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作成日: 2021.10.15

【相続税と贈与税の一体化】持ち戻し期間が変わると相続税にどのくらい影響が出る?

【相続税と贈与税の一体化】持ち戻し期間が変わると相続税にどのくらい影響が出る?

2021年度の税制改正大綱により、「非課税が適用される年間110万円までの暦年贈与がなくなる?」と噂されています。相続税の税制度を振り返った前回の記事に続き、今回は、それらの噂のいずれかが現実化したとき「現在所有する財産にどのくらい影響があるのか」をシミュレーションしていきます。そして、今できることは何かを考えます。

生前贈与をシミュレーション(相続人が3人の場合)

シミュレーションでは、財産を所有する父(推定被相続人)・母・その夫婦の子どもが2人いる、4人家族とします。予想される税制度の変更があった場合、死亡時に課税される金額にどのくらいの違いが出てくるのか、現行の税制度と比較します。

推定被相続人1人(父)と相続人3人(母・長男・長女)

推定被相続人1人(父)と相続人3人(母・長男・長女)

財産を所有する父は、生前に家族3人に財産を贈与します。父の死亡時である相続時点での財産総額が、3億円、5億円、7億円それぞれの場合でシミュレーションしていきます。

持ち戻しの期間が3年から10年に?

現在の課税ルールでは、暦年課税による贈与のうち、「相続開始前3年以内に贈与されたもの」は、3年以内であれば「贈与税がかかっていたかどうかに関係なく」相続税に加算される(持ち戻しといいます)ことになっています。

参照:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁

財産を持っている人が死亡した時点で、「その死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間に贈与された財産」は、相続税の対象、つまり課税対象となります(持ち戻し)。そのため持ち戻しの年数が3年から増えるということは、課税対象の金額が増えるということになります。

専門家の間で予想されているのは、持ち戻しの期間が、3年から10年になるという予測です。

なお相続と贈与に関する現行の税制については、前回の記事をご参照ください。

【関連リンク】
【相続税と贈与税の一体化】富裕層はなぜ生前贈与(暦年贈与)をするのか?

相続発生時(父が死亡した時点)の財産が3億円ある場合

父が死亡し、母・長男・長女に相続税が発生
父が死亡し、母・長男・長女に相続税が発生

暦年課税(暦年贈与)を選択して、父が生前、長年にわたり3人に贈与し、相続時(父の死亡時)の財産が3億円だった場合のシミュレーションです。

生前に贈与する年額は、非課税分の110万円までとは限りません。被相続人の財産規模、相続人の人数によって、贈与する金額は変動するものです。ここでは3つのパターンで違いを見てみます。

3人への毎年の贈与額が、非課税分のみの「110万円」の場合と、非課税分「110万円に課税分200万円をプラスした合計贈与額310万円」、非課税分「110万円に課税分400万円をプラスした合計贈与額510万円」だった場合、相続税の金額の違いは以下の通りです。

(単位:円)

生前贈与額 相続税(相続人3人の合計金額)
【現状】
3年持ち戻し
【改正予想】
10年持ち戻し
差額
(負担が増える)
110万 30,655,400 35,510,400 4,855,000
310万 34,432,000 48,414,600 13,982,600
510万 38,252,800 61,817,800 23,565,000

生前贈与額が毎年110万円の場合

現行ルールである持ち戻しの年数が3年の場合には、課税対象に持ち戻しされる金額は3人分を合計して990万円です。

それが持ち戻しの年数が10年になると、課税対象として持ち戻しとなる金額は3,300万円に増えます。母・長男・長女にかかる相続税の差は、約490万円増えることになります。

生前贈与額が毎年310万円の場合

生前贈与額110万円の場合と同様、持ち戻し年数が3年から10年になると、課税対象として持ち戻される金額は2,790万円から9,000万円に増えます。

3人にかかる相続税の差は、約1,400万円増えることになります。

生前贈与額が毎年510万円の場合

同様に、持ち戻し年数が3年から10年になると、課税対象として持ち戻される金額は4,590万円から1億5,300万円に増えます。

3人にかかる相続税の差は、約2,400万円増えることになります。

相続時の財産が5億円ある場合

遺産相続時(父の死亡時)に相続財産が5億円あった場合、それまで毎年、生前贈与を下記の金額で行っていた場合の、相続人3人合計の相続税の違いです。

(単位:円)

