、自ら相続放棄を選択する人もいます。すべての法定相続人を把握していない場合、自分の相続放棄によって、思いもよらない人物が財産を手にする可能性があるでしょう。

必ず法定相続人となるのは?

必ず法定相続人となるのは?

誰が法定相続人になるかは、個々の家庭の家族構成に左右されます。遺産相続で最も優先順位が高いのが「配偶者」です。法定相続人の順位に関係なく、故人の配偶者は必ず財産を相続します。

故人と法律婚をしている配偶者

民法では、「故人の配偶者」は必ず法定相続人になることが定められています

ここでいう配偶者とは、故人(被相続人)と法律婚をしている人を指します。事実婚や内縁関係のパートナーは法定相続人にはなれません。故人の元配偶者(元妻・元夫)も対象外です。

法律婚をしているのであれば、長年別居していたとしても法定相続人とみなされます。婚姻期間も関係なく、結婚して1カ月後に他界した場合でも、法定相続人の立場に影響はありません。

故人の配偶者の法定相続分

配偶者は必ず法定相続人になりますが、取得できる財産の割合は他の法定相続人の有無によって変わります。

配偶者以外の法定相続人 配偶者の法定相続分
子どもがいる場合(第1順位) 1/2
子どもがおらず、親がいる場合(第2順位) 2/3
子ども・親がおらず、兄弟姉妹がいる場合(第3順位) 3/4

例えば、子どもがおらず、故人の両親も兄弟姉妹も他界などによりいないというケースでは、配偶者が財産の100%を相続します。一方、配偶者に子どもがいる場合は、配偶者と子どもが1/2ずつ取得するのがルールです。

配偶者には「配偶者の税額の軽減」が適用となります。相続した正味の遺産が「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」までであれば、相続税はかかりません。

従って、法定相続人が配偶者のみの場合は、相続税が一切発生しない可能性が高いでしょう。

参考:No.4158 配偶者の税額の軽減|国税庁

法定相続人の第1順位

法定相続人の第1順位

配偶者の次に優先順位が高いのが「故人の子ども」です。民法では、養子・認知した非嫡出子・胎児などもすべて相続人となります。故人に子どもがいる限り、下位順位が相続権を得ることはほとんどないと考えてよいでしょう。

法律上の親子関係にある子ども

法律上の親子関係にある子どもは、法定相続人の第1順位です。

故人である夫に離婚歴があり、前妻との間に子どもが1人、配偶者との間に子どもが1人いると仮定しましょう。前妻は法定相続人にはなれませんが、前妻の子どもには相続権があります。

  • 配偶者(妻):常に相続人となる
  • 配偶者との子ども:第1順位
  • 前妻との子ども:第1順位

「胎児」「認知した非嫡出子」「養子縁組をした養子」も法定相続人の第1順位として認められます

故人の子どもの法定相続分

故人に配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人となるため、配偶者と子どもで財産を1/2ずつ分けます。

配偶者と子ども2人が法定相続人の場合、各自の割合は以下の通りです。子どもが複数人いる場合は、子どもの法定相続分である1/2を均等に分割します。

  • 配偶者の割合:1/2
  • 子ども(1)の割合:1/4
  • 子ども(2)の割合:1/4

配偶者が他界している場合は、子どもが相続財産のすべてを引き継ぎます。養子や非嫡出子でも、割合は実子と変わりません。

法定相続人の第2順位

法定相続人の第2順位

法定相続人の第2順位は直系尊属です。直系尊属の全員が法定相続人になるわけではなく、血縁が最も近い人、すなわち「父母」が相続権を取得します。父母が両方ともいない場合は祖父母となります。

法律上の親子関係にある親

第1順位である子どもがいない場合、故人の直系尊属が相続権を握ります。直系尊属とは、父母・祖父母・曽祖父母・高祖父母など「本人よりも前の世代の血縁者」を指します。

配偶者の父母や祖父母は、婚姻によって生じた「姻族」なので、直系尊属には該当しません。

子どもがいないケースでは、被相続人の配偶者と父母が法定相続人です。父母が離婚・再婚をしていても、被相続人との親子関係は変わらないため、相続権があると認められます。

故人の親の法定相続分

故人に配偶者や子どもがいない場合、故人の父母にすべての財産が引き継がれるため、法定相続分は100%です。

故人に配偶者がいる場合は、配偶者と父母が財産を取得します。割合は配偶者が2/3で、父母が1/3です。父親と母親の両方が存命の場合は、法定相続分の1/3を2人で均等に分割します。

