アパート・マンションの退去費用を徹底解説!本当に支払うべきものはこれだ
アパート・マンションを退去する際、大家または管理会社から費用を請求されることがあります。しかし、退去費用を支払う範囲は決められているため、それを知らないと損することもあるでしょう。そこでこの記事では、退去費用とはどのような費用か、支払うべき費用はどのような項目かについて解説していきます。
退去費用とは
まずは、そもそも退去費用とはどのような費用かという点について、解説していきます。
退去時の原状回復費用の定義
前提として、原状回復費用とは「入居者の不注意による傷や汚れなどを修繕・クリーニングする費用」と認識しておきましょう。国土交通省のガイドラインによると、原状回復は以下のように定義づけられています。
賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること
原状回復費用は「借主の故意や過失による室内の傷や汚れの原状回復に必要な費用」のことを指します。それ以外の経年劣化による傷や破損などは、「原状回復」ではないので借主は費用負担を負いません。
従来は、「原状回復=借主が借りた当時の状態に戻すこと」という認識がありました。そのため、経年劣化した分も借主が費用負担する風潮がありましたが、今はトラブルを避けるために国土交通省が定義づけています。
退去費用と原状回復費用は何が違う?
退去費用と原状回復費用は、ほぼ同じ意味として考えていいと言えます。原状回復費は退去時に支払う費用でもあるため、「退去費用」とよばれることもあるのです。
退去費用は敷金で支払われる
次に、退去費用と敷金の関係について解説します。敷金とは、「借主が家賃を滞納したときや原状回復費用に充てられる費用」になります。
そのため、借主が負担すべき原状回復費用が発生した場合は、敷金からまかなわれるというルールです。例えば、借主が大家に10万円を敷金として預けていて、退去時に原状回復費用として7万円請求されたとします。
その場合、原状回復費用の7万円は敷金の10万円から支払われるので、余った3万円は借主に返還されます。一方、原状回復費用が12万円であれば、足りない分の2万円を請求されるという仕組みです。
退去費用の相場
退去費用の相場は、国土交通省の資料によると単身者向けの賃貸物件では以下のようになっています。
引用: 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)(PDF P.122) │ 平成23年 8月 国土交通省住宅局
このように、借主(上記では入居者)が支払う金額としては、2万円から5万円以下が多いですが、10万円以上支払っている人も15%以上いることが分かります。もちろん、物件ごと・借主ごとに異なる金額ですが、上記は参考までに認識しておきましょう。
退去費用として請求できる・請求される項目
次に、退去費用として請求できる・請求される項目について、条件や項目によって大家負担となるもの・借主負担となるものについて解説していきます。まずは、上述した国土交通省の資料によると、修繕が発生することが多い箇所は以下の通りです。
出所: 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)(PDF P.120) │ 平成23年 8月 国土交通省住宅局
上記のように、壁のクロス張り替えが非常に多く、次に室内のクリーニング、畳の張り替えとつづきます。こちらを踏まえて以下を確認ください。
大家負担となるもの
まずは、大家負担となるもののうち、以下の費用負担の目安金額を紹介していきます。なお、今回紹介する負担金額は、実際に支払いをした人のヒアリング、およびリフォーム会社の費用から予測した金額なので、参考金額として認識ください。なお、1畳を約1.82m2で換算しています。
家具家電の設置による床・フローリングの凹み
まず、家具や家電の設置による、床やフローリングの凹みに関しては、実際に費用負担した人のヒアリングでは以下の通りです。
- クッションフロア:3,000円/m2
- フローリング:5,000〜6,000円/m2
上記の通りなので、6畳の部屋だとクッションフロアで約3.3万円、フローリングで5.4万円~6.5万円ほどです。たとえば、借主がクッションフロアの上で飛び跳ねたことによる床の破損などは借主負担ですが、そのようなことでない限りは大家の負担です。
畳や壁の日焼けによる変色
畳や壁が日焼けで変色した場合は、借主の故意・過失ではないので大家負担です。その際は、以下が目安金額となります。
