住宅資金の贈与税が非課税となる条件とは。対象や限度額を解説
両親などから住宅資金の援助を受けた場合、「非課税の特例」により最大1,000万円が非課税となります。ただしすべての人が対象となるわけではなく、年齢や所得、住宅の種類などに一定の要件が設けられています。適用要件や利用時の注意点を確認しましょう。
住宅資金の援助を受けると贈与税がかかる
マイホームの購入や自宅の増築などをする際、身内や親戚から「住宅資金の援助」を受ける人も多いでしょう。日本には「贈与税」という課税の仕組みがあり、金銭をはじめとする財産を取得した際に一定の税金が課せられます。
贈与税は取得した財産に課される税
「贈与税」は、「贈与」により個人から財産を取得した際に課されます。遺産相続による「相続税」の課税逃れを防ぐ目的があり、個人から一定の財産を取得したときは、贈与税または相続税のいずれかが課される仕組みです。
また課税の公平負担の観点から、法的には贈与とはいえないものの贈与税の課税対象になる贈与は「みなし贈与」とよばれます。以下はその一例です。
- 著しく低額で財産を譲り受けた
- 対価を負担せずに、借金の免除をしてもらった
- 対価を負担せず、不動産や株を自分名義に変更してもらった
- 受取人が保険料を負担せずに保険金を取得した
- 親などから「あるとき払いの催促なし」や「出世払い」で借金をした
親族から有利に贈与を受ける方法は2つ
親族から財産を譲り受ける際「税金を最小限に抑えたい」と思うのは当然のことです。贈与税には基礎控除があり、財産のすべてに贈与税が課されるわけではありません。相続時精算課税制度を選択して、贈与税の支払いを先延ばしすることも可能です。
暦年課税制度の基礎控除を利用
贈与税の課税方法には「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の2種類があります。
暦年課税制度は、1年間(1月1日~12月31日)に贈与された財産の合計額に対して課税される課税方式です。110万円の基礎控除があり、財産の合計額から基礎控除を引いた残りの額が贈与税の課税対象となります。税率は国税庁のウェブサイトで確認しましょう。
- 贈与税=贈与された財産の総額-基礎控除額(110万円)×税率
現行では、年間110万円以内の贈与であれば贈与税の負担はないため、一度に多額の贈与をするよりも毎年少しずつ贈与する方が賢い方法といえます。
ただし、2022(令和4)年度の「税制改正の大綱」では贈与税の課税制度の見直しについても言及されています。
現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。
引用: 令和4年度税制改正大綱(PDF)|自民党・公明党
近い将来、贈与税の非課税措置が変更になる可能性も押さえておきましょう。
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
相続時精算課税制度を利用
「相続時精算課税制度」は、以下の条件に該当する人が選択できる課税制度です。
- 贈与者:贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母
- 受贈者:贈与のあった年の1月1日において18歳以上の子または孫
制度の限度額は2,500万円となり、前年以前に同制度を使って控除している場合は「残額」が限度額となります。
贈与者が亡くなって相続が発生した場合、「相続時精算課税の適用を受けた贈与財産の価額」と「相続や遺贈により取得した財産の価額」を合計して相続税額を算出します。
贈与額の合計が2,500万円を超えた場合は、超過部分に対して一律で20%の贈与税が課税される仕組みです。税金が免除されるわけではありませんが、贈与時にかかる贈与税を最小限に抑えることが可能です。
相続税の計算時は贈与時の評価金額で算定されるため、将来値上がりが予想される財産を選択すれば、より有利になるでしょう。
ただし、相続時精算課税制度を選択した場合、適用後は「同一贈与者からの贈与に関して暦年課税制度は利用できなくなる」点に注意が必要です。
住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置とは
マイホームの購入や増築といった用途で、父母や祖父母などから資金援助を受けた際は「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」という特例により、贈与税が一定額までは非課税となります。
直系親族から資金援助を受けた場合の特例
「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税(以下、非課税の特例)」は、直系尊属(直通する系統の親族のうち、自分よりも前の世代、すなわち以下のような直接の祖先に当たる人々)より、以下のような住宅資金の援助を受けた際、限度額の範囲内で贈与税が非課税となる特例です。
- 住宅用の家屋の新築または取得
- 住宅用の家屋の増改築
本来は2021年12月31日までの特例でしたが、2022年度の税制改正で延長が決定しました。現行では「2022年1月1日~2023年12月31日」に贈与を受けたものが対象です。
前回との重複の適用は認められておらず、2009~2021年分の贈与税の申告で住宅取得等資金の非課税の適用を受けた人は、原則的に対象外となります(一部の例外を除く)。
