住人目線の街案内:住みたい街ランキング上位の池袋駅から徒歩圏内、「西の女の町と読めるから」と住み始めた豊島区要町
東京にはたくさんの駅がある。その存在は知ってはいるけど、まだ降りたことがない駅も多い。食べたことのない料理に挑戦するように、行ったことのない街を歩いてみたら楽しいのではないか。そこで、初めて訪れる街に住む人にお願いをして、その人の目線でどんな街なのかを案内してもらうことにした。第5回は『要町』駅だ。
大阪の大学を卒業し、たまたま要町へ引っ越してきた大石真理子さん
渋谷、新宿と並ぶターミナル駅である池袋駅から、有楽町線・副都心線で一駅の要町駅。大手不動産情報サイトの住みたい街ランキング2018年(関東)で5位にランクインした人気の池袋から徒歩圏内の街だ。
この要町を案内してくれるのは、大阪の大学を卒業し、友人と一緒に要町にあるマンションに長く住み、今はその住まいだった場所のすぐ近くにある飲食店を職場にしている大石真理子さんだ。
「大学は映像学科で、映画を撮っていました。大学4年間で、自分は特別じゃないと気がついたので、せめて勉強してきたことを生かして人の役に立つ仕事をしたいと思い、広告制作の会社に入社しました。今も映画は大好きですよ」
そんな大石さんが要町に住み始めた理由がすごかった。
「同居する友達とどこがいいかなって探していて、たまたま見つけたのが要町駅前の物件でした。要町って西の女の町って書くじゃないですか。大阪の女やし、ええやん!というノリ。幸先も良さそうということで」
さすが関西人。ちなみに関西出身者が多いから要町という訳ではなく、昔は長崎町という地名で、そのほぼ中央にあり、扇の「要」のような位置を占めていたことによる名称とのこと。
住み始めた頃の感想はどうでした?
「最初は変な町と思ってたんですが、好きなところができると見方が変わります。名言みたいになっちゃうんですけど、恋愛と一緒ですよね。好きになっちゃうと町の全てがかわいい。町に興味を持ったきっかけは、私にとっては家の裏にできたカフェ。通っているうちに当時の店長と仲良くなったんです。そのカフェは「鯰組」という建築会社が経営していたんですが、そこに広報として入社することになり、カフェも手伝うようになりました。その後に運営会社が変わったんですが、私は店に残って今もやらせてもらっています。長くこの建物にいるから店長として偉そうな顔をしていますけど、私はここ以外の飲食店で修行をした経験はありません。今アホウドリのお店の味を支えているのは料理上手のスタッフ、ユウコさんなんです」
たまたま住んだ家のすぐ近くにあったカフェが気に入り、今はそこで働いているという縁がすごい。
「この店を好きになって、もしかしたらもっと好きになれる場所があるかもしれないと、街歩きをするようになったんです。住む前は、『池袋ウエストゲートパーク』のイメージで、カラーギャングってまだいるのかな?服の色どうしようって思いながら上京したんですが。実際に歩いてみると全然違いましたね。もっと木訥とした街でした。雑司ヶ谷とかがある池袋の東側もすごく人気で良いんですけど、西は西で良いんですよ」
池袋の西側は芸術を育む街でもある
最初にやってきたのは、自由学園明日館(みょうにちかん)。1921年に女学校であった自由学園の校舎として、アメリカが生んだ巨匠フランク・ロイド・ライトの設計により建設された、国の重要文化財である。
「ここは見学してお茶をしたり、お花見とか、結婚式に呼んでもらったり、なんだかんだけっこう来ますね。夏は一夜だけのビアガーデンをやるんですが、商売っ気がないんですよね。だって一夜だけですよ。「FOR STOCKISTS EXHIBITION」っていう、素敵なものだけが集まる展示会も開催されるんですが、これがまた良い! 立地の良さや建物の魅力もあるんでしょうけど、開催されるイベントのセンスが良いところも自由学園明日館を気に入っている理由です」
「私は新しいものより古いものが好きですね。ここを管理している人達も絶対にこの建物が好きなんじゃないかな。でないとあんなところに生の花なんて飾りませんよ。店をやっている人間として言いますけど、絶対めんどうくさい。花瓶の水だって毎日変えないとすぐ濁るし!」
「この自由学園もそうですが、椎名町に『ギャラリーいがらし』というのがあって、池袋モンパルナスっていう芸術文化を後世に残していこうという活動をしていたりしていました。残念ながらご主人は亡くなってしまったんですが。この近くには『すいどーばた美術学院』という芸術・美術大学の予備校があったり、西側には芸術を育む文化があるんだと思います」
大ヒット中の『カメラを止めるな!』を公開当初から上映しているロサ会館
映画好きの大石さんが池袋を語る上で外せない場所が、わずか2館からスタートして現在大ヒット上映中の『カメラを止めるな!』を最初から上映しているロサ会館だ。それにしても、自由学園明日館があったエリアとの違いがすごい。
「ちょっと歩いただけで雰囲気が変わるでしょ。北口周辺は、カオス。混沌としているんですよね。でもそういうところも割と好き。芸術劇場と西口公園の周辺は、1~2年後にガラッと変わる計画があるそうで楽しみです。街の変化を見れるって、おもしろいじゃないですか」
「いいでしょ?ロマンス通りっていうんですよ。ロマンスとは程遠い印象ですが。この辺はけっこう散歩していました。ロサ会館は昭和感の溢れる遊技場ですね。インディーズも有名どころも上映する歴史ある映画館で、最近話題の『カメラを止めるな』を一番最初から上映しています。私も人から勧められたんですが、早く観た方がいいですよ。私が見たときはチケットなんとか取れましたけど、長蛇の列ができていた日もあるみたい」
「今はなんでもネットで買えますが、ここのチケットは、当日ここにこないと買えません。『並びでとりますか?』とかのコミュニケーションが必要な窓口に、萌えるんです。あえてのネットじゃなく窓口!」
自由過ぎる公民館的スポットみらい館大明
続いてやってきたみらい館大明(たいめい)は、廃校になった大明小学校をNPOが運営している生涯学習施設。大石さんにとってこの場所は、人と地域との繋がりの場となっているようだ。
「最近は、手で揉むところからお茶を作りお茶漬けを作るというワークショップに参加しました。そんなマニアックなイベント、よく考えつくなぁと。懇意にしている職員の荘司さんは、良い意味で『変わり者』だと思います。許しが多いというか、物差しが広いんですよ」
防音のスタジオなども完備されているため、演劇のワークショップや発表会、ダンスサークルの練習場などにも活用されている。様々な活用方法があり、地域の住民にとっては強い味方だ。
「ここは映画やテレビの撮影用にも貸しています。みらい館大明が主催者となって映画祭も企画していて、出品する作品には撮影場所貸しのサポートもしているようです。前回は優秀作品を、ロサ会館で上映したりしていましたね。アホウドリはその表彰式やロケ弁のケータリングをやらせてもらうこともあります。元々が映画好きなので、今はそういった形で参加できて嬉しく思います」
良い肉が良心価格で美味しい!佐藤精肉店
アホウドリへと帰る途中、大石さんが馴染みだというお肉屋さんへと寄った。場所は住宅街の一角で、こんな場所で経営が成り立つのかと不思議に思ってしまうのだが、お客さんはひっきりなしにやってくる。
「御年83歳のご主人がアホウドリに来てくれたことがきっかけで知りました。うちの肉を使いなよって。ここは本当に肉がうまくて、おじさんたちが優しくて、最高なんです!」
「ここの人達、もうロートルだからとか、死にそうとか冗談で言ったりするんだけど、元気だから信じていません。逆に今年の夏は暑いから私達が厨房で倒れてんじゃないかって、経口補水液をドーンと差し入れしてくれることもありました。みんな優しいんですよね」
「このスペアリブもうまいですけど、11月からでる煮込みも絶品。もちろん揚げ物もおいしくて、そのままうちの店で出したいくらいです。コンビニよりも量が多くて安心だから、近所の子どもがおやつに買っていったりもしていますよ」
その名も『要町ブレンド』を出す珈琲豆専門店の優
最後にやってきたのは、珈琲豆専門店の優。店内に並んでいるのは焙煎前の生豆で、お客さんの注文ごとに焙煎をして販売しているオンデマンド焙煎の店だ。アホウドリで出すコーヒーは、ここの豆を使用している。
焙煎時間は5~6分。空いていればすぐに焙煎してくれるが、どうしても混んでいると待つこともあるので、事前に電話で予約をするか、店頭で注文をして池袋の街をふらっとしてくるというお客さんが多いようだ。きっと大石さんは、焙煎を待ちながら店主との話を楽しむのだろう。
「うちのお店でずっと出しているのが要町ブレンド。せっかくだから町の名前がついているコーヒーを提供したいと選びました。お客さんからも美味しいと評判なんです。うちの母がコーヒーフリークなんですが、いい店あるじゃない!いい町じゃない!って褒めてくれました」
池袋が大手不動産情報サイトのランキングで上位になりましたが、池袋から要町に掛けての住み心地はいかがでしょう。
「終電で山手線に乗っちゃえば歩いて帰れるし。治安も、ちょっと自虐的に言うと、悪くはないですよ。本当にこの街は住みやすくて~って大げさに語るほどのことではないとは思いますが、家賃とか交通の便とかを考えると、選択肢の上位に挙がって来るだろうなとは思います。治安、交通の便、良い店の数など、悪いところが見当たりません」
上京して10年、要町は変わりましたか?
「要町界隈は根本的に変わってない気がします。カフェが増えたかなとは思いますが。私は大阪の千里ニュータウンのあたりが出身なので、『昔ながら』があるこの町が不思議で魅力的に感じます。主婦の方もすごい元気。よくお店を手伝ってもらうんですけど、自分でアクセサリーを作ったりイベントを企画したりするような、おもしろがりな人が多い印象ですね。今は住まいが世田谷なのですが、また要町に戻ってきたい。素敵な古い家をみつけるたびに、欲しいなぁと思います」
大石さんと数時間一緒に歩いてみて、この街の様々な場所と相思相愛なように見えました。
「そうですか。確かに相性がいい気がしますね、なんとなく。お店をやっているから、私のことを町の人が知っていて、警戒されないっていうのが大きいと思います。それに私自身が人好きなので、結構店の人やふらっときたお客様と話しちゃうんですよね」
西の女だからと軽い気持ちで要町に住み始めてから10年。大石さんと街との距離感は、今も昔も、そして今後も、ずっとちょうど良いのだろう。
今回大石さんに案内してもらった場所の地図はこちら。
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