アパート経営歴10年、建てる前後におさえたい3つのポイントと建築例
前回は、親から不動産を引き継いだ場合の活用方法と、そこで得た資金をさらに運用する手段として、インデックス投資を紹介しました。
今回は、私の不動産活用の代表例として、アパートの建築と賃貸について紹介します。
アパート経営を決めた3つの理由
亡き父が私の母に残した不動産のひとつに、住宅地の中にある更地がありました。地元の区画整理組合事業によって、田畑を造成工事してできた住宅街の一角にそれはあります。戸建て3軒分程度の広さであり、いざとなれば売却して資金化しやすい土地でありました。
父からその土地を相続後、母と私はしばらくの間、どう活用するか迷っていましたが、一念発起して、アパートを建築して賃貸活用することにしました。活用を決めた理由は3つあります。
まず1つ目は2008年に起きたリーマンショックから、不動産投資の堅調ぶりを学んだことです。
リーマンショックがおきた2008年から2009年にかけて、株式等のペーパーアセットは軒並み3割から5割の減少、酷い場合はさらに大きな損失が発生しました。
しかし証券市場がいくら暴落しても、その一方で人々が日々必要な衣食住について需要が激減するわけではありません。
私は当時、相続によって飲食店舗や戸建て賃貸住宅を保有していましたが、飲食店の売上が半分に減ったり、住宅の賃借人が相次いで退去したりということはありませんでした。
これにより、浮沈が激しい株式等の運用益よりも、個人の生活に直結している不動産の賃貸収入の方が堅調であり、将来にわたって収支の計算を立てやすい資産運用であることを実感しました。
2つ目の理由としては、将来、母が亡くなった後のいわゆる二次相続対策です。
具体的に相続する資産が現預金のままでは、相続時に残高がそのまま課税対象となります。しかし、建物などの不動産に換えておくと、法定により資産としての評価額が減少します。5,000万円かけてアパートを建築すると、その資産価値は5,000万円からたちまち何割か減少します。
さらに、アパート建築の際に金融機関から借り入れを行っていれば、その借入残高は資産残高から差し引かれます。相続はプラスの財産のほかマイナスの財産も受け継ぐことになりますので、将来支払いする債務の分を事前に反映して、課税対象額を引き下げることができるわけです。
自分の保有資産を、配偶者や子ども達に将来相続させることを見越したシニアが、彼らの相続税の負担を軽減するためにアパートを建てて、現預金を減らしかつ資金借入を行う。昔も今もよく使われる手段です。
最後の3つ目の理由は、不動産投資を今後継続していく上で、そのひとつの王道といわれるアパート経営を経験して、今後の投資対象としてどれだけの価値があるかを見極めたかったからです。
アパート経営というと「空き部屋が増えて、次の入居は決まらない」「年月が経てば修繕の費用がどんどん掛かってくる」「入居者が周囲と何かトラブルを起こしやしないか」などといった心配がまず頭に浮かんできます。
アパート経営は、果たしてそういった負の側面ばかりが重くのしかかり、とても割に合わない事業なのかどうか。自分自身でマネージできる部分がどれだけあり、実際の収支はどうなるのか。これを巷に伝聞されている内容だけでなく、自分自身で経験して判断を下したかったからです。
ちょうど、アパートの建築候補地となった更地は閑静な住宅街にあり、徒歩10分圏に大型商業施設があって買い物も便利な立地でした。ここに建つアパートならば、空室率を抑えることが比較的容易かもしれない。あるいはもしこの好立地でもアパート経営がうまくいかなかったら、他の立地でも苦戦するだろうと見立て、今後のアパート経営の更なる検討材料に関わる参考事例となるだろうと考えました。
なおアパートに限らず、全ての不動産の価値は、その立地によってほとんどが左右されてしまうことは言うまでもありません。
アパートの建築にあたって凝らした工夫
アパートの建築にあたっては、大手ハウスメーカーやアパート業者など、計3社にプランを提出してもらうコンペティション形式をとって、建物プランや建築費用を比較しました。
入居者にとって魅力ある建物を、どのように提案されるか。費用はリーズナブルな水準におさまるのか。
各社からの提案と協議の中では、さまざまなアイデアが出てきました。若者向けに外観に凝ってみる、他物件との差別化としてペット同居可にする、1棟では大きいので2つに分けて建てて角部屋を増やす等々です。
そういった検討を重ねて、アパート1棟12部屋の仕様を決め、収支計画を立てて建築と運営の実行に踏み切りました。費用総額のうち自己資金は13%、残り87%は金融機関から、借入期間は20年です。
結果、以下のような特徴を持つ建物になりました。
特徴1
間取りは1Kと1LDKを組み合わせて、幅広いニーズに応えられる構成としました。同じ建物面積であれば、全て1Kの方が部屋数を多く確保することができて収益面では有利です。しかし一方で、単身者のニーズにしか応えられません。1LDKなら夫婦のみ、あるいは小さなお子さんぐらいまで含めたニーズに対応できます。複数の部屋を用意しておくことで、空き部屋の発生を抑えていきます。
特徴2
建物躯体について屋根はひとつなるも、1フロア6部屋の中央を階段出入り口で分けて、左右それぞれ3部屋としました。
あたかも1フロア3部屋で2階建ての2棟を、一つの屋根でつなぎ合わせたような構成にしました。こうすることにより、中央の階段を挟んで左右にある1階、2階の4部屋が角部屋になり、もともと建物の端にある1、2階の角部屋4部屋とあわせて、合計8部屋が角部屋になります。
特徴3
外観は、奇抜なデザインを避けました。独創性ある外観はそれだけ好き嫌いが分かれるものです。材料費や工賃の増加にも跳ね返りかねません。その代わりといっては何ですが、下見に来た入居検討者にとって、ぱっと見の印象をよくする効果を狙って外壁は明るい色にこだわりました。年月が過ぎると外壁は薄汚れてきますが、もともと明るい色だとそれも相対的に目立ちません。
特徴4
外壁と同様に、内装についてもコストに留意しつつもクロスの色調やクッション床はできるだけ白くしました。窓から取り込んだ光が反射してできるだけ室内が明るく映えるようにとの配慮です。一方で、建具の色は黒系統を選んで壁・床とのコントラストを映えさせました。
特徴5
駐車場は、スペースの有効活用を考えるとどうしても建物前に櫛の歯状態に車を並べて確保するしかありませんが、1部屋で夫婦が入居して駐車スペースを2台分借りたいというニーズに応えるために、部屋数を超える駐車台数を賃貸できるように、できるだけスペースを確保しました。
こうして、素人ながら建築費用に留意しつつも、できる限りの工夫を講じて自分なりのアパートを仕立て上げました。
アパート経営を始めて10年
こうして、2009年秋からアパート経営を開始して、今年の秋で満10年が経過しました。
アパート経営の開始当初は、新築にもかかわらず全室入居にならず、焦ったときもありました。なにせ建物のハードウェアとしての魅力は新築時点がピークなのに、新築時点で空き部屋があるようでは先が思いやられます。
やがて年が明けて2010年の春先になると、引っ越しシーズンの到来によって空き部屋への入居がどんどん決まり、満室御礼となりました。
その後も空き部屋が発生することが度々ありましたが、合計12部屋の空室率は10%未満に収まっており、まずまず順調な経営を続けることができています。
ただし10年を経過したこれからは、建物の経年劣化による修繕費用の発生や、新築や築浅物件との競合上不利になるため、これまでの10年間と同様の収益を獲得できるとは限りません。
借入金については2年前に金利が安い他の金融機関へ借り換えを行い、金利負担を減らしました。さらに数年後に固定金利の適用期間が終われば、アパート経営費用の削減策として、借入残高の繰上返済を検討する予定です。
なおこの10年の間には、入居者との間でトラブルをいくつか経験してきました。アパートのオーナーとして部屋を他人に賃貸することによって、これらのトラブルを通して、賃借人の人生まで垣間見えてきました。
部屋の使い方によって、当人の住環境に対するモラルや性癖、賃料や更新料の滞りによる当人の経済観念や家計状況が垣間見えることがありました。
アパートのオーナーは単に部屋を貸しているだけに過ぎないのに、賃借人の人となりまで知ることになる。アパート経営とは奥深い一面も併せもっています。
アパート経営を検討するあなたへおくる3つのアドバイス
親から相続した、あるいは相続する予定の土地を活用してアパートを建てることを検討しているあなたに、私からアドバイスを送りたいと思います。
立地の良し悪しについて冷静な判断をする
アパート建築を検討している候補地について、立地面からみて、入居者が集まるかをよく見極めることが大切です。具体的に言えば、候補地が所在する自治体での賃貸物件の需要、近隣にある競合物件の数や入居状況、候補地の最寄りにある商業施設や交通機関などをよく把握し、冷静に分析して判断を下す必要があります。
「先祖代々引き継いできたこの土地を手放すわけにはいかないので、アパートを建てる」と意気込んでも、例えば周囲は田畑だらけ、近くにある店は車で5分走った先のコンビニが1軒のみなどという閑散とした立地であれば、そこにアパートを建てたとしても誰が入居してくれるでしょうか。
ある程度保守的な収支計画を立てる
アパートを建てるときには、大抵多額の資金借り入れを行います。借入金を返済しつつも最終的に毎年、手取り利益がどれくらい残るのかを明らかにするためにも、収支計画の作成は必須です。
おそらくは、アパートの建築を請け負うハウスメーカーやアパート業者が収支計画を作成して持ってくるでしょう。しかし彼らはアパート建築を受注したいがために、持ってくる計画は一見するとある程度利益が残る姿になっているはずです。したがって、計画内容については、その中身をよくよくチェックする必要があります。
できれば、彼らが持ってきた収支計画について、固定資産税や損害保険料、またある程度の空室発生による賃料収入の目減り、入居者の入れ替えに伴う保守費や経費類などを織り込んだ保守的な計画へと練り上げておく必要があります。
その上で、建築投資額に見合った、納得のいく利回りが獲得できそうか予測を立てないと、最終的な投資判断もおぼつかないでしょう。
獲得した資金の一部は、将来の引当金としてとっておく
さらにたとえ計画を立てたとしても、アパート経営における収支を事前に完全に予測しきることはできません。
空き部屋の増加、賃料の未払い、想定を超える部屋の破損、周囲からの影響による建物の損壊、第三者への損賠賠償の発生など、アパートオーナーは「収入減と費用の過大発生のリスク」を常に抱えています。前項で示したとおり、これらの不意の事態への備えとして、毎年獲得した収益の一部は、これらのリスクへの対策資金としてとっておくべきです。
なお毎年、リスク対策資金を積み上げていくけれども、もしもそれを不使用で済むならばサラリーマンのボーナスがごとく、丸ごと還元することもできます。
以上、アドバイスといっても細かいことをあげだすと切りがありませんので、最低おさえるべき点を3つほどあげてみました。
無為無策でハウスメーカーやアパート業者に言われるがままにアパート建築に踏み切るのではなく、自己の判断と責任のもとに、しっかりと分析・判断を行っていきたいものです。
次回予告
不動産投資によって得られた資金を更に活用する方法として、前回記事ではインデックス投資をお勧めしました。次回はインデックス投資の具体的な実践方法についてふれたいと思います。
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