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更新日: 2023.07.27

不動産投資で法人化するメリットとデメリット、タイミングや方法について

取材協力:
佐野比呂之 (佐野比呂之税理士事務所)
不動産投資で法人化するメリットとデメリット、タイミングや方法について

不動産投資の規模が大きくなってきたら、法人化を検討してみる、という人は多いと思います。ただし法人化するにはベストなタイミングがあり、自分の状況をきちんと把握する必要があります。まずは不動産投資で法人化に関する知識を深めることから始めてみましょう。

不動産投資における法人化とは

不動産投資は、不動産会社に限らず個人でも行うことができ、サラリーマンが本業の合間に収益物件の運営をするケースも増えてきました。ただし、不動産投資を開始すると年度末の確定申告が必要になり、利益が出ている場合は所得税を納税しなければなりません。所得税は累進課税のため、利益が多くなればそれだけ所得税額も増えていくことになります。

そこで、不動産所得が多い投資家は、税金対策のために法人化の方法をとっているケースがあります。例えば、サラリーマン投資家が本業となる勤務先企業の許可を取り、「働きながら不動産会社を経営する」といったケースです。法人化する理由としては、個人で支払う所得税よりも、法人税のほうが納税額は低くなる場合があるからです。

それでは、不動投資で法人化する具体的なメリットとデメリットを見ていきましょう。

不動産投資で法人化するメリット

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一般的に、不動産所得が800万円を超えるあたりから法人化をした方がメリットが多くなるといわれています。

個人に対する所得税等は、所得が多ければ多いほど税率が上がり、最高で55%まで上がります。法人に対する法人税等は中小法人では利益が800万以上の場合、普通法人では利益に関わらず原則一律で約23%です。

個人の課税総所得金額が800万円程度になると、所得税等と法人税等が逆転するのです。

例えば、個人の課税総所得が850万円の場合、個人の税率は所得税と住民税をあわせて33%になるのに対し、法人の税率は法人税や法人事業税の軽減税率の効果もあり、法人税約23%のほか合わせて実効税率で20%台後半となります(2018年度東京都の場合)。

 法人化のメリット
  1. 損失の繰越控除ができる
  2. 経費計上できる範囲が広がる
  3. 青色申告を選択できる
  4. 所得分散で税が抑えられることも
  5. 減価償却費が任意償却できる
  6. 短期売買の場合は個人よりも税率が低い  

1. 損失の繰越控除ができる

法人化のメリットが最大限発揮されるのは、不動産投資事業で損失(赤字)が出たときです。個人の場合、繰越ができる期間は3年間である一方で、法人の場合は10年間繰越すことができます。

事業開始直後の場合は赤字が出ることが多いです。赤字を出してしまった場合、青色申告でその損失は10年以内(平成30年4月1日以後開始の事業年度からの繰越し期間)に繰り越して、次年度以降の所得から差し引くことができます。損失を差し引くことで、法人税を抑えることができるというメリットがあります。

個人と法人では、この繰越控除の期間に違いがあります。個人の繰越控除期間は3年なのに対し、法人は、平成30年4月1日以後開始した事業年度からの繰越し期間は10年繰越控除されます(税制改正により繰越できる期間が増えています)。

2. 経費計上できる範囲が広がる

法人化すると個人の場合のときより経費として計上できる範囲が広がります。

保険料は、個人の場合、生命保険や個人年金を合わせて12万円までしか経費計上できません。また生命保険だけではなく、個人年金、介護医療保険も合わせ、それぞれで4万円までという決まりがあります。

しかし法人の場合には、上限がありません。法人でいわゆる節税生命保険に加入した場合、保険料を払った年に計上できるのは原則として支払った額の50%、保険料が実際に支払われる年に50%を計上することが可能です。

保険料のほか、次のような項目を経費計上することができます。

  • 役員報酬
  • 退職金

家族を役員にして役員報酬を支払った場合も、経費として計上することができます。退職金も同様です。

3. 青色申告を選択できる

不動産投資による確定申告で、「白色申告」にするか「青色申告」にするかの基準としていわれている規模の目安があります。 目安となるのは「5棟10室」です。戸建なら5棟、アパートやマンションなら10室の貸付数があれば、「事業的規模」と認められます。 もちろん事業的規模に満たない規模の場合でも青色申告を選択できますが、その場合には青色申告のメリットが大幅に制限されることになります。

