不動産投資で年収2,000万円超の人が考える、中古の建物を「躯体と設備」にわけた場合の減価償却シミュレーション
不動産投資を行ううえで、減価償却を理解することは重要です。所得税と住民税を合わせた税率が50%になる年収2,000万円超の人にとって、投資用不動産を購入する際、建物を「躯体(くたい)と設備」に分けることで設備費の耐用年数が建物よりも短くなり、その結果として減価償却費が増えて税務的に有利になる場合があります。投資用不動産を土地と建物で考える場合と、土地と躯体そして設備で考える場合の減価償却費をシミュレーションし、どのようなインパクトがあるのかを見ていきます。
不動産投資の減価償却費とは
不動産投資を行ううえで、事業にかかる費用は確定申告の際に経費として計上できます。購入した不動産の「建物部分」に関しても、その費用を経費として計上できるのですが、購入したタイミングで一度に計上することはできません。
なぜなら、建物は時間の経緯とともに価値が減少すると考えられているからです。このように、時間の経過とともに価値が減少することを減価償却といいます。そのため、事業を継続する間、毎年減少していく建物の価値を経費として「その年分の費用」として計上する、つまり実際には費用が発生しない年に経費として計上する決まりになっています。
事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は、一般的には時の経過等によってその価値が減っていきます。このような資産を減価償却資産といいます。
引用:No.2100 減価償却のあらまし|国税庁
不動産の「土地」については、建物と異なり年数が経過しても土地は劣化せず価値は変わらないため、減価償却資産には含めないというルールになっています。そのため土地の取得費を経費として減価償却費に含めることはできません。
不動産の建物部分を細分化して、建物の本体部分のほか、エアコンや給湯器などの「建物附属設備」に分けて、それぞれを別の減価償却として扱うことができます。
法定耐用年数
年々価値が減少していく減価償却の考え方では、あらかじめ「価値がある年数(=経費として計上できる年数)」が決まっていて、対象ごとに「法定耐用年数」というものが定められています(減価償却資産の耐用年数等に関する省令による)。建物や建物附属設備の経費計上は永遠にできるわけではなく、計上できる年数が決まっているということです。
投資用の住宅は、建物の構造によって法定耐用年数が次のように決まっています。また附属設備も以下の通りです。
【建物】
構造・用途 | 耐用年数 |
---|---|
木造・合成樹脂造のもの | 22年 |
木骨モルタル造のもの | 20年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 47年 |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 38年 |
金属造のもので、骨格材の肉厚が 4mmを超えるもの 3mmを超え、4mm以下のもの 3mm以下のもの |
38年 30年 22年 |
【建物附属設備】
構造・用途 | 耐用年数 |
---|---|
電気設備(照明設備を含む。) | 15年 |
給排水・衛生設備・ガス設備 | 15年 |
建物附属設備は、建物に比べて法定耐用年数が短いことがわかります。
投資用中古不動産の減価償却費の計算方法
新築の投資用不動産を購入した場合、減価償却費を割り出すのは簡単です。「減価償却資産の償却率表」を参照して法定耐用年数に沿った年数の「償却率」を用います。
減価償却費=建物価格×償却率
一方、投資用の中古不動産を購入した場合は、新築よりも少々複雑になります。
まず、中古不動産の築年数から耐用年数を割り出します。この「耐用年数」は法定耐用年数ではない、その中古不動産を購入して不動産事業を開始後の使用可能期間の年数です。
耐用年数を割り出す計算式は、築年数によって以下の2つに分かれます。どちらかの式で耐用年数を把握し、その耐用年数に相当する償却率を「減価償却資産の償却率表(PDF)」から見つけ、減価償却費を計算します。
1)法定耐用年数を一部経過した物件の耐用年数=(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2
2)法定耐用年数を過ぎた物件の耐用年数=法定耐用年数×0.2
例を使って説明します。
【例:築16年の中古マンション】
建物価格が1,100万円(本体価格1,000万円+消費税100万円)の鉄筋コンクリート造・築16年の中古マンションを購入した場合、鉄筋コンクリートのマンションの法定耐用年数は47年です。築16年は法定耐用年数を超えないので、上記1)「一部経過した物件」の計算式をあてはめます。
※平成28年4月1日以後に不動産を購入したとして、「定額法」で計算します
端数は切り捨てます。そのため耐用年数は34年となります。「減価償却資産の償却率表(PDF)」から、償却率は「0.030」とわかります。
耐用年数と償却率が割り出せたので、新築時の計算に用いたときと同じ、減価償却費の計算を使います。
建物価格×償却率=減価償却費
減価償却費は33万円とわかりました(1月から事業開始の場合)。
中古不動産購入時の建物附属設備の扱い
記事冒頭でお伝えしたように、建物部分を建物本体と設備に分けることによって、税務上有利になります。それは、設備の法定耐用年数は建物本体よりも短く、よって1年に償却できる金額が大きくなるためです。経費として計上できる金額が大きくなると、所得税・住民税が50%となるような所得の方、特に年収2,000万超の人にとってはインパクトが大きくなります。
不動産を土地と建物に分けて建物を減価償却する場合と、建物を細分化して躯体(建物本体)と設備に分けてそれぞれを減価償却する場合を比較してみます。
