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作成日: 2018.04.12

住人目線の街案内:水辺の専門家と歩いて学ぶ、祐天寺の現在と過去

住人目線の街案内:水辺の専門家と歩いて学ぶ、祐天寺の現在と過去

東京にはたくさんの駅がある。その存在は知ってはいるけど、まだ降りたことがない駅も多い。食べたことのない料理に挑戦するように、行ったことのない街を歩いてみたら楽しいのではないか。そこで、初めて訪れる街に住む人にお願いをして、その人の目線でどんな街なのかを案内してもらうことにした。第2回は東急東横線の『祐天寺』駅だ。

祐天寺の案内人は、水辺のプロフェッショナルである岩本唯史さん

渋谷駅から東急東横線の各駅停車に乗ると、代官山駅、中目黒駅、そして3駅目が祐天寺駅。急行こそ止まらないものの、渋谷まですぐの場所に位置する祐天寺を案内してくれるのは、水辺の街づくりに関するコンサルティングを生業とする岩本唯史さん。一級建築士の資格を持つ建築家でもある。

個性的な店が立ち並ぶ祐天寺商店街

祐天寺駅で岩本さん、ご友人の方、編集部清水さんと合流し、ロータリーを抜けて西側に伸びる祐天寺商店街を進んでいく。

「この商店街は、おもしろいことに不思議なお店がいっぱい立ち始めている。週末しかやっていないコーヒー屋さん、夜しかやっていないアパレルショップ、カフェ併設の美容室、もう何屋さんなのかよくわかんない店とか。こういう店が成立しているのがすごいよね。住んでいても入る勇気の出ない店がどんどんできて、もう住人にもよくわからない」

岩本さんの後に続いていくと、確かに個性的な店が並んでいた。よくあるチェーン店ばかりが並ぶ商店街を歩いていると、ここがどこの街なのかわからなくなる瞬間があるが、ここは祐天寺商店街にしかありえない店舗のラインナップだ。

間口は狭いが個性的な専門店が並ぶ祐天寺商店街。真ん中のコーヒー屋は、ミュージシャンのグループが開いているこだわりのコーヒー屋。(後日お話を聞いたそうです)
夜な夜な人が集まってくるというコーヒー屋。気にはなるが、まだ入ったことはないそうだ。

「この商店街には、お金を稼ぐためというよりも、店主の理想を追求した店が多いのかもしれない。普段は違うことをやってちゃんと稼ぎ、空いている時間に理想のお店像を実現している場所なんじゃないかな。テナントの健全な入れ替わりがされている商店街で、どんどん魅力的になっていく。ワクワクするんだけれど、謎なんだよね。誰も情報を把握していない。俺なんかドキドキしちゃって入れないから、みんなで開拓して教えてください」

何屋なのかすらわからない店も多い。ここまで近づいてみたが、よくわからなかった。
サロンであり、美容室であり、コーヒーショップであり、ギャラリーである店。
食材にこだわる飲食店も人気だ。

祐天寺駅には祐天寺がちゃんとある!

続いてやってきたのは、祐天寺というお寺である。隣駅の学芸大学駅に東京学芸大学はないが(1964年に移転)、祐天寺駅にはちゃんと祐天寺が存在するのだ。

駅名としての祐天寺はもちろん知っていたが、お寺として祐天寺を認識したのは初めてだ。

「このお寺は、近所の人にとって公園代わりにもなっている大切な場所です。今も地元には檀家さんがたくさんいて、この祐天寺を支えています。この街に住んでいると、祐天寺の寺町としての文化が、今もなお生きていることを感じることも多いですよ」

渋谷のすぐ近くなのに、空が広い!

「この祐天寺から先のエリアは、第一種低層住居専用地域の住宅地で、高い建物が建てられません。また敷地面積の最低限度も決まっていて、小さい家も建てられない。だからこういうゆとりのある住環境が保たれているんだと思います。高い建物が建てられない分、土地の値段は安い。引っ越し先を探しているとき、うちの奥さんから代官山の近くに住みたいって無茶をいわれて、ようやく条件にあう祐天寺の一戸建てを見つけたんです」 

岩本さんの案内で住宅街を散歩したのだが、それぞれの家が個性的なことに驚いた。同じフォーマットの建売住宅がズラッと並ぶ、私の住む街とはだいぶ違うようだ。

「この街は家々のデザインや雰囲気に個性があります。昔からある家、最近建った家、リノベーションによって蘇った家など。まだ銭湯もあるから、風呂なしアパートも結構残っています。いろんな人が様々なライフスタイルで住んでいるから、俺にとってもすごく住み心地の良い街。保育園のパパ友なんかも、銀行員みたいな堅い職業から売れっ子クリエイターやカメラマンまで、すごく幅の広い人がいるから私も浮きません」

揚げたての揚げ物が買える肉屋、戸口畜産

ちょっと小腹がすいてきたところで、岩本さんがお気に入りのお肉屋さんを教えてもらった。住宅街にある戸口畜産の創業は1966年、小売り以外にも飲食店や保育園などに卸している老舗である。その確かな品質を求めて、遠方からわざわざ来る昔ながらのお客さんも多いとか。

「夜中までやっているスーパーも便利だけど、こういうお店があるのは地域にとってとてもありがたい。揚げ物は作り置きをしていなくて、電話で予約をすると揚げたてが買えるから、仕事帰りとかにここへ寄れば、熱々を家ですぐに食べることができる。この低密度な住宅街だけを相手にするお店はなかなか成立しないけど、戸口畜産さんは卸をやっていて、確かな品質でこの地域以外のひとにも商圏がひろがっている。そういうお店がたまたまこの地域にあることのありがたさを感じている。買い支えないとダメだよね」