参考:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
限度額は1,000万円または500万円
非課税限度額は、贈与を受けた人が取得する住宅の種類によって異なります。現在のところ、省エネ等住宅が1,000万円、省エネ等住宅以外が500万円です。
「省エネ等住宅」とは、省エネルギーや耐震などの性能に優れた住宅を指し、以下の省エネ等基準を満たすことが条件となります。
- 断熱等性能等級4以上、もしくは一次エネルギー消費量等級4以上
- 耐震等級2以上、もしくは免震建築物
- 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上
非課税枠は相続時に加算されない
暦年課税で贈与を受けた日から3年以内に贈与者が亡くなった場合は、贈与税が発生していたかどうかに関係なく、相続税の計算時に加算されるのが原則です(すでに納めた贈与税額は相続税から控除)。
このルールは「生前贈与加算」といい、生前の贈与はなかったものとみなされます。基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産も加算の対象です。
ただし、直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち「非課税の適用を受けた金額」については加算の対象にはなりません。
非課税措置を受ける条件
非課税の特例を受けるには、「贈与者」「受贈者」「住宅用の家屋」がそれぞれの要件を満たす必要があります。具体的にどのような要件があるのか確認しましょう。
贈与者が直系尊属
非課税措置を受ける大前提として、贈与者が受贈者の「直系尊属」という点が必要です。直系尊属は以下のような人々を指します。
- 父母
- 祖父母
- 曽祖父母
- 高祖父母
養子縁組をしている場合を除き、配偶者の父母や祖父母は直系尊属に該当しない点に注意しましょう。例えば、夫が妻の父母から受けた資金援助は非課税措置の対象外です。
また、贈与者に年齢の制限はありませんが、受贈者は贈与を受けた年の1月1日において、18歳以上でなければなりません。
登記簿上の床面積が40m2以上240m2以下
新築・取得・増改築のいずれの場合においても、対象となる住宅用の家屋は以下の要件を満たす必要があります。
- 家屋の登記簿上の床面積(区分所有建物は専有部分の床面積)は40m2以上240m2以下であること
- 家屋の床面積の1/2以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されること
住宅用の家屋の取得の場合には、「建築後使用されたことのない住宅用の家屋であること」「建築後使用されたことのある住宅用の家屋は、1982(昭和57)年1月1日以後に建築されていること」などといった要件があります。
増改築の場合は、「増改築等の工事に要した費用額が100万円以上であること」「費用額の1/2以上が、自己の居住の用に供される部分の工事費用であること」が要件です。
贈与を受けた年の所得が2,000万円以下
受贈者には「所得制限」があり、贈与を受けた年の合計所得額が2,000万円以下でなければいけません。「合計所得額」とは、以下に挙げる所得金額等に退職所得金額と山林所得金額を加算したものを指します。
- 事業所得
- 不動産所得
- 給与所得
- 総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得および雑所得の合計額(損益通算後の金額)
- 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の1/2の金額
事業所得や不動産所得などの複数の収入源がある人は、所得制限を超えてしまう可能性があるでしょう。
参考:専門用語集|国税庁
非課税措置を利用する注意点
非課税の特例にはいくつかの要件があり、贈与を受けるタイミングや対象の住宅に居住する時期によっては、特例が受けられないケースもあります。住宅資金を援助されたのが自分だけである場合、遺産相続時にトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
特例を利用する前に確認しておくべき注意点を解説します。
贈与を受けるタイミングは居住前
非課税の特例を利用する際は「贈与を受けるタイミング」をしっかりと把握する必要があります。要件には、「贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること」という記載があります。
つまり、直系尊属からの贈与は「対象の住宅に居住する前」でなければならず、居住後に資金を取得した場合は、非課税の特例は適用されません。
既存住宅を取得する、または増改築をする場合も、住宅の引き渡し前であることが前提です。
特例を受けるには入居時期の期限がある
非課税の特例は「入居時期」にも注意が必要です。国税庁のウェブサイトには以下のような記載があります。
(6)贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること。
(8)贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住することまたは同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。