生前贈与額 相続税(相続人3人の合計金額)
【現状】
3年持ち戻し
【改正予想】
10年持ち戻し
差額
(負担が増える)
110万 68,091,400 74,060,000 5,968,600
310万 72,737,800 89,772,200 17,034,400
510万 77,414,200 105,788,600 28,374,400

生前贈与額が毎年110万円の場合

持ち戻しの差による金額の差は、上記3億円の相続財産がある場合と同額です。3人分の課税対象として持ち戻しとなる金額を合計します。持ち戻しの年数が3年の現行ルール990万円から持ち戻しの年数が10年になると3,300万円に増えます。

遺産の相続財産が5億円だった場合、母・長男・長女にかかる相続税の差は、約600万円増えることになります。

生前贈与額が毎年310万円の場合

持ち戻し年数が3年から10年になると、課税対象として持ち戻される金額は2,790万円から9,000万円に増えます。

3人にかかる相続税の差は、約1,700万円増えることになります。

生前贈与額が毎年510万円の場合

持ち戻し年数が3年から10年になると、課税対象として持ち戻される金額は4,590万円から1億5,300万円に増えます。

3人にかかる相続税の差は、約2,800万円増えることになります。

相続時の財産が7億円ある場合

遺産相続時(父の死亡時)に相続財産が7億円あった場合、それまで毎年、生前贈与を下記の金額で行っていた場合の、相続人3人合計の相続税の違いです。

(単位:円)

生前贈与額 相続税(相続人3人の合計金額)
【現状】
3年持ち戻し
【改正予想】
10年持ち戻し
差額
(負担が増える)
110万 111,443,000 117,867,600 6,424,600
310万 116,446,400 134,692,200 18,245,800
510万 121,469,000 151,748,400 30,279,400

生前贈与額が毎年110万円の場合

持ち戻しの差による金額の差は、上記3億円・5億円の相続財産がある場合と同額です。3人分の課税対象として持ち戻しとなる金額を合計します。持ち戻しの年数が3年の現行ルール990万円から持ち戻しの年数が10年になると3,300万円に増えます。

遺産の相続財産が7億円だった場合、母・長男・長女にかかる相続税の差は、約640万円増えることになります。

生前贈与額が毎年310万円の場合

持ち戻し年数が3年から10年になると、課税対象として持ち戻される金額は2,790万円から9,000万円に増えます。

3人にかかる相続税の差は、約1,800万円増えることになります。

生前贈与額が毎年510万円の場合

持ち戻し年数が3年から10年になると、課税対象として持ち戻される金額は4,590万円から1億5,300万円に増えます。

3人にかかる相続税の差は、約3,000万円増えることになります。

孫への贈与(相続人以外への贈与)も活用しましょう

2021年も残すところ2か月余りとなりましたが、「現在の税制が適用されているうちに生前の贈与をしておく」ことが、財産を次の世代に引き継ぐポイントなります。今回のシミュレーションには登場しませんでしたが、「孫」にあたる人物への相続は持ち戻しのルール適用がありません。そのため、長男や長女に子どもがいる場合には、贈与する人の対象を増やすことも考えられます。

詳しくは専門家に相談しましょう。

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この記事を書いた人

中井哲也 公認会計士・税理士

公認会計士・税理士。同志社大学経済学部を卒業。国内大手税理士法人に約12年勤務。富裕層、未上場会社、上場会社の対応案件を多数経験。メガバンク系証券会社、銀行にも出向、上場オーナー、未上場オーナーの事業承継、資産形成の業務に従事。 2021年7月に中井哲也公認会計士税理士事務所を開設。富裕層の手残りを増やすアドバイスには定評がある。 趣味は税金の勉強と筋トレです。

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