新築の不動産を購入する際には、土地代、建物の躯体と設備費がそれぞれわかる形で購入できます。しかし中古不動産の場合、入居者が居住中のオーナーチェンジ物件では中身を目視確認できず、また目視による確認ができたとしても、所有者が複数回変わったような場合にはすべて状態を把握できるかというと、そうではありません。
そこで中古不動産の場合、消費税から建物価格を割り出すなどの方法があります。設備に関しても、実務的に行われているケースとしては、躯体と設備の割合を、8:2の割合で考えることが多いようです。不動産鑑定士に鑑定を依頼し、意見書を添えることで法的根拠とすることも多いようです。
躯体と設備に分けた場合、分けなかった場合
次の物件を購入したとして、減価償却費を「建物だけで計上した場合」、「建物本体の躯体と、附属する建物附属設備で分けて計上した場合」の金額シミュレーションです。
【例:築16年の不動産価格2,200万円の中古マンション】
- 物件価格:2,200万円(土地価格1,100万円、建物価格1,000万円、消費税100万円)
- 築年数:16年
- 2021年1月から不動産経営事業を開始
躯体と設備に分けない場合
物件価格 | 22,000,000円 |
---|---|
消費税 | 1,000,000円 |
建物価格 | 10,000,000円 |
土地価格 | 11,000,000円 |
土地割合 | 50% |
土地取得価格 | 11,000,000円 |
躯体100% | 11,000,000円 |
設備0% | 0円 |
築年数 | 16年 |
償却年数(躯体) | 34年 |
減価償却費 | 330,000円 |
償却月 | 12カ月(1月から事業開始) |
※固定資産税・都市計画税等の清算金を考慮しません
躯体と設備に分ける場合
物件価格 | 22,000,000円 |
---|---|
消費税 | 1,000,000円 |
建物価格 | 10,000,000円 |
土地価格 | 11,000,000円 |
土地割合 | 50% |
土地取得価格 | 11,000,000円 |
躯体80% | 8,800,000円 |
設備20% | 2,200,000円 |
築年数 | 16年 |
償却年数(躯体) | 34年 |
償却年数(設備) | 3年 |
減価償却費(躯体) | 264,000円 |
減価償却費(設備) | 734,800円 |
償却月 | 12カ月(1月から事業開始) |
※固定資産税・都市計画税等の清算金を考慮しません
設備の法定耐用年数は15年で築年数が16年のため、耐用年数を割り出す計算式としては、「2)法定耐用年数を過ぎた物件の耐用年数=法定耐用年数×0.2」を用います。耐用年数は3年となり、3年間で減価償却費を計上することとなります。
シミュレーション結果
不動産を2021年1月に購入し、令和3年度の確定申告を2022年に行う際、建物と設備を一体にすると減価償却費は「330,000円」になるのに対し、建物と設備を分けると減価償却費は「998,800円」になり、1つの物件で70万円ほど経費が多くなります。複数物件所有する際にも建物と設備を分けることで、その差はますます大きくなります。
年収2,000万円超で所得税と住民税合わせた税率が50%の人にとっては、70万円ほど経費が増えることで、約35万円(700,000×50%)の節税効果があります。
建物のみで長期間減価償却するよりは、法定耐用年数が15年の設備費で減価償却する方が、加速度的に償却費が計上できます。
なお、躯体と設備に分けた場合は、設備の減価償却計上が終わると、その後は躯体(建物本体)の減価償却費計上のみとなり、それ以降は土地と建物で躯体と設備を分けない場合よりも減価償却費は少なくなります。
設備の割合に関連する裁決事例
税務上、躯体と設備を8:2に分けて計上すると紹介しましたが、過去には設備の割合について建物本体と建物附属設備の割合も含めて争点となった国税不服裁判所の裁決事例(平12.12.28裁決、No.60)があります。
第一の争点は土地と建物の割合に関することですが、建物の割合を建物本体と建物附属設備と区分する必要性についても触れられています。関連箇所のみ抜粋します。
【事案の概要】
土地と建物(建物本体と建物附属設備を合わせたものをいう)並びに建物本体と建物附属設備の取得価額の区分を争点とする事案
【認定事実】
- 建物本体と建物附属設備の工事費の割合は、建築主が保存している工事請負契約書から算出ができた
【判断】
- 鉄筋鉄骨造りのマンションの場合には、建物本体及び建物附属設備の減価償却費の計算は、それぞれ別個の耐用年数により計算する必要がある
- 購入した建物本体及び建物附属設備については、それぞれの購入代価等が売買契約書等で区分して明らかにされている場合は、その区分されているところの購入代価等によることとなるが、その購入代価等が区分して明らかにされていない場合には、建物の取得価額を合理的な方法により建物本体及び建物附属設備に区分計算する必要がある
- 工事費の割合を中古資産の取得時における建物本体及び建物附属設備の割合により補正したうえで、建物の取得価額をあん分する
この判例では、新築時の建物本体と建物附属設備の工事費の割合が保存されていたことから、中古不動産として補正されたうえ、建物と設備の割合は72.91:27.09と判断されています。
参照:平12.12.28裁決、裁決事例集No.60 157頁 |裁決事例集 No.60|| 公表裁決事例 | 国税不服審判所
不動産投資の減価償却は複雑。専門家に聞こう
減価償却は、まず概念を理解するまでに時間がかかります。そして、購入した物件の建物割合や耐用年数により、減価償却費の計算も複雑です。わからない場合は確定申告時に税務署に相談するか、事前に税理士に相談するなど、プロに確認することが大切です。
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