年金の未納による受取額減額に注意。追納しないデメリットを知ろう
生きている限りずっと受け取れる公的年金は、減額の予測は聞かれますが、やはりセカンドライフを支える大切な収入源です。年金保険料の未納は、将来受け取る年金額が減る以外にも重大なデメリットがあります。この記事では、年金保険料の未納による不利益や、未納がある場合にあとから保険料を納める方法について解説します。
年金に未納がないか確認しよう
会社員・公務員であれば国民年金の保険料は給与天引きされるので、基本的に未納は発生しません。では、どのようなケースで国民年金保険料の未納が発生するのでしょうか。
未納の可能性が高いのは第1号被保険者
国民年金保険料の未納が発生するのは、保険料を自分で納付しなければならない「第1号被保険者」です。第1号被保険者は自営業・フリーランス、農業、学生、無職などが該当します。現在は会社員や公務員の人でも、学生時代に国民年金の保険料を払っていない場合も考えられます。ねんきん定期便またはねんきんネットで保険料の納付状況を確認してみましょう。
【ねんきん定期便の見方】将来受け取れる金額をチェックしよう!
国民年金の保険料が払えないときに利用できる制度
国民年金には、第1号被保険者のうち保険料を支払うことが経済的に困難な人のために、保険料を免除したり猶予したりする制度があります。これらの手続きをすると、何も手続きを行わない単なる未納とは区別されます。
保険料免除制度
保険料免除とは、本人・世帯主・配偶者の前年の所得が基準額以下の場合、「保険料の全額、3/4、半額、1/4」のいずれかが免除される制度です。免除額は前年所得額によって決まります。
免除を受けると、免除額に応じて老齢基礎年金(国民年金の老齢年金)の年金額が減額されます。全額免除の場合でも、全額免除の期間は全額納付の1/2で計算され保障されます(2009年/平成21年3月分までは1/3)。
この制度は臨時特例措置として、新型コロナウイルスの影響によって納付が困難になった場合にも、簡単な手続きを申請することによって適用されます。
なお免除された保険料については、あとから納めることで受給額の減額を防ぐことができます。保険料を後払いすることを「追納」といいます。追納には期限があり、10年以内となっています。追納に関して詳細は後述します。
手続きは、最寄りの市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口または年金事務所へ「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」を申請します(郵送も可)。
保険料納付猶予制度
保険料納付猶予とは、50歳未満の加入者で、本人と配偶者の前年の所得が基準額以下の場合に、納付を猶予される制度です。
納付猶予は免除とは違い、保険料の後払いを前提としています。そのため、老齢基礎年金を受け取るための受給資格期間には算入されますが、保険料を納めなければ老齢基礎年金の受給額は増えません。猶予された保険料は後述する追納によって10年前の分までさかのぼって納めることができます。
免除を申請する場合と同じく、手続きは最寄りの市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口または年金事務所へ「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」を申請します(郵送も可)。
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未納があるとどうなるの?
国民年金保険料を免除や猶予の手続きをせずに未納のままにした場合、どのようなデメリットがあるでしょうか。
将来受け取れる年金額が減る
65歳以降に受け取れる老齢基礎年金の額は、保険料納付月数によって決まります。保険料を480カ月支払った場合に受け取れる老齢基礎年金の年額は、2021年(令和3年)度の満額で780,900円です。しかし未納期間があると、その月数に応じて減額され、将来受け取れる年金額が少なくなってしまいます。
資格期間が10年未満の場合は年金受給なし
国民年金保険料の未納のデメリットは、老齢基礎年金額の減額だけではありません。未納の期間が長くなると、老齢基礎年金が「全く受け取れなくなる」場合があります。
老齢基礎年金を受け取るには、保険料を納付した期間と免除や猶予が認められた期間の合計が10年以上であることが必要です(受給資格期間)。
受給資格期間が足りない場合、老齢基礎年金を受け取れなくなってしまうのです。
万が一のとき障害年金や遺族年金の受給なし
公的年金制度には、老齢年金だけでなく、被保険者が亡くなったときに遺族が受け取る「遺族年金」、そして重度の障害状態になった場合に受け取れる「障害年金」もあります。
遺族年金と障害年金を受け取るには、それぞれの支給要件に該当していなければなりません。さらに、遺族年金、障害年金ともに、保険料の納付要件を満たす必要があります。
【遺族年金・障害年金の保険料納付要件】
遺族年金(右記のいずれかを満たすこと) | ・死亡日の前日において加入期間の2/3以上について、保険料を納付または免除されていること ・令和8年(2026年)4月1日前の場合、死亡日に65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの1年間保険料の未納がないこと |
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障害年金(右記のいずれかを満たすこと) | ・初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの加入期間の2/3以上について、保険料が納付または免除されていること ・初診日に65歳未満であれば、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの1年間保険料の未納がないこと |
遺族年金と障害年金は、なくてはならないセーフティネットです。国民年金保険料の未納が長いために「いざというときに受け取れない」ことにならないようにしましょう。
年金保険料の納め忘れがある場合
国民年金保険料を納付書で支払っている場合などは、うっかり納め忘れてしまうことも考えられます。即座に将来の年金保険料に影響があるわけではありませんが、放置してはいけないことがわかります。納め忘れがあった場合にどのような影響があるのか、詳しく見ていきましょう。
