相続時精算課税制度とは? メリットやデメリットをわかりやすく解説
相続税の税負担を少しでも軽減するために、節税対策として「相続時精算課税制度」の利用を検討している人もいるでしょう。相続時精算課税制度の仕組みやメリットを、相続税と贈与税の違いとともにわかりやすく解説します。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子もしくは孫に財産を贈与した場合に利用できる制度です。
贈与税の申告は、財産を贈与された年の翌年の2月1日から3月15日の期間に必要ですが、2,500万円までの贈与を非課税にできます。
あくまでも贈与税が非課税となるだけで、相続発生時には相続税の課税対象になりますが、取得額に対して適用される税率が低いため、節税効果が期待できるでしょう。
相続時精算課税制度のメリット
相続時精算課税制度は、相続税対策を検討しているすべての人に最適な選択肢とは限りません。相続時精算課税制度はメリットだけでなくデメリットがあるため、双方を理解したうえで選択することが大切です。
相続時精算課税制度のメリットを詳しく解説します。
2,500万円まで贈与税が非課税
相続時精算課税制度は2,500万円まで贈与税が非課税になることによって、生前贈与にかかる贈与税の税負担を軽減できます。
普通の贈与(暦年贈与)だと年間の控除は110万円までですので、2,500万円を非課税で贈与するためには約23年もかかります。ですが、相続時精算課税制度なら2,500万円を1度に非課税で贈与できるのです。
次の項で詳細を説明しますが、一時的な贈与税の負担を軽減できるだけでなく、同額を取得した場合に適用される税率が低くなるため、トータルの税負担を軽減できる点が相続時精算課税制度の魅力です。
超過分の税率も一定なので節税効果に期待
相続時精算課税制度を利用した贈与が2,500万円を超えた場合、超えた金額に対して一律20%の税金が課されます。普通の贈与(暦年贈与)だと2,500万円を超えた金額に対して45%〜55%の税金(累進課税)が課されます。
超過分が少額であれば恩恵をあまり受けられませんが、相続時精算課税制度は従来の累進税率ではないため、超えた分に対しての税負担を軽減できる点も魅力です。
土地や建物の相続では節税効果に期待
相続時精算課税制度を利用した場合、相続税の課税対象となる資産の価値を算出するのは相続発生時と考えている人もいるでしょう。しかし、資産価値を算出するのは相続発生時ではなく贈与時です。
そのため、将来的に価値が上がる可能性のある資産を贈与する場合には、大きな節税効果が期待できます。
例えば、相続時精算課税制度を利用して3,000万円の土地を生前贈与して、最終的に土地の価格が5,000万円になっても、贈与時の3,000万円が相続財産とされます。
このように、価格の上昇が期待できる財産の場合、相続時精算課税制度の恩恵をさらに受けられるでしょう。
相続時精算課税制度のデメリット
相続時精算課税制度にはデメリットもあります。主なデメリットについて見ていきましょう。
暦年贈与を選択できなくなる
相続時精算課税制度を選択した場合、暦年贈与を選択できなくなります。つまり、年間110万円以内の贈与であっても、贈与税の課税対象になるということです。
また、相続時精算課税制度を一度選択したあとは、暦年贈与に切り替えることはできません。そのため、本当に自分に合っているのかどうかをよく考えてから選択しましょう。
小規模宅地等の特例を選択できなくなる
小規模宅地等の特例とは、相続によって土地を取得する際に評価額を最大80%減額できる特例です。しかしこの特例を適用できるのは、あくまでも相続による取得のみです。
生前贈与による土地の取得の場合には適用できないので注意しましょう。
必ず節税効果が期待できるとは限らない
土地や建物の価値が下がってしまうと、節税効果を発揮できません。例えば、相続時精算課税制度を利用して3,000万円の土地を生前贈与して、最終的に土地の価格が1,000万円になっても、贈与時の3,000万円が相続財産とみなされます。
実際の評価額は1,000万円であるにもかかわらず3,000万円と評価されて、本来よりも多くの相続税を負担しなくてはならないケースもあるので注意が必要です。
贈与税と相続税の違いとは
財産を生前に他人に譲り渡すことを贈与、亡くなったことを理由に譲り渡すことを相続(遺贈)とよびます。
贈与と相続では、それぞれ譲り渡した財産が課税対象となりますが、具体的にどのくらいの税額になるのでしょうか? 贈与税と相続税の違いを詳しく説明します。
贈与税とは
贈与税とは、生前に他人に財産を譲り渡す際に課される税金です。人が亡くなった場合には、贈られる財産に対しては相続税が課されます。しかし生前に財産を贈与すれば相続財産を減らせるため、相続税の負担を軽減できます。
そのような課税逃れを防止するために設けられているのが贈与税です。生前贈与に対して贈与税を課すことで、相続税を補完しています。贈与税の税率は以下の通りです。
【一般税率】
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
【特例税率】
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
特例税率は、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の者が直系尊属(父母や祖父母など)からの贈与で取得した財産に適用されます。一般税率の対象は特例税率以外の贈与です。
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
暦年贈与による節税効果
贈与した財産のすべてに対して、税金が課されるわけではありません。生前に財産を贈与したい人に向けて「暦年課税」という制度が設けられています。
暦年課税とは、年間110万円まで贈与税を課されることなく生前贈与できる制度です。ただし生前贈与を早く開始することで、多くの財産を非課税で譲り渡せるため、贈与と相続を一体化させて課税逃れを防ごうという流れに変わっています。
将来的に暦年贈与を選択できなくなる可能性があるという点を覚えておきましょう。
相続税とは
相続税とは、亡くなった人の財産が相続人に譲り渡される際に課される税金です。資産を再分配するための税制度で、基礎控除額の引き下げにより相続税を課されるケースが増えているため、何かしらの相続税対策が必要とされています。
相続税の税率は以下の通りです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
基礎控除による節税効果
すべての相続財産が相続税の課税対象になるわけではありません。「3,000万円+600万円×法定相続人の数」までの基礎控除があり、相続財産が基礎控除の範囲内であれば、相続税は課されません。
また、小規模宅地等の特例、配偶者の税額控除、未成年者控除といった特例を適用することで、相続税が課されないケースもあります。
自分に合った方法を選択しよう
基礎控除の範囲内だと基本的に相続税を課されることはないため、相続時精算課税制度の利用を検討する必要はありません。
相続時精算課税制度は、相続税の課税対象で将来価格の上昇が期待される財産が多い場合に最適な制度です。
すべての人に最適とは限らないため、相続税の課税対象なのか、どのような財産があるかなど、総合的によく考えてから選択しましょう。
※本記事の情報は、信頼できると判断した情報・データに基づいておりますが、正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。法改正等により記事執筆時点とは異なる状況になっている場合があります。また本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。
関連キーワード