引用:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
贈与の翌年3月15日までに住宅を取得したうえで、その家屋に居住することが要件です。仮に居住が間に合わなくても、居住が確実であることが見込める場合は非課税の特例は適用されます。
ただし、「贈与を受けた年の翌年12月31日」がタイムリミットです。それまでに居住していない場合は、特例は適用となりません。したがって、贈与税の修正申告が必要となります。
相続時にトラブルになる場合がある
住宅資金の贈与は、身内が亡くなった際に「相続トラブル」の火種になる可能性があります。
特定の相続人に対する生前贈与は「特別受益」に該当します。特別受益とは、一部の相続人のみが故人(被相続人)から受け取った、特別な利益のことです。
高額な金銭を生前に贈与された相続人がいた場合、その分をカウントして遺産分割をしなければ、公平とはいえなくなってしまいます。特別受益を遺産に含めて相続分を計算することを「特別受益の持ち戻し」といいます。
住宅資金の贈与があった場合は、遺産をどう分割するかでもめる可能性がある点に留意しましょう。
住宅ローン控除との併用は可能
「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」とは、住宅ローンを組んで住宅を購入する際、一定額を所得税から控除する制度です。2022年度から新制度に移行し、2025年度末までは、毎年の住宅ローン残高の0.7%が13年間控除されます(中古住宅は10年間)。
「住宅ローン控除を受けると、非課税の特例が受けられないのでは?」と思うかもしれませんが、併用できないという規定はありません。
住宅ローン控除の計算の基になるのは、「住宅ローン等の年末残高の合計額」または「住宅取得等の対価の額」のいずれか少ない方です。
非課税の特例を受けた場合においては、「住宅取得等の対価の額から贈与税の非課税措置の適用を受ける金額を差し引いた金額」が、住宅取得等の対価とみなされます。非課税の特例を受けたことで、控除額が変わる点に注意しましょう。
例えば、実際の住宅取得等の対価が5,000万円、住宅取得資金の贈与額が1,000万円の場合、4,000万円が住宅取得等の対価となります。この額と、住宅ローン等の年末残高の合計額のいずれか少ない方が住宅ローン控除の計算の基礎となります。
非課税措置の申告方法
非課税の特例を受けるには、申告期限までに「贈与税の申告」を行います。申告の期限や必要書類、申告に関する注意点を確認しましょう。
贈与を受けた年の翌年に申告
住宅資金等の贈与を受けた場合、贈与税の申告書に非課税の特例の適用を受ける旨を記載して、必要書類と一緒に提出する必要があります。
贈与税の申告期限は「贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日」で、提出先は「納税地の所轄税務署」です。
郵便や信書便で税務署に送付する場合は、消印の日付が提出日となります。3月15日の消印があれば問題はありませんが、できるだけ早めに準備をするのが望ましいでしょう。
贈与税の申告方法と必要書類
贈与税の申告に必要な書類は、住宅の種類や特例を受ける要件によって異なります。詳しくは納税地の所轄税務署か国税庁のウェブサイトで確認しましょう。
以下は、新築または取得において、必ず提出しなければならない共通の書類です。贈与税の申告書に非課税の特例を受ける旨を記載したうえで、書類を添付して提出します。
- 受贈者の戸籍謄本
- 前年分の所得税に係る合計所得金額を証明する書類
- 住宅用家屋の登記事項証明書(贈与税の申告書に不動産番号を記載すれば省略可)
- 新築や取得の契約書の写し
- 個人番号カードなどの本人確認書類の写し
「贈与税の申告書」は、納税地の所轄税務署で入手するか、国税庁のウェブサイトでフォーマットをダウンロードしましょう。国税電子申告・納税システム「e-Tax(電子申告)」による申告も可能です。
納税額が0円でも申告が必要
特例の適用で納税額が0円になる場合でも、贈与税の申告は必ず行いましょう。申告を忘れると特例が適用されず、贈与税が課税されてしまいます。
納税額が0円でも申告が必要な特例には、「配偶者の税額軽減(相続税)」や「小規模宅地等の特例(相続税)」などがあります。
夫婦がそれぞれの直系尊属から住宅取得資金を受け、かつ非課税の特例を利用したい場合は、個別に贈与税の申告書を作成します。
資金援助を受ける場合は制度を上手に活用
贈与税には基礎控除や特別控除があり、暦年課税制度では110万円、相続時精算課税制度では2,500万円が贈与額の合計から差し引かれます。
住宅資金の取得に関しては、最大1,000万円の非課税枠が設けられているため、上手に活用すれば贈与税の負担を大きく軽減できるでしょう。
贈与税に限りませんが、非課税の特例を受ける際は「要件」をよく確認する必要があります。納税額が0円だからといって申告を忘れると特例は適用となりません。
申告方法に不明点があれば、納税地を所轄する税務署の担当者や税理士などの専門家に相談しましょう。
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