一方、法人税では青色申告のメリットは事業規模に関係なく、青色申告必ず選択しなければいけません。

【関連リンク】
税理士が解説! 不動産投資をするなら、区分1件から青色申告を選択すべき理由

4. 所得分散で税が抑えられることも

青色申告を行う個人事業主の不動産オーナーが、不動産管理業務について法人を設立してその業務を家族に手伝ってもらう場合、家族に給与を支払うことができます。

その家族に払われる給与は個人の不動産所得計算上、必要経費扱いにでき、適用される所得税率の高いオーナーの不動産所得を所得税率の低いオーナー家族へ分散でき、一般にオーナー家トータルでの税金を低くすることができます。

5. 減価償却費が任意償却できる

減価償却費とは、その不動産購入代金を数年間に分割して毎年経費化していくという考え方です。減価償却費は建物の構造ごとに法律で定められた耐用年数があり、耐用年数により償却率が異なります。建物の価格に償却率をかけて割り出された金額が減価償却費となります。

個人の所得税では、毎年必ず減価償却費を計上しなければいけません。しかし法人の場合は任意償却が許されており、利益に応じて減価償却費は自由に設定できるようになっています。

赤字の時は減価償却費を少なくしたり、黒字で利益が大きい時は最大限計上したりと、状況に合わせた調整を行えるというのは、大きなメリットといえるでしょう。

6. 短期売買の場合は個人よりも税率が低い

不動産を売却した場合、その所得に税金がかかるというのは、個人も法人も同じです。しかし、短期で売却してしまった場合は、個人よりも法人の方が有利です。

というのも、個人の場合、申告分離課税扱いとなり、不動産の保有期間が5年以内に売却した際に得た所得は、「短期譲渡所得」となり、税率が30%になります(他の所得とは分けて課税される「分離課税」)。所得税と住民税を合わせた税率は39%となります。

これに対し法人は、総合課税・分離課税といった扱いはなく、税率も通常の法人税率と同様に計算されるため、個人より税率は低くなります。

ただし、所有期間5年以上経過して保有する物件を売却する場合は、個人の税率は20%と法人よりも低くなります。売却の予定がある人はどちらがメリットが大きいか、考えてみてください。

不動産投資で法人化するデメリット

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個人よりも法人の方が優遇される印象ですが、デメリットも見ていきましょう。法人化するかどうかは、デメリットをきちんと理解したうえで判断してください。

法人化のデメリット
  1. 法人を設立する費用がかかる
  2. 赤字でも法人住民税の支払いが発生
  3. 個人の物件を法人所有にするとき税が発生
  4. 顧問税理士をつけると費用がかかる

1. 法人を設立する費用がかかる

個人の場合はコストゼロで始められるのに対し、例えば「合同会社」として法人を設立する場合、設立報酬と税金を入れて約15万円かかります。

法人化する場合、次のような項目が必要になります。

  • 資本金
  • 法定費用
  • 雑費

資本金は使ってしまうのではなく、会社に持たせるお金なので費用とはいえませんが、会社設立時には必要です。とはいえ、近年では1円からでも株式会社と認められます。

ただ法人設立時に、会社設立の報酬である「定款認証手数料」(株式会社の場合)、税金の「登録免許税」がかかり、その他の費用も合わせ株式会社で25万円程度、合同会社で15万円程度必要になります。紙の定款を使うなら「収入印紙代」もかかるので注意してください。

2. 赤字でも法人住民税の支払いが発生

法人について課される税金のうち「均等割」と「法人税割」で構成される法人住民税のうち、「均等割」は収益がゼロの場合でも納めなければなりません。

東京23区にあり、資本金1千万円以下・従業員50人以下の法人なら、支払い金額は収益の有無にかかわらず7万円になります。

3. 個人の物件を法人所有にするとき税が発生

個人所有の物件を法人所有にする際は、通常の売買と同様の契約書を作ったり、税金を払ったりする必要があります。税金としては不動産取得税登録免許税再び支払わなければなりません

登記移転に伴う司法書士への報酬も発生するので、法人への移転にかかる費用をきちんと計算しておきましょう。

4. 顧問税理士をつけると費用がかかる

会社を設立すると、確定申告処理等が煩雑になり、個人の手には負えなくなります。税務署の目も厳しくなるため、申告等はプロの税理士に依頼するのがよいでしょう。

また、法人になると税務処理が煩雑になり、役所のチェックも厳しくなります。

法人化後の確定申告は自力で行うより専門の税理士に依頼するのがベストですが、その場合は顧問契約料が発生します。

不動産投資で法人化するベストなタイミングはいつ?

