即答できる? 給料から社会保険料はいくら引かれているの?
給料支給日に会社からもらう給料明細、中身までちゃんと確認していますか? 自分の給料からいくら社会保険料として引かれているか、即答できる人は少ないと思います。今回は給料明細の控除項目である「社会保険料」の計算方法と負担率を解説します。
会社員が負担している社会保険料
給料から天引きされる社会保険料は4つあります。
- 健康保険料
- 介護保険料(40歳以上)
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
社会保険料の負担率は保険の種類によって違います。それぞれ詳しく見ていきましょう。
なお、会社員が加入する社会保険には労災保険がありますが、保険料は会社が全額負担しているので、従業員の負担はありません。
健康保険料
加入する健康保険によって保険料が違います。会社員の健康保険は主に2つあります。中小規模の会社が加入する「全国健康保険協会(協会けんぽ)」と、大きな規模の会社が独自に運営する「健康保険組合」です。
この2つ以外の健康保険には自営業等が加入する「国民健康保険」と、公務員や私立学校の職員が対象の「各種共済組合」があります。今回は会社員が加入する健康保険について解説します。
全国健康保険協会(協会けんぽ)
ご自分の健康保険証を見てください。「保険者名称」の所に「全国健康保険協会」と書いてあれば、会社を通じて「全国健康保険協会」通称「協会けんぽ」に加入しています。さらに「○○支部」と書いてあります。ここの部分は都道府県名となっています。
全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合、都道府県ごとに保険料率が決まります。令和5年度は、北海道10.29%、東京都10.00%、大阪府10.29%、愛知県10.01%、福岡県10.36%、全国平均では10%となっています。
参照:令和5年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます | 協会けんぽ | 全国健康保険協会
参照:保険料率の変遷 | 協会けんぽ
協会けんぽ、次に説明する各企業の健保組合(平均)ともに、保険料率は年々上がっています。
計算方法
実際の保険料は、後述する「標準報酬月額」に対して、都道府県ごとに決まる「保険料率」を掛け合わせて、保険料が決まります。これを、会社と折半して納付します。
「標準報酬月額」とは、従業員が事業主から受け取る毎月の給料を計算しやすいように区切りのよい幅で設定したものです。
通常は4・5・6月の総支給額の平均で決まります。健康保険制度の標準報酬月額は、第1級の58,000円から第50級の139万円までの全50等級に区分されています。計算には実際の給与金額ではなくこの「標準報酬月額」を使って計算します。
例えば、東京都に住んでいる35歳会社員、平均給与額390,000円である場合、標準報酬月額26等級380,000円に該当し、保険料は「保険料額表」より38,000円、会社との折半となるので自己負担は19,000円となります。
健康保険組合
一定規模以上の社員がいる企業は、会社独自の「健康保険組合」を設立することができます。令和5年4月1日時点で、全国に1,380組合の健康保険組合があります。被保険者とその家族を合わせると、全国民のおよそ1/4に当たる約2,850万人が加入しています。
保険料率は事業所の被保険者数や被扶養者数、医療費、年齢構成、標準報酬月額・標準賞与などを考慮し、30/1,000から130/1,000(3%から13%)の範囲内で、各健康保険組合の実情により自主的に決定します。健康保険組合の平均は9.27%(令和5年)となっています。
保険料は事業主と従業員が原則折半で負担することになっていますが、負担割合についても健康保険組合が決定することができます。福利厚生の一環として企業側で半分以上負担をしているところもあります。
参照:令和5年度 健康保険組合 予算編成状況 -早期集計結果(概要)について-(PDF)|健康保険組合連合会
参照:けんぽれん[健康保険組合連合会]
参照:我が国の医療保険について |厚生労働省
計算方法
保険料は、全国健康保険協会と同様に「標準報酬月額」に保険料率を掛けて算出します。
東京都に住んでいる35歳会社員で平均給与額390,000円である方の保険料を計算してみます。加入している健康保険組合の保険料率は「平均値の9.27%」とし、「自己負担は半分」とします。
標準報酬月額26等級380,000円に該当するので380,000円に9.27%を掛けて35,226円、自己負担は半分の17,613円となります。
介護保険料
介護保険は40歳から第2号被保険者となり、健康保険と合わせて保険料が徴収されます。健康保険と同様に健康保険組合が徴収しますが、保険料を企業と折半するのが原則です。しかし第2号被保険者の場合は、特定16疾病により要支援・要介護認定を受けない限り、介護保険証は交付されません。
ちなみに65歳からは第1号被保険者となり、保険料は自治体ごとに決まります。保険料の徴収は、原則年金からの天引きとなります。要支援・要介護認定を受けなくても介護保険証(介護保険被保険者証)が交付されます。
40〜64歳までに徴収される介護保険料率は、「全国健康保険協会」と「健康保険組合」で異なります。「全国健康保険協会」の介護保険料率は全国一律で1.82%(令和5年度)、「健康保険組合」は各組合が独自で設定しており、平均介護保険料率は 1.78%(令和5年)となっています。どちらも年々上がってきています。
参照:協会けんぽの介護保険料率について | 協会けんぽ | 全国健康保険協会
参照:令和5年度 健康保険組合 予算編成状況 -早期集計結果(概要)について-(PDF)|健康保険組合連合会
計算方法
介護保険料は、健康保険料と同様に「標準報酬月額」に保険料率を掛けて算出します。「全国健康保険協会」東京支部の健康保険に加入している例で計算してみましょう。
標準報酬月額が26等級380,000円に該当する40歳以上65歳未満の方の介護保険に相当する額は介護保険料率である1.82%を掛けて2で割る(会社と折半)と、3,458円となります。
実際には、介護保険料は健康保険料と合わせて徴収されます。健康保険料率10.00%に介護保険料率1.82%を足して11.82%として計算し、会社と折半して22,458円が給料から天引きとなります。
厚生年金保険料
日本の年金制度はよく2階建てに例えられます。厚生年金は基礎年金である国民年金の上乗せとして加入します。1階部分が国民年金、2階部分に相当するのが厚生年金保険です。
自営業者等は国民年金の第1号被保険者、厚生年金に加入する会社員は国民年金の第2号被保険者となります。2号被保険者が納める厚生年金保険料の中には、国民年金の保険料(基礎年金分)も含まれています。国民年金の保険料は月額16,520円(令和5年)です。
厚生年金保険の保険料率は、年金制度改正に基づいて平成16年から段階的に引き上げられてきましたが、平成29年9月に引き上げが終了し、厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。
これを会社と折半するので実質負担率は9.15%となります。標準報酬月額は、第1級の88,000円から第32級の65万円までの全32等級に区分されています。
計算方法
東京都に住んでいる35歳会社員、平均給与額390,000円である場合の例で計算してみます。
「全国健康保険協会」の計算の時に使用した「保険料額表」から、「標準報酬月額」23等級の380,000円に該当して保険料は69,540円、会社との折半となるので自己負担は34,770円となります。
雇用保険料
雇用保険は失業者への給付のほか、雇用を継続するための給付やスキルアップのための教育訓練給付を支給し、会社員の雇用を守ります。雇用保険料率は会社の事業内容によって違います。一般の事業は15.5/1000(1.55%)、会社側が0.95%負担し、従業員の負担は0.6%です(令和5年度)。
健康保険料と厚生年金保険料は折半だったのに対し、雇用保険では「雇用保険二事業」の分、雇用者の負担が多くなっています。ちなみに雇用保険二事業とは失業の予防、雇用機会の増大、労働者の能力開発等、失業者を増やさないための対策です。
計算方法
雇用保険の被保険者負担額は、賃金総額に労働者負担率(0.6%)を掛けて算定します。
賃金総額とは会社が従業員に支払うもので、賃金・手当・賞与など名称を問わず、「労働の対価として払うもの全て」で、税金その他社会保険料等を控除する前の総額です。賃金総額390,000円の場合では雇用保険の労働者負担率である0.6%を掛けて2,340円となります。
社会保険料合計額
東京都内の会社に勤める40歳で介護保険2号被保険者の方の社会保険料を試算すると、給料39万円の場合には概算で合計59,568円となります。給料のうち約15.3%が天引きとなります。
会社員にとって社会保険料の負担は大きなものです。しかし会社員として各種社会保険に加入し、保険料を負担することで得られるメリットもあります。
特に厚生年金保険の負担は大きいですが、負担した保険料に応じて、老後に終身の年金として受け取ることができる制度となっています。
- 健康保険料(全国健康保険協会)と介護保険料:22,458円
- 厚生年金保険料:34,770円
- 雇用保険料:2,340円
自営業者が負担している社会保険料
自営業者(20歳以上の学生や無職の方含む)は公的医療保険として、国民健康保険料と介護保険料(40歳以上から)に加入し、年金は国民年金に加入します。
厚生年金保険および雇用保険には加入しないため、会社員と比べ社会保険料負担は少なくすみます。しかし、保険に加入しないデメリットもあります。
デメリットは、高齢期の年金受給額が国民年金だけのために少額となります。また廃業などで失業したときでも、雇用保険に加入していないので失業等給付がない等です。足りない分は自助努力が必要となります。
そして、会社員は社会保険料を会社に一部負担してもらえますが、自営業者はすべて自己負担です。
社会保険制度と自助努力の両輪で乗り切ろう
これまで会社員が負担する社会保険料について見てきました。現在の負担率は収入にもよりますが、おおよそ15.3%となっています。
少子高齢化に伴いこの負担率は年々増えてきています。社会保険料が増えることにより、給料の手取り額も減ってきています。また税金の負担も増加傾向です。
給料が目減りする分および社会保障制度ではまかなえない分を自分でどのように備えるのか、対策を考えておくことが大切です。
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