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作成日: 2021.01.19

投資のプロフェッショナル、機関投資家とは一体どんな存在?

投資のプロフェッショナル、機関投資家とは一体どんな存在?

「プロの投資家」というと、何を思い浮かべるでしょうか? 自分が投資を行っている方だと、自宅で多数の端末を駆使しながら日中も相場に張り付いて株などを売買する人をイメージするかもしれません。

金融の世界では、プロの投資家は「機関投資家」を指すのが一般的です。実は、「機関投資家」はたくさんいて、多くの方が普段の生活の中で接しています。ただ金融に精通していないと耳慣れない言葉かもしれません。そこで今回は、機関投資家がどのような存在かを紹介していきます。

機関投資家の定義

そもそも機関投資家という存在自体になじみがない方も多いと思います。まずは機関投資家の定義を説明していきます。

機関投資家とは「企業や団体として組織的に投資を行っている投資家」を指します。厳密にはさまざまな法令が絡み、非常に複雑ですが、具体的には、以下のような企業・団体がイメージしやすいかと思います。

  • 銀行・信託銀行
  • 保険会社
  • 証券会社
  • 資産運用会社(アセットマネジメント・ヘッジファンドなど)
  • 信金・信組・労金・農協
  • 年金・共済運用団体
  • 公的金融機関(日本政策投資銀行、年金積立管理運用独立法人、国際協力銀行)

など

個人投資家の場合は基本的に、「投資家=人」というイメージが強いですが、機関投資家は企業・団体それぞれが「一つの投資家」になります。例えば、銀行の1つに「ゆうちょ銀行」がありますが、ゆうちょ銀行の社員さんそれぞれが投資家ということではなく、ゆうちょ銀行で一つの機関投資家として組織的に投資を行っています。

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機関投資家の区分

機関投資家をより厳密に考えようとすると、複数の法律が絡むのでやや難解ですが、日本の投資家の区分は「金融商品販売法」というものに定義されています。

この法の中では

  • プロ・アマ投資家
  • 適格機関投資家
  • 特定投資家
  • 一般投資家

という耳慣れない区分がたくさん出てきます。

証券会社などで証券を販売する際に必要な資格である証券外務員など、証券関連の資格取得を目指す方は別にして、大まかに機関投資家を理解する観点では「適格機関投資家がおおむね機関投資家である」と理解しておけば十分です。

適格機関投資家は、「金融商品取引法」というまた別の法律で定められています。これはこれで定義が複雑なうえに、有価証券の運用残高など一定の条件を満たしたうえで、届出によって自ら適格機関投資家になる方法もあります。

有価証券を扱う仕事をしている方でもない限り、この定義を正確に理解する必要はないかと思いますので、これより詳細は割愛します。機関投資家とは企業や団体として組織的に投資を行っている投資家で、法令上は「適格機関投資家」とよばれる投資家群と「おおむね」一緒である、と覚えておけば十分です。

主な機関投資家の特徴

一口に機関投資家といっても、さまざまなタイプの投資家がいます。比較的なじみのあるタイプの投資家をいくつか紹介します。

銀行・預金系金融機関

多くの人とって一番身近な機関投資家は銀行もしくはゆうちょ銀行でしょう。これらの投資家は、個人・法人から預金としてお金を集め、その集めたお金を元手に投資を行っています。

銀行といえば法人・個人への貸し出しをビジネスとしているイメージが強いと思いますが、これもお金を貸し出して、返済するまでに金利収入を得ることから、広い意味では「投資」の一種となります。

機関投資家である銀行の特徴

大抵の銀行は、貸し出しとあわせて株・債券など金融商品への投資を行っています。

銀行やゆうちょ銀行は、預金者がいつでも引き出せるように一定の資金を用意する必要があります。そのため、容易に現金化できる金融商品や、投資期間が短い投資先を好む傾向があります。

法人および国民から集まる資金が莫大なので、多様な投資先に投資を行いますが、株よりリスクの低い国債などの比率が高い傾向にあります。

運用規模は、先に述べた貸し出しも含めると、大手都市銀行やゆうちょ銀行などでは200兆円規模になり、実は巨大な機関投資家であることがわかります。

なお、銀行に似たビジネスモデルをもつ預金を取り扱う金融機関として、信用金庫・信用組合・農協などがあります。貸し出しビジネスに細かい制約などがありますが、預金を元手に投資を行っている点は銀行と一緒です。

保険会社

保険もまた、多くの方が利用している金融商品でしょう。自動車保険・火災保険・生命保険などさまざまありますが、金融の観点から見れば、保険料を支払う期間や、保険金が支払われる条件が異なるだけで、ベースの保険の仕組みは一緒です。