納付期限を過ぎても納付書で支払い可能
国民年金の保険料を払い忘れて納付期限を過ぎてしまった場合、納付期限の2年後までは納付書での支払いができます。ただし、「使用期限」が表示されている納付書の場合、使用期限を過ぎるとその納付書では保険料を納められません。その場合は、年金事務所に問い合わせてください。
納付が遅れたことによる延滞金
国民年金保険料の納付が遅れた場合でも、直ちに延滞金が発生するわけではありません。延滞金が発生するまでの流れは次の通りです。
- 納付期限を過ぎても保険料を支払わず、延滞になる
- その状態のまま放置していると、「国民年金未納保険料納付勧奨通知書(催告状)」が送られてくる
- 催告状が届いても保険料を支払わないと、「最終催告状」が送られてくる
- 最終催告状の指定期限までに保険料を支払わないと「督促状」が送られてくる
- 督促状の指定期限までに保険料を支払わないと延滞金が発生する
このように日本年金機構からは再三の納付勧奨が行われます。そして督促状の指定期限までに保険料を支払えば延滞金は発生しません。しかしだからといって放置していいわけではないので、国民年金未納保険料納付勧奨通知書が送られてきたら速やかに対応するようにしましょう。
保険料を納付することができない場合は、年金事務所に連絡し、免除や猶予の相談をすることをおすすめします。なお、上記は一般的な流れであり、収入状況などにより個人差があります。
滞納を続けると差し押さえの可能性も
国民年金保険料の滞納を続けると、延滞金がかかる以前に差し押さえられる場合があるため、注意が必要です。年間、以下のような件数が差し押さえられています。
【国民年金保険料滞納による差し押さえ件数】
年度 | 件数 |
---|---|
平成27年(2015年)度 | 7,310件 |
平成28年(2016年)度 | 13,962件 |
平成29年(2017年)度 | 14,344件 |
平成30年(2018年)度 | 17,977件 |
令和元年(2019年)度 | 20,590件 |
日本年金機構「令和元年度業務実績報告書」より筆者作成
最終催告状は、国民年金保険料が支払える状況にもかかわらず納付勧奨に応じない人に送られます。書面には、指定期限までに納付しない場合、差し押さえをすることが明記されています。日本年金機構令和3年度計画(案)によると、令和3年度の強制徴収は、控除後所得額300万円以上かつ滞納月数7カ月以上の人が対象です。
上記の表の通り、差し押さえの件数は年々増加しています。国民年金未納保険料納付勧奨通知書が届いたら放置せず、最終催告状が届く前に何らかの対応をしましょう。
学生時代の未納分は支払わなくても大丈夫?
学生で国民年金保険料を納めるのが難しい場合、本人の所得が118万円までであれば「学生納付特例制度」が利用できます。手続きをすれば、保険料を納めなくても受給資格期間に算入されます。
しかし、この制度は納付猶予の特例であり、保険料の後払いを前提としていることに注意が必要です。
学生納付特例期間の保険料支払い義務はない
学生納付特例の承認を受けた期間の保険料は、追納によって後払いします。例えば、令和2年(2020年)度の未納分を令和3年(2021年)に追納する場合、毎月の追納保険料は16,540円、1年間では約20万円です。年間20万円もの支出は、社会人になったばかりでは負担が重いのではないでしょうか。追納は義務ではないので、無理なく納付できるタイミングで行えばよいのです。
仮に年金保険料の追納と奨学金の返済とが重なって支払いが困難な場合は、奨学金の返済を優先しましょう。なぜなら、奨学金の返済を確実に行わないと、個人の信用情報に傷がつくからです。
なお追納できる期限は10年以内と決まっているため、将来受け取る年金額を増やすためにも追納期限は頭に入れておきましょう。
追納をしないと受取額に差が生じる
追納は義務ではありませんが、保険料を納めなかった月数分の年金額は減ってしまいます。仮に2年間の未納だとすると、少なくなる年金年額は約4万円(約5%)です。減額の影響は長生きすればするほど大きくなります。
保険料をあとから納められる制度
ここからは、国民年金の未納分がある人が、あとから保険料を納めて将来の年金を増やす方法を解説します。
免除等を受けた保険料が対象の追納制度
追納は学生納付特例制度だけでなく、免除や猶予された期間の未納の保険料を10年までさかのぼって納められる制度です。免除や猶予の承認を受けた翌年度から起算し、3年度目以降に追納する場合は経過期間に応じた追納加算額(遅延利息のようなもの)が上乗せされますので注意してください。
収入が多い時期に支払うメリット
3年以上経ってからの年金保険料の追納には加算額が生じるので、なるべく2年以内に追納することがベターだといえます。しかし、ここで注目していただきたいのが、追納した保険料は社会保険料控除の対象になり、所得税と住民税の節税効果がある点です。所得税と住民税の軽減メリットは収入の高い人ほど大きくなります。
仮に年の途中で転職したような場合、翌年のほうが年収は高くなることが多いのではないでしょうか。追納によって課税所得が減り、所得税や住民税が安くなる場合は、そのタイミングで追納すると有利です。追納の期限との兼ね合いもありますが、節税メリットを意識して追納することをおすすめします。
年金額を満額に近づける場合は任意加入制度
老齢基礎年金の受給資格期間が足りない人や、保険料の未納があって老齢基礎年金を満額受給できない人のために任意加入制度があります。任意加入制度を利用できるのは以下の条件を満たす人です。
- 日本国内に住所がある60歳から65歳までの人
- 老齢基礎年金の繰上げ受給をしていない人
- 60歳未満までの国民年金保険料の納付月数が480月(40年)未満の人
- 厚生年金などに加入していない人
国民年金の受給者資格期間を満たしていない場合は、65歳以上70歳未満の人も任意加入制度を利用できます。
年金の未納をできる限り解消し、受け取れる年金を増やそう
国民年金の未納期間があると、将来受け取る年金が少なくなったり、場合によっては受け取れなくなる可能性があります。まずは、ねんきん定期便やねんきんネットで過去の未納を確認しましょう。未納期間がある場合は追納などの方法で保険料を納め、65歳以降に受け取れる年金額を増やすようにしてください。
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