  • 配偶者の割合:2/3
  • 父親の割合:1/6
  • 母親の割合:1/6

法定相続人の第3順位

法定相続人の第3順位

例えば、故人が未婚で、親以上の世代がすべて他界しているというケースでは、故人の兄弟姉妹に相続権が移ります。法定相続人は第3順位までで、その先に順位はありません。

故人の兄弟姉妹

兄弟姉妹は、法定相続人の第3順位です。第1順位と第2順位がいない場合、法定相続人は配偶者と兄弟姉妹です。配偶者もいない場合は、兄弟姉妹のみに財産が相続されます。

故人の親がいなくても、故人の祖父や祖母がいる場合には、兄弟姉妹は相続人にはならない点に注意しましょう。優先順位は、子ども→父母→祖父母→兄弟姉妹です。

故人の兄弟姉妹の中に「養子」がいた場合、血のつながりはなくても実子と養子は兄弟姉妹であるため、互いに相続権を持ちます。

父親または母親のどちらかが同じ「半血の兄弟姉妹」も法定相続人ですが、全血の兄弟姉妹とは相続できる割合が異なります。

故人の兄弟姉妹の法定相続分

配偶者がいない場合、故人の兄弟姉妹が全財産を相続します。配偶者がいるケースでの法定相続分は、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4です。

兄弟姉妹が複数いるなら、法定相続分の1/4を全員で按分します。配偶者・故人の兄・弟の3人が相続するケースを見てみましょう。

  • 配偶者の割合:3/4
  • 兄の割合:1/8
  • 弟の割合:1/8

なお、半血(異母兄弟・異父兄弟)の兄弟姉妹の法定相続分は、全血の兄弟姉妹の1/2となります。

配偶者や親、子ども以外が法定相続人になる場合も

配偶者や親、子ども以外が法定相続人になる場合も

親族の構成によっては、故人との関係が遠い「祖父母」「孫」「おい・めい」が相続人になるケースも珍しくありません。具体例を挙げて解説します。

故人の祖父母が法定相続人となるケース

故人の祖父母は、第2順位の「直系尊属」です。故人に子どもがいない場合、法定相続人は故人の配偶者と父母になりますが、父母や配偶者がすでに他界している場合は、祖父母のみが相続人となるケースがあります。

父母がいなければ祖父母、祖父母がいなければ曽祖父母といったように、相続権が上の世代に移っていくのが原則です。

配偶者がいる場合は配偶者が2/3を引き継ぐため、祖父母の法定相続分は1/3です(祖父が1/6、祖母が1/6)。配偶者がいない場合は、祖父母が1/2ずつ取得します。

故人の孫が法定相続人となるケース

故人に子どもがいる場合は子どもが相続人となりますが、子どもが他界している場合は、直系卑属である孫に権利が移行します。

直系卑属とは、本人よりもあとの世代になる直通の親族(子ども・孫・ひ孫など)です。直系卑属が複数いる場合は、故人に「親等」「世代」が最も近い血縁者が優先されます。

例えば、配偶者はすでに他界、故人の子ども3人のうち、1人が死亡していると仮定しましょう。死亡した子どもに2人の子ども(故人から見て孫)がいる場合、相続割合は以下の通りです。

  • 子ども(1)の割合:1/3
  • 子ども(2)の割合:1/3
  • 孫(1)の割合:1/6
  • 孫(2)の割合:1/6

故人の財産を3人の子どもで均等に分割した後、亡くなった子どもの相続分(1/3)を孫の人数で按分します。

相続人になるはずの者が相続できない場合、その子ども(故人の孫)が代わりに相続することを「代襲相続」とよびます。直系卑属の場合、代襲できる世代に限度はありません。

故人のおいやめいが法定相続人となるケース

「おい」は故人の兄弟姉妹の息子、「めい」は故人の兄弟姉妹の娘に当たる人物です。

法定相続人になるはずの兄弟姉妹が他界している場合は、その子どもが法定相続人になります。「兄弟姉妹の代襲相続はおい・めいまで」で、それよりも下の世代に相続権が移行することはありません。

故人に配偶者がいない場合は、財産を兄弟姉妹の数で均等に分けるのが原則です。兄弟姉妹の中に他界した人がいる場合は、その法定相続分をおい・めいの人数で按分します。

故人に兄と姉がいて、兄が他界したと仮定しましょう。他界した兄に娘が2人いるケースでは、分割割合は以下の通りです。

  • 姉の割合:1/2
  • めい(1)の割合:1/4
  • めい(2)の割合:1/4

法定相続人が誰もいないと財産はどうなる?

法定相続人がいない場合は、親族以外の「特別縁故者」に相続権が引き継がれます。以下の条件を満たす人は、家庭裁判所への申し立てによって、財産の全部または一部の相続を認められるケースがあります。

  • 被相続人と生計を共にしていた人
  • 被相続人の療養看護をしていた人
  • その他被相続人と特別の縁故があった人

特別縁故者がいない場合や財産が余った場合は、最終的に「国庫」に帰属します。国庫とは、財産権の主体として捉えた場合の国の呼称です。

参考:特別縁故者に対する相続財産分与 | 裁判所

法定相続人の範囲を正しく理解しよう

法定相続人の範囲を正しく理解しよう

遺言書がない場合、故人の財産は民法に定められた法定相続人が引き継ぎます。親族の構成によってさまざまな相続のパターンがあるため、ルールを正しく理解することがポイントです。

遺産分割協議や相続税の計算は、すべての法定相続人が明確にならない限り実行できません。身内が亡くなったときは、面倒だとしても戸籍謄本を取得し、相続人が何人いるのか確かめることをおすすめします。

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