保険会社は、加入者から保険料として資金を集めます。満期のある生命保険などでは、保険料の支払総額より受け取れる保険金が多い場合もしばしばあります。

保険会社自身の収益を得る必要もあるので、保険会社は集めた保険料をただ保有しているのではなく、この集めた資金を「増やす」努力をしなければなりません。

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機関投資家である保険会社の特徴

そのため保険会社はこの集めた保険料を元手に投資を行っています。運用規模は保険会社によってさまざまですが、日本生命など大手ですと1社で50兆円以上の規模になります。

保険会社は、保険金支払いが発生した際に確実に必要額を確保しておく必要がありますので、高いリスクは取らず債券などを中心に運用していることが多い傾向があります。運用の投資機関は保険により異なり、契約期間が短い自動車保険などは換金しやすく、満期の短い商品に多く投資します。

一方で、生命保険は数十年間の契約になることが多いので、運用期間が長い商品を選好する傾向にあります。大手で大口の資金を運用できる生命保険会社の場合は、不動産投資などを行う場合もあります。

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資産運用会社

資産運用会社にはさまざまなタイプがあるので、ここでは代表的な2つのパターンを紹介します。

アセットマネジメント会社

アセットマネジメント会社は、個人・法人などから資金を預かって、それぞれの顧客ニーズにあった運用を行い、リターンを資金提供者に還元するビジネスです。

ただし日本では、個人向けとしては投資信託商品を提供していることが多い傾向があります。投資信託自体は証券会社や銀行などで購入できますが、その中身の運用はアセットマネジメント会社が行っています。

機関投資家であるアセットマネジメント会社の特徴

法人顧客向けにも複数の投資手法を用意しており、その中から法人顧客それぞれが自分の運用ニーズにあった運用手法を選択していく形式となっていることが多いのも特徴です。

投資先は、投資信託をはじめ運用手法によってさまざまです。株中心のもの、債券中心のもの、双方にバランスよく投資するもの、最近では先物取引という手法を活用して原油・金などの実物資産に投資するものなどもあります。運用規模は企業により差が大きいですが、国内大手の野村アセットマネジメントですと、50兆円以上の規模になります。

資産運用ファンド

資産運用ファンドアセットマネジメントには厳密な区分はあるわけではありませんが、上記のアセットマネジメント会社と異なる特徴を有する資産運用ファンドも多数あります。

一例を挙げると、ヘッジファンドプライベートエクイティファンドなどというような名称がつけられているものです。こうしたファンドは、より独自性の強い運用を集中的に行う傾向にあります。

機関投資家である資産運用ファンドの特徴

資産運用ファンドは、いわゆる証券会社などで幅広く購入できる投資信託ではなく、少数の投資家から多額の資金を集めて運用を行います。また運用手法も、株・債券など一般的な金融商品だけでなく、オプションやデリバティブ、不動産、コモディティなど幅広い金融商品を駆使します。プライベートエクイティファンドなどでは、企業の株を一定割合買い占めて実際に投資先の企業を経営することなども行われます。

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それぞれファンドが独自の運用手法やルールに基づいて、得意分野で集中的に投資を行う傾向があります。資産運用ファンドについては、おおむね数十億円〜数兆円程度とファンドによって運用規模が大きく異なります。

年金・共済運用機関

年金・共済運用機関は、その名の通り年金や共済として預かった資金をまとめて投資に回し、将来の年金や共済金の支払いに対応する団体です。あえて「団体」と書くのは、独立行政法人や組合などいわゆる「企業」ではない団体が運用する例が多いためです。

日本の年金の運用管理を行う年金積立管理運用独立法人国民年金基金連合会や、企業内の福利厚生の一環で行われる多数の共済基金、都道府県ごとに分かれている都民共済・県民共済など、実は多数の運用機関があります。いずれも加入者から定期的に徴収した資金をまとめたうえで投資を行っているのです。

機関投資家である年金・共済運用機関の特徴

共済の場合は運用実態は保険に近く、やはり安定性の高い債券などでの運用が多くなっています。一方年金運用の場合は、安定性も大事にしつつ将来の年金額をできるだけ増やすことも重要な使命ですので、株・債券など多様な金融商品にバランスよく投資をしている場合もあります。

実はこのセクターも運用規模は大きく、日本最大の年金系機関投資家である年金積立管理運用独立法人では運用規模は150兆円を超えます。

機関投資家が行う投資とは?