人気の自家製コロッケは70円。うまい!
奥さんがよく買いに来るという、近所の花屋さんもお気に入りのお店だ。

「お肉屋さんと同じように配達やスタイリングを通して商圏がこの住宅地の外に広がっているのが特徴で、週に数日だけ小売をしている。レベルの高いお花屋さんがすぐ近くにあることがありがたい」

祐天寺にはこのエリアに高い理想をかかげてお店を構える店主の心意気を支えるなにかがあるようだ。

油面という地名の由来

続いてやってきたのは、ちょっと変わった名前の『油面公園』。たくさんの子どもたちが、元気に遊び回っている。 

「子どもにとってこんな楽しい場所はないですよ。大きな木があるから、程よい日陰になるので夏でもそこまで暑くならない。うちの子もここが大好きです」

「落語の『目黒のさんま』にもありますが、江戸時代の目黒は殿様が鷹狩りに来るような農村で、この辺りは菜種から油をとっていて、祐天寺の明かりにも使われていました。この油を奉納するかわりに絞油業が免税になっていたことから『油免』、そこから『油面』という地名になったみたいです」

「今は畑なんてないですけど、江戸の街を支えていた農村だったことがわかると、その頃からの人の営みがイメージできますよね。もっと遡れば、家を買うときに判明したんですが、この辺りには縄文時代から人が住んでいた。なんと縄文時代の遺跡がでてくるような街なんです。大昔から人が住むのに適している街だっていう安心感がありますよね。それが家を購入するときの後押しになりました」

油面には油麺の店もある。

古地図を見ながら水路のあった場所を歩く

引っ越し先を決める場合、今の街の様子、そしてこれからの開発は考えても、なかなか過去に遡って調べるという発想は思いつかない。

もう一つ、水辺の街づくりを専門とする岩本さんらしい過去の確認方法を教えていただいた。それは携帯の『東京時層地図』というアプリで古地図や高低差を確認することにより、昔の水路や地形上の注意点を知るという方法。現在の道路や建物しか載っていない通常の地図ではわからない、地形の特長や過去の姿を調べるのだ。

例えばマンホールの蓋が並んだこの細い道、これは元々小川で、それを下水道にしたものだという。

「下水なんてなかった頃は、小川に排水を流していた。それがオリンピックの頃、小川に蓋がされて下水道となった。古い地図と照らし合わせると、ここが川だったことがわかります。川が流れる場所っていうのは、水が豊かだから本来人が住みやすい場所なんだけれど、どうしても湿気が溜まりやすいから地下室を作るには向いてないとかね。過去を知ることで『こんなはずじゃなかったのに』が避けられる」

ここが昔は小川で、この石の壁はその護岸だったとか。

「そういうのがわかってくると、たとえ古地図をみなくても、ここが昔は小川で、ここに橋が架かっていたんだなっていうのが見えてきます。過去と現在を重ねることで、その土地本来の姿が見えてくるんです」

岩本さんはこのようにして、時代をまたいだ散歩を楽しんでいるのである。

この広い歩道も、昔は小川だったようだ。
谷筋が集まる場所にあるマンホールの下からは、水の流れる音が聞こえてきた。

穴場スポットの現代彫刻美術館

さらに足を延ばしてやってきたのは、長泉院というお寺が運営する現代彫刻美術館。ここは知る人ぞ知る穴場スポットで、彫刻もすごいが景色もまたすごかった。

「なかなかすごいでしょう。この美術館は、長泉院というお寺さんがやっている、誰でも自由に入れる謎の空間。自由が許される街なんですよ。徳川家とゆかりの深い由緒正しいお寺がこんなことをしているんだから。長泉院っていう名前もいいじゃないですか。ここにきれいな泉のある場所だったんだなって伝わってきますよね」

岩本さんの水辺に対する愛は深い。

 

中目黒八幡神社

散歩の最後にやってきたのは、中目黒八幡神社である。ここは今も水が湧いており、地域の人々を潤すパワースポット的な場所なのだとか。

「昔はもっと水が湧いていたんでしょうね。こうして一緒に歩いてわかったと思いますが、この街には昔から水が豊富にあった。それに強く引かれるものがあったんです。今の時代はどこでも水道をひねれば水が出てきますが、それだけじゃない。水の湧く場所には、もっと根本的な住みやすさがあるのかなと。それは実際にこうして住んでも感じます。やっぱり住みやすいですよ」

過去や歴史を気にしすぎてもよくないのかもしれないが、昔に遡ってその土地を知ることで、より納得のできる家探しができそうだ。

この祐天寺という街は、縄文時代から続く営みの延長線上に、現在のゆとりある住宅環境や個性豊かな商店街が成り立っているのかもしれない。そんなの全然関係のない話だと否定する人もいるかもしれないが、そう考えて住んだ方が、きっとずっと楽しいはずだ。

モダンスタンダードで「祐天寺駅」周辺のマンションを探してみる

取材協力:岩本唯史さん

株式会社水辺総研
ラースデザイン建築設計事務所

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この記事を書いた人

玉置標本

釣りと料理が好きなフリーライター。RENOSYではまち歩きをしてくれる人と一緒に街を歩いています。 住人目線の街案内 私的標本

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