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不動産投資で法人化を考えるのは、不動産投資による所得が増え、納める税金の額を重く感じたときではないでしょうか。不動産投資を法人として行いたい、と決めたら気になるのはタイミングです。タイミングによってメリット・デメリットも変わるので、慎重に決めてください。

物件を購入するとき

法人化するベストタイミングの1つが、物件購入時です。

いままで個人で購入した物件を法人へ移行しようとすると、費用がかかります。

登記について、個人名義の不動産を法人名義に変更しなければなりません。すでに支払った「登記にかかる費用」「不動産取得税」を再び支払わなければならないので、あとから法人に移行すると無駄なお金がかかることになります。

しかし法人化が適しているのは不動産所得が多く見込める場合です。まずは少額の不動産からスタートする人や、そこそこの利益しか見込めない人は、不動産所得が増えてきてから検討を始めても遅くはありません。

不動産投資の法人化に関する気になる疑問

Q.不動産投資で法人化すると融資は有利になるの?

個人で金融機関から融資を受ける場合と、法人化して金融機関から融資を受ける場合では、何が異なるでしょうか。個人と法人でローンを組む場合では、主に次の2点が異なってきます。

  • ローン金利
  • 借入期間

具体的な数字は金融機関によって異なりますが、金利は個人で組む場合より高くなります。また、借入期間も個人で組む場合よりも短くなります。

審査について、法人の場合はまずその法人の業績を見られます。これから法人化を狙うという場合は実績がないため、金利が高くなる可能性もあります。

  • 不動産投資事業としての評価

個人で借入をする場合は、個人の信用力(サラリーマンならば信用力が高い)をみられますが、基本的に法人が不動産投資ローンを借りるときにも基本的に法人の信用力をみられます。資金が十分にあるか、不動産投資業務の業績などが審査の対象になります。法人化したときの方が「不動産投資という事業そのもの」を審査されます。

法人化立ち上げの際は、過去の実績がないため、より厳しく審査されることが多く、金利が高くなるようです。詳しくはこちらの記事「 不動産投資の法人化を検討する人へ。融資面でのメリットや工夫を紹介 」をお読みください。

Q.不動産投資で法人化する時は、何に注意したらよいの?

法人化のタイミングに迷ったら、税理士など専門家に相談するのもおすすめです。スムーズな話し合いのためには、以下のポイントをクリアにしておきましょう。

  • 不動産投資はメインなのか副業なのか
  • 将来の物件の規模や数はどのくらいか
  • 現在のキャッシュフロー、将来目標とするキャッシュフロー

具体的に考えたことがないという人は、これを機に将来のビジョンをよく考えてみてください。目的や計画がはっきりすれば、専門家のアドバイスも受けやすく、法人化の適したタイミングもわかりやすくなります。目的や計画を決め、専門家に相談しましょう。

【関連リンク】
不動産投資におけるキャッシュフローの重要性と賢い運用方法とは

個人と法人で不動産投資するときの違い

改めて、不動産投資をするうえで、個人で行うのと法人として行うのは、何が違うのでしょうか。

一般に不動産投資での法人化とは、節税を主たる目的として個人事業として、個人事業として行なっていた不動産投資を「株式会社」もしくは「合同会社」を設立して、設立した会社にその不動産投資事業を関与させることをいいます。

関与の方法には法人で不動産を購入する方法の他、既に個人で取得した不動産を法人に移管(譲渡)する方法や不動産そのものは移管せず、個人所有の不動産を管理する形態などが一般的です。

まず個人と法人では、かかる税金の種類が異なります。個人に対しては不動産投資が小規模の場合には所得税・住民税のみがかかるのに対し、法人には規模を問わず法人税・法人住民税・法人事業税がかかります。

       かかる税金(納め先)
個人の場合 所得税・復興特別所得税 (国) 住民税 (地方)
法人の場合 法人税・地方法人税 (国) 法人住民税 (地方) 法人事業税・地方法人特別税 (地方)

所得税と法人税の税率の違い

所得税に関して、個人の場合は、不動産所得は「総合課税」対象となります。サラリーマンの給与などと不動産所得とを合算して、その金額に応じて5%から45%の税率がかかります。