投資と聞くと、株式投資、債券投資などを思い浮かべるでしょう。機関投資家も、個人のサラリーマン投資家と同じように投資先に株式や債券も当然あります。個人投資家も機関投資家も「投資によって収益の獲得を目指している」という点は共通していますが、それ以外では個人投資家とは投資の方法が大きく異なります。

なかでも、個人投資家とは規模が全く異なる莫大な資金規模で運用を行うことが大きな違いです。そして機関投資家は、大きな損失を避けながら、安定したパフォーマンスを実現するために、高度に洗練された投資手法を用いて運用を行います。投資先の選定において、感覚で決めるのではなく、さまざまなデータを用いながら一定の手法・理論に沿って進めていきます。

機関投資家個別の投資手法はさまざまであり、また企業秘密となっている部分も多いので、とてもここで書き切れるものではありません。ここでは、比較的幅広く取られている基本的な投資手法を4つ簡単に紹介します。

機関投資家にとって、安定的に収益を上げていくために投資手法は生命線です。各投資家とも膨大なコストをかけて、それぞれが最適と考える運用手法を構築しています。

また、一度構築したら終了ということではなく、日々パフォーマンスを検証しながらよりよい運用手法の研究も進められています。

また1つの手法を中心に運用している場合もあれば、複数の手法を組み合わせてベストな投資先を選んでいる場合もあります。

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一定の投資比率をあらかじめ定めている

年金系の機関投資家や、資産運用会社の中で、さまざまな金融商品に投資する際の運用ルールを敷いているファンドでは、主要な金融商品ごとの投資比率を決めている場合があります。

例えば、2020年以降の年金積立管理運用独立法人では、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式それぞれ25%を基本に、それぞれ基本比率から±6〜8%で設定された許容範囲以内に収める形となっています。

一貫して一定の比率を維持し続ける場合もありますが、一定のサイクル(5年など)で比率自体を見直す場合もあります。例えば、同じ年金積立管理運用独立法人では、2019年までは基本的な比率は国内債券35%・外国債券15%・国内株式25%・外国株式25%でした。

トップダウン・アプローチ:マクロ経済の分析・予測などをもとに投資方針を決める

投資の世界では、トップダウン、ボトムアップという表現がしばしば用いられます。トップダウン・アプローチとは、世界経済など大きな枠組みから分析を行って、これを投資に役立てていく手法です。

まず世界経済を過去のデータと現状をもとに分析したうえで、今後の経済がどのように変化していくか予測を立てます。グローバルに投資を行っている機関投資家の場合は、世界経済だけでなく、欧州・アメリカ・アジアといったように地域別の分析も行います。

分析を経て、独自の経済予測を立てたあとは、この予測内容をもとに投資先を検討していきます。

例えば株と債券でいえば、株の方がハイリスクな傾向にありますので、今後景気が良くなる見通しであれば株を増やし景気が不透明なら債券を増やすといった具合です。

地域別に分析を行っている場合は、好調な経済環境の地域に積極的に投資することになります。

ボトムアップ・アプローチ:個別セクター・ 銘柄の分析を積み上げて投資先を選別

ボトムアップ・アプローチはトップダウンと対照的に細かい単位の分析からスタートすることを指します。どの程度細かく分析するかは投資家によるものの、一般的には個別企業や業種を出発点に分析していきます。

各企業や業種の現状と、経済環境やビジネス環境の方向性を踏まえて、分析企業・業種の良しあしの見通しを立てます。見通しをもとに、各企業が発行する株や債券などの資産価格がどのように変化するか予測します。

今後資産価格が好調に伸びていくと考えられる投資先に多く投資し、不調に陥るリスクのある企業への投資を避けます。

投資する・しないの二択で判断することはあまりなく、膨大な銘柄を順位づけし、高い企業から順に投資比率を割り振っていくことで多数の企業・業種に投資を行います。

クオンツ分析:独自のシステムや分析理論に基づいて投資先を算出

機関投資家の運用手法の中でも難解なのがクオンツ運用です。クオンツ運用とは、独自のシステムや分析理論に基づいて、過去の膨大な市場のデータベースを分析し、今後の相場動向を予測する手法です。分析結果をもとに、今後値上がりすると予想される資産に多く投資し、値下がりすると予想される資産への投資を減らします。

基本的には一度システムと分析理論が構築されたら、日々の資産運用はシステムで自動管理されます。人間はシステムが正常に機能しているか管理しながら、相場や経済環境の大きな変化などにより既存システム・分析理論が想定通りのパフォーマンスをもたらさなくなった時にのみ、システムや分析理論の調整を行います。

システムや分析理論は、機関投資家自身の能力アピールの目的などで概要のみ紹介されている場合もありますが、詳細は企業秘密になっていることが多いです。各投資家とも膨大なコストと手間をかけて独自の運用手法が構築されていますので、外に知られてしまうことを良しとしないためです。

投資を行ううえでは機関投資家の動向にも注目を

機関投資家は、高度な分析能力を駆使しながら、莫大な資金を運用している存在です。規模が大きいため、機関投資家の動きが相場動向に大きな影響を与えることもあります。

機関投資家の判断だから間違いはないと言い切れるわけではもちろんありませんが、個人投資家では到底再現できない高度な手法で分析を行って投資を実行しているのは確かです。

大規模な機関投資家の動きなどは日経新聞や各種メディアで報じられることもしばしばありますので、個人投資家の方々は日常から機関投資家の動きを情報収集しておき、投資の判断に役立てていくことをおすすめします。

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この記事を書いた人

伊藤圭佑 証券アナリスト

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。

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