- クロスの張り替え:1,200円/m2
- 畳の張り替え:4.8万円(6畳)
エアコン設置のビス穴、跡
次に、エアコン設置のビス穴や跡を補修する費用です。エアコン設置はいろいろな方法がありますが、たとえばクロスの裏側に金具を仕込んでいる場合だと、その金具にエアコンを設置します。そのため、エアコンを撤去する際は、金具がむき出しになる部分が出てくるため、クロスの張り替えなどの工事が必要になります。
この補修費用については賃貸借契約書に記載しているパターンが多いですが、実際に請求された人へのヒアリングでは3万円ほどの請求になったそうです。ただ、エアコンの設置方法や補修方法によって、金額は変わってくるでしょう。
壁などの画びょう穴
壁などの画びょう穴については、あまりに大きい穴でなければ「日常利用の範囲内」として大家の負担となります。その場合は、クロスを丸ごと交換するか部分的に交換するかという処理になるので、上述したクロスの張り替え費用を参考にしてください。
また、あまり気にならない程度の穴であれば、原状回復せずにそのまま次の賃借人を住まわせるケースもあるでしょう。
テレビ、冷蔵庫など後部壁面の黒ずみ
テレビや冷蔵庫などの後部壁紙の黒ずみも、前項と同じく「賃借人の日常生活の範囲内」です。そのため、大家負担となりますが、こちらもクロスの張り替え費用である「1,200円/m2」を参考にしてください。
借主負担となるもの
次に借主負担となるものについて、前項と同じく目安金額と、どんなときに借主負担になるのか?を解説していきます。
引っ越し作業でできた傷
引っ越し作業でできた傷は、引っ越し業者の過失だった場合は引っ越し業者が払います。ただ、たとえば「借主が段ボールを運んだ時にクロスが破れた」などは、借主負担となります。
タバコなどでついたクロスの変色・臭い
また、タバコなどでついたクロスの臭い、および変色については借主の負担となり、金額は上述した「1,200円/m2」の張り替え費用を参考にしましょう。また、あまりに臭いがひどい場合は消臭も必要となり、その場合は別途3万円~7万円ほどの費用がかかります。
ペットによってついた傷・臭い
ペットによってついた傷や臭いも、タバコと同じく借主負担です。また、クロスの張り替えは「1,200円/m2」で消臭も前項と同じです。
ガスコンロ置き場、換気扇などの油汚れ、すす
ガスコンロや換気扇などの油汚れなどに関しては、通常の範囲内であれば大家が負担します。しかし、たとえば長年放置していることで汚れがこびりついているのであれば、その原状回復(クリーニング)費用は借主負担です。費用は数万円前後になるでしょう。
ただ、最近では契約時に「退去する際は〇万円をクリーニング費用として徴収する」という旨の特約を締結している場合もあります。
庭に生い茂った雑草
庭に生い茂った雑草も、借主が適切な管理をしていなかったことによる除草費用などは、借主負担となります。これは、公益財団法人である不動産流通センターでも「賃借物についての一定の善管注意義務を負っており、賃借人が適切な管理をしなかったときは、損害賠償責任が生じる場合がある。」としています。
請求されることの多いハウスクリーニング費用とは
上述のように、ハウスクリーニングは契約時に特約として結んでいるケースもありますし、30%を超える借主がハウスクリーニングの費用を請求されたことがあります。
出所: 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)(PDF P.120) │ 平成23年 8月 国土交通省住宅局
実際にハウスクリーニングを請求された費用を参考にすると、大体2万円~6万円です。
特約を結ぶときのクリーニング費用は物件によりますが、以下のように広さによってクリーニング費用があらかじめ決められているケースが多いでしょう。
- 30m2まで:3万円
- 40m2まで:4万円
- 50m2まで:5万円
- 60m2まで:6万円
退去費用を少しでも抑える方法
上述したように、借主も退去費用を2万円~5万円ほどは負担しているケースが多いです。この退去費用を少しでも抑える方法として以下を知っておきましょう。
方法1:見積もりをもらう
まずは、大家が提示した費用請求に対して、詳細な見積もりをもらいましょう。そして、ネットなどで「クロス張り替え費用」などと検索して、あまりに金額がかけ離れていたら大家に指摘しましょう。そうすれば、再度金額を調整してくれる可能性があります。
方法2:入念にクリーニングする
2つ目の方法は、入念にクリーニングしておくことです。というのも、たとえば上述したコンロの油汚れなどは、こびりついた汚れでも自分でクローニングすれば落ちるかもしれません。また、クロスの汚れなどもスポンジでこすれば消えることもありますし、フローリングの汚れも固く絞った雑巾などで拭けば消えることがあります。
方法3:簡単な補修をする
3つ目の方法は、簡単な補修をすることです。たとえば、クロスの小さい傷やフローリングの小さい傷などは市販のもので補修可能なので、補修することで原状回復する必要がなくなるかもしれません。
ただ、大きな傷は補修が難しく、素人が補修すると悪化する可能性もあるので、小さな傷だけにしておいた方がよいでしょう。
方法4:電球などの消耗品はつけておく
入居時に電球や洗濯機の洗濯機パンから水を流す際のホースとつなぎ「エルボ」など、もともとあったものは、取り外さず元の状態に戻すなどすることで「電球取り付け費」「エルボ取り付け費」など小額な費用を請求されることを防げます。
経年劣化による原状回復費用の計算方法
つづいて、経年劣化による原状回復費用の計算方法について解説します。
クロス・カーペット・クッションフロア
まず、クロス・カーペット・クッションフロアなどの内装材は、耐用年数が6年なので6年経過時点で最終残存価値を1円とします。つまり、6年経過している場合は、原状回復費用は1円ということです。
一方、4年経過であれば2年残存期間があるので、約66.6%(100%÷6年×4年)消耗しているため、約33.3%が費用負担金額です。つまり、クロスの張り替え費用が1,200円/m2であれば、399円(1,200円×33.3%)/m2になります。
フローリング
次に、フローリングは部分補修の場合は経過年数を考慮しないので、経過年数が何年でも補修費用がそのまま原状回復費用になります。一方、全体張り替えが必要な場合は、建物の耐用年数に応じて最終残存価値が1円になります。
耐用年数は以下の通りです。
- 木造:22年
- 軽量鉄骨(厚さ3mm以下):19年、(厚さ4mm以下)27年
- 重量鉄骨:34年
- 鉄筋コンクリート造:47年
トラブルの多い敷金・原状回復について
敷金や原状回復のトラブルに関しては、以下のように「国民生活センター」に相談が寄せられています。
年度 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 |
---|---|---|---|---|
相談件数 | 13,905 | 13,210 | 12,489 | 5,147(前年同期5,761) ※2019年9月30日時点 |
一般的に、タバコやペットの臭いに起因するトラブルが多いといわれており、実際にそのようなトラブルを体験した比率は以下の通りです。
出所: 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)(PDF P.121) │ 平成23年 8月 国土交通省住宅局
一方、借主側の回答ではあまりトラブルになっていないようですが、不動産業者・家主を見るとトラブルは多いといえます。そのため、タバコを吸う人やペットを飼っている人は十分注意しましょう。
退去費用に関する事例
さいごに、退去費用の以下事例について解説していきます。
ガイドラインの範囲を越えて退去費用を請求された! この場合どうする?
上述のように、原状回復費用は定義があり、仮に請求されても相場価格で請求されるのが妥当です。しかし、ガイドラインの範囲を超えて退去費用を請求される場合もあるでしょう。そんなときは、以下に相談することをおすすめします。
どちらの機関も問い合わせ窓口を用意しているので、事情を話せば力になってくれるはずです。ただし、受付時間が決まっているので、サイトにて確認してから電話するようにしましょう。
敷金礼金0で入居した場合どうなる?
つづいて、敷金・礼金を0円で入居した場合です。そもそも礼金は「家主に支払うお礼」なので、退去時に返還されません。一方、敷金は上述のように原状回復に充てられる費用になります。
そのため、仮に敷金が0円だった場合で原状回復費用を請求された場合、原状回復費用は全額手持ち資金から支払うことになるのです。
まとめ
このように、アパート・マンションの退去費用に関しては、まずはきちんと定義を確認しましょう。実際に借主が支払うべきは「故意・過失」の傷・汚れに関してのみであり、経年劣化は負担する必要がありません。その点を知っておくだけでも、原状回復費用を不当に請求されることは少なくなるでしょう。
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