日本は累進課税制度をとっているので、不動産以外の所得がある人は、それら所得と不動産所得を合わせた所得金額に応じて45%まで所得税がかかります。住民税とあわせると最大55%の税率となり、所得が増えるほど納める税金も増えていくため、不動産投資における法人化は、規模が増すほど重要な問題となってきます。

(詳しくは「 節税になるって本当!? 不動産投資が節税対策と言われる仕組みと注意点 」の 不動産投資が節税対策になる仕組み をご覧ください)

法人の場合は、所得税と異なり2段階の税率構造となっており、平成30年4月1日以後開始事業年度は年800万円までが19%(しばらくの間は特例により15%)、年800万円超が23.2%となっております。地方法人税は法人税額の4.4%となっています。

法人税と法人事業税は所得があれば課税されるため、不動産所得が0円ならば支払う必要はありません。ところが法人住民税は、たとえ不動産所得が0円であっても課税されます。

法人住民税均等割は、利益が出なくても原則として7万円の納税が必要になります。なお資本金の規模等によって支払額は決まっているので、事前に確認しておきましょう。

住民税と法人住民税の税率の違い

個人の場合、自分の居住する地方自治体に納めるのが住民税で、住民税は所得割と均等割からなり、所得割は東京都の場合には一律10%、均等割は一律5,000円です。

法人住民税も地方税となり、ここでは東京23区内に事務所がある場合で解説します。

東京23区の場合、法人住民税は法人都民税と呼ばれ、「法人税割」と「均等割」からなります。この2つについては、他の自治体も同じです。

法人税割は、資本金の額(又は出資金の額)が1億円以下でかつ法人税額が年1,000万円以下、そして事業開始年度が平成26年から令和1年9月30日までの場合、12.9%となります。

均等割は、所得に関わらず資本金や従業員数によって税額が変わり、資本金等の額が1,000万円以下で、かつ社員数が50人以下の場合、70,000円となります。

法人事業税とは

法人事業税も都道府県に納めます。事業を行う場合、道路などの公共施設を利用します。この経費の一部を負担するための税金です。

東京都の場合、所得に応じて3段階、年400万円以下の所得の場合は3.4%、年400万円を超え年800万円以下の所得の場合は5.1%、年800万円を超える所得の場合は6.7%の税率がかかります。

なお平成31年度税制改正により、令和1年10月1日以後に開始する事業年度の税率改正が予定されています。改正後の税率は、東京都都税条例が改正され発表される予定です。また現在法人事業税の他に地方法人特別税が課されていますが、令和1年10月1日以後に開始する事業年度以降、廃止され、国税である特別法人事業税が課されることになります。

副業にしてるサラリーマンでも法人化していいの?

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会社によっては、副業を禁止しているところも少なくありません。副業が禁止されている場合はどのように法人化すればいいのでしょうか。

家族を代表にして株主になる方法

副業が会社の規定に反するという人は、自分は出資するだけの株主となり、事業主を家族にするのも1つの方法です。

あらかじめ職場に確認しておくと安心か

法人設立について、勤めている会社に不安がある人は、あらかじめ会社の規定等を精査し、兼業についての項目を確認しておきましょう。調べてもよくわからない場合は職場にきちんと確認し、あとあと問題にならないようにしておくと安心です。

不動産投資で法人化する際のメリットを把握しよう

不動産所得が増えるほど、法人化して不動産を管理した方節税効果が高まります。とはいえ会社を立ち上げるのですから、手間や費用がかかる上、その後の財務処理等も非常に時間がかかるようになるでしょう。

法人化を検討している人はメリット、デメリットを自分のケースで考え、自分の所得や税率を計算し、法人化した場合にどのくらいのメリットがあるかを把握することをおすすめします。将来的にも無理のないプランとタイミングで、法人化を行ってください。

【関連リンク】
プライベートカンパニーとは? サラリーマンが設立するメリット・デメリットを解説

※本記事の情報は、信頼できると判断した情報・データに基づいておりますが、正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。法改正等により記事執筆時点とは異なる状況になっている場合があります。また本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な、不動産投資・ローン・税制等の制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。(株)GA technologiesにおいては、何ら責任を負うものではありません。

この記事を書いた人

RENOSYマガジン編集部

「不動産やお金の疑問をわかりやすく解決するメディア」を掲げ、本当にためになる情報の提供を目指すRENOSYマガジン編集部。税理士やファイナンシャルプランナーの人たちと共に、中立・客観的な視点で「不動産とお金」を解説、読んでいる人が自分の意思で選択できるように